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別荘の日々 Ⅲ

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 「奈津江さんの部屋を掃除していて、いろいろな綺麗な箱があるんです」

 柳が言った。

 「すいません。黴たりするといけないと思って、幾つか開けてみたんです」
 「そうか」

 俺は柳に全て任せている。
 構わないと言った。

 「そうしたら、いろんなお店のレシートとかがとってあったんですよ」
 「レシート?」
 「多分、石神さんと一緒に出掛けたお店じゃないでしょうか。飲食店とかが多かったですから」
 「そうか」

 覚えがあった。
 俺が支払っても、奈津江はレシートを欲しがった。
 あれが全て保存してあったとは。

 「私、すいません。勝手に見てしまって」
 「いいんだよ。柳の考えた通りだ。奈津江が記念に保管しているものも、手入れが必要なものもあるかもしれない。これからも見ていってくれな」
 「はい!」

 柳はいろいろな物があるのだと言った。
 それこそ、小石や木の葉などもあるようだ。
 
 「俺に見られたくない物もあるかもしれない。柳、お前に任せるから頼むな」
 「石神さん!」

 柳が泣き出した。
 亜紀ちゃんが肩を抱いて慰める。
 双子も後ろから頭を撫でていた。

 「タカさんも、いろんなものを大事にとってますよね」
 「そうだな。やっぱり俺と奈津江は似ているんだよ」
 「そうですね」

 亜紀ちゃんが優しく微笑んだ。
 亜紀ちゃんには、俺の部屋の管理と掃除を任せている。

 「私に見られたくないものは無いんですか?」
 「そういうのは金庫に仕舞ってる」
 「ハー!」
 「なーに?」
 「今度金庫を開けるよ!」
 「はーい」

 「絶対やめろ!」

 みんなが笑った。

 「お前ら本当になぁ! こないだも勝手に俺のデスクを開けやがって!」
 「「「「すいませーん!」」」」

 「高校の時に森安がよ、親の寝室ででかいバイブを見つけて落ち込んでたからなぁ」

 双子が「ギャハハハハハ!」と笑った。

 「普通は親の部屋のものなんか見ようとしねぇもんだ。何でお前らは気楽に荒らすのか」
 「だって、タカさん大好きですもん!」
 「そういう問題じゃねぇ!」
 「大体、バイブとかテンガとか、前は飾ってたじゃないですか」
 「あれはお前らが嫌がる顔が見たかったんだぁー!」
 「アハハハハ!」

 栞は赤い顔をし、鷹は見なかった振りをし、六花は熱心に手に取っていた。
 子どもたちは全然困った素振りすらなかった。

 「しかし、お前らは全然病気しないからなぁ」
 「そうですね」
 「まあ、最初の頃は、何度かルーとハーが熱を出したか」
 「ありましたね!」

 双子がニコニコしている。

 「タカさんが看病してくれたよね」
 「俺も最初はな。子どもの病気は侮れないからなぁ」
 「ありがとうございます!」
 「タカさん、大好き!」

 「柳も一度熱を出したな」
 「すぐに治りましたね。石神さんに言われた通りにして」
 「お前の場合は神経的なものだと分かっていたしな。慣れない生活で、緊張していたんだ」
 「今じゃ全然ですけどね!」

 みんなで笑った。

 「俺が一番ぶっ倒れてるよな」
 「「「「「アハハハハハハ!」」」」」

 「今後も俺を大事にしろ!」
 「「「「「はい!」」」」」
 「にゃ!」

 11時になり、俺は一度解散した。
 子どもたちが片付けて行く。





 俺も下に降りて、アイスミントティを作った。
 柳に合わせるためだ。
 酒を飲んでいる相手に、飲めない人間は付き合い辛いこともある。
 亜紀ちゃんと柳も、もう少し話したいと言い、一緒にアイスミントティを飲むことにした。
 タンブラーに氷を入れる。

 「亜紀ちゃんはまだ飲めばいいじゃないか」
 「いえ、タカさんたちと一緒がいいです」

 俺は笑って、二人のグラスに注いでやった。

 「奈津江さんが寝ている時に、タカさんはずっと見てたんですか?」
 「そんなことはないよ。本を読んでいたな。まあ、時々寝顔を見たけどな」
 「カワイかったですか!」
 「当たり前だぁ!」

 三人で笑った。

 「まあ、お前らも、皇紀も双子もそうだけどなぁ。安心して幸せそうに眠っている顔は格別だよな」
 「そうですね。タカさんの寝顔もカワイイですよ?」
 「柳には何度か襲われそうになったけどな」
 「してないですよ!」

 俺と亜紀ちゃんで笑った。

 「でもよ、奈津江は別格として、ルーとハーの寝顔がカワイイんだよ」
 「そうですねー」
 「ああ、分かります!」
 「あいつら、とんでもない悪戯ばっかするのによ。眠ると本当に天使みたいなんだよな」
 「「アハハハハハ!」」

 「前に三人でキャンプに行ったろ?」
 「ああ、二人ともご機嫌で帰って来ましたね」
 「あの時にさ。二人が俺の両側で寝たんだよ。まあ、どっち向いても俺も幸せになったよなぁ!」
 「「アハハハハハ!」」
 
 「私たちはどうなんですか?」

 亜紀ちゃんが聞いて来た。

 「まあ、二人とももちろんカワイイけどさ。亜紀ちゃんは時々寝惚けて来るよなぁ」
 「アハハハハハ!」
 「なんでか、俺の上に乗って来るよな」
 「そうですね」
 「なんだ、アレ?」
 「自分でもよく分かりません」
 「セミの霊体とか憑いてるんじゃねぇか?」
 「アハハハハハ!」

 「柳は流石に品性があるよな」
 「ほんとですか!」
 「たまに俺の首に抱き着いて来るけどな」
 「あれは、そういう夢を見ていてですね」
 「どんな夢だよ!」

 柳が赤くなった。

 「まあ、眠っている時は、お前らは無防備だからな」
 「タカさんは違いますよね」
 「そうだな」
 「戦場の眠り方だって、前に言ってましたね」
 「ああ。眠っている間にやられる奴は三流だ。俺も聖も、寝てても対応出来るように鍛えられた」
 「でも、タカさんの寝顔もカワイイですよ?」
 「バカヤロウ! 強いのとカワイイのは相反しないんだぁ!」
 「「アハハハハハ!」」

 俺は聖の寝顔が最高にカワイイのだと話した。
 二人とも爆笑していた。

 「お前らは見てないから笑うけどなぁ。あいつの寝顔を見たら感動するぞ!」
 「ほんとですか!」
 「あいつは、本当に天使なんだよ。まあ、アンジーも惚れるわけだよな」
 「へぇー! 見てみたいですね」
 「鬼のチャップも、「なんだこいつ」って言ってたからな」
 「アハハハハハ!」

 「六花の寝顔ってさ……」

 俺たちは長い時間、楽しく話した。






 久しぶりに、奈津江の寝顔を思い出した。
 俺は幸せに眠った。
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