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必殺! 〇〇〇ビーム

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 自衛隊をぶちのめした翌日。
 8月中旬の水曜日だ。

 子どもたちを連れ、久しぶりに丹沢に行った。
 双子はキャンプをしたがったが、とにかく暑いのでやめた。
 夜は涼しいが、昼は冷房もない。

 俺たちは軽い訓練をし、窪地の小屋のメンテナンスに向かった。
 これがメインの目的だった。
 レールガンと荷電粒子砲がある。
 そして80体のデュール・ゲリエも地下に格納している。
 デュール・ゲリエはもう旧式もいいとこだが、素人の戦闘訓練には丁度いい。
 皇紀を中心に、双子が手伝い、俺と亜紀ちゃんも出来ることをやった。
 その時。

 「タカさん!」

 ハーが叫ぶ。

 「分かっている! 全員、備えろ!」

 強烈な殺気が迫っていた。
 非常に嫌な予感がする。
 強敵だ。




 接近は分かっていたが、それ以上に戸惑った。
 
 「おい、こいつは!」
 「前に来たあいつですよね!」
 「ばかな! タヌ吉の「地獄道」に落したんだぞ!」
 「でも、この臭いは間違いないですよ!」

 雲国斎下呂太郎だ。
 
 「皇紀! ガスマスクは無いか!」
 「ありません! でも作業用の防塵マスクなら!」
 「急いで配れ!」

 幸い予備も含めて4つあった。
 ゴーグルも掛ける。

 「皇紀、悪いな」
 「えーん」

 皇紀を小屋の中へ入れ、自分で隙間を目張りして埋めさせた。
 俺と亜紀ちゃん、双子で外に出て迎え撃つ。

 視認できた。
 以前よりも大きく、直径1メートル程だった。

 「お前! 死んだんじゃねぇのか!」

 《フフフ。我は雲国斎下呂次郎》
 「なんだと!」
 《雲国斎下呂太郎の弟、いや分身だ》
 「どういうことだ!」

 《昔、自分の余りの臭さに、我は分裂したのよ。そして離れて暮らすようになった。主格は下呂太郎だがな。しかし下呂太郎が滅したので、我が主格となった》
 「そんなことはどうでもいい! 何しに来やがった!」

 徐々に、悪臭に身体がやられていくのが分かった。
 目も涙で視界が悪くなっている。

 《知れたこと。お前たちを苦しめて殺すのよ! よくも我が分身の兄を! 探したぞ!》

 どう探したのか、どう分からなかったのか分からない。

 「ばーか! お前の兄貴なんて簡単に殺せたぞ」

 やったのはタヌ吉とタマだが。
 俺はまた呼ぼうとした。
 これ以上は、声も出せなくなる。

 《ワハハハハハ! ここはもう我の結界の中よ! どんなあやかしでも、入り込むことは出来ぬわ!》
 「なんだと!」
 《それにな。俺は下呂太郎には出来なかった技が使える》
 「なんだそれは!」
 《下呂太郎と分裂してから、我は長い年月をかけ、ウンコが出るようになった》
 「え?」
 《我が生み出すウンコは強烈だぞ》
 「やめてくれよ!」

 下呂次郎が近付いた。

 《喰らえ! ウンコビーム!》

 「「「「ギャァーーーーー!!!!」」」」

 俺たちは必死に逃げた。
 喰らえば死ぬ。
 死ぬ以上に苦しんでから死ぬ。
 間違いない。

 俺たちが飛んで逃げた場所に、茶色の液体が飛び散った。

 ビシャ。

 猛烈な悪臭が立ち込めた。
 範囲攻撃力まである。
 一番近くにいたハーが頽れ、ルーが必死に抱えて離れた。
 ルーも倒れそうになる。

 「クッソー!」
 「タカさん、うまい!」

 亜紀ちゃんが泣き顔で言った。
 みんな、刺激臭で目から涙が溢れている。

 「このままじゃ不味い! マジでウンコ攻撃で死ぬぞ」
 「どうしますか!」
 
 俺と亜紀ちゃんが話している間も、ルーとハーが「トールハンマー」や「ブリューナク」で攻撃している。
 しかし、意外と速く移動しながら、下呂次郎は攻撃を避けていた。

 「魔法陣を使うか」
 「え!」
 「いや、臭くて集中できねぇ。こいつは不味いぞ!」
 「あんなのに殺されたくないですよー!」
 「ああ」

 ウンコ死には嫌だ。

 《ワハハハ! ウンコビーム!》

 下呂次郎は笑いながら次々と、茶色の液体を撃って来る。
 俺たちは徐々に動けなくなった。
 息をしたくない。

 《ワハハハハハ! いよいよだな! 俺がその顔に直接ウンコを塗りたくってやろう!》
 「クッ!」

 下呂次郎が、俺に接近し、俺の上3メートルに迫った。
 空中に止まって、何かの穴を俺に向けた。
 俺は最後の力を振り絞ろうとした。

 ドヒュン。

 下呂次郎の身体が吹っ飛んだ。
 物凄い突風が吹き、悪臭が一瞬だけ流れた。

 「タカさん!」

 強化ガラスの向こうで、顔を歪めて泣いている皇紀が叫んだ。
 
 「魔法陣!」

 俺の目の前に幾何学模様の円陣が出る。

 「ブリューナク!」

 下呂次郎が結界ごと消え去った。

 「クロピョン! 俺たちと周囲の悪臭を喰え!」

 長い触手が何本も伸び、俺たちの身体や地面をうねっていく。
 全員が地面にへたばった。

 皇紀が小屋から出て来た。
 身体に触手が巻き付いている。

 「皇紀! よくやった」
 「はい! レールガンで何とか。でもタカさんがいなかったら」
 「いや、お前がみんなを助けたんだ。よくやった」

 双子が皇紀に駆け寄る。
 亜紀ちゃんはフラフラと、俺に近づいた。

 「タカさん、大丈夫ですか?」
 「ああ、亜紀ちゃんも大丈夫か?」
 「はい。まだ肺が苦しいですが」

 少し休むと、歩けるようになった。
 みんなでベースキャンプに戻り、風呂の用意をした。
 1時間をかけて、やっと湯が溜まる。

 「おーい! きもちいー光線を頼む」
 「「はーい」」

 双子が湯の中に、「手当」の光を注いでいく。
 身体が急速に楽になっていくのが分かる。

 「何とか帰れそうだな」
 「泊まってもいいんじゃないですか?」
 「いや、ここから離れてぇ」

 ロボが小屋から出て来た。
 臭いを嗅いでいる。

 「ほら、やっぱ臭いんだよ」
 「そうですね」

 身体が戻り、俺たちはみんなで洗い合った。
 再び湯船に浸かる。

 「しかし、ヤバかったなぁ」
 「なんか、分裂したって言ってましたよね?」

 亜紀ちゃんが嫌なことを言う。

 「おい、まだいるってか?」
 「調べておいた方が」
 「そうだなー」

 




 もう、関りたくねー。 
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