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すーぱーぶりがでぃあ

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 「ねぇねぇ、皇紀ちゃん」

 双子が皇紀の部屋へ来た。
 いつものことだ。

 「なーに?」
 
 双子は用も無く来ることが多いが、用がある場合は、大抵ろくなことではない。

 「あたしたちで夕べ話してたんだけど」
 「うん」
 「タカさんって、ブリガディアをスゴイ大事にしてるじゃん」
 「ああ、そうだね」
 
 双子が交互に皇紀に話し掛ける。
 皇紀もそういう会話の遣り取りには慣れている。

 「今更さ、拳銃とかって意味なくない?」
 「まあ、大抵は「花岡」で解決しちゃうかな。タカさんはそれに、元々物凄く強いし」
 「そうだよねー」
 「でもさ、だったらますますだよ? どうして必要もない拳銃なんか大事にしてんだろ」
 
 双子が疑問に思っているらしい。

 「それはさ、タカさんの大事にしているものを観れば分かるよ。生活に必要のないものばかりじゃないか」
 「そっか!」
 「思い出だよね!」
 「そうだよ。ブリガディアだって、他の銃器だって、タカさんの思い出に結びついてるんだよ」
 「「なるほど!」」

 「傭兵時代に、聖さんと必死に生きてた頃の思い出じゃないかなー」
 「皇紀ちゃん、流石!」
 「皇紀ちゃん、大好き!」

 皇紀は両側から双子にチューをされた。
 嬉しがった。

 「でもね、私たち、タカさんが今でも通用する拳銃を持ってたらって考えたの」
 「タカさんが好きな武器でこれからも戦えるじゃない。きっと喜ぶよ!」

 「なるほど」

 「「ね!」」
 
 皇紀が罠に嵌った。

 「なんか考えてみようよ!」
 「皇紀ちゃんなら出来るって!」
 「そうかなー」

 「ほら! ダメだって思ったら!」
 「そうか! そうだよね!」

 「そうだよ! タカさんのためなんだからね!」

 お前らの楽しみだけだろう。

 皇紀はまた破滅に向かって進み始めた。





 「そもそもさ、火力が足んないんだよね」
 「そうそう。ジェヴォーダンを殺せるようにしたいよね」
 「そんなの、ハンドガンじゃなくライフルでも無理だよ」
 
 ジェヴォーダンは戦車砲でも効果がほとんどない。

 「火薬量じゃ無理かなー」
 「弾頭を何とか」
 「炸裂弾かな」
 「いっそ核爆弾?」
 「核は臨界量が足りないよ。それに大口径の砲で撃てたとしても、周囲への影響が不味すぎだよ」
 
 「初速だったらレールガンがあるね」
 「チタン合金でマッハ300も可能だよね」
 「ヴォイド機関が必要だよ。背中にジェネレーターを背負うのはどうかな」
 「カッコ悪!」
 「ダサッ!」

 三人は話し合い続けた。

 「ある程度の反動は、タカさんなら大丈夫だよね?」
 「火薬マシマシの大口径」
 「じゃあ、あとはやっぱ弾頭かぁー」
 「それだけ火薬の威力があると、バレルやチェンバーとかも大事だよー」
 「なるほど!」
 「そっちはベンチテストで確認していくしかないね」

 皇紀は冶金の分野でも極めつつあった。

 「でも、どうやったって火薬じゃ無理なんじゃないかなー」
 「どうして?」
 「だって、戦車砲のあの火薬量でも無理なんだよ? ハンドガンじゃどれだけ高性能の火薬を詰めたって」
 「そこはおいおいやってみよう!」
 「まずは一歩を踏み出すことだよ!」
 「あ、なんかカッコイイ!」

 三人で笑った。

 米海軍に電話した。

 「「オクタニトロキュバン」の製法おしえてー」
 「なんだ?」
 「「虎」の軍じゃー!」
 「!」

 ペンタゴン⇒ホワイトハウス経由でアメリカ大使館へ連絡が行き、アビゲイルが石神家へ派遣された。
 
 「タカトラ、決まった外交ルートを通して欲しいんだ」
 「済まなかった」

 石神に拳骨を喰らった。
 三人は半日意識を喪っていた。

 でも、ちゃんと「オクタニトロキュバン」の製法が届いた。
 皇紀が設計し、88口径(22.24ミリ)の大口径の銃のモデルが出来た。
 石神のいない間に、庭でテストをした。
 分厚い鋼鉄のベンチも作成し、銃を固定する。
 周囲に各種計測器も設置する。
 庭ではいつものように柳が鍛錬をし、ウッドデッキでロボがそれを眺めていた。

