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目玉焼き

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 タヌ吉を何とか宥め、丹沢から帰ったのが午後3時。
 子どもたちがお茶を飲んでいた。

 「ただいまー」
 「「「「おかえりなさーい!」」」」
 「……」

 亜紀ちゃんが黙っている。
 俺は近寄って頭を抱いた。

 「亜紀ちゃん、ただいまー」
 「……」

 大分機嫌が悪い。
 他の子どもたちも動揺している。
 亜紀ちゃんが泣き出すと、駆け寄って来る。
 皇紀はすぐに肉を焼き始めた。

 「亜紀ちゃん、どうしたの?」
 「お腹痛いの?」(絶対にねぇ)
 「亜紀ちゃん!」

 皇紀が手早くステーキを持って来た。
 亜紀ちゃんが無意識に食べ始める。

 「タカさん、ヤッて来たんですか」
 「「「「?」」」」

 俺はニッコリと笑って言った。

 「そうだ」
 「タカさん!」

 亜紀ちゃんが大粒の涙を流して俺を見る。

 「何を泣いてるんだよ。ああ! 亜紀ちゃんは妖魔との契って勘違いしてんじゃねぇのか!」
 「?」
 「なんだ、やっぱりそうか! あのな、妖魔と人間は違うんだよ」
 「はい?」
 「あのなー、昼間からこんな話はしたくもねぇんだが、人間同士はオチンチンを使うじゃない」
 「……」
 「でもな、妖魔は違うんだって」
 
 亜紀ちゃんが俺を見上げる。
 俺は瞳の底の「安心」を見逃さなかった。
 畳み掛ける。

 「バカだなー。妖魔とはもっとエネルギー的なもので交流するんだって。オチンチンはピクリともしねぇ」
 「そうなんですか!」
 「当たり前だろう。あいつらは物理法則に則らねぇじゃんか。やりたくたって無理だって」
 「タカさん!」
 「もちろんエネルギーを消費するから疲れるけどな。でも、オチンチンは関係ねぇよ」
 「あの、私……」
 「言うな、恥ずかしいから。もう、この話は終わりな!」
 「はい!」

 亜紀ちゃんがニコニコして残りのステーキを食べた。
 俺は皇紀にもう一枚焼くように言った。

 「あ、俺も貰おうかな! ちょっと生体エネルギーを使っちゃったからなー」
 「分かりました!」

 タンパク質が欲しい。
 何しろ散々出したからな。

 「私が焼きます!」
 
 亜紀ちゃんが立ち上がって言った。
 
 「おう、宜しくな!」

 何とか誤魔化し切った。
 うちの子どもらは素直で宜しい。
 俺はコーヒーを飲みながら、今朝の「虎王」の件を話した。

 「まさか二刀流が「虎王」の本来だとは思わなかった。でも、二本を持って、俺の中に一気に流れ込んで来た。「虎王」の全ての能力の記憶だ」
 「それはどういうものだったんですか?」
 
 柳が聞いて来た。

 「話せない。ああ、これも「虎王」の記憶にあることなんだが、真の所有者だけしか知ってはならないことなんだ。多分、俺が話そうとしても、お前たちには通じないとも思うぞ」
 「それって!」

 「%$#】*=K%&&」

 「「「「「?」」」」」

 「な?」

 「全然分かりませんでした!」
 「何、今の!」
 「言葉じゃなかった!」
 「耳がおかしくなったと思いました!」
 「タカさん!」

 子どもたちが驚いている。

 「多分、人間の領域じゃないんだよ。あ、俺は人間だぞ!」

 みんなが笑う。
 まあ、俺には切実な問題なのだが。
 とにかく、「タヌ吉=亜紀ちゃん問題」は解決した。
 
 「ちょっと風呂に入って来るな。外は暑かったからな」
 「私も!」

 亜紀ちゃんが言うのでどうしようかとも思ったが、ここで断ればまためんどくさいことになりそうなので許可した。




 水に近い温めの湯を張り、亜紀ちゃんに背中を洗ってもらってから一緒に入った。
 
 「結構冷たいですね」
 「大丈夫か? 少し温めようか」
 「大丈夫です。タカさんにくっつきますから」
 
 亜紀ちゃんが身体を寄せて来た。
 しばらく二人でのんびりと浸かる。

 「おい」
 「はい」
 「何で亜紀ちゃんは俺が妖魔とやったとかって気にするんだよ」
 「……」

 亜紀ちゃんは黙っている。

 「ヘンな話だけど、人間の女相手だとそうは乱れないじゃないか」
 「喜んでるわけじゃないですけど」

 まあ、そうなのだろうが。

 「でも、タカさんを心底愛している人たちですから」
 「妖魔もそうだとは思わないのか?」
 「あの、妖魔は人間とは違いますから」
 「まあ、そうだけどな」
 「タカさんがどうにかなっちゃうかもしれないって」
 「なんだよ、そりゃ」

