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おめでとう、皇紀!

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 少し遡り、道間家の帰りに皇紀を置き去りにした日。





 激しい顎の痛みで目が覚めた。
 氷嚢が当てられているのに気付いた。

 「皇紀さん! 大丈夫ですか!」

 ベッドに横たえられ、風花さんが心配そうに僕を見ていた。

 「はい。ちょっとまだ痛みますけどね」
 「あの、痛み止めを飲んで下さい。それとも病院へ?」
 「いいえ、大丈夫ですよ。突然すいませんでした」

 いきなり、お姉ちゃんにアッパーを喰らった。
 僕も完全に油断していた。
 脳震盪で気絶したのだろう。
 風花さんが持って来てくれた鎮痛剤を飲んだ。

 「あの、みんなは?」
 「それが、笑ってもうお帰りになってしまいました」
 「そうですか」

 そうだろうと思った。

 「じゃあ、僕も帰りますね」
 「そんな! もう夜中の0時を回ってます!」
 「電車は何か動いているでしょう。鈍行にでも乗りますよ」
 「ダメですよ! 気絶するほど殴られたんですから!」
 「アハハハハ!」

 もう痛みは無い。
 普段薬を飲んでいないので、鎮痛剤は驚くほど早く効いたようだ。

 「今日は絶対にここに泊まって下さい!」
 「分かりました。お世話になります」

 何か食べるかと聞かれたが、断った。
 お風呂を用意してくれた。

 「あの」

 風呂場へ行くと、風花さんが何かを持って来た。

 「これ、亜紀さんが投げて行かれて」

 僕の下着だった。

 「ああ、すいません」

 受け取った。

 「それと……」

 風花さんが紙袋を差し出す。
 お姉ちゃんがさっき買って来たものだろう。
 袋を開くと、コンドームの箱と栄養ドリンクが1ダース入っていた。

 「これ……」
 「はい……」

 両方受け取って、お風呂を頂いた。
 身体をよく洗った。
 特に念入りに股間を洗った。
 洗面所に、以前に来た時に使った歯ブラシが置いてあった。
 それも借りて歯を磨いた。

 僕が風呂から出ると、風花さんもお風呂に入った。
 僕は何となくリヴィングで待っていた。

 風花さんが寝間着で風呂から出て来た。

 「あ、何か飲んでいて下されば良かったのに」
 「いいえ、特に何も欲しくは」
 「お茶を淹れますね!」

 風花さんはそう言ってお湯を沸かした。
 二人でお茶を飲む。

 「すいません、酷い兄弟たちで」
 「ウフフフフ」

 風花さんが笑った。

 「びっくりしましたけど、石神さんたちらしいなと。皇紀さんが何ともなくて良かったです」
 「まあ、そこは手加減もしますから」
 「ウフフフフ」

 僕は道間家であったことの一部を風花さんに話した。

 「詳しくは話せないんですが、霊的な存在との戦いが出来る可能性が出て来ました」
 「そうなんですか」

 僕は風花さんに、あやかし、妖魔と呼ばれる存在のことを話した。

 「御堂さんのお宅には強力な防衛設備があるんですが、二体の妖魔にはほとんど無効だったんです」
 「え!」
 「奥の手はあるんですが、それは本当に最後の手段で。今の段階で敵に知られたくはないんです」
 「そうなんですか」

 「オロチが持ちこたえてくれたんです。タカさんが飛んで行って撃破したんですが」
 「危なかったんですね?」
 「はい。もちろんタカさんは最初から用意していたんですけどね。でも、オロチが思わぬ大怪我を」
 「まあ!」

