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早乙女の新居(命名)

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 悪ノリして建てた早乙女家の新居を納得させた夜。

 早乙女夫婦と亜紀ちゃんを連れ、「幻想空間」で飲んだ。
 雪野さんはメロンオレだ。

 「石神、昨日の調査の話をしていいか?」
 「ああ」

 早乙女は、新宿のキャバレーの従業員、まあキャバ嬢のことを話した。

 「偶然だけどな、店に入る前に出会った」
 「そうか」
 「それで、今度お礼をすることになってる」
 「お前にしちゃ上出来だな」

 自然な形で、堂々と会えることになったようだ。
 だが、一つ気になったことがある。

 「それで、その黒人って体重はどれくらいよ?」
 「ああ、みんな結構でかかったな。彼女が運んだ男も100キロくらいはあったと思うぞ」

 俺が気になっていた通りだった。

 「おい、細身の女性が、そんな男を運べると思うのか?」
 「え、ああ!」
 「お前だって結構なものだったろうよ」
 「そう言えばそうだな!」
 
 呆れたが、雪野さんの前だから罵倒はしなかった。

 「お前よー」
 「すまん! うっかりしてた!」
 「じゃあよ、お前は上出来でこなしたんじゃなくて、李愛鈴にハメられたんだよ」
 「え?」
 「最初から、お前が怪しいと思ってたんだ」
 「じゃあ、俺のメンが割れてたのか!」

 早乙女が驚く。

 「多分、そうじゃねぇな。あっちも偶然だっただろうよ」
 「じゃあ、どうして!」
 「モハメドのせいだな」

 《私ですかー?》

 「そうだ。その女は早乙女が強いって言ったんだろ?」
 「ああ、そうだ」
 「でも、お前は一歩も動かなかった。なのに、突然体格のいい男三人が潰れた。モハメドの力を感じたんだろうよ」
 「そうか!」
 「お前が普通じゃないのを悟った。だから接近して正体を探ろうとしたんだろうよ」
 「それは大変なことじゃないか!」
 
 雪野さんも心配そうな顔になった。

 「モハメドそのものを確認したとは思わない。だけど早乙女が妙な力を持っているとは分かったんだろうな」
 「じゃあ、俺が会いに行くと不味いのか?」
 「分からん。ただ、一人じゃない方がいいな」
 「どうしようか。行くとすればまず店になるだろう。磯良は連れて行けないな」
 「亜紀ちゃんを連れて行け」
 「私はいつでもいいですよー」
 「亜紀ちゃんなら、どんな事態にも対応出来る。モハメドもそうだが、一瞬で殺してしまうだろう」
 《そんなことないですよー》

 「それに、モハメドの力をもう見せたくない。亜紀ちゃんがいい」
 《わかりましたー》

 早乙女が考えている。

 「石神、李愛鈴は敵ではないと思う」
 「そうか」
 「お前も何か感じているんじゃないか?」
 「確かにな。お前の話を聞いていると、そうも思うな」
 「そうだよな!」
 「バカ! 油断するな! あくまでも可能性だ」
 「あ、ああ」

 「相手もお前の前で、自分の力の一端を見せた。俺はそこが引っ掛かる。手伝わずに、お前を見ていれば良かったのに、わざわざお前に接近した。正体を見せながらな」
 「その通りだ!」
 「お前は気付いてなかっただろう!」
 「すまん」

 雪野さんが少し笑った。

 「「デミウルゴス」で化け物化したとはいえ、中には人間の心を保っている奴がいるのかもしれない」
 「そうだな」
 「これまではいなかった。まあ、いたのかもしれないが、あくまでも「太陽界」の人間だった。俺たちの敵だった」
 「ああ」
 「何にしても、油断はするな。俺たちは「人間」は殺さない」
 「そうだ」