 「じゃーやるよー」

 皇紀がワイヤーを結んだトリガーを引いた。

 《バーン!》

 銃身が吹っ飛んで先端が花のように開いた。
 大きな音にロボが驚き、柳に「三段ヘルメス・アポカリプス・キック」を見舞った。

 「なんでぇー!」

 柳が庭の隅まで吹っ飛んだ。
 三人は急いで片付けた。





 「今度はもっと銃身を頑丈にするよ」
 「うーん、でもエネルギー的に全然足りてないみたい。火薬だけじゃ無理なんだね」
 「やっぱ炸裂弾?」
 「でも、ジェヴォーダンの体表で爆発してもなー」
 「「「うーん」」」

 誰にも聞かれないように、地下の音響ルームで話している。

 「あ、これ!」
 「『リリカルなのは』の新劇場版じゃん!」
 「こないだ響子ちゃんから返って来たよね」
 「私、まだ観てない!」

 早速三人で観た。
 
 「「「!」」」

 ブレイクスルーが起きた。




 三週間後。
 三人はついに完成させた。

 「「タカさーん!」」
 「おう!」

 石神はある秋の土曜日に双子に起こされた。

 「ちょっと見せたいものがあるんだ!」
 「タカさんのために作ったの!」
 「なんだよ?」

 石神は目を細めて可愛らしい双子を抱き寄せた。

 「朝ごはんの後で見せるね!」
 「楽しみにしててね!」
 「分かったよ」

 朝食後、皇紀と双子は全員を庭に案内した。

 庭には鋼鉄製の台に、見たことも無いリヴォルバーが固定されている。
 銃口は大きいが、それよりも、銃口の先に透明のドーナツ型のパネルが固定されており、銃身の元には何かの輪がある。

 「なんだこれは?」
 
 石神が皇紀たちに聞いた。

 「ジェヴォーダンをやっつけるハンドガンだよ!」
 「私たちで一生懸命に作ったの!」
 「《スーパー・ブリガディア》と名付けました!」
 「なんだって?」

 三人が笑顔で準備をしながら説明した。

 「口径は50口径です!」
 「弾頭は一応チタン合金の、レールガンで使用しているものと同じです!」
 「火薬は、結局従来のものを使用しました。そっちはあんまし重要じゃないんで」

 準備が出来た。

 「ホログラム投影!」

 ルーがワイヤーで結ばれたトリガーを軽く引き、ドーナツ型のパネルに映像が映し出された。
 銃身元の輪は投影装置だったようだ。

 「おい、待て!」

 その映像を見て、石神が叫んだ。
 魔法陣だった。

 「発射!」

 ルーがトリガーを引き切った。
 その瞬間に上空に無数のヘイパーコーンが発生し、弾丸の行方を示した。

 「虎王!」

 石神が両手を上にかざした。
 石神の寝室のガラスを破って、「虎王」が二本飛んで来る。
 一瞬で石神が鞘を抜いた。

 ヘイパーコーンを逆進して何かが迫って来た。
 空間が捩じれる感覚を全員が味わった。
 石神がそれを両手の「虎王」で薙ぐ。

 石神の目の前で巨大な閃光が拡がり、空間は正常に戻った。
 全員が呆然としている。

 「てめぇらー! どうして魔法陣を使った!」
 「「「ごめんなさい!」」」

 「謝って済むことか! 二度と魔法陣は使わないって……」

 石神は言っている途中で何かに気付いた。

 「そうか、最初の時の記憶を消して……」

 皇紀と双子は驚いた眼で石神を見ていた。

 「とにかく、二度と魔法陣は使うな! あれは異次元の怪物を呼び込む」
 「「「はい!」」」

 「じゃあ、一緒に映画でも見るか!」
 「「「わーい!」」」




 皇紀と双子は『封印流出動画』の物凄い奴を見せられ、失神した。
 その日の夕飯は、石神たちが最高級ステーキを食べる中で、皇紀たちは肉汁ご飯とサラダだけを食べさせられた。
 物凄く泣いた。
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