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顕さんのブランニューデイ
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「お帰りなさーい!」
俺は玄関に出迎えたロボを抱えてリヴィングに上がった。
双子は大量の土産を抱えて後から昇って来る。
「なんですか、これ!」
亜紀ちゃんが驚いた。
双子が江の島土産だと言い、食材や風鈴などを開いていく。
亜紀ちゃんが喜んで柳と皇紀を呼んだ。
「美味しそう!」
「素敵ですね」
「綺麗だー」
5時になり、そろそろ夕食の支度だが、子どもたちは土産を夢中で観ていた。
「おい、なんか作れ!」
「はーい!」
今日は豚の生姜焼きだったが、食べたい奴はかき揚げ丼を食べた。
家の固定電話が鳴った。
皇紀がハーに蹴られて出る。
「タカさん! 顕さんですよ!」
「おう!」
電話に出た。
「石神くん! 久し振り!」
「本当ですね! お元気ですか?」
「ああ! あ、今は丁度君の家では食事の時間か?」
「大丈夫ですよ。俺は終わってますから」
「そうか」
顕さんは今仕事が終わった所のようだ。
丁度、フィリピンは午後5時くらいなのだろう。
「年末にね、一度日本へ帰ろうと思ってるんだよ」
「本当ですか! 是非うちに来てください!」
「ありがとう。そうさせてもらいたいよ」
「絶対ですよ! あ! 別荘に行きましょう!」
「ほんとか! それは嬉しいな!」
「去年、1月に別荘に行ったんです。雪景色でいいですよ!」
「ああ、楽しみだなぁ!」
少し近況を話し合った。
「それでね、ああ、どうしようかな」
「どうしたんですか?」
顕さんが言い淀んでいた。
「実はね、僕の他にもう一人連れて行きたいんだ」
「構いませんが、どなたです?」
「あのね、付き合ってる女性がいてね」
「エェー!」
俺は驚いて叫んでしまった。
「石神くん! ちょっと、困るよ!」
「何がですか! 大変なことじゃないですか!」
「そんな! あのさ、まだ付き合い始めたばかりで、その、なんだ、あれだよ」
「なんですか!」
俺は笑った。
顕さんが珍しく照れている。
「あのさ、ゆくゆくはと考えてはいるんだけど。どうもなぁ、困ったな」
「おめでとうございます!」
俺は受話器を手で塞ぎ、顕さんに彼女が出来たと子どもたちに言った。
「「「「「おめでとうございます!」」」」」
俺が向けた受話器に、全員が叫んだ。
「おい、困るって!」
「絶対に連れて来て下さいね!」
「分かったよ。宜しくね」
「はい! それで、どういう人なんですか?」
顕さんが恥ずかしがってなかなか話してくれない。
「あのね、ちょっと年が離れているんだよ」
「そうなんですか! いいじゃないですか!」
「相手はフィリピン人なんだ。モニカ・サラザールというんだけど」
「へぇー! 綺麗な名前ですね!」
「うん。今30歳なんだ」
「若くていいじゃないですか!」
「いや、僕は今54歳だからね。大分離れてる」
「関係ないですよ! でも嬉しいな、顕さんが女性と付き合うなんて!」
「まあ、自分でも驚いているよ」
顕さんが、少しずつ話してくれた。
「うちの設計で事務をやってくれている人なんだ。現地で募集して、日本語が出来る人ということで、彼女を雇ったんだよ」
「なるほど」
「真面目な人でね。僕の仕事なんかも随分と手伝ってくれて」
「へぇー!」
「結構苦労をした人なんだ。ご両親が子どもの頃に亡くなってしまって。自分で働きながら日本語を勉強したそうだよ」
「そうですか」
「いつか日本に行きたいと思っていたそうだけど」
「じゃあ、顕さんがその夢を叶えるんですね!」
「まあ、そういうことになるんだが」
余り長く話しては迷惑だろう。
俺はまた今度詳しく聞かせて欲しいと頼んだ。
