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柳とデート Ⅳ
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陳さんの店を出て、乾さんの店に顔を出した。
「トラ! おう、今日はまた、久し振りだね」
「はい! お邪魔します」
一度しか会っていない柳のことを、乾さんはちゃんと覚えていた。
「陳さんのお店に行ったんで、ここにも顔を出しておこうかと」
「ばかやろう! 俺の店に来るついでに陳さんとこに寄れ!」
「アハハハハ!」
お店の中でコーヒーを頂いた。
ディディが持って来て挨拶する。
「ディディ、虎彦はどうだ?」
「はい! カワイイですよ! 最近はハイハイをして、ちょっと喋るようになりました」
「早ぇな!」
「ウフフフフ」
柳に「虎彦」のことを話す。
「え! 見てみたいです!」
ディディが乾さんに断って、三階から虎彦を抱いて来た。
「わぁ! 本当に赤ちゃんじゃないですかぁ!」
「おう、ちゃんと成長するからな」
乾さんがニコニコしている。
虎彦がいる生活に慣れて来たのだろう。
「最初はどうしようかと思ってたんだけどな。本当に人間の赤ん坊と同じなんだな」
「まあ、夜泣きなんかはしないし、オッパイも吸いませんけどね」
「でも抱き上げると喜ぶし、寂しがると泣くよな」
「そうですよ。愛情をちゃんと受け取って育ちます」
「そうか」
ディディが柳に抱いてやってくれと言った。
柳は恐る恐る抱いた。
「あ、見てますよ! 綺麗な瞳ですねぇ」
「ぱぷ」
柳が慌てる。
「石神さん!」
「お前、また「ぱぷ」って言われたな」
「なんですか!」
俺は乾さんに息子の士王を柳が抱いた時にも言われたことを話した。
「そうか、そういえば俺は言われたことないな」
「えぇー!」
「柳、あんまり落ち込むなよな」
「なんでぇー!」
手の空いている従業員もこちらへ来て、虎彦をあやしていく。
人気者のようだ。
「そのうち、テレビ局なんか取材に来そうですね」
乾さんが俺をコワイ顔で睨んだ。
「トラ! 絶対に辞めろよな!」
「何をです?」
「いや、お前は絶対に悪いことを企んでる! 俺には分かるんだ!」
「何を言ってるんですか。取材されれば、また売り上げが上がるでしょう」
「もう十分だ! 俺は静かに暮らしたいんだからな!」
「分かってますよ。俺は何もしません」
「ほんとうだからな!」
週刊誌にしとくか。
「それで、向かいの土地の件ですけど」
「とらぁー!」
俺たちは笑って帰った。
「じゃあ、羽田空港に寄って帰るか!」
「最高ですね!」
もう陽が暮れるのが早くなった。
すでに辺りはうっすらと翳って来ている。
羽田空港で、夕暮れの空港を眺めた。
コーヒーを3つ持っている。
「綺麗ですね」
「そうだな」
二人でベンチに腰掛けた。
「今日はありがとうございました。楽しかったです」
「そうか、じゃあ良かった」
柳が俺に手を重ねて来た。
「お、今日は積極的だな」
「エヘヘヘヘ」
にこやかに笑って俺を見た。
俺は柳の顔を抱き寄せ、優しくキスをした。
「……」
柳が小さく笑いながら下を向いた。
「どうした?」
「なんか、幸せ過ぎて」
「あ?」
「石神さんには分かりませんよ!」
柳がちょっと批判的な顔で俺を見る。
「今日は一緒にお出掛け出来ただけで、もう嬉しかったのに。その後で美味しい食事をご馳走してくれて」
「あ、割り勘だから後で寄越せよ?」
「アハハハハ!」
「乾さんのお店で笑わせてくれるし。最後はこんなに綺麗な場所で」
「そうかよ」
俺はまた柳を抱き寄せた。
柳が遠慮がちに俺の肩に顔を預けた。
「伊勢佐木町に有名なラブホがあってな」
「え!」
「夜に血まみれの女が必ず出て来るっていうなぁ。これから行くか」
「何がしたいんですかぁ!」
「アハハハハハ!」
柳が言いながら、俺の腕に自分の腕を絡めて来た。
俺に密着する。
「柳、まだお前とは男女の仲にはなれない」
「はい、いいんです」
「でも、お前はもう俺の女だからな。いつかきっとな」
「はい」
「だからな」
「はい」
「もう夜這いはやめろ」