 「だから、霊的存在にも有効なものがどうしても必要なんです。柳さんも必死に模索してますけどね」
 
 僕は毎日の柳さんの必死の鍛錬の話をした。
 風花さんは感動して聞いていた。

 お茶のお替りをもらった。

 「お腹空いてませんか?」
 「大丈夫ですよ」
 「では、そろそろ休みましょうか」
 「はい」

 そう言った風花さんは動かなかった。

 「あの」
 「はい」
 「こないだ、皇紀さんが帰られてから」
 「はい」
 「決めてたんです」
 「はい?」

 風花さんが、テーブルに置いた紙袋を見ていた。

 「あの、今晩は」
 「……」
 「宜しくお願いします」
 「はい」

 僕たちは、手をつないで寝室へ行った。
 風花さんが緊張しているのが分かる。
 身体が強張り、表情も硬かった。

 風花さんをベッドに横たえた。
 目を瞑っている。

 「風花さん」

 僕はそっと唇を重ねた。
 何度も唇を触れ合わせ、舌をそっと挿し込んだ。
 風花さんが下から手を伸ばし、僕の背中を抱いた。
 お互いに身体を触れ合わせた。
 風花さんの柔らかい胸の感触があった。

 僕は寝間着を脱ぎ、風花さんのパジャマのボタンを外していった。
 下着のホックを外し、美しい風花さんの胸を見た。

 「綺麗だ」
 「恥ずかしい」

 風花さんが両手で顔を覆った。
 僕はパジャマの下を脱がせ、そのまま下着も取った。

 「あ」

 またキスをした。
 舌を絡めた。
 風花さんの息が荒くなる。
 僕はタカさんに教えられたように、ゆっくりと胸を触った。
 先端を優しく触って行く。
 キスをしたままだ。
 段々、風花さんの強張った身体が緩んでいく。
 風花さんの下にも手を伸ばした。
 優しく触れて行く。
 準備が整って行き、僕はそっと指を入れた。
 
 「皇紀さん……」

 僕は紙袋から、箱を取り出した。
 セロハンで包んであり、それを解くのに時間が掛かった。
 風花さんがこっちを見ている。
 
 「すいません、段取りをよく知らなくて」

 風花さんが微笑んだ。
 こっちに来て、一緒に開けて行く。
 コンドームを一つ取り出し、中身を出した。

 「へぇー、こうなってるんですね」
 「僕も初めて見ました」
 「私が付けてみてもいいですか?」
 「え!」

 風花さんが手に持って、僕にクルクルと付けてくれた。

 「あ!」
 「大丈夫ですか!」
 「気持ち良かった!」
 「え!」

 二人で笑った。
 僕は風花さんをまた寝かせ、状態を再び確認した。
 大丈夫そうだ。

 僕は風花さんの上に重なって、そっと充てた。
 
 「もうちょっと下に」
 「はい!」
 
 位置が分からなかった。
 風花さんが手を伸ばしてくれた。
 
 「あ!」
 「ここです」

 僕はゆっくりと前に進んだ。
 全体を優しく包み込んでくる温もりを感じた。

 「皇紀さん」
 「風花さん」

 二人で名前を呼んだ。
 風花さんは少しも辛そうな顔をしなかった。
 初めては痛みがあると聞いていた。
 だから、タカさんから十分に準備を整えてからやるように言われていた。

 「大丈夫ですか?」
 「はい、もう痛みはありません」
 「動いていいですか?」
 「はい」

 僕たちは一つになった。
 幸せだった。





 翌朝、風花さんと一緒にマンションを出た。
 風花さんが梅田の駅まで送ってくれた。

 「じゃあ、また来ます」
 「待ってます」

 キスをして別れた。





 家に戻ると、予想に反して、誰からも何も聞かれなかった。
 いつものように過ごし、夕飯まで何事も無かった。
 突然、お姉ちゃんが号令を掛けた。

 「じゃあ、祝いの「ヒモダンス」! やるよ!」

 タカさんと柳さん、お姉ちゃんとルーとハー。
 みんなで「ヒモダンス」を踊った。

 「「「「「おめでとう、皇紀!」」」」」

 その後でみんなに頭を撫でられ、そのまま夕飯になった。 

 どうしてみんな、分かったんだろう? 





 後から、ルーとハーが「セミ型監視ロボット」を仕掛けていたことを知った。
 ちょっとだけ、この家を出たいと思った。
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