「ああ、写真を送ってくださいよ!」
「ええ、恥ずかしいよ」
「いいじゃないですか! みんな絶対に見たがりますから!」
「うーん、まあ分かったよ」
約束して電話を切った。
顕さんのことだ、すぐに送ってくれるのだろう。
「あれ、タカさん、泣いてるんですか!」
亜紀ちゃんに言われた。
「ばかやろう! そんなわけあるか!」
「だって……」
自分が泣いていることに気付かなかった。
「ちょっと出掛けて来る」
「え! こんな時間に?」
俺はベンツのキーを持ってガレージに行った。
顕さんと再会した時に乗っていた車だ。
1時間後、奈津江の墓の前にいた。
途中で閉店寸前の花屋に寄って、何とか花を作ってもらった。
墓石は柳がいつも綺麗にしてくれている。
花は流石に枯れていた。
月に二回程度のことだから、仕方が無い。
花を抜いて洗い、新しい花を活けた。
線香を焚き、「般若心経」を唱える。
「奈津江! さっき聞いたんだ!」
俺は顕さんに彼女が出来たと報告した。
「びっくりしたよ! でも、本当に良かったな!」
俺はしばらく奈津江に語り掛けた。
「お前の夢が叶ったな! 顕さん、やっと新しい人生に踏み込んでくれたよなー」
一時間も、そうして奈津江に向かって話した。
「じゃあ、そろそろ帰るな。ああ、日本へ来たらきっとここにも来るだろう。お前も見てみろよ」
俺は笑った。
「写真を送ってくれって頼んだんだ。でも、見なくてもわかるよ! 絶対に奈津江に似ている! な、そう思うだろ?」
墓石をポンポンと叩いた。
「あ、すみません。お父さんたちもいるんですよね?」
俺は笑いながら去った。
家に戻ると、子どもたちがまだリヴィングにいた。
俺はサンルームのパソコンを立ち上げ、メールをチェックした。
顕さんからのものが届いていた。
俺は添付されていた写真を見た。
子どもたちを呼んだ。
みんなで見た。
やはり、奈津江に似ていた。
大きな目で可愛らしく笑っている。
隣で、顕さんが幸せそうに笑っていた。
俺は玄関に出迎えたロボを抱えてリヴィングに上がった。
双子は大量の土産を抱えて後から昇って来る。
「なんですか、これ!」
亜紀ちゃんが驚いた。
双子が江の島土産だと言い、食材や風鈴などを開いていく。
亜紀ちゃんが喜んで柳と皇紀を呼んだ。
「美味しそう!」
「素敵ですね」
「綺麗だー」
5時になり、そろそろ夕食の支度だが、子どもたちは土産を夢中で観ていた。
「おい、なんか作れ!」
「はーい!」
今日は豚の生姜焼きだったが、食べたい奴はかき揚げ丼を食べた。
家の固定電話が鳴った。
皇紀がハーに蹴られて出る。
「タカさん! 顕さんですよ!」
「おう!」
電話に出た。
「石神くん! 久し振り!」
「本当ですね! お元気ですか?」
「ああ! あ、今は丁度君の家では食事の時間か?」
「大丈夫ですよ。俺は終わってますから」
「そうか」
顕さんは今仕事が終わった所のようだ。
丁度、フィリピンは午後5時くらいなのだろう。
「年末にね、一度日本へ帰ろうと思ってるんだよ」
「本当ですか! 是非うちに来てください!」
「ありがとう。そうさせてもらいたいよ」
「絶対ですよ! あ! 別荘に行きましょう!」
「ほんとか! それは嬉しいな!」
「去年、1月に別荘に行ったんです。雪景色でいいですよ!」
「ああ、楽しみだなぁ!」
少し近況を話し合った。
「それでね、ああ、どうしようかな」
「どうしたんですか?」
顕さんが言い淀んでいた。
「実はね、僕の他にもう一人連れて行きたいんだ」
「構いませんが、どなたです?」
「あのね、付き合ってる女性がいてね」
「エェー!」
俺は驚いて叫んでしまった。
「石神くん! ちょっと、困るよ!」
「何がですか! 大変なことじゃないですか!」
「そんな! あのさ、まだ付き合い始めたばかりで、その、なんだ、あれだよ」
