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あやかしの「王」たち

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 日曜日の10時に家に帰り、俺は早乙女に電話をした。
 モハメドと話す必要があった。

 「おう!」
 「石神! あ! おはようございます!」
 「おはよう。悪いな、日曜日に」
 「いや、大丈夫だ。何かあったか?」
 「ああ。ちょっとモハメドと話をしたいんだ。午後に行ってもいいか?」
 「もちろんだ! ああ、どうせなら昼食を一緒にどうだ?」
 「いやいい。ちょっと子どもたちと話もあるしな」
 「そうか。じゃあ午後に待っているよ」
 「1時過ぎに行く」
 「分かった」

 電話の間、ロボが俺の胸に顔を押し付けていた。
 夕べはいなかったので、甘えているのだ。
 電話を切り、ロボの顔を両手で挟んでワシワシしてやった。
 ロボが喜ぶ。

 そのままロボを抱いて、リヴィングへ降りた。
 亜紀ちゃんがすぐにコーヒーを持って来る。

 柳は庭で、また鍛錬をしていた。
 あんなことがあっても、すぐに立ち直ってくれたようだ。

 「柳はやってるな」
 「はい! もう大丈夫ですよ」
 「そうか」
 
 亜紀ちゃんがニコニコして言う。
 夕べはみんなで柳を気遣ってくれたのだろう。

 昼食は焼きウドンだった。
 食後のデザートはステーキだが。
 一応の体裁は保てた。
 俺たちは少しずつ「一般」に近づいている。

 コーヒーを飲み終え、俺は早乙女の家に行った。
 ロボが離れないので一緒に連れて行く。
 門を出る前に、スーの一族にも見つかった。
 30羽くらいが一緒に付いて来る。

 


 チャイムを押し、門が開かれた。
 
 「ああ、いしが、なんだ!」

 スーの一族に驚く。
 
 「なんでもねぇ。ああ、ちょっと米を撒いてくれ」
 「わ、分かった」

 ランがすぐに米を一つかみ持って来て、玄関先に撒いた。
 スーの一族はそっちに群がる。

 「お前……」
 「まあ、気にするな。攻撃力はそれほどねぇ」
 「あるのかよ!」

 リヴィングに通された。
 雪野さんがコーヒーを持って来る。

 「今日はいきなりすまんな」

 俺は柳の一連の事件を話した。
 早乙女と雪野さんがショックを受けていた。

 「吉原さんの遺品に、そんなものがあったのか」
 「多分、もっと物凄いものもあるだろうよ。俺の管理が全く甘かった」
 「いや、石神が全部引き受けてくれなければ」
 「俺への遺品だったからな。気にするな」

 吉原龍子は、俺へ遺すと明言していた。
 俺の戦いが分かっていたのだろう。

 「麗星さんに相談したんだ。すぐに「鬼猿」というものだと教えてくれた。問題は、最初は人間を食い物にする鬼なんだが、進化すると最終的に「鬼猿王」になるのだと言った」
 「「鬼猿王」?」
 「ああ。そこまで行くと、今度は気に入った人間を守護する存在になるそうだ」
 「そうなのか」

 「姿は小さくなって、蟻の形になるという」
 「なんだって!」

 早乙女と一緒に、雪野さんも驚いていた。

 「じゃ、じゃあ!」
 「ああ。モハメド!」
 《はーい!》
 「お前は「鬼猿王」なのか?」
 《はーい! そのようにも呼ばれるようですねー》
 「どうして蟻なんだ?」
 《「死」を齎すものだということだと思いますがー》
 「なるほどな」
 《一応、お腹に猿の顔がありますけどー》
 「マジか」

 モハメドは早乙女の肩から降りて、テーブルの上であおむけになった。
 小さすぎて見えねぇ。

 「分かった」

 一応、言っといた。

 早乙女と雪野さんが俺を見ていた。
 よく分からないという顔をしている。

 「サルヴァドール・ダリは、蟻を死の象徴と考えていたよな」
 「そうなのか」
 「お前は何も知らねぇなぁ」
 「すまん」

 「動物が死ぬと、蟻が群がっていく。あのイメージだよ」
 「ああ」
 
 俺はまたモハメドに聞いた。

 「お前たち妖魔は、一定の進化を目指しているのか?」
 《はいー。言い方は難しいですがー、全ての妖魔は一定方向へ向かっていると言えますー》
 「存在の核か」
 《はいー! 主様は流石に理解が早くて助かりますー。私の場合は生命を集めてー、その「死」を理解することが「道」となりますー。そしてー、ある程度「死」を理解するとー今度は「死」を操ることになりますー。「道」の核を操る存在が「王」ですー》

