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夢の同田貫
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9月最初の金曜の晩。
俺が仕事から帰ると、双子が嬉しそうに出迎えてくれた。
ニコニコしている。
「どうしたんだ?」
俺はロボを抱き上げて階段を一緒に上がった。
「タカさん! やっと届いたの!」
「何がだ?」
リヴィングに上がった俺に、双子が背中に隠しながら持って来た。
「おい」
チラチラと見えているのですぐに分かった。
日本刀だ。
「どうしたんだよ?」
「同田貫だよ!」
「なんだと!」
「ちゃんとした「正国」のものだから!」
「結構探しちゃった。やっと見つかったの!」
俺は別荘で「同田貫」の話を子どもたちにした。
石神家の家宝であり、俺が子どもの悪戯でへし折ってしまった。
亜紀ちゃんと皇紀、柳も寄って来る。
「お前ら、どうして」
「だって、タカさん、凄く懐かしそうだったよ?」
「俺にくれるのか?」
「もちろん!」
子どもたちが拍手した。
泣きそうになった。
鞘は黒漆に桜の花弁があしらってある素晴らしい物だった。
握りには鮫皮が回してあり、その上に織紐が巻いてある。
鞘から刀身を抜いた。
乱れ刃紋の美しい刀身だった。
二尺四寸。
峰が厚く重みがある。
ため息が出る。
「素晴らしいな……」
俺が感嘆していると、また拍手が起きた。
「ありがとう! 大事にするよ!」
「「うん!」」
幾らしたのかは聞かない。
相当高かったはずだし、元々これほどの美しい刀が売りに出されていることもなかっただろう。
双子がいろいろと手を尽くして探して入手してくれたのだろう。
俺は着替えて夕飯を食べ、その後でまたみんなで「同田貫」を見た。
俺はウッドデッキに出て、「同田貫」を振ってみた。
手に馴染むように感じられた。
「いいな!」
俺は幾つか型を舞った。
栞から教わっている。
「タカさん、カッコイイ!」
亜紀ちゃんが言うので、嬉しくなった。
「何か斬って!」
ルーが言う。
「皇紀! 豆腐を持って来い!」
みんなが笑った。
子どもの頃に近所の家の庭石を斬ろうとしてへし折った。
双子が一生懸命に探してくれたこれを傷つけることは出来ない。
「栞の家で、青竹を「虎徹」で斬ったことはあるんだけどな」
「「「「「へぇー!」」」」」
段々調子に乗って来た。
「まあ、あれから俺も上達してるからな!」
「すごいですね!」
「ほら、あの「人斬り千両」と戦っても勝ったじゃん!」
「あ、そうですよね!」
まあ、「花岡」を使ってのことだったが。
「御堂の家でも正利にはもう、一本も入れられない。あいつ、子どもの頃から剣道やってたけどな」
「そうですよ!」
柳が嬉しそうに言う。
「本格的に剣術も修めた栞にも、もう負けなくなったんだよ」
「「「「「へぇー!」」」」」
「ワハハハハハハ!」
みんなが目を輝かせて俺を見ている。
気持ちがいい。
「タカさんは「虎王」で綺羅々を両断しましたよね!」
「亜紀ちゃん、覚えてたか」
覚えているに決まっているが。
「あ! そうだ、道間家の地下闘技場でも!」
「ああ、そういえばそうだな。あの化け物を「虎王」で粉砕したよなぁ。よく覚えてたな、ハー」
「エヘヘヘヘ」
他にもっと言ってもらうのを待った。
でも、もう無かった。
「まあ、俺も本当に剣士になったわけだ。もう、何でも斬れるよな」
「「「「「わあ!」」」」」
「何かねぇかな」
皇紀が塩ビパイプを持って来た。
「タカさん、これ!」
「なんだ、こんなものか」
俺は皇紀に座って持たせた。
居合斬りで抜き打ちにする。
かこーん。
塩ビパイプが斜めに何の抵抗も無く斬れた。
「「「「「ワァーーーー!!!!」」」」」
子どもたちが大騒ぎだ。
「まあ、こんなとこでやめよう。前は調子に乗って折っちまったからな!」
みんなが笑う。
俺はそっと刃こぼれしていないか確認してから鞘に仕舞った。
子どもたちが集まって来る。
良く見たいと言う。
ロボもいつもの付き合いで覗き込みに来る。
「おお、気を付けて観ろよ。亜紀ちゃん、ちょっと振ってみろよ」
「いいんですか!」
「気を付けろよ」
「はい!」
亜紀ちゃんが鞘からそっと抜いて、恐る恐る握った。
軽く振り下ろす。
「「「「おおー!」」」」
順番に一人一人握ってみた。
喜んでそっと動かしてみる。
ハーが度胸を見せて俺の抜き打ちを真似した。
流石に身体能力抜群で、サマになっている。
「「「「「おおー!」」」」」
みんなで拍手した。
「柳も持ってみろよ」
「え、怖いですよ」
「大丈夫だって」
俺が柳に握らせた。
「重い!」
「な!」
ロボも混ざりたがっていたが、流石に持てない。
柳がゆっくりと刀を下に降ろした。
ロボが近付いて来て、長く伸ばしたツメで「同田貫」を払った。
カチン ぽきん がちゃん
「「「「「!」」」」」
「タカさん!」
「……」
ロボは俺の顔を見てからウッドデッキの端に移動した。
身体を丁寧に舐め始めた。
「タカさん……」
「い、いいよ」
「アロンアルフア持って来ましょうか?」
「いいって」
