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御堂家の癒し Ⅴ

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 夢を見た。
 
 池の畔で、俺は座っていた。
 隣には、この世の者とは思われない程の美しい女がいた。
 二人とも全裸で座っている。
 池を見ていた。
 幾百もの睡蓮の花が咲いていた。
 赤いものも白いものもあった。
 幻想的な景色に見惚れた。

 俺は女を見た。
 女も俺を見て微笑んだ。
 女の胸や腹から、幾つもの黒い煙が立ち上った。
 女が顔を少し上に向け、吐息を漏らした。
 女の身体が、ほんのりと輝き出した。

 「良かったな」
 
 女が笑顔で頷いた。



 「石神さん、起きて下さい」

 柳に起こされた。
 俺が気配を感じずにいたことに驚いた。

 「おい」
 「はい」
 「お前、何で浴衣を脱がすんだよ?」
 「私じゃありませんよ!」

 浴衣の前が開かれパンツが丸出しだった。

 「まったく、油断も隙もねぇな」
 「だから私じゃありませんってぇ!」
 
 柳の浴衣の胸から、ほんのりと谷間が見えた。
 深くない谷だが。
 しかし、俺のオレが反応した。
 パンツが大きく盛り上がる。

 「「……」」

 俺はニジンスキーたちを優しく撫でながらどかした。

 「ニジンスキーが入っちゃってたからな」
 「そうですよね」

 オロチの頭を撫で、俺は柳と玄関に向かった。
 柳が俺に腕を絡めて来た。

 「暑いだろう!」
 「いいじゃないですか!」

 俺は笑って一緒に歩いた。




 俺はシャワーを借りて座敷に行った。
 もう子どもたちは食事を始めている。
 みんなに挨拶される。
 俺が席に付くと、澪さんが給仕してくれた。

 「夕べは眠れましたか?」
 「ええ、ぐっすりですよ。オロチも調子良さそうでしたよ」
 「そうですか!」

 嬉しそうに笑った。

 朝食は当然和食だ。
 焼き鮭に、俺が好きなナスの煮びたし、それにタケノコの煮物と山菜の漬物。
 味噌汁は冬瓜だった。
 もちろん、生卵だ。

 子どもたちは旺盛に食