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麗星、大サービス

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 金曜日の夕方5時。
 俺は東京駅で麗星を待っていた。
 待ち合わせは改札にしている。
 一番確実だ。
 待合の施設は無いが、新幹線は時間通りに来るので不自由は無い。

 「石神さまー!」

 遠くから麗星が大声で呼び、手を振っている。
 少々恥ずかしい。
 でも、仕方なく俺も小さく手を挙げて振ってやった。

 「石神様! お出迎え、申し訳ありません!」
 「いいんですよ。俺が御呼びしたんですから。荷物を持ちますよ」

 麗星は大きなトランクを二つ持って来ていた。
 俺が持つと言うと、にこやかに笑った。

 「随分と大きな荷物ですね」
 「はい! いろいろと着替えなどが!」

 二泊の予定だ。
 何でこんなに着替えが必要なのか。
 今の麗星は純白の生地にプルメリアの仄かに黄色く色づいた柄の着物を着ている。
 非常に美しい麗星を際立たせる、いい趣味のものだ。

 いつも荷物の多い麗星だったので、ハマーで迎えに来た。
 駐車場まで俺が二つのトランクを引き、後部の荷台に乗せる。
 助手席のドアを開け、麗星を乗せた。

 俺が乗り込むと、麗星がいきなり抱き着いて来た。

 「ちょっと!」
 「お会いしたく、毎日石神様のことを思っていました」
 「……」

 麗星が唇を重ねて来る。
 着物のあわいから、上品な香水が薫って来る。

 「俺も会いたかったですよ」
 「!」

 本心ではある。
 麗星のような美しいいい女が自分を慕ってくれている。
 会いたいに決まっている。

 「嬉しい」

 麗星が小さな声で呟いた。





 家に着くと、ロボが出迎える。
 
 「ロボさん、こんにちは」
 「にゃ」

 麗星が草履を直していると、ロボが匂いを嗅いでいた。

 「にゃ?」
 「ウフフフ」

 不思議そうな顔をしていた。
 俺の匂いを嗅ぎ取ったのだろう。
 俺はロボを抱き上げて、エレベーターで麗星をリヴィングに案内する。

 「「「「「いらっしゃいませ!」」」」」

 子どもたちが挨拶する。
 ルーとハーが荷物を預かり、麗星の部屋へ運んだ。
 一旦麗星は部屋に入る。
 俺はすぐに麗星のためのハンバーグを作った。
 子どもたちのものは、もう出来上がっている。
 亜紀ちゃんが冷蔵庫から挽肉を出す。
 最高級のA5ランクの肉を粗挽きにしたものだ。
 手早く調味料や卵黄などを混ぜ、種を作る。
 牛脂を敷いたフライパンで火を通した。

 麗星が着替えて降りて来た。
 白のシルクのロングスカートに、水色のサマーセーターを着ている。
 豊満な胸が強調されていた。

 柳が席に案内し、配膳を始めた。
 俺は時折ブランデーを注ぎ、大きな炎を上げる。
 香ばしい臭いが立ち込める。
 麗星が見ている。

 俺はマイセンの白磁の皿にハンバーグを乗せ、バルサミコソースで模様を描いた。
 付け合わせのバターで炒めたポテトとエリンギ、ニンジンを添えて麗星の前に置いた。

 食事を始め、麗星が俺が作ったハンバーグを褒め称えた。

 「こんなに美味しいハンバーグは初めてでございます!」
 「普段は召し上がらないでしょうからね。そう思って作りました」
 「まあ!」

 うちの献立予定のままだ。

 「麗星さん、お替りもあるよ?」

 ルーが言った。

 「まあ、また石神様が!」

 俺はルーの顔を睨みつけた。
 ルーがキッチンに入る。

 「石神瑠璃! 全身全力で作らせて頂きます!」

 ルーが冷蔵庫から残った挽肉を出し、懸命に作る。
 その間に残りのハンバーグがどんどん消え、亜紀ちゃんがルーの皿の喰い掛けも奪って行った。
 ルーが泣きながらハンバーグを麗星に出した。
 麗星はニコニコして、それを食べた。

 「わーん!」

 ハーがルーの茶碗に、フライパンの肉汁を掛けてやった。

 「悲しいけど美味しいよー!」

 ハーが頭を撫でてやった。




 食事の後で、片づけを終え、全員にコーヒーとプリンが配られる。
 プリンは双子が俺のやり方で作った。
 俺は全員に、もう一度柳が襲われた《鬼猿》の話をした。
 柳は真直ぐに俺を見ている。

 「それで麗星さんに伺うと、《鬼猿》は100人の人間の命を奪い、《鬼猿獣》となるということだった。そしてその《鬼猿獣》が100万人の命を奪うと、《鬼猿王》となる。そういうことですね?」
 「はい、石神様の仰った通りでございます。ただ、《鬼猿獣》となる者は多くは無く、《鬼猿王》となった者は、恐らく一体若しくはまだ存在しないかと」
 「《鬼猿》自体は、どれほどの数なんですか?」
 「それほど多くは。当家の記録から推察すると、1000から3000の間かと」
 「それでも随分と多いですね」
 「はい。でも、全てがまだ存在しているわけではございません。この数は、生み出された数とお考え下さい」
 「そうですか」
 
 俺はそこから、早乙女の家でモハメドから聞いた話を始める。

 「これは、麗星さんにもお話ししてないことだ。電話では危険があったからな」

 麗星が俺を見ている。

 「柳、ルー、ハー、モハメドのことは覚えているか?」
 「はい! 西池袋で仲間にした奴ですね!」
 「確か「髑髏王邪々丸」とか」
 「柳! よく覚えてんな!」
 「はい!」

 柳が喜んでいる。
 俺は忘れていた。
 一応、全員がモハメドが早乙女の警護に付いていることは知っている。
 
 「道間家では《鬼猿王》と呼んでいるらしい」
 「石神様!」
 「虎之介が使っていたようですが、そういう縁もあってか、今も俺の仲間を守っています」
 「それでは!」
 「明日、麗星さんにも会わせます。早乙女を警護しているんですよ」
 「早乙女様!」
 
 麗星は連続して興奮したためか、苦しそうな顔をしていた。

 「まさか、また「王」が石神様の仲間になっていたとは」
 「俺も驚いていますよ」
 「石神様。「王」が三体も味方に付いた事例はございません。二体の記録もありません」
 「そうですか」
 「「王」が人間の味方になったこと自体が無いのでございます! 「王」は、あやかしの中でも次元の違う存在です。人間と交流すること自体が稀でございます」
 「そうですか」
 「石神様! しっかりなさいませ!」
 「いや、俺は別に。何で怒られてんの?」
 「石神様!」
 「ああ、申し訳ありません」

 俺は昨日モハメドから聞いた話をしたかったのだが、麗星が興奮し過ぎている。
 一旦休憩にしようと言い、風呂の用意を命じた。

 「石神様」
 「はい」
 「わたくしは、後から伺えば宜しいのでしょうか?」
 「はい?」
 「石神様がお入りになったら、すぐに伺いますので」
 「いや、それは」
 「それでは、支度をして待って居りますゆえ」
 「あのね」

 子どもたちが、呆然と見ている。
 亜紀ちゃんも柳も、反対することを忘れている。
 それほどのストレートさだった。
 まあ、俺も別に嫌なわけではない。
 石神家の「子どもの教育に」ということに抵触もしていない。
 双子が嬉しそうに笑っているだけだ。

 俺は「虎温泉」の準備をするように伝えた。
 まあ、今日は麗星にサービスしよう。




 麗星の部屋へ行き、30分後にウッドデッキで待っているように伝えた。
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