上 下
1,249 / 2,840

「弱肉強食」秘話

しおりを挟む
 9月最初の土曜日。
 俺は響子と六花を連れ、乾さんの店に行くことにしていた。
 タケとよしこも呼んでいる。
 「紅六花」にバイクを納入する話をすることになっている。
 全員が大型免許を取ったのだ。
 乾さんの店に行く前に、横浜の陳さんの店で待ち合わせる予定だった。

 響子は俺のハーレーに乗って行く。
 まだ暑いが、走って風を浴びればそう辛いものでもない。
 
 俺は10時に病院へ行った。
 響子は六花に露出する顔や手足に日焼け止めクリームを塗られていた。

 「よし、パンツの中は俺が塗ってやろう」
 「やー」
 「早く脱げ」
 「やーよ!」

 六花が脱いだ。

 「「……」」

 お尻に塗ってやった。




 響子をハーレーのタンデムシートに座らせ、ハーネスで俺に固定した。。
 俺は混麻の白のパンツに、ブルーのクレリックのシャツを着ている。
 カフスはダンヒルの18金ゴールドのブルドッグだ。

 響子は生成りの麻の長袖のワンピース。
 六花は白のデニムのパンツに双子のハワイ土産のアロハシャツを着ている。
 白地に美しいハイビスカスの花がプリントしてある。

 1時間ほどで、陳さんの店に着いた。

 「響子は初めてだよな」
 「うん!」

 三人で歩いていると、店の前でタケとよしこが待っていた。
 二人ともジーパンに「紅六花」の白のTシャツを着ている。

 「総長! 石神さん! 響子ちゃん!」

 二人が俺たちを見つけて手を振ってきた。
 六花に駆け寄って挨拶し、響子を抱き締めた。

 「なんだよ、中で待ってればいいじゃねぇか」
 「いえ! 総長たちを待ってるのに、私たちが涼しい場所にいるわけには」
 「いろ!」

 みんなで笑って中へ入った。

 「トラちゃん、いらっしゃい! 今日は大勢ね!」
 「陳さん、お世話になります。うちの子らほどは喰いませんが、こいつらも結構大食いですから」
 「アハハハハ。いつもあんなに食べられたら、僕の店は大変よ」

 6人掛けのテーブルのある個室へ通された。
 俺がメニューを見て料理と量を注文する。
 響子は中華はあまり好きでは無いが、ここの店ならば大丈夫だろう。
 タケのために海鮮チャーハンを頼み、六花のために北京ダックも忘れない。

 響子は俺の傍に座らせた。

 料理が運ばれてくる。

 「後からどんどん来るからな。好きなように食べろよ」

 タケとよしこが感動して食べて行く。

 「こりゃ、うちのものとは全然違いますね」
 「日本一の店だからなぁ。美味いだろ?」

 「「はい!」」

 六花もニコニコして頬張って行く。
 俺は響子にスープを注いでやり、ゆっくり食べろと言った。

 チャーハンが来た。

 「「!」」

 タケとよしこが驚く。

 「これ! 「虎チャーハン」じゃないですか!」
 「「虎」じゃねぇんだ。俺が陳さんに特別に教わったんだよ。まあ、材料がいいのと火力が違うからな。ここの方が美味いわけだが」
 「へー! でもやっぱりプロは違いますね!」
 「お前らもプロだけどな」
 「アハハハハハ!」

 響子もチャーハンは好きだ。
 中華は油を多く使うので、俺は響子のために煮炊きした料理も頼んでいた。
 でも、北京ダックは気に入ったようだ。

 「響子、無理して食べなくていいですよ?」
 「美味しいよ?」
 「子どもはあんまり食べちゃいけません」
 「そうなの?」

 「そんなことねぇ! どんどん食べろ、響子!」
 「うん!」

 北京ダックは4羽もある。
 十分に食べれるはずだが。
 タケとよしこも六花に遠慮するので、俺がどんどん盛ってやった。

 「あーん」

 六花の頭を引っぱたいた。

 「いくらでも追加してやる!」

 六花がニコニコした。
 1羽追加した。

 


 「そう言えば、タケの店っていつから始めたんだ?」

 俺は食べながら聞いた。

 「小鉄が高校を卒業して調理師免許を取ってからですね。ああ、私も持ってますが。そうですねー、13年前になりますかね」
 「そんなにか! 若いのに頑張ったな!」
 「いえ、両親の遺産がありましたから」
 「そうなのか?」

 「両親がやってた店だったんですよ。私が中学に上がってすぐに死んじゃいまして」
 「そうだったのか」
 「小鉄が小学5年生でした。突然、トラックに突っ込まれた交通事故でしてね。二人で親戚の家に預けられて育ててもらいました」
 「大変だったな」
 「いえ、と言いたいんですけどね。私がグレちゃって。それで総長とつるむようになったんです」
 
 タケがそう言って笑った。

 「別に親戚から悪い扱いを受けたってわけでもないんですけどね。ちゃんと育ててもらいましたよ。でも、どうにも私は器がちっちゃくて。自分が不幸だって思って当たり散らしてました」
 「その頃、うちと近かったんですよ。それでタケとは最初喧嘩してましたけど、総長がいつも止めてくれて。そのうちに仲良くなりました」
 「へぇー」

 タケとよしこが懐かしそうな顔になる。

 「後から知ったんですけどね。総長こそとんでもない環境で。でも何も曲がることなく、いつだってあたしらのことを考えてくれてました」
 「あの頃の総長はまたカッコ良かったですよね! 「お前ら! あたしを殴れ!」ってね。面白くないことがあったら、自分で憂さを晴らせって。そんなの、出来るわけないじゃないですか」
 「でも一度殴ったら「テメェー!」ってボコボコにされましたね」

 みんなで笑った。

 「まあ、でも。本当にいつだってあたしらのために傷ついて苦労して。困ってるって聞くとすっ飛んで行くんですよ。よしこがヤクザと揉めたって聞いた時には大変でした」
 「ああ、ヤバかったよなぁ。途中で刑事さんが飛び込んで来なきゃ、どうなってたか」
 「総長がまさか一人で乗り込んでくなんて、誰も思ってませんでしたからね」

 六花は追加の北京ダックを夢中で食べている振りをしていた。
 顔が赤く、口に入れたものをずっと咀嚼していた。

 「そうか。それで学校を出てからタケと小鉄であの店を始めたのか」

 俺が話題を変えてやった。

 「はい。幸い店も土地も両親の名義でしたから。事故の賠償金なんかは全部親戚に渡しました。あたしも小鉄も、両親が死んだから手に入ったお金をもらいたくなかったんです。親戚には良くしてもらいましたし」
 「そうだったか」

 「両親が残してくれた貯金とあの店だけです。まあ、素人の二人でしたからね。最初は苦労しましたけど」




 タケが語ってくれた。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。  彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。  そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!  彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。  離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。  香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...