 「そうか。お前も「王」だったんだな」
 《はーいー!》
 「お前たちは「王」を目指しているのか」
 《そうとも言えますー。「王」はー、なかなかなれるものではありませんー》
 「そこで終わっていないということか?」
 《はーいー》
 「「王」の後はどうなるんだ?」
 《わたしにはー、まだ分かりませんー。ですがー、恐らく「神」になるんだとー》
 「「「!」」」

 俺たちは驚いたが、モハメドは嘘を言わない。
 恐らく、途轍もない時間と積み上げが必要なのだろうが。
 「クロピョン」も「空の王」も途轍もない存在だが、まだ「神」にはなっていない。

 《主さまー》
 「なんだ?」
 《「虎王」は、わたしたちがー、「道」を進む途上にあるのですー》
 「どういうことだ?」
 《主さまにー、「王」や強大な妖魔が集まるのはー、「虎王」を主さまがー持っているからですー》
 「そうか」

 以前から何度もそういうことは妖魔たちから言われた。

 《でもー、別な行き方もありますー》
 「それはどういうものだ?」
 《「大羅天王」と融合することですー》
 「「業」か!」
 《はいー。でも、それはー、今主様に従っているような強大な妖魔ではありませんー。自分の核を渡してー、一つになって大きくなっていく「道」ですー》
 「なるほど、よく分かった」
 《はいー》

 「ありがとう、モハメド。それに、いつも早乙女達を守ってくれてありがとうな」
 《いーえー。ああ、西池袋の方々もーちゃんと守ってますー》
 「うん?」
 《主様からー、最初に受けた命令ですのでー》
 
 俺は驚いた。
 院長夫妻の家は、タヌ吉の「地獄道」を張ったので、モハメドには早乙女に付いてもらったつもりだったのだ。

 「早乙女を守りながら、西池袋も同時に守っているのか?」
 《はーいー! 分体を作ってますのでー》
 「お前、そんなことが出来るのか!」
 《はーいー。一応は「王」なのでー》
 「じゃあ、早乙女がこの家にいなくても!」
 《はいー。雪野さんを分体で守ってますー。分体は姿は見えませんけどー》

 「分かった、今日はいろいろ教わって勉強になった。ありがとう」
 《いーえー》

 モハメドは早乙女の肩に戻った。

 「石神……」
 「おう」
 「なんか、とんでもない内容だったな」
 「俺は想定内だけどな」
 「ほんとか!」
 「当たり前だ。そうじゃなきゃ、妖魔の頂点とも言える「王」たちを従えてねぇ」
 「流石だな!」

 全然知らなかった。

 「まあな」

 よく見ると、早乙女の肩の上でモハメドが四本の腕で拍手をしていた。

 「じゃあ、モハメドさんは、いずれ「神」になるのか」
 「長い年月が必要だけどな。モハメドなら、きっとなるだろう」

 モハメドは引っ繰り返って6本の足で拍手をしていた。

 「モハメドさん、スゴイですね」

 雪野さんが言うと、モハメドは触角(?)でも拍手する。

 「ロボもそうなのか?」
 「ロボはずっとうちのネコだ」
 「そうか」

 ロボが俺の肩に前足を乗せ、頬を舐める。

 



 俺は早乙女の家を出た。
 今日はとんでもないことが知れた。
 やはり、「業」は強大な妖魔を使えないということだ。
 もちろんそれでも、先日の御堂家を襲ったような程度のものは扱えるということだが。
 俺たちの味方の「王」たちは、次元の異なる強さを持っている。

 但し、俺の命令にも限界がある。
 人間と妖魔とでは、概念が違い過ぎる。
 やはり「霊素」の解明が必要だ。

 週末に来る麗星は、何らかの進展を持って来るかもしれない。
 楽しみだった。
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