柳が俺の腕を叩いた。
「もう!」
「あれは可愛かったよなぁ!」
一緒に笑った。
「今はなんだかうちの子と同じ扱いで悪いな」
「いいえ。楽しいですよ」
「お前がガキだということでもないんだけどな。ちょっとまだ俺の中でもお前の扱いが定まらねぇ」
「はぁ」
「「御堂の娘」というのが先に立っちゃってな。独りの女として、ちゃんと愛してもいるんだけどな」
「お父さんは強敵ですね」
「アハハハ。でもそうだなぁ。まあ、お前のことは間違いなく女として好きなんだから、そのうちに何とかなるだろうよ」
「待ってます」
俺たちはまたしばらく暮れて行く滑走路を眺めた。
「石神さん」
「なんだ」
「愛してます」
「俺もだ、柳」
柳が俺に覆いかぶさり、キスをして来た。
「おい」
「はい」
「みんなが見てるぞ」
「え?」
「スマホを向けられてる! 柳、離れろ!」
「はい!」
慌てて二人で座り直した。
「まったく、外でイチャイチャできねぇ時代になったなぁ」
「アハハハハ」
「奈津江さんとは、ここでイチャイチャしなかったんですか?」
「そういう時代じゃなかったんだ」
「そうなんですか?」
「まあ、俺が女を絶ってた時期に、きっとそういう時代があって終わったんだよ」
「アハハハハハ!」
「昔、女子大生が大流行したことがあってな。「オールナイト・フジ」とかって番組があった」
「はぁ」
「そうしたらその次は「おニャン子」っていう女子高生の流行りになった。チャンスを得られなかった世代が大勢いるんだよ」
「アハハハハハ!」
柳は大笑いした。
「きっとまた、外でイチャイチャ出来る時代が来ますって」
「そうかな!」
「はい」
「ちょっと御堂に頼んどくか!」
「アハハハハハ!」
「「外でイチャイチャ法」とか作ってもらおう!」
「いいですね!」
「恋人と夫婦は、週に一度は外でイチャイチャしなきゃいけないのな!」
「はい!」
俺たちは笑いながら帰った。
その晩に御堂に電話し、柳とデートしたことを話した。
「それで、お前が組閣したらよ、「外でイチャイチャ法」って作ってくれよ」
御堂は忙しくて、それどころではないと言った。
なんだよ、国民の声を聞けよ。
「トラ! おう、今日はまた、久し振りだね」
「はい! お邪魔します」
一度しか会っていない柳のことを、乾さんはちゃんと覚えていた。
「陳さんのお店に行ったんで、ここにも顔を出しておこうかと」
「ばかやろう! 俺の店に来るついでに陳さんとこに寄れ!」
「アハハハハ!」
お店の中でコーヒーを頂いた。
ディディが持って来て挨拶する。
「ディディ、虎彦はどうだ?」
「はい! カワイイですよ! 最近はハイハイをして、ちょっと喋るようになりました」
「早ぇな!」
「ウフフフフ」
柳に「虎彦」のことを話す。
「え! 見てみたいです!」
ディディが乾さんに断って、三階から虎彦を抱いて来た。
「わぁ! 本当に赤ちゃんじゃないですかぁ!」
「おう、ちゃんと成長するからな」
乾さんがニコニコしている。
虎彦がいる生活に慣れて来たのだろう。
「最初はどうしようかと思ってたんだけどな。本当に人間の赤ん坊と同じなんだな」
「まあ、夜泣きなんかはしないし、オッパイも吸いませんけどね」
「でも抱き上げると喜ぶし、寂しがると泣くよな」
「そうですよ。愛情をちゃんと受け取って育ちます」
「そうか」
ディディが柳に抱いてやってくれと言った。
柳は恐る恐る抱いた。
「あ、見てますよ! 綺麗な瞳ですねぇ」
「ぱぷ」
柳が慌てる。
「石神さん!」
「お前、また「ぱぷ」って言われたな」
「なんですか!」
俺は乾さんに息子の士王を柳が抱いた時にも言われたことを話した。
「そうか、そういえば俺は言われたことないな」
「えぇー!」
「柳、あんまり落ち込むなよな」
「なんでぇー!」
手の空いている従業員もこちらへ来て、虎彦をあやしていく。
人気者のようだ。
「そのうち、テレビ局なんか取材に来そうですね」
乾さんが俺をコワイ顔で睨んだ。
「トラ! 絶対に辞めろよな!」
「何をです?」
「いや、お前は絶対に悪いことを企んでる! 俺には分かるんだ!」
「何を言ってるんですか。取材されれば、また売り上げが上がるでしょう」