「なんですか!」
俺は笑った。
顕さんが珍しく照れている。
「あのさ、ゆくゆくはと考えてはいるんだけど。どうもなぁ、困ったな」
「おめでとうございます!」
俺は受話器を手で塞ぎ、顕さんに彼女が出来たと子どもたちに言った。
「「「「「おめでとうございます!」」」」」
俺が向けた受話器に、全員が叫んだ。
「おい、困るって!」
「絶対に連れて来て下さいね!」
「分かったよ。宜しくね」
「はい! それで、どういう人なんですか?」
顕さんが恥ずかしがってなかなか話してくれない。
「あのね、ちょっと年が離れているんだよ」
「そうなんですか! いいじゃないですか!」
「相手はフィリピン人なんだ。モニカ・サラザールというんだけど」
「へぇー! 綺麗な名前ですね!」
「うん。今30歳なんだ」
「若くていいじゃないですか!」
「いや、僕は今54歳だからね。大分離れてる」
「関係ないですよ! でも嬉しいな、顕さんが女性と付き合うなんて!」
「まあ、自分でも驚いているよ」
顕さんが、少しずつ話してくれた。
「うちの設計で事務をやってくれている人なんだ。現地で募集して、日本語が出来る人ということで、彼女を雇ったんだよ」
「なるほど」
「真面目な人でね。僕の仕事なんかも随分と手伝ってくれて」
「へぇー!」
「結構苦労をした人なんだ。ご両親が子どもの頃に亡くなってしまって。自分で働きながら日本語を勉強したそうだよ」
「そうですか」
「いつか日本に行きたいと思っていたそうだけど」
「じゃあ、顕さんがその夢を叶えるんですね!」
「まあ、そういうことになるんだが」
余り長く話しては迷惑だろう。
俺はまた今度詳しく聞かせて欲しいと頼んだ。
「ああ、写真を送ってくださいよ!」
「ええ、恥ずかしいよ」
「いいじゃないですか! みんな絶対に見たがりますから!」
「うーん、まあ分かったよ」
約束して電話を切った。
顕さんのことだ、すぐに送ってくれるのだろう。
「あれ、タカさん、泣いてるんですか!」
亜紀ちゃんに言われた。
「ばかやろう! そんなわけあるか!」
「だって……」
自分が泣いていることに気付かなかった。
「ちょっと出掛けて来る」
「え! こんな時間に?」
俺はベンツのキーを持ってガレージに行った。
顕さんと再会した時に乗っていた車だ。
1時間後、奈津江の墓の前にいた。
途中で閉店寸前の花屋に寄って、何とか花を作ってもらった。
墓石は柳がいつも綺麗にしてくれている。
花は流石に枯れていた。
月に二回程度のことだから、仕方が無い。
花を抜いて洗い、新しい花を活けた。
線香を焚き、「般若心経」を唱える。
「奈津江! さっき聞いたんだ!」
俺は顕さんに彼女が出来たと報告した。
「びっくりしたよ! でも、本当に良かったな!」
俺はしばらく奈津江に語り掛けた。
「お前の夢が叶ったな! 顕さん、やっと新しい人生に踏み込んでくれたよなー」
一時間も、そうして奈津江に向かって話した。
「じゃあ、そろそろ帰るな。ああ、日本へ来たらきっとここにも来るだろう。お前も見てみろよ」
俺は笑った。
「写真を送ってくれって頼んだんだ。でも、見なくてもわかるよ! 絶対に奈津江に似ている! な、そう思うだろ?」
墓石をポンポンと叩いた。
「あ、すみません。お父さんたちもいるんですよね?」
俺は笑いながら去った。
家に戻ると、子どもたちがまだリヴィングにいた。
俺はサンルームのパソコンを立ち上げ、メールをチェックした。
顕さんからのものが届いていた。
俺は添付されていた写真を見た。
子どもたちを呼んだ。
みんなで見た。
やはり、奈津江に似ていた。
大きな目で可愛らしく笑っている。
隣で、顕さんが幸せそうに笑っていた。
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