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別荘の日々 Ⅶ: NY「幻想」3

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 翌日も、聖に引っ張られてブレイカーたちの広場に行った。
 朝食を食べてすぐだ。
 嬉しそうに早く行こうと言う聖に、苦笑しながら一緒にアパートメントを出た。

 まだ朝の10時前で、広場には数人の黒人しか来ていなかった。

 「よう!」

 俺たちは挨拶し、ダンスの練習を始めた。
 昼になり、そこにいた連中を誘って食堂に入った。
 俺たちがダンスを教わった礼だと、全員にご馳走した。
 まあ、安い店だった。

 「お前ら、随分と上達が早いな!」
 「まあ、身体を動かすのは好きだからな」
 「へぇー、何やってんのよ?」
 「「Mercenary(マーセナリー:傭兵)」」
 「!」

 黒人たちは驚いていたが、俺たちの動きに納得したようだ。

 「昨日のバトルは凄かったもんな!」
 「「ワハハハハハハ!」」

 


 ゆっくり食事をし、ビールを飲んで、また広場に戻った。
 昨日の黒人たちが集まっており、俺たちはまたダンスをした。
 俺は踊っている間、何も考えない自分に気付いた。
 次の動き、次の次の動き、それを考え追っている俺は、一つの機械になれた。
 知らない間に夢中で踊っている俺を見ている聖に気付いた。
 聖が優しく笑っていた。

 何度か休憩を挟み、俺たちはその度にみんなにビールを配った。
 俺たちは急速に仲良くなっていった。

 悪ガキたちなのだろうが、仲間には気のいい連中だった。
 夕暮れまで無心に踊り、俺は疲れ果てて気分が良かった。

 またナンシーが来た。
 俺に駆け寄って来る。

 「よう!」
 「今日もトラに会えた!」
 「ナッチャンは昼間何やってんだ?」
 「ハイスクールに通ってるの」
 「そうか」
 「お兄ちゃんが夜に働いて、学費を出してくれてるんだ」
 「あのゴリラが?」
 「酷いよ!」

 二人で笑った。
 ジェスが離れて笑って見ていた。
 ナンシーがずっと俺のダンスを見ていた。
  
 俺の中で、何かが壊れて行った。
 俺を苦しめる何かが。
 クタクタになるまで身体を動かし、その疲労が何かを和らげた。

 「トラ、おぶってやろうか?」
 「あ?」

 聖が心配そうに俺を見ていた。
 俺は相当疲れた歩き方をしていたらしい。

 「ばかやろう!」

 俺が聖にハイキックをかますと、聖が笑顔になって左手で受けた。
 二人で軽くやり合う。
 人が集まり、警官が来たので肩を組んで走って逃げた。




 その翌日も聖と出掛けた。
 昨日よりも大勢が集まっている。
 ダンスはしておらず、顔を突き合わせていた。

 「どうしたんだ?」
 「トラ、セイント、実はな」

 ジェスがガンで撃たれ、ナンシーが攫われたらしい。

 「ジェスはバーで働いてるんだ。そこに「Bクロウ」の連中が来て暴れた。止めようとしたジェスの腹を撃って、手伝いに来てたナンシーを連れてった」
 「なんだと!」
 「まずいぜ。あいつら武装してやがんだ。警察も俺らのトラブルは手を出さない」
 「場所は分かってるのか?」
 「あ、ああ。大体はな」
 「教えろ」
 「おい、お前ら! いくら……」

 俺の顔を見て、黙り込んだ。
 俺はそんな顔をしていた。




 俺と聖は、すぐに向かった。
 サウスブロンクスにあるビルだった。

 「トラ、ガンはどうする?」
 「あいつらが持ってるだろうよ」
 「ああ!」

 ビルの場所はすぐに分かった。
 入り口に黒人の見張りが二人立っていた。
 近づく俺たちに気付き、胸の内側からガンを抜く。

 俺と聖の身体がブレた。
 そう見えただろう。
 次の瞬間に、二人は地面に転がっていた。

 「夕べ、黒人の女を連れ込んだだろう?」
 
 俺が静かに聞いた。

 「知らねぇ」

 俺は躊躇なく眼球に指を入れ、引っ張り出した。
 物凄い悲鳴を声帯を掴んで黙らせた。

 「おい」
 「な、中にいる!」

 俺たちは二人を立たせて案内させた。
 廊下の奥から銃撃される。
 俺たちは見張りを楯にして突っ込んだ。
 何発も男たちに銃弾が食い込むのが分かる。
 すぐに担がなければならなくなった。

 聖が廊下の奴を沈黙させた。
 ワンショットだ。
 二人で階段を駆け上がる。
 
 「ナンシー! 助けに来たぞ!」

 俺は大声で叫んだ。

 「絶対に助けてやるからな!」

 Bクロウの連中が次々に出て来た。
 俺と聖で次々に斃していく。
 誰もがガンを持っていた。
 俺たちは武器を持ち換え、撃ちまくった。

 3階のフロアは壁が取り壊されていた。
 10人の男たちが武器を持って俺たちを撃って来る。
 俺も聖もプレッシャーで銃弾を避けつつ、10秒以内に全員を斃した。

 大きなベッドでナンシーが俺たちを見詰めていた。

 「ナンシー!」
 「トラー!」
 「生きてて良かった!」
 「トラ!」

 ナンシーは全裸だった。
 俺はシーツでナンシーをくるんだ。

 「トラ、声が聞こえた!」
 「そうか」
 「聞こえたよー!」

 ナンシーが泣き出した。

 「ナンシー、ちょっと待っててくれ」
 「え、何をするの?」
 「お前とジェスの仇を取ってやる」
 「!」

 俺と聖は床に転がっている男たちから武器を奪った。
 ウージーとイングラムM10があった。
 俺たちはありったけのマガジンとガンとナイフを拾い、上のフロアへ上がった。

 エレベーターはない。
 階段も一つしかない。
 
 俺たちには簡単な掃討戦だった。

 20分後、ナンシーの待つ部屋へ戻った。
 途中でナンシーが着れそうな服も持って来た。
 Bクロウが溜め込んでいた金も。




 俺たちはキャブを拾い、あの広場へ戻った。
 キャブの運転手が路地に入るのを嫌がったが、1万ドルを握らせ走らせた。

 広場ではみんな集まっていた。
 ナンシーの顔を見てみんなが泣いて喜んだ。

 「トラ!」

 ナンシーが俺を呼んだ。
 俺は振り返らずに手を挙げて、聖と帰った。

 「トラ、あれで良かったのか?」
 「ああ、ナンシーが生きてて良かったよ」
 「そうだな」

 「トラ、明日もあそこへ行こう!」
 「いや、もういいよ。ちょっと深く関わり過ぎた」
 「そっか」
 「遊びで仲良く楽しむだけのつもりだったのにな」
 「ああ」
 「今日は飲もうぜ」
 「おし!」

 聖が悲しそうな顔をしていた。
 こいつはまったく。

 俺が肩を叩くと、聖は小さく笑った。
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