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道間家: 霊素の探求 Ⅱ
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俺はハマーを以前に案内されたスペースに駐車した。
俺が五平所さんを担ぎ、亜紀ちゃんが麗星を担いで玄関に入る。
幹部の人間が集まっており、俺たちの様子に驚く。
ずっと「ぷぷぷぷぷ」を繰り返していた二人だったが、ハマーから離れると漸く落ち着いて来た。
集まっていた人間に肩を貸されて俺たちを向いた。
「石神様! あ、あ、あれは一体!」
「申し訳ありませんでした。最近手に入れた刀で、道間家に一振り選んでもらおうと持って来たんです」
「あれをでございますか!」
「はい。そんなに驚かれるとは思いませんで」
俺は恐縮していた。
本当に申し訳ない。
俺たちのためにいろいろ尽くそうとしてくれている道間家に、とんでもないことをしてしまった。
俺たちは取り敢えず座敷に案内された。
荷物は俺たちが玄関前まで運び、あとは道間家の人間が運んでくれた。
冷たい緑茶を出された。
「本当に驚きました。あの屋根に乗っていた刀は「神殺し」ですね」
「え?」
「「常世渡り」でございましょう。よもや、あれがまだこの世に残っていたとは」
「御存知なのですか!」
「はい。道間の歴史の中でも、「虎王」を除けば最強の刀剣の一つと伝えられております。神々をも滅する力があると言われ、国津神猿田彦命が所持していたと伝えられています」
「猿田彦?」
「さようでございます。天津神がやって参りました折に、あの「常世渡り」を手に、もしも悪神であればすべて斬り伏せるつもりで立って待ち受けたと」
「『記紀』には出て来ませんね」
「最も重要な部分は伏せられて世に回っております。猿田彦命は戦神であられました」
「そうなんですか」
「その後、誰の手に渡ったのかは分かっておりません。元より、人の振るえるものでもなく、所持することも出来ません」
「はぁ」
「人の魂では、あの波動に耐えうることは出来ないのです」
麗星は深呼吸し、茶を口に含んだ。
「あの、あれを今回の土産に持って来たんですが?」
「とんでもございません! 道間家と雖も、あのような神剣を持つようなことは出来ません!」
「そうですか。あの、他の三振りは……」
「あれらも相当なものです。気を喪い掛けていましたので詳細は分かり兼ねますが、一本は「流星剣」でございましょう。ドーマンセーマンの鍔でございました。伝承の通りです。特殊な鉄隕石を用いて《目一神》が打ったものとされています。昔、西洋のあやかしが日本を攻めた折に、両面宿儺がその手に持ち、一振りで幾千幾万のあやかしを滅したとされております」
「なんとまぁ」
段々話の大きさに付いていけなくなった。
「あの、宜しければ大丈夫そうなのを一つだけでも」
「無理でございます! 石神様以外には、この世で誰も所有することは不可能です!」
「でも、今までどっかにはあったんですよね?」
「喪われていたと思ってはおりましたが、現にあのように在ると言うことは、そのようでございます」
「誰かが持ってたということで」
「それはございません! 人が持てるものではないのでございます!」
「そうですかー」
まあ、盗品でないようで良かった。
早乙女に盗難届を調べてもらおうと思ったが、やめよう。
子どもたちが俺をじっと見ている。
ルーとハーが泣きそうな顔をしている。
お腹が空いているのだ。
しかし、これだけ迷惑をお掛けして「食事を寄越せ」とは言い難い。
「ぐー」
「?」
「ぐー」
「はい?」
「ぐー」
「ああ! すぐにお食事を!」
俺たちは食堂へ案内された。
茶請けで出された最中は、全て無くなっていた。
昼食は鰻だった。
もちろん、石神家仕様だ。
庭で次々と焼きながら、お重に米と詰められて運ばれてくる。
お替りも当然ある。
ロボは白焼きを貰っていた。
子どもたちが食べ終えると、「もう一杯いかがですか?」と聞かれる。
ニコニコして空いたお重を差し出し、すぐに次の鰻が盛られてくる。
