富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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麗星、大サービス Ⅳ

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 俺たちに声を掛けたのは、顔全面に鱗が生え、側面に大きなヒレを付けた異形だった。
 肩から上を海面に出し、手には三叉の槍を持っている。

 「申し訳ございませんでした。「海の王」が「虎王」の主様に呼んで頂けたもので、つい興奮してあのようなことを」
 「「「海の王」!」」

 「はい。他の王たちが「虎王」の主様の配下となられ、「海の王」もいつお呼びしていただけるのかと心待ちにしておりました」
 「そうなの?」
 「はい! 我ら「海の王」とその眷属は、「虎王」の主様に忠誠を誓いたく、直ちに参上した次第でございます!」
 「どうして俺の配下になりたいんだよ?」
 「この世界の理(ことわり)のために! 「大羅天王」は強大な王です。彼の者はこの世の理を壊し、全てを沈黙させようとしております」
 「だから、あいつと戦う俺に協力したいということか」
 「さようでございます!」

 半魚人の後ろで、「海の王」は長い触手を動かしていた。
 「クロピョン」の海洋版か。

 「分かった。命名! 「ボウズ」! お前は「アマゾン」な!」
 「畏まりました!」

 「ボウズ」が触手でハートマークを描いた。

 「ところでよ。このびしょ濡れ状態をどうしてくれるんだ」
 「はっ!」

 「海の王」の触手がもう一本海中から伸びて来た。
 今度は細い。
 俺の腕程だ。

 それが目の前で粉上に粉砕され、俺たちの身体に吹き付けられた。

 「なんだ!」

 粉末が俺たちの衣服の水分をどんどん吸い取り、ゼリー状になって落ちて行く。
 10秒ほどで、衣服も髪も乾いていた。
 しかも、海水の潮臭さも消えている。

 「ぽ! ぽ! ぽ! ぽ! ぽ!」

 麗星が白目を剥いて叫んでいた。
 俺は「虎王」を麗星が持っていた鞘に納め、自分で握った。

 「じゃあ、また呼ぶからな! よろしく!」
 「はい!」

 俺は埠頭へ戻った。





 「ぽ! ぽ! ぽ! ぽ! ぽ!」

 麗星を抱きかかえてアヴェンタドールへ乗せ、中華街へ向かった。
 車の中で、麗星は少し大人しくなったが「ぽ」は続いていた。
 俺は駐車場に車を停め、陳さんの店に行った。

 「トラちゃん!」
 「こんにちは! ちょっと何か食べさせて欲しくて」
 「もちろんよ! そちらの綺麗な人は?」
 「ああ、「ぽぽぽ」さんというビルマの女性でね」
 「そうなの。さあ、こっちへ来て」

 俺たちは個室に案内された。
 4人掛けのテーブルがある。
 店員が注文を取りに来て、俺は北京ダックとフカヒレスープ、それに季節の上海カニを頼んだ。

 美味そうな料理が並ぶと、麗星はやっと落ち着いて来た。

 「石神様!」
 「まずは食べましょう。ここのは最高ですよ」
 
 麗星に北京ダックを分けた。
 一口食べて、夢中になる。
 俺は笑いながらフカヒレスープを前に置いた。
 陳さんの指示だろうが、4つ頼んだ上海カニは、雌雄一対になっていた。
 俺は両方を二つに割り、麗星にそれぞれ小皿に乗せて渡した。

 俺がかぶりつくのを見て、麗星も大胆にかぶりついた。
 濃厚なミソと卵巣、精巣を味わう。

 俺たちは夢中で食べた。
 昼食を摂ってそれほど経ってはいないが、この料理を前に空腹は必要無かった。

 最高に美味い料理を食べ終え、俺たちは食後のタピオカココナッツミルクを堪能した。

 「ああ、何て美味しさでしたでしょうか!」

 麗星が独特な喜び方で示し、俺は笑った。

 「ところで石神様! 先ほどのあれは!」
 「ああ、「海の王」と言ってましたよね」
 「それは!」
 「まあ、仲間になってくれて良かったですね」
 
 麗星が俺を睨んでいる。

 「石神様! 一歩間違えれば、関東一帯が大洪水になりましたのよ!」
 「そうですか?」
 「ああ! あの「海の王」の力は絶大です! 本気になれば、恐らく地球上の大陸が!」
 「麗星」

