富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
上 下
1,288 / 2,888

柳とデート

しおりを挟む
 10月第三週の土曜日。
 朝食後、柳が顕さんの家に行くと言った。

 「おう、俺も行くぞ!」
 「はい!」

 柳が喜んだ。
 俺は混シルクのボーダーのパンツにシルクのシャツ、それにダンヒルのレザーのジャケットを羽織った。
 柳は白の綿のパンツにブルーのセーターだ。
 柳は用意していた花を持つ。
 俺はシボレー・コルベットを出した。
 柳がちょっと退いた。

 「あんだよ!」
 「これですか?」
 「そうだよ!」
 「はい」
 「あんだよ!」
 「いいえ」

 嬉しいらしい。
 遠慮深い奴なのだ。

 俺は上機嫌でスーパーチャージャーを回す。

 ブィィィーーン

 「どうだよ、カッチョイイだろう!」
 「……」

 遠慮深い奴なので、黙っている。
 カワイイ。
 俺はレッド・ツェッペリンの『Black Dog』を歌った。
 『Ⅳシンボルズ』の最初のイカした曲だ。

 ♪ Hey, hey, mama, said the way you move  Gonna make you sweat, gonna make you groove. ♪

 エアーのギター・ソロをやる。

 「石神さん! ハンドル!」
 「大丈夫だ。AIロボがちゃんと運転してる」
 「……」

 まあ、ハンドルを握った。

 「今日はご機嫌ですね」
 「ああ! ロボが「ヒモダンス」を覚えたし、顕さんが彼女を作るしなぁ!」
 「アハハハハ」

 「柳も最近は「ヒモダンス」にビビらなくなったじゃない」
 「そうですね。吹っ切れました」
 「なんだよ、そりゃ」

 二人で笑った。

 「顕さんの電話の後で、奈津江の墓に行ったんだ」
 「そうだったんですか!」
 「いつも綺麗にしてくれて、ありがとう」
 「いえ! 自分の仕事ですし、私も奈津江さんのお墓は大事にしたいです」
 「そうか!」

 山手通りから中山道をまっすぐで、非常に単純なコースだ。
 俺はハンドルを回しながらぶっ飛ばしていく。
 追い抜かれる車が、みんな俺たちを驚いて見ている。

 「おお、見てるな」
 「はい!」

 柳も乗って来た。
 20分で着いた。

 「スゴイですね!」
 「まーなー!」

 この車でなければ出来ない。
 時速500キロを出す怪物エンジンと、大使館ナンバーが必要だ。

 


 今日は風入れだけで、掃除はしない。
 最初に柳は仏壇の花を替え、手を合わせた。
 そして掃除をしない日だが雑巾を片手に、窓を開けながらちょくちょく拭いている。
 きっと、いつもそうやって手を入れてくれているのだろう。
 俺はキッチンでコーヒーを淹れた。

 20分ほどで柳が来る。

 「異常ありません!」
 「おう!」

 柳を座らせて、二人でコーヒーを飲んだ。

 「今日は奈津江のパンツでも見るかな!」

 突然、上の方でバシンという音がした。

 「やめとこー」

 柳が笑った。

 「ここって、本当に奈津江さんがいるみたいですよ」
 「ああ、そうだな」
 「素敵ですね」
 「怖くないのか?」
 「平気ですよ! 奈津江さん、ぜったいいい人ですもん!」
 「そうか」

 俺は笑った。
 二人で座るテーブルを見た。
 多分昭和のもので、長年使っているのが伺えた。

 「ここでさ、顕さんはずっと一人で食事をしてたんだな」
 「そうですね」
 「辛かったろうな」
 「はい」

 日本家屋なので、相当窓から光を入れないと薄暗い。
 今は柳がカーテンを全て開けているので、明るい。
 
 「今はよ、フィリピンの明るい場所にいる」
 「はい」
 「明るい女が傍にいる」
 「一緒に住んでるんですかね?」
 「きっとそうだ!」
 「アハハハハハ!」
 
 二人で笑った。

 「まあ、でも顕さんのことだ。一緒じゃないかもな」
 「聞いてみればいいじゃないですか」
 「あ? そんなの、恥ずかしがって大変だぞ」
 「アハハハハハ」

 ゆっくりコーヒーを飲みながら、風が部屋を通り過ぎるのを感じた。

 「そろそろ、お墓に行くか」
 「はい!」

 柳が戸締りをしに行く。
 俺はカップを洗った。
 仏壇に行き、線香を炊いた。
 いつの間にか柳が横に来て、一緒に手を合わせた。

 「ここも綺麗にしてくれてるな」
 「はい」

 俺たちは顕さんの家を出た。

 



 寺は近くだ。
 狭い道もあるので、柳は普段は歩いて行っている。
 今日は俺が車で行った。
 寺の門前の駐車場に車を入れ、本堂に向かった。
 石段の上にある本堂に賽銭を入れて手を合わせる。

 「ここって、立派な御寺ですよね」
 「ああ。何度か住職に誘われて中に入ったけど、菊池契月とか掛けてあったぞ」
 「へぇー!」
 「儲かってんだな」
 「あはははは」

 まあ、そういう寺に奈津江の墓があって嬉しい。
 寂れた寺では可哀そうだ。

 柳が掃除用具を一式持っている。
 雑巾やブラシ、歯ブラシもある。
 
 「あ! お墓が喜んでますよ!」
 「え?」
 「分かりますよ! よく来てるんですから!」
 「そうか」

 柳が嬉しそうにしている。
 本当にそう感じているのだろう。

 「やっぱり石神さんが来たからですね!」
 「そうか」

 俺も笑った。
 柳がすぐに水を汲んで来て掃除を始めた。
 本当に手慣れている。
 絶対に墓石を傷つけないようにやっている。
 
 「お前が来たから喜んでるんじゃないのか?」
 「そんなことないですよ」

 柳は手早く終えて、乾拭きをした。
 俺が供えた花は、寺の人が片付けてくれたようだ。
 柳が水を替え、新しい花を供える。
 俺は線香を炊いて、柳と一緒に『般若心経』を唱えた。

 「奈津江、今日は柳と来た。こいつはよくやってくれてるだろ?」
 「え!」
 「柳に任せて本当に良かった。最高だ」
 「石神さん……」

 俺たちは手を合わせて、墓地を出た。

 「よし、横浜で中華を食べよう」
 「ほんとですか!」
 「ああ。柳と食べるつもりだったんだ」
 「嬉しい!」






 陳さんの店に向かった。
しおりを挟む
script?guid=on
感想 61

あなたにおすすめの小説

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...