大喜びだった。
食後には冷たいジャスミン茶が出された。
「石神様はコーヒーの方が宜しいですか?」
「いえ、こちらで結構ですよ。いい香りだ」
麗星が微笑んだ。
普通のものよりも香りが高い。
鰻の後で飲むのは最高だ。
少し休憩となり、麗星はもう一度俺が持って来た刀剣を観たいと言った。
「大丈夫ですか?」
「今度はちゃんと防御いたします」
そう言って、俺に呪符を見せた。
それを胸元に挿し込んで、これで大丈夫だと言った。
ハマーまで一緒に歩き、俺はルーフに跳び上がって「常世渡理」のベルトを外した。
鞘に入れたまま、麗星に見せる。
麗星は触れることなく、じっと見ていた。
「抜いて見ましょうか?」
「はい。でもわたくしは触れることが出来ません」
3メートルもの鞘から抜くには、誰かの介助が必要と思ったのだろう。
俺は微笑んで、一呼吸で鞘を払った。
麗星には手品のように見えただろう。
「!」
俺は美しい刀身を見せた。
「これが「常世渡り」……」
麗星も、その美しさに魅せられていた。
俺は麗星から離れて、幾つかの型を舞った。
《シャララン》
刀身が振るわれる度に、美しい音色が聞こえる。
俺も今日、初めて振るったので驚いた。
「石神さまぁー! すとぉーっぷ! ぷー! ぷー! ぷー!」
麗星が叫んでいたので辞めた。
「わたくしどものあやかしが、逃げ去ろうとしております! どうか、そこまでで!」
「あ、分かりました。すみません」
何でこんなに美しいのに脅えるのか。
麗星も激しく汗をかいていた。
「じゃあ、今度は別なものを」
「結構でございます!」
「そう?」
「はい!」
見ると大勢の道間家の人間が、庭のあちこちを駆け巡っていた。
「……」
麗星が俺を睨んでいる。
「石神様」
「はい」
「いい加減になさいませ」
「はい、すみません」
麗星は、腰が抜けたと言い、俺に抱き上げて運んで欲しいと言った。
俺は「常世渡理」をルーフへ戻し、麗星を抱きかかえた。
麗星が俺の耳元で囁いた。
「今夜は離しませんよ」
顔を離し、微笑んで俺を見詰めていた。
俺は麗星に顔を近づけ、軽くキスをした。
麗星は輝くような笑顔を浮かべた。
俺が五平所さんを担ぎ、亜紀ちゃんが麗星を担いで玄関に入る。
幹部の人間が集まっており、俺たちの様子に驚く。
ずっと「ぷぷぷぷぷ」を繰り返していた二人だったが、ハマーから離れると漸く落ち着いて来た。
集まっていた人間に肩を貸されて俺たちを向いた。
「石神様! あ、あ、あれは一体!」
「申し訳ありませんでした。最近手に入れた刀で、道間家に一振り選んでもらおうと持って来たんです」
「あれをでございますか!」
「はい。そんなに驚かれるとは思いませんで」
俺は恐縮していた。
本当に申し訳ない。
俺たちのためにいろいろ尽くそうとしてくれている道間家に、とんでもないことをしてしまった。
俺たちは取り敢えず座敷に案内された。
荷物は俺たちが玄関前まで運び、あとは道間家の人間が運んでくれた。
冷たい緑茶を出された。
「本当に驚きました。あの屋根に乗っていた刀は「神殺し」ですね」
「え?」
「「常世渡り」でございましょう。よもや、あれがまだこの世に残っていたとは」
「御存知なのですか!」
「はい。道間の歴史の中でも、「虎王」を除けば最強の刀剣の一つと伝えられております。神々をも滅する力があると言われ、国津神猿田彦命が所持していたと伝えられています」
「猿田彦?」
「さようでございます。天津神がやって参りました折に、あの「常世渡り」を手に、もしも悪神であればすべて斬り伏せるつもりで立って待ち受けたと」
「『記紀』には出て来ませんね」
「最も重要な部分は伏せられて世に回っております。猿田彦命は戦神であられました」
「そうなんですか」
「その後、誰の手に渡ったのかは分かっておりません。元より、人の振るえるものでもなく、所持することも出来ません」
「はぁ」
「人の魂では、あの波動に耐えうることは出来ないのです」
麗星は深呼吸し、茶を口に含んだ。
「あの、あれを今回の土産に持って来たんですが?」
「とんでもございません! 道間家と雖も、あのような神剣を持つようなことは出来ません!」
