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処刑「ロボ」

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 俺の家はいつも清潔にしている。
 俺は汚れた家が大嫌いだ。
 独り暮らしの時も、だから一ノ瀬さんや便利屋に掃除を欠かさずにしてもらっていた。
 もちろん、俺自身もやる。
 子どもたちが来てからも同じだ。
 子どもたちに真っ先に教えたのが掃除だと言ってもいい。
 幸い、子どもたちも掃除を大事に思ってくれ、いつも家は清潔だ。

 しかし、どうしても外から虫などが入って来る場合はある。
 特にゴキブリだ。
 あいつらは、人間の衣服にそっと貼りついて、一緒に家の中へ侵入してくる。
 一般に多いのは下水溝からだが、うちはその辺は抜かりが無い。
 ウォータートラップを乗り越えて侵入して来るゴキブリはいないからだ。
 ゴキブリが好きな人間は少ないだろうが、うちは女四人が毛嫌いしている。
 見つけると大騒ぎをする。
 半狂乱で「花岡」を出そうとするので命に係わる。

 俺と皇紀は好きではないが、怖がることはない。
 ロボにいたってはおもちゃ感覚だ。
 たまに捕まえて見せに来る。
 大騒ぎになり、咥えた口を散々拭かれ、ロボも不機嫌になるので困る。
 柳が拭いてやると、ぶっ飛ばされる。

 「お前ら、散々「α」とか「Ω」を育てたじゃねぇか」

 双子に言う。

 「「いやー!」」
 「……」

 あの時、俺がどれほど苦労したことか。




 殺虫剤のスプレーがあちこちにある。
 夏場は特にそうだ。
 見栄えが悪い。
 俺が片付けるように言うと、文句が出る。
 まあ、片付けるが。

 みんな身体能力が高く、捕まえるのに苦労はない。
 しかし、俺と皇紀以外はやらない。
 大騒ぎするだけで、俺たちが呼ばれる。
 ロボは押さえ込まれる。
 柳が押さえ込んでいると、ぶっ飛ばされる。




 ある時、双子が妙な機械を持って来た。
 四角い筐体で、スピーカーが付いている。

 「超音波発生装置なの」
 「なんの?」
 「ゴキブリが寄り付かないんだって」
 「へぇ」

 リヴィングに設置させると、寝ていたロボが「フシャー!」と叫んで機械を爪でぶっ壊した。

 「嫌みたいだぞ?」
 「「えーん!」」



 
 双子がまた妙な機械を持って来た。
 加湿器のように振動子がついていて、ちょっとミストを発生させるようだ。
 人間には気にならないらしい。

 「ゴキブリをフェロモンで誘引して捕まえるの」
 「へぇ」
 「家の中に入ってきたら、全部捕まえるね」
 「頼むな」

 リヴィングに設置させた。
 なんかおかしい。
 ロボが鼻を鳴らして何か嗅ごうとしている。
 みんなで夕飯を食べていた。
 
 「おい、なんかヘンだな」
 「そうですね」

 俺と亜紀ちゃんがヘンな気配に気付いた。
 双子は気にせずに、ステーキを頬張っていた。
 その時、双子が窓を向いて、ステーキを吹いた。
 二人が指さしているので俺たちも見た。
 窓ガラスに、ビッシリとゴキブリが貼りついていた。

 「「「「「「ギャァーーーーー!!!!!!」」」」」」

 双子の頭を引っぱたき、急いで玄関から機械ごと追い出して佐藤さんの家に捨てさせた。

 「追いかけて来たよー!」
 「何匹か頭にとまったよー!」

 その日はうちの風呂には入れず、銭湯へ行かせた。




 双子がまた妙な機械を持って来た。
 サソリのような形で、高圧空気で自分を浮かせて高速移動するらしい。

 「またかよ!」
 「今度は大丈夫! ニードルでやっつけるから!」
 「なんだと?」

 柳が水玉模様のワンピースを着てリヴィングに入って来た。
 サソリの尾が柳に向き、圧縮空気でニードルをガンガン飛ばした。

 《ぷしゅんぷしゅんぷしゅんぷしゅん……》

 「なになになになに!」

 咄嗟に「花岡」で針を払っていく。
 俺はサソリを踏みつぶし、双子の頭を引っぱたいた。

 「ゴキブリじゃねぇじゃんかぁ!」
 「「ごめんなさーい!」」

 形状認識が甘かったらしい。




 その後も双子は開発を進め、殺虫剤を噴霧するタイプを作った。
 亜紀ちゃんがつまみのシイタケを焼いている時に噴霧され、火炎放射器のようになった。
 自慢の髪の一部が焦げて、鬼亜紀に双子が半殺しにされた。

 それにもめげずに、今度は極低温の攻撃タイプを製作した。
 窓辺でお昼寝中のロボの前に鳥が飛んで小さな影が移動した。
 冷却スプレーをぶっかけられ、ロボが「怒りのデスロード・キック」を柳に見舞った。

 「なんでよー!」

 椅子から転げ落ちて柳が半泣きになった。

 


 双子がまた妙な機械を持って来た。
 風呂から上がり、亜紀ちゃんと柳とで飲もうと思っていた。

 「おい、いい加減にしろよ」
 「今度こそは、危険もありません」
 「信じられねぇよ」
 「だって、真空ポンプですよ?」
 「あ?」
 「吸い込むんです」
 「ああ」

 UFOみたいな形で、側面に吸い込み口のような穴が幾つか開いている。
 亜紀ちゃんと柳が訝し気に見ていた。

 ルーがスイッチを入れた。
 UFOが探索を始める。
 ハーがゴキブリを虫カゴから出した。

 「おい! 本物かよ!」
 「大丈夫ですよ」

 UFOが移動した。
 また高圧空気のタイプらしい。
 するとゴキブリも移動して逃げた。
 テーブルに飛び、亜紀ちゃんが空けたベルーガ産の最高級キャビアの中に突っ込む。
 UFOが空中に飛び、追跡した。
 キャビアを物凄い勢いで吸い込まれる。

 《ずぼぼぼぼぼ》

 「「ギャァーーーー!!」」

 ゴキブリはまた逃げていた。

 俺が新聞を丸めてはたき落として潰した。

 《ぶちゅ》

 その新聞で双子の頭を思い切り引っぱたく。

 「あのキャビアが幾らすると思ってんだぁ!」

 鬼亜紀キックが双子の顔に飛ぶ。
 柳も双子の尻を蹴った。
 柳はキャビアが大好きだ。

 

 まあ、吸引という発想はいい。
 俺は専用のハンディ掃除機を買い、みんなにこれで吸い込めと言った。
 これならば身体能力の高さで追い詰め、尚且つ触れることなく捕獲できる。



 捕獲されたゴキブリは、女たちによって見るも無残な殺され方をする。

 「「「ギャハハハハハハハ!!!」」」

 毎回、皇紀が惨殺死体を処分させられている。

 「ちょっとカワイソウだよー」



 でも、ロボが先に見つけることが、やっぱり多い。
 


 石神家の大騒ぎは終わらない。
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