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ドミノの地獄
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《 姉は血を吐く、妹(いもと)は火吐く、 可愛いトミノは宝玉(たま)を吐く。》(西条八十『トミノの地獄』より))
蓮花の研究所から帰った土曜日の午後4時。
俺がコーヒーを飲んでいると、亜紀ちゃんがでかい段ボール箱を持って来た。
「タカさん、暑中見舞いの届け物がありまして」
「なんだ、またかー」
「斎木さんからです」
「あいつか。斎木って毎年ヘンなもの送って来るんだよなぁ。今年はねぇかと思ってたのに」
亜紀ちゃんに開けさせる。
「なんですか、これ」
「ドミノ倒しか」
「ああ!」
二種類入っている。
「初心者用」と「超上級者用」。
「初心者用」は120ピースで、「超上級者用」は5800ピース。
子どもたちが集まって来る。
「なんで中級とか普通の上級がねぇんだ?」
「さー」
「また斎木らしい「ナゾ物」だよなぁ、こんなもの。どうするか、早乙女にやるか!」
「え、でも今お引越しで荷物が大変なんじゃ」
「別にいいだろう。あいつ、俺からのプレゼントだって言うと喜ぶじゃん」
「でも、ヘンな柱、困ってましたよね?」
「上手く誤魔化した」
「ダメですよ!」
困った。
「タカさん、ちょっとやってみてもいい?」
ハーが言った。
「ああ、別にいいけどよ」
ルーとハーが「初心者用」を開けてリヴィングの床に並べだした。
亜紀ちゃんも面白がって一緒にやる。
皇紀は部屋でなんかいじってるのだろう。
ロボが興味を持ってじっと見ていた。
器用な双子がものの10分で並べた。
直線から二方向に分かれるようにした「Y字」型だ。
《パタン シュルシュル…… パタン》
みんなが喜ぶ。
ロボが後ろ足で立ち上がり、回転しながら跳んで、パタンと倒れた。
「「「カワイー!」」」
確かに可愛かった。
ロボがハーに頭をこすりつけ、もう一度やれとせがんでいる。
三人がまたやった。
今度は円を描く。
《パタン シュルシュル…… パタン ピョン くるくる ぱたん》
「「「カワイー!」」」
三人が俺に断って、「超上級者用」の箱を開いた。
ロボが三人の身体の間から顔をねじ込んで、興奮している。
「おい、ここでやるなよ?」
「どこでやろっか」
「うーん」
「裏の衣裳部屋は?」
「あ、いいかも!」
うちの裏に新たに建てた建物の中に、双子の衣裳部屋を一つ当てがった。
動物に頭が主に置いてある。
俺もほとんど入ったことはないが、広さは30畳ほどある。
「行こう!」
三人が運んで行き、ロボも付いて行った。
その日から、三人で楽しくやっているようだ。
「タカさん! ギミックが凄いんだよ!」
「橋とか風車とか、ボールのリレーとか!」
「三人で話し合って、大体の図面が出来たの!」
「ちょっとスゴイよ!」
双子がよく俺に話しに来る。
全然興味は無かったが、三人が楽しそうなので俺も段々見たくなった。
木曜日の夜。
「半分くらい出来たんだ!」
「週末にはお披露目するから、ガンバルね!」
そう聞いた。
その夜に、俺は一人で見に行った。
渡り廊下で裏の建物へ行き、双子の衣裳部屋に入った。
床に拡がるドミノのブロックが見えた。
「へぇー、ほんとに凄いな」
手前から菱形に拡がるようだ。
反対の頂点からまた幾つかのルートに分かれ、階段を上がったり橋を渡ったりして、風車を回し金属製のボールが動いたりする。
「本格的だな」
俺は倒さないようにそっと歩き、壁に吊るされた双子の衣装も見る。
「なんだよなぁ、これは」
本物の動物の頭が多い。
見事な角の鹿類は、多分ジャンニーニから奪ってきたものだ。
その他にもライオンや狼、タヌキやイノシシ、ウサギ等々。
フェイクのものもあり、恐らくは「RUH=HER」での試作品だろう。
本物は気持ち悪いので、フェイクのヘッドを見た。
ライオンのものを持ち上げる。
「トラはねぇのかよ」
ライオンのガラス製の目玉が外れて落ちた。