「そうですか。あの、他の三振りは……」
「あれらも相当なものです。気を喪い掛けていましたので詳細は分かり兼ねますが、一本は「流星剣」でございましょう。ドーマンセーマンの鍔でございました。伝承の通りです。特殊な鉄隕石を用いて《目一神》が打ったものとされています。昔、西洋のあやかしが日本を攻めた折に、両面宿儺がその手に持ち、一振りで幾千幾万のあやかしを滅したとされております」
「なんとまぁ」
段々話の大きさに付いていけなくなった。
「あの、宜しければ大丈夫そうなのを一つだけでも」
「無理でございます! 石神様以外には、この世で誰も所有することは不可能です!」
「でも、今までどっかにはあったんですよね?」
「喪われていたと思ってはおりましたが、現にあのように在ると言うことは、そのようでございます」
「誰かが持ってたということで」
「それはございません! 人が持てるものではないのでございます!」
「そうですかー」
まあ、盗品でないようで良かった。
早乙女に盗難届を調べてもらおうと思ったが、やめよう。
子どもたちが俺をじっと見ている。
ルーとハーが泣きそうな顔をしている。
お腹が空いているのだ。
しかし、これだけ迷惑をお掛けして「食事を寄越せ」とは言い難い。
「ぐー」
「?」
「ぐー」
「はい?」
「ぐー」
「ああ! すぐにお食事を!」
俺たちは食堂へ案内された。
茶請けで出された最中は、全て無くなっていた。
昼食は鰻だった。
もちろん、石神家仕様だ。
庭で次々と焼きながら、お重に米と詰められて運ばれてくる。
お替りも当然ある。
ロボは白焼きを貰っていた。
子どもたちが食べ終えると、「もう一杯いかがですか?」と聞かれる。
ニコニコして空いたお重を差し出し、すぐに次の鰻が盛られてくる。
大喜びだった。
食後には冷たいジャスミン茶が出された。
「石神様はコーヒーの方が宜しいですか?」
「いえ、こちらで結構ですよ。いい香りだ」
麗星が微笑んだ。
普通のものよりも香りが高い。
鰻の後で飲むのは最高だ。
少し休憩となり、麗星はもう一度俺が持って来た刀剣を観たいと言った。
「大丈夫ですか?」
「今度はちゃんと防御いたします」
そう言って、俺に呪符を見せた。
それを胸元に挿し込んで、これで大丈夫だと言った。
ハマーまで一緒に歩き、俺はルーフに跳び上がって「常世渡理」のベルトを外した。
鞘に入れたまま、麗星に見せる。
麗星は触れることなく、じっと見ていた。
「抜いて見ましょうか?」
「はい。でもわたくしは触れることが出来ません」
3メートルもの鞘から抜くには、誰かの介助が必要と思ったのだろう。
俺は微笑んで、一呼吸で鞘を払った。
麗星には手品のように見えただろう。
「!」
俺は美しい刀身を見せた。
「これが「常世渡り」……」
麗星も、その美しさに魅せられていた。
俺は麗星から離れて、幾つかの型を舞った。
《シャララン》
刀身が振るわれる度に、美しい音色が聞こえる。
俺も今日、初めて振るったので驚いた。
「石神さまぁー! すとぉーっぷ! ぷー! ぷー! ぷー!」
麗星が叫んでいたので辞めた。
「わたくしどものあやかしが、逃げ去ろうとしております! どうか、そこまでで!」
「あ、分かりました。すみません」
何でこんなに美しいのに脅えるのか。
麗星も激しく汗をかいていた。
「じゃあ、今度は別なものを」
「結構でございます!」
「そう?」
「はい!」
見ると大勢の道間家の人間が、庭のあちこちを駆け巡っていた。
「……」
麗星が俺を睨んでいる。
「石神様」
「はい」
「いい加減になさいませ」
「はい、すみません」
麗星は、腰が抜けたと言い、俺に抱き上げて運んで欲しいと言った。
俺は「常世渡理」をルーフへ戻し、麗星を抱きかかえた。
麗星が俺の耳元で囁いた。
「今夜は離しませんよ」
顔を離し、微笑んで俺を見詰めていた。
俺は麗星に顔を近づけ、軽くキスをした。
麗星は輝くような笑顔を浮かべた。
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