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アラスカの休日

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 水曜日の朝。
 朝食を食べ、そろそろアラスカへ出発しようとしていた、午前9時。
 早乙女から電話が来た。

 「よう」
 「ああ、石神」

 「お前よ」
 「なんだ?」
 「人間は挨拶だぁ! まずは「おはようございます」だろう!」
 「あ、すまん。おはようございます」
 「まったく!」
 「すまん」

 「さっさと用件を話せ!」
 「……」
 「おい!」

 早乙女は、愛鈴にうちの敷地には絶対に入らないように伝えたと言った。

 「そうか。納得したか?」
 「ああ。少し理由を話そうとも思っていたんだが、愛鈴さんの方から「絶対に入りません」と言われたんだ」
 「ふーん」

 入ったのだろう。
 まあ、多分うちに侵入した妖魔をどうにかしようとしたに違いない。

 「とにかく、そういうことだ」
 「分かった」
 「じゃあ」
 「ああ、土産は「トラちゃん饅頭」でいいか?」
 「え?」
 「なんだ、嫌いかよ」
 「いや、食べたことないが」
 「しょうがねぇ。別なモンにするかぁ」
 「すまん」

 まあ、考えておこう。
 「トラちゃん饅頭」、美味いのに。




 朝に出発するのは、時差のためだ。
 日本時間午前9時は、アラスカで前日の夕方4時になる。
 士王も昼寝から起きて、落ち着いた頃になる。

 俺たちは「Ωスーツ」を着て、荷物を入れた「Ωボックス」を持って「飛んだ」。
 ロボは必要ないのだが、何故か俺たちが着ているのを以前に羨ましがった。
 着込んだ俺に頭をぶつけ、脱いだ「Ωスーツ」を前足でパンパン叩いた。

 「お前も着たいの?」
 「にゃ!」

 作った。

 


 基地では東雲が迎えに来てくれた。
 
 「石神さん!」
 「元気そうだな、東雲」
 「はい! 他の連中も元気ですよ!」

 子どもたちも挨拶する。
 俺たちは基地の外の原野で着替えた。
 亜紀ちゃんが「Ωボックス」を開き、全員に着替えを渡す。
 直接基地の中へ降りてもいいのだが、防衛システムを一時的に俺たちを追わないようにする必要がある。
 万一その隙を衝かれたくない。
 ゲートであれば、そういうこともない。

 着替えた俺たちは、東雲が乗って来たハンヴィーM1152に乗り込む。
 子どもたちは荷台だ。
 基地のゲートを潜り、ヘッジホッグへ向かう。

 「一段と開発が進んだな」
 「はい! 何しろ資源が無尽蔵ですからね」
 「ワハハハハハ!」

 「高炉もすぐに出来たし、各種精錬所、化学コンピナートなんかも全部揃いました」
 「やったな!」
 「都市計画もどんどん進んでますよ。移民の受け入れも順調です」
 「そうか」