「もう十分だ! 俺は静かに暮らしたいんだからな!」
「分かってますよ。俺は何もしません」
「ほんとうだからな!」
週刊誌にしとくか。
「それで、向かいの土地の件ですけど」
「とらぁー!」
俺たちは笑って帰った。
「じゃあ、羽田空港に寄って帰るか!」
「最高ですね!」
もう陽が暮れるのが早くなった。
すでに辺りはうっすらと翳って来ている。
羽田空港で、夕暮れの空港を眺めた。
コーヒーを3つ持っている。
「綺麗ですね」
「そうだな」
二人でベンチに腰掛けた。
「今日はありがとうございました。楽しかったです」
「そうか、じゃあ良かった」
柳が俺に手を重ねて来た。
「お、今日は積極的だな」
「エヘヘヘヘ」
にこやかに笑って俺を見た。
俺は柳の顔を抱き寄せ、優しくキスをした。
「……」
柳が小さく笑いながら下を向いた。
「どうした?」
「なんか、幸せ過ぎて」
「あ?」
「石神さんには分かりませんよ!」
柳がちょっと批判的な顔で俺を見る。
「今日は一緒にお出掛け出来ただけで、もう嬉しかったのに。その後で美味しい食事をご馳走してくれて」
「あ、割り勘だから後で寄越せよ?」
「アハハハハ!」
「乾さんのお店で笑わせてくれるし。最後はこんなに綺麗な場所で」
「そうかよ」
俺はまた柳を抱き寄せた。
柳が遠慮がちに俺の肩に顔を預けた。
「伊勢佐木町に有名なラブホがあってな」
「え!」
「夜に血まみれの女が必ず出て来るっていうなぁ。これから行くか」
「何がしたいんですかぁ!」
「アハハハハハ!」
柳が言いながら、俺の腕に自分の腕を絡めて来た。
俺に密着する。
「柳、まだお前とは男女の仲にはなれない」
「はい、いいんです」
「でも、お前はもう俺の女だからな。いつかきっとな」
「はい」
「だからな」
「はい」
「もう夜這いはやめろ」
柳が俺の腕を叩いた。
「もう!」
「あれは可愛かったよなぁ!」
一緒に笑った。
「今はなんだかうちの子と同じ扱いで悪いな」
「いいえ。楽しいですよ」
「お前がガキだということでもないんだけどな。ちょっとまだ俺の中でもお前の扱いが定まらねぇ」
「はぁ」
「「御堂の娘」というのが先に立っちゃってな。独りの女として、ちゃんと愛してもいるんだけどな」
「お父さんは強敵ですね」
「アハハハ。でもそうだなぁ。まあ、お前のことは間違いなく女として好きなんだから、そのうちに何とかなるだろうよ」
「待ってます」
俺たちはまたしばらく暮れて行く滑走路を眺めた。
「石神さん」
「なんだ」
「愛してます」
「俺もだ、柳」
柳が俺に覆いかぶさり、キスをして来た。
「おい」
「はい」
「みんなが見てるぞ」
「え?」
「スマホを向けられてる! 柳、離れろ!」
「はい!」
慌てて二人で座り直した。
「まったく、外でイチャイチャできねぇ時代になったなぁ」
「アハハハハ」
「奈津江さんとは、ここでイチャイチャしなかったんですか?」
「そういう時代じゃなかったんだ」
「そうなんですか?」
「まあ、俺が女を絶ってた時期に、きっとそういう時代があって終わったんだよ」
「アハハハハハ!」
「昔、女子大生が大流行したことがあってな。「オールナイト・フジ」とかって番組があった」
「はぁ」
「そうしたらその次は「おニャン子」っていう女子高生の流行りになった。チャンスを得られなかった世代が大勢いるんだよ」
「アハハハハハ!」
柳は大笑いした。
「きっとまた、外でイチャイチャ出来る時代が来ますって」
「そうかな!」
「はい」
「ちょっと御堂に頼んどくか!」
「アハハハハハ!」
「「外でイチャイチャ法」とか作ってもらおう!」
「いいですね!」
「恋人と夫婦は、週に一度は外でイチャイチャしなきゃいけないのな!」
「はい!」
俺たちは笑いながら帰った。
その晩に御堂に電話し、柳とデートしたことを話した。
「それで、お前が組閣したらよ、「外でイチャイチャ法」って作ってくれよ」
御堂は忙しくて、それどころではないと言った。
なんだよ、国民の声を聞けよ。
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