上 下
1,281 / 2,806

顕さんのブランニューデイ

しおりを挟む
 「お帰りなさーい!」

 俺は玄関に出迎えたロボを抱えてリヴィングに上がった。
 双子は大量の土産を抱えて後から昇って来る。

 「なんですか、これ!」
 
 亜紀ちゃんが驚いた。
 双子が江の島土産だと言い、食材や風鈴などを開いていく。
 亜紀ちゃんが喜んで柳と皇紀を呼んだ。

 「美味しそう!」
 「素敵ですね」
 「綺麗だー」

 5時になり、そろそろ夕食の支度だが、子どもたちは土産を夢中で観ていた。

 「おい、なんか作れ!」
 「はーい!」

 今日は豚の生姜焼きだったが、食べたい奴はかき揚げ丼を食べた。
 
 家の固定電話が鳴った。
 皇紀がハーに蹴られて出る。

 「タカさん! 顕さんですよ!」
 「おう!」

 電話に出た。

 「石神くん! 久し振り!」
 「本当ですね! お元気ですか?」
 「ああ! あ、今は丁度君の家では食事の時間か?」
 「大丈夫ですよ。俺は終わってますから」
 「そうか」
 
 顕さんは今仕事が終わった所のようだ。
 丁度、フィリピンは午後5時くらいなのだろう。

 「年末にね、一度日本へ帰ろうと思ってるんだよ」
 「本当ですか! 是非うちに来てください!」
 「ありがとう。そうさせてもらいたいよ」
 「絶対ですよ! あ! 別荘に行きましょう!」
 「ほんとか! それは嬉しいな!」
 「去年、1月に別荘に行ったんです。雪景色でいいですよ!」
 「ああ、楽しみだなぁ!」

 少し近況を話し合った。

 「それでね、ああ、どうしようかな」
 「どうしたんですか?」

 顕さんが言い淀んでいた。

 「実はね、僕の他にもう一人連れて行きたいんだ」
 「構いませんが、どなたです?」
 「あのね、付き合ってる女性がいてね」
 「エェー!」

 俺は驚いて叫んでしまった。

 「石神くん! ちょっと、困るよ!」
 「何がですか! 大変なことじゃないですか!」
 「そんな! あのさ、まだ付き合い始めたばかりで、その、なんだ、あれだよ」
 「なんですか!」

 俺は笑った。
 顕さんが珍しく照れている。

 「あのさ、ゆくゆくはと考えてはいるんだけど。どうもなぁ、困ったな」
 「おめでとうございます!」

 俺は受話器を手で塞ぎ、顕さんに彼女が出来たと子どもたちに言った。

 「「「「「おめでとうございます!」」」」」

 俺が向けた受話器に、全員が叫んだ。

 「おい、困るって!」
 「絶対に連れて来て下さいね!」
 「分かったよ。宜しくね」
 「はい! それで、どういう人なんですか?」

 顕さんが恥ずかしがってなかなか話してくれない。
 
 「あのね、ちょっと年が離れているんだよ」
 「そうなんですか! いいじゃないですか!」
 「相手はフィリピン人なんだ。モニカ・サラザールというんだけど」
 「へぇー! 綺麗な名前ですね!」
 「うん。今30歳なんだ」
 「若くていいじゃないですか!」
 「いや、僕は今54歳だからね。大分離れてる」
 「関係ないですよ! でも嬉しいな、顕さんが女性と付き合うなんて!」
 「まあ、自分でも驚いているよ」

 顕さんが、少しずつ話してくれた。

 「うちの設計で事務をやってくれている人なんだ。現地で募集して、日本語が出来る人ということで、彼女を雇ったんだよ」
 「なるほど」
 「真面目な人でね。僕の仕事なんかも随分と手伝ってくれて」
 「へぇー!」
 「結構苦労をした人なんだ。ご両親が子どもの頃に亡くなってしまって。自分で働きながら日本語を勉強したそうだよ」
 「そうですか」
 「いつか日本に行きたいと思っていたそうだけど」
 「じゃあ、顕さんがその夢を叶えるんですね!」
 「まあ、そういうことになるんだが」

 余り長く話しては迷惑だろう。
 俺はまた今度詳しく聞かせて欲しいと頼んだ。

 「ああ、写真を送ってくださいよ!」
 「ええ、恥ずかしいよ」
 「いいじゃないですか! みんな絶対に見たがりますから!」
 「うーん、まあ分かったよ」

 約束して電話を切った。
 顕さんのことだ、すぐに送ってくれるのだろう。

 



 「あれ、タカさん、泣いてるんですか!」

 亜紀ちゃんに言われた。

 「ばかやろう! そんなわけあるか!」
 「だって……」

 自分が泣いていることに気付かなかった。

 「ちょっと出掛けて来る」
 「え! こんな時間に?」
 
 俺はベンツのキーを持ってガレージに行った。
 顕さんと再会した時に乗っていた車だ。





 1時間後、奈津江の墓の前にいた。
 途中で閉店寸前の花屋に寄って、何とか花を作ってもらった。

 墓石は柳がいつも綺麗にしてくれている。
 花は流石に枯れていた。
 月に二回程度のことだから、仕方が無い。
 花を抜いて洗い、新しい花を活けた。
 線香を焚き、「般若心経」を唱える。

 「奈津江! さっき聞いたんだ!」

 俺は顕さんに彼女が出来たと報告した。

 「びっくりしたよ! でも、本当に良かったな!」

 俺はしばらく奈津江に語り掛けた。

 「お前の夢が叶ったな! 顕さん、やっと新しい人生に踏み込んでくれたよなー」

 一時間も、そうして奈津江に向かって話した。

 「じゃあ、そろそろ帰るな。ああ、日本へ来たらきっとここにも来るだろう。お前も見てみろよ」

 俺は笑った。

 「写真を送ってくれって頼んだんだ。でも、見なくてもわかるよ! 絶対に奈津江に似ている! な、そう思うだろ?」

 墓石をポンポンと叩いた。

 「あ、すみません。お父さんたちもいるんですよね?」

 俺は笑いながら去った。





 家に戻ると、子どもたちがまだリヴィングにいた。
 俺はサンルームのパソコンを立ち上げ、メールをチェックした。
 顕さんからのものが届いていた。
 俺は添付されていた写真を見た。
 子どもたちを呼んだ。
 みんなで見た。




 やはり、奈津江に似ていた。
 大きな目で可愛らしく笑っている。

 隣で、顕さんが幸せそうに笑っていた。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...