「おっと!」
俺は素早く動いて床に落ちる前に捉えた。
「ヘヘヘ」
《ぽろ ごとん ごろごろ》
俺は球技が苦手だった。
「!」
転がった目玉がドミノの最初のブロックに当たった。
《コン パタン ブシャーーーーーー コンコンコン くるくる ガタン ゴロゴロ カンカンカン……》
「……」
脂汗が流れた。
亜紀ちゃんと双子が、どんなに一生懸命にやってきたのかを聞いている。
「まずいぞ……」
床に設計図があった。
「やるしかねぇかー」
俺は、倒れたブロックを直し始めた。
翌朝。
「あれ、タカさん! 目が真っ赤ですよ!」
亜紀ちゃんが叫んだ。
「おお」
「大丈夫ですか!」
「まあな」
「熱を測りましょう!」
「大丈夫だって」
「でも!」
5時になっても終わらなかったので、タマとタヌ吉を呼んで手伝わせた。
何とか、7時半に終わった。
俺はエスプレッソを2杯飲んで仕事に出掛けた。
6時頃に家に帰ると、子どもたちが騒いでいる。
「何でライオンの目が落ちてるのよ!」
「しょうがないじゃん。もう一度やろ?」
亜紀ちゃんに話を聞くと、今日もドミノ作業をしようとしたら、ハーがスリッパで床に転がっていたライオンの目玉を蹴とばし、折角作ったドミノが台無しになったようだ。
ハーは悔しくて泣いている。
亜紀ちゃんとルーが必死に慰めている。
「……」
ハーが叫んだ。
「私の責任だ! 私、今日は徹夜で直すから!」
「!」
「そんな無理しないで」
「また三人でやろ?」
「ダメ! 自分を絶対に許せない!」
「……」
ハーが泣きじゃくりながら叫んでいた。
「お、俺も手伝うよ」
「「「タカさん!」」」
三人に抱き着かれた。
こいつらはまだ夏休みだからいい。
俺は明日も仕事なんだが。
二日完徹になった。
土曜日の夜。
「超上級者用」ドミノの完成披露会が開かれた。
家族全員が集まる。
三人が同時に指を挿しだす。
俺も誘われたが、遠慮した。
《コン パタン ブシャーーーーーー コンコンコン くるくる ガタン ゴロゴロ カンカンカン……》
「「「やったぁ!」」」
《ピョン くるくる ぱたん》
「「「ロボ、カワイー!」」」
みんなで拍手した。
俺は早めに寝た。
蓮花の研究所から帰った土曜日の午後4時。
俺がコーヒーを飲んでいると、亜紀ちゃんがでかい段ボール箱を持って来た。
「タカさん、暑中見舞いの届け物がありまして」
「なんだ、またかー」
「斎木さんからです」
「あいつか。斎木って毎年ヘンなもの送って来るんだよなぁ。今年はねぇかと思ってたのに」
亜紀ちゃんに開けさせる。
「なんですか、これ」
「ドミノ倒しか」
「ああ!」
二種類入っている。
「初心者用」と「超上級者用」。
「初心者用」は120ピースで、「超上級者用」は5800ピース。
子どもたちが集まって来る。
「なんで中級とか普通の上級がねぇんだ?」
「さー」
「また斎木らしい「ナゾ物」だよなぁ、こんなもの。どうするか、早乙女にやるか!」
「え、でも今お引越しで荷物が大変なんじゃ」
「別にいいだろう。あいつ、俺からのプレゼントだって言うと喜ぶじゃん」
「でも、ヘンな柱、困ってましたよね?」
「上手く誤魔化した」
「ダメですよ!」
困った。
「タカさん、ちょっとやってみてもいい?」
ハーが言った。
「ああ、別にいいけどよ」
ルーとハーが「初心者用」を開けてリヴィングの床に並べだした。
亜紀ちゃんも面白がって一緒にやる。
皇紀は部屋でなんかいじってるのだろう。
ロボが興味を持ってじっと見ていた。
器用な双子がものの10分で並べた。
直線から二方向に分かれるようにした「Y字」型だ。
《パタン シュルシュル…… パタン》
みんなが喜ぶ。
ロボが後ろ足で立ち上がり、回転しながら跳んで、パタンと倒れた。
「「「カワイー!」」」
確かに可愛かった。
ロボがハーに頭をこすりつけ、もう一度やれとせがんでいる。
三人がまたやった。
今度は円を描く。
《パタン シュルシュル…… パタン ピョン くるくる ぱたん》
「「「カワイー!」」」
三人が俺に断って、「超上級者用」の箱を開いた。