「「「「「……」」」」」
ロボはその晩、俺の部屋には来ず、亜紀ちゃんと寝た。
俺が仕事から帰ると、双子が嬉しそうに出迎えてくれた。
ニコニコしている。
「どうしたんだ?」
俺はロボを抱き上げて階段を一緒に上がった。
「タカさん! やっと届いたの!」
「何がだ?」
リヴィングに上がった俺に、双子が背中に隠しながら持って来た。
「おい」
チラチラと見えているのですぐに分かった。
日本刀だ。
「どうしたんだよ?」
「同田貫だよ!」
「なんだと!」
「ちゃんとした「正国」のものだから!」
「結構探しちゃった。やっと見つかったの!」
俺は別荘で「同田貫」の話を子どもたちにした。
石神家の家宝であり、俺が子どもの悪戯でへし折ってしまった。
亜紀ちゃんと皇紀、柳も寄って来る。
「お前ら、どうして」
「だって、タカさん、凄く懐かしそうだったよ?」
「俺にくれるのか?」
「もちろん!」
子どもたちが拍手した。
泣きそうになった。
鞘は黒漆に桜の花弁があしらってある素晴らしい物だった。
握りには鮫皮が回してあり、その上に織紐が巻いてある。
鞘から刀身を抜いた。
乱れ刃紋の美しい刀身だった。
二尺四寸。
峰が厚く重みがある。
ため息が出る。
「素晴らしいな……」
俺が感嘆していると、また拍手が起きた。
「ありがとう! 大事にするよ!」
「「うん!」」
幾らしたのかは聞かない。
相当高かったはずだし、元々これほどの美しい刀が売りに出されていることもなかっただろう。
双子がいろいろと手を尽くして探して入手してくれたのだろう。
俺は着替えて夕飯を食べ、その後でまたみんなで「同田貫」を見た。
俺はウッドデッキに出て、「同田貫」を振ってみた。
手に馴染むように感じられた。
「いいな!」
俺は幾つか型を舞った。
栞から教わっている。
「タカさん、カッコイイ!」
亜紀ちゃんが言うので、嬉しくなった。
「何か斬って!」
ルーが言う。
「皇紀! 豆腐を持って来い!」
みんなが笑った。
子どもの頃に近所の家の庭石を斬ろうとしてへし折った。
双子が一生懸命に探してくれたこれを傷つけることは出来ない。
「栞の家で、青竹を「虎徹」で斬ったことはあるんだけどな」
「「「「「へぇー!」」」」」
段々調子に乗って来た。
「まあ、あれから俺も上達してるからな!」
「すごいですね!」
「ほら、あの「人斬り千両」と戦っても勝ったじゃん!」
「あ、そうですよね!」
まあ、「花岡」を使ってのことだったが。
「御堂の家でも正利にはもう、一本も入れられない。あいつ、子どもの頃から剣道やってたけどな」
「そうですよ!」
柳が嬉しそうに言う。
「本格的に剣術も修めた栞にも、もう負けなくなったんだよ」
「「「「「へぇー!」」」」」
「ワハハハハハハ!」
みんなが目を輝かせて俺を見ている。
気持ちがいい。
「タカさんは「虎王」で綺羅々を両断しましたよね!」
「亜紀ちゃん、覚えてたか」
覚えているに決まっているが。
「あ! そうだ、道間家の地下闘技場でも!」
「ああ、そういえばそうだな。あの化け物を「虎王」で粉砕したよなぁ。よく覚えてたな、ハー」
「エヘヘヘヘ」
他にもっと言ってもらうのを待った。
でも、もう無かった。
「まあ、俺も本当に剣士になったわけだ。もう、何でも斬れるよな」
「「「「「わあ!」」」」」
「何かねぇかな」
皇紀が塩ビパイプを持って来た。
「タカさん、これ!」
「なんだ、こんなものか」
俺は皇紀に座って持たせた。
居合斬りで抜き打ちにする。
かこーん。
塩ビパイプが斜めに何の抵抗も無く斬れた。
「「「「「ワァーーーー!!!!」」」」」
子どもたちが大騒ぎだ。
「まあ、こんなとこでやめよう。前は調子に乗って折っちまったからな!」
みんなが笑う。
俺はそっと刃こぼれしていないか確認してから鞘に仕舞った。
子どもたちが集まって来る。
良く見たいと言う。
ロボもいつもの付き合いで覗き込みに来る。
「おお、気を付けて観ろよ。亜紀ちゃん、ちょっと振ってみろよ」
「いいんですか!」
「気を付けろよ」
「はい!」
亜紀ちゃんが鞘からそっと抜いて、恐る恐る握った。
軽く振り下ろす。
「「「「おおー!」」」」
順番に一人一人握ってみた。
喜んでそっと動かしてみる。
ハーが度胸を見せて俺の抜き打ちを真似した。
流石に身体能力抜群で、サマになっている。
「「「「「おおー!」」」」」
みんなで拍手した。
「柳も持ってみろよ」
「え、怖いですよ」
「大丈夫だって」
俺が柳に握らせた。
「重い!」
「な!」
ロボも混ざりたがっていたが、流石に持てない。
柳がゆっくりと刀を下に降ろした。
ロボが近付いて来て、長く伸ばしたツメで「同田貫」を払った。
カチン ぽきん がちゃん
「「「「「!」」」」」
「タカさん!」
「……」
ロボは俺の顔を見てからウッドデッキの端に移動した。
身体を丁寧に舐め始めた。
「タカさん……」
「い、いいよ」
「アロンアルフア持って来ましょうか?」
「いいって」
「「「「「……」」」」」
ロボはその晩、俺の部屋には来ず、亜紀ちゃんと寝た。
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