 俺は笑った。
 亜紀ちゃんが俺の足に乗って来て、俺に抱き着いた。

 「だって! タカさんが魅了されちゃったり、ヘンな風になっちゃったり!」
 「ねぇよ」
 「でも!」

 確かに妖魔の美しさは人間を遙かに超える。
 タマにしてもタヌ吉にしても、イリスにしてもそうだ。
 美しさに関してであれば、六花をも超える。
 あの魅力に逆らえる人間は少ないだろう。
 セックスだってそうだ。
 人間の女では味わえないほどの快感がある。
 まあ、俺は逆らえるが。
 やったが。
 でも俺は人間だが。




 風呂から出て、俺は左門の家に行った。
 うちでは頼めない。

 「トラ兄さん! いらっしゃい!」
 「よう!」

 リヴィングに上がると、リーもいた。
 二人で広いテーブルを使って地図を拡げ、戦略のシミュレーションをしていたようだ。
 左門たちは、日本国内の主要都市が襲われた場合の自衛隊の出動と戦闘を検討している。
 休日の今日も、二人で考えているようだった。

 「邪魔して悪いな」
 「いいんだけど、どうしたの?」
 「ちょっと申し訳ないんだけど、自分でやるから目玉焼きを作ってもいいか?」
 「え? まあいいけど」
 「10枚もあればいいんだけどさ。もらっていいか?」
 「どうぞ? でもどうしたんですか?」
 「ちょっとよ、女とヤリまくってな。家だと子どもたちが気付くんで不味いんだ」
 
 左門とリーが顔を見合わせた。
 二人が爆笑した。

 「さっき、誤魔化して来たんだよ」
 
 左門が笑って、幾らでも食べて下さいと言った。

 「あのよ! 俺は独身で本当は自由なはずなんだよ! でもな、子どもたちが嫌がるから」
 「いいですよ。うちを使って下さい」
 「ありがとう!」

 早乙女の家だと、あいつは口が滑りそうだ。
 俺はありがたくキッチンを借り、卵を10個もらって目玉焼きを作った。
 テーブルの隅を借りて食べる。

 「今はどこをやってるんだ?」

 俺は食べながら作戦展開地を尋ねた。

 「札幌です」
 「遠いな」
 「うん。でも何とかしないと」
 「高速の輸送機が必要だな」
 「そうなんだけど、どうしても数時間は掛かるね」
 「それでは、ジェヴォーダンの集団の場合は、もう壊滅だな」
 「「……」」

 二人とも分かっている。

 「まあ、輸送機は俺も考えよう。マッハ20も出れば十分だろう」
 「え! でも、そんな航空機はないよ」
 「貸与という形にはなるけどな。近いうちに作らせるよ」
 「トラ兄さんにはその技術があるんだね!」
 「まあな。もう実際に運用している。それはそれほど大きくは無いけどな」
 「「!」」

 「目玉焼きの礼だ」

 二人が爆笑した。

 「もっと食べてよ」
 「もういいよ。でもな、お前たちはあくまでも俺たちのサポートだ。住民の避難を中心に考えてくれな」
 「うん」
 「メインの戦闘は俺たちでやる。お前たちも戦闘になる場面も出て来るだろうけどな」
 「分かってるよ。訓練は続けている」
 「俺たちは住民の避難やら救助の余裕がない。時には俺たちの攻撃で巻き添えになる人もいるかもしれんしな」
 「それは僕らでやるよ。任せて」
 「頼むぞ」

 多分これから、俺たちが予想しなかったことが徐々に判明もしてくだろう。
 そのために、左門とリーのシミュレーションは重要だった。




 一休みすると言って、左門たちはコーヒーを淹れた。
 俺も頂きながら「お前ら、最近もヤッてるか!」と聞いた。
 沢山やっているというので、テンガを使うと気持ちいと言った。

 「そうなんだ。僕らはあんまり器具は使わないんで」
 「ばかやろう! いろいろ工夫しないと、倦怠期になっちゃうぞ!」

 俺たちはいろんなテクニックや方法を楽しく話した。
 左門とリーがどういう風にやってるのかと俺に話して来る。
 俺は笑って聞いていた。
 エロ話は俺も大好きだ。

 だけど、目の前のゲイの二人がどんどん話して来るので、内心困った。
 
 「リーのお尻に舌を入れるとね、リーが喜ぶんだよ」
 「おー、すげぇな!」
 「その時にね、同時にカリ首を指で巻いてやるとね」
 「ワハハハハ!」




 もういいです。
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