 「は、はい!」
 「お前、この俺を信用出来ないのか」
 「!」

 トラちゃん、「威厳モード」だ。

 「残念だ。俺はお前が地獄の底まで一緒に付いて来てくれると思っていたのに」
 「石神様!」
 「違ったんだな」
 「い、いえ! 決して!」
 
 俺はニッコリと笑った。

 「ならいい」
 「申し訳ございません! わたくしが間違っておりました!」

 「いいんですよ。俺は麗星さんといつまでも一緒ならそれで」
 「!」

 麗星が感動して泣いていた。
 素直な女だ。

 「ああ、この近くに俺が高校時代にお世話になった人がいるんですよ」
 「乾様ですね! わたくし、石神様のことなら何でも!」
 「御存知でしたか。でも、麗星さんはバイクなんか興味ないでしょうからね」
 
 麗星は慌てて財布を取り出し、免許証を俺に見せた。
 
 「え、大型二輪?」

 驚いた。
 四輪の大型免許まで持っていた。

 「学生の頃に暇を持て余しまして。ああ、高校時代は普通二輪免許を取りまして、友人たちと「兇徒狐火」というチームで走っておりました」
 「それって、族?」
 
 麗星がニッコリと笑った。

 「わたくしがヘッドでしたのよ? 総勢200人ほど居りました」
 「!」

 底が知れない女だ。

 「もうチームは解散いたしましたが、大勢の者が今も道間のために働いております」
 「そうなんですか」
 「今はもう、普通の車も運転いたしませんが」
 「そうですか」

 面白そうなので、乾さんの店に連れて行った。





 「トラ!」
 「乾さん! また突然来てしまいました!」
 「いいよ! 入れ!」
 「はい!」

 俺は麗星を紹介した。
 大事な仲間だと言い、京都に住んでいることを話した。

 「麗星さんもバイクの大型免許を持ってて。乾さんの店の話をしたら、是非見てみたいって」
 「そうか。どうぞ、ゆっくり見て行って下さい」
 「ありがとう存じます」

 ディディがコーヒーを持って来た。

 「あら、随分と綺麗な魂をお持ちの方ですね」
 「「!」」

 「?」

 俺と乾さんが顔を見合わせた。
 ディディは笑顔で挨拶して離れた。

 「乾さん、麗星さんは有名な霊能者の家の方でして」
 「そうなのか!」
 「あの、何か?」

 俺は麗星に、ディディがアンドロイドなのだと言った。

 「さようでございましたか。道理であんなに美しい魂をお持ちなのですね」
 「あの、ディディは機械なんですよ?」
 「人でなくとも、魂は宿ります。でも、ディディさんは相当な愛情を以て生み出されましたね。だからあのような」
 「そういうものなのですか?」
 「はい。人間よりも大きな魂です。それが愛に満たされている」
 「そうですか!」

 「おい、トラ」

 乾さんが驚いている。

 「今も、そちらの乾様から大きな愛を与えられているのが分かります。ディディは幸せですね」
 「いや、そんな」
 「良かったですね、乾さん!」
 「よせ、トラ」

 乾さんが赤くなっている。

 「そういえば、虎彦は元気ですか?」
 「うん。最初は困ったけどよ、やっぱりカワイイな」
 「そうですか」

 乾さんが自ら麗星を案内し、説明してくれた。
 
 「どれも素晴らしいマシンですね。乾様の魂が宿っています」
 「そうですか。まあ、俺が全部整備しているんです。間違いが無いようにね」
 「ウフフフ」

 一通り見せてもらい、麗星が店内の壁の前で立ち止まった。

 「何か?」
 「ここに、一番大切なものがありましたね?」
 「え?」
 「今も強い愛がここに。乾様ともう一人の方……でも、これは石神様?」
 「「!」」

 RZが掛けられていた壁だった。

 「麗星さんには見えるんですね」
 「はい、それはもう。いいものを拝見いたしました」

 俺たちは礼を言って帰った。





 「麗星さん、今日はありがとうございました」
 「え? いいえ」
 
 帰りの車の中で礼を言った。

 「ディディに魂があるって言ってもらって、乾さんも大喜びでしたよ」
 「はぁ、でも本当に綺麗な魂でしたよ?」
 「そうですか、ありがとうございます」
 「お礼など。ああ、でももしもお気持ちがあられるのなら」
 「はい」
 「今晩もハッスルいたしましょう!」

 「アハハハハハハハ!」





 本当に愛すべき女だ。
 綺麗で、ちょっとずるくて、ちょっとワガママ勝手で、この上なく優しい。
 俺などのことを愛してくれ、地獄にまで一緒に来てくれると言う。
 
 「今日はわたくしの、舌技の練習の成果をお見せ致しますわ!」
 「……」

 まったく、カワイイ女だ。 
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