 ヘッジホッグの内部に入り、東雲と別れた。
 子どもたちがウキウキしている。

 「また士王ちゃんに会えますね!」
 
 亜紀ちゃんが笑顔で言う。

 「お前ら下品だからなぁ。士王にうつすなよ!」
 「「「「アハハハハハ!」」」」

 栞の区画に出た。
 桜花が出迎えてくれた。

 「あなたー!」

 「「あなたーっとーよべーばー なんだいーっとこたーえるー」」

 双子が歌い出すので頭をはたいた。
 桜花が笑っている。

 栞は士王を抱いており、俺たちは桜花たちとも挨拶した。
 コーヒーを桜花が淹れてくれる。
 士王は俺に抱かれ、子どもたちが覗きに来る。

 「カワイー!」
 「笑ってるよ!」
 「こっち見た!」
 「お姉ちゃんだよー!」

 士王も慣れたのか、囲まれても驚かずに笑っている。
 亜紀ちゃんたちに士王を抱かせた。
 ロボも亜紀ちゃんの肩に乗り、士王に手を伸ばしている。
 
 「お前ら、食べるなよ!」
 「「「「アハハハハハ!」」」」

 俺は栞とゆったりと話した。




 俺たちがいるので桜花たちに休暇をやろうとしたが、是非一緒にいさせてくれと頼まれた。

 「お前らも変わってんな!」
 「「「はい!」」」

 三人が許可されて嬉しそうにした。

 子どもたちは夕飯の準備を始める。
 栞も手伝ったが、桜花たちは断られた。
 俺は笑って、短時間のドライブに誘った。

 ハンヴィーに乗り、基地の外へ出る。
 どうせこの三人は休めと言っても自由に出回っていない。
 アラスカの原野を疾走し、三人に見せた。
 三人が喜ぶ。

 「あ!」
 「どうしたんですか!」

 俺の隣の桜花が叫んだ。

 「忘れてたよ。折角来たんだから、あいつらにも顔を出さないとな」
 「あいつら?」
 「ああ、この基地を霊的に守ってくれてる連中だ」
 「はぁ?」

 俺はハンヴィーを停め、外に出た。
 桜花たちも降りて来る。

 「じゃあ、呼ぶからな」
 「「「はい?」」」

 「ワキン! ミミクン!」
 「「「?」」」

 少し待つと、空から極彩色の20メートルの鷲が飛んで来た。
 目の前に降り立ち、俺に頭を下げる。
 風圧で桜花たちの髪が舞った。

 「「「!」」」

 その直後、地平の彼方から巨大な地面を踏む地響きが聞こえ、たちまち近づいて来た。
 数百メートルの腕の生えた蛇だ。

 同じく、俺の前で頭を下げた。

 「よう! いつもありがとうな!」
 《とんでもありません、我が主》
 《主様こそご壮健喜ばしく》

 桜花と睡蓮が俺の両腕を背後から持ち、椿姫が俺の両肩を後ろから揺すっていた。

 「こいつらはこの基地の中にいる三人で、俺の大事な女と子どもを守ってくれてるんだ。お前らも特別に頼むな!」

 《相分かりました》
 《委細承知》

 「良かったな! 覚えてもらったぞ」
 「い、い、石神さん」
 「なんですか、この方々は!」
 「大丈夫なんですか?」
 
 「お前らも挨拶しろ。これからもずっと守ってもらうんだからな」
 
 三人はそれぞれ「宜しくお願いします」と震える声で言った。
 もう倒れそうだ。

 「じゃあ、今後も頼むな! 解散!」

 ワキンとミミクンは去った。

 「おし! じゃあ、帰るか!」

 ハンヴィーの中で三人は黙っていた。
 隣で桜花がガタガタと震えている。

 「お前らなぁ。もしもアレが敵だったらどうすんだよ!」
 「「「!」」」
 「ビビってんじゃねぇ! 俺たちはああいう力が必要なんだ。それは敵もああいう力で来るからなんだぞ!」
 
 少しはシャキッとした。

 「「「すみませんでしたぁ!」」」
 「おう! じゃあ、ミミクンと戦闘訓練でもすっかぁー!」

 三人にまた今度にしてくれと言われた。
 まあ、存在の次元が相当違う。
 訓練にもならないし、近くに来ただけでも多大な影響を受ける。




 戻ってから、俺は三人に風呂に入れと言った。

 「どうしたの?」
 
 三人の様子が違うので、栞が心配してきた。

 「まあ、ちょっと初めての体験をな」
 「え! まさか!」
 「おい!」
 「違うよね!」
 「当たり前だぁ!」

 そのうちに栞と士王にも会わせよう。
 アラスカの防衛の要の一部だ。



 でも、あいつら。
 何をどういうふうにここを守っているんだろうか。
 そう言えば知らない。
 それも今度聞いてみよう。
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