ロボが三人の身体の間から顔をねじ込んで、興奮している。
「おい、ここでやるなよ?」
「どこでやろっか」
「うーん」
「裏の衣裳部屋は?」
「あ、いいかも!」
うちの裏に新たに建てた建物の中に、双子の衣裳部屋を一つ当てがった。
動物に頭が主に置いてある。
俺もほとんど入ったことはないが、広さは30畳ほどある。
「行こう!」
三人が運んで行き、ロボも付いて行った。
その日から、三人で楽しくやっているようだ。
「タカさん! ギミックが凄いんだよ!」
「橋とか風車とか、ボールのリレーとか!」
「三人で話し合って、大体の図面が出来たの!」
「ちょっとスゴイよ!」
双子がよく俺に話しに来る。
全然興味は無かったが、三人が楽しそうなので俺も段々見たくなった。
木曜日の夜。
「半分くらい出来たんだ!」
「週末にはお披露目するから、ガンバルね!」
そう聞いた。
その夜に、俺は一人で見に行った。
渡り廊下で裏の建物へ行き、双子の衣裳部屋に入った。
床に拡がるドミノのブロックが見えた。
「へぇー、ほんとに凄いな」
手前から菱形に拡がるようだ。
反対の頂点からまた幾つかのルートに分かれ、階段を上がったり橋を渡ったりして、風車を回し金属製のボールが動いたりする。
「本格的だな」
俺は倒さないようにそっと歩き、壁に吊るされた双子の衣装も見る。
「なんだよなぁ、これは」
本物の動物の頭が多い。
見事な角の鹿類は、多分ジャンニーニから奪ってきたものだ。
その他にもライオンや狼、タヌキやイノシシ、ウサギ等々。
フェイクのものもあり、恐らくは「RUH=HER」での試作品だろう。
本物は気持ち悪いので、フェイクのヘッドを見た。
ライオンのものを持ち上げる。
「トラはねぇのかよ」
ライオンのガラス製の目玉が外れて落ちた。
「おっと!」
俺は素早く動いて床に落ちる前に捉えた。
「ヘヘヘ」
《ぽろ ごとん ごろごろ》
俺は球技が苦手だった。
「!」
転がった目玉がドミノの最初のブロックに当たった。
《コン パタン ブシャーーーーーー コンコンコン くるくる ガタン ゴロゴロ カンカンカン……》
「……」
脂汗が流れた。
亜紀ちゃんと双子が、どんなに一生懸命にやってきたのかを聞いている。
「まずいぞ……」
床に設計図があった。
「やるしかねぇかー」
俺は、倒れたブロックを直し始めた。
翌朝。
「あれ、タカさん! 目が真っ赤ですよ!」
亜紀ちゃんが叫んだ。
「おお」
「大丈夫ですか!」
「まあな」
「熱を測りましょう!」
「大丈夫だって」
「でも!」
5時になっても終わらなかったので、タマとタヌ吉を呼んで手伝わせた。
何とか、7時半に終わった。
俺はエスプレッソを2杯飲んで仕事に出掛けた。
6時頃に家に帰ると、子どもたちが騒いでいる。
「何でライオンの目が落ちてるのよ!」
「しょうがないじゃん。もう一度やろ?」
亜紀ちゃんに話を聞くと、今日もドミノ作業をしようとしたら、ハーがスリッパで床に転がっていたライオンの目玉を蹴とばし、折角作ったドミノが台無しになったようだ。
ハーは悔しくて泣いている。
亜紀ちゃんとルーが必死に慰めている。
「……」
ハーが叫んだ。
「私の責任だ! 私、今日は徹夜で直すから!」
「!」
「そんな無理しないで」
「また三人でやろ?」
「ダメ! 自分を絶対に許せない!」
「……」
ハーが泣きじゃくりながら叫んでいた。
「お、俺も手伝うよ」
「「「タカさん!」」」
三人に抱き着かれた。
こいつらはまだ夏休みだからいい。
俺は明日も仕事なんだが。
二日完徹になった。
土曜日の夜。
「超上級者用」ドミノの完成披露会が開かれた。
家族全員が集まる。
三人が同時に指を挿しだす。
俺も誘われたが、遠慮した。
《コン パタン ブシャーーーーーー コンコンコン くるくる ガタン ゴロゴロ カンカンカン……》
「「「やったぁ!」」」
《ピョン くるくる ぱたん》
「「「ロボ、カワイー!」」」
みんなで拍手した。
俺は早めに寝た。
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