 早乙女は安心したような顔をしている。
 まったく、こいつは優しすぎる。
 でも、その優しさが早乙女の最も美しい中心だ。
 その優しさに触れ、仲間が出来るのだ。
 俺も、早乙女の優しさを守って行きたい。





 「ところで石神」
 「あんだよ」
 「蒸し返すようだが、あの「武神ピーポン」って、うち以外にもいるのか?」
 「もちろんだ。今は蓮花の研究所だけどな。あと5体出来ている」
 「そうなのか!」

 もう早乙女たちには話してもいいだろう。

 「武神天照(あまてらす)、武神武御雷(たけみかずち)、武神月光狼(げっこうろう)、武神ルシファー、武神アポカリプス。まあ、詳しくは話せないが、どれもとんでもない破壊力を持っているよ」
 「なんかみんなカッコイイな」
 「そうだろう! 蓮花と一生懸命に考えたからな!」

 楽しかった。
 開発も楽しかったが、この命名が一番燃えた。
 俺も蓮花も、何日も考え、検討を重ねた。

 「でも、どうしてうちのは「ピーポン」なんだ?」
 「お前らがあざとい名前を使ってるからだろう!」
 「ああ!」
 「まあ、実を言うと、「ピーポン」はプロトタイプなんだ。「花岡」を使うように人型にしたわけだけど、そこから換装と改造を重ねたんだよ。「ルシファー」とか、もう全然違う形だし、「アポカリプス」なんて何が何だかって感じだしな」
 「そ、そうか」

 早乙女も想像がつかないだろう。
 まあ、蓮花とノリノリで「巨大ロボット」を作りたかったのが発端だ。
 それによって、超強力な戦力が出来たわけだが。
 早乙女達には話していないが、隣の土地には「武神ピーポン」用の換装軍備や武器などが地下に備わっている。
 それらを使う事態になれば、ほとんど全面戦争だ。
 周辺が焼け野原になる。

 「石神さん。それにしても余りにも大きな家で、どう使っていいのか」

 雪野さんが言った。

 「ほとんど使わなければいいんですよ。さっき案内した3階の居住区というか、あの辺だけ使えばいい。あとはゆっくりと考えてもいいし、放っておいてもいい。最初は探検のつもりで楽しんで下さい」
 「はい! あの塔の最上階は素敵でした」
 「そうでしょう。ああいう場所を幾つか考えてますんで、二人で探しながら楽しんで下さい。どうせこいつは出不精ですから、丁度いいですよ」
 「ウフフフフ」

 ロボが雪野さんの足に上半身を乗せ、早乙女の足に下半身を乗せている。

 「うちも動物を飼おうかな」
 
 早乙女が言った。

 「いいんじゃないか? でもまあ、子どもが生まれてから考えろよ。子育ては結構大変だからな」
 「そうだな」

 


 早乙女と雪野さんが見詰め合っていた。
 雪野さんが早乙女に頷いた。

 「どうした?」
 「石神、頼みがある」
 「なんだよ?」
 
 「俺たちの子どもの名前を付けてくれないか?」
 「なんだって!」
 「雪野さんと話したんだ。石神なら、きっといい名前を付けてくれるんじゃないかって」
 「バカヤロウ! お前たちの子どもなんだ。二人でちゃんと考えて付けてやれよ!」
 「うん、そうも思ったんだけどな。でも、石神の方がずっといい名前を考えてくれるだろう?」
 「やめろ! 冗談じゃねぇ。絶対にやらないからな!」

 亜紀ちゃんが笑っている。
 早乙女と雪野さんも粘った。

 「とにかく、子どもが生まれてからだ。その顔を見れば、いい名前も浮かぶよ」

 そういうことで、場を納めた。






 俺は絶対に断ろうと思っていた。
 だが、俺の中に一つの名前が浮かんできていた。

 《怜花》

 俺は断るつもりではいたが、その名前を遠ざけることが出来なかった。
 レイの美しい笑顔と共に、その名前が俺の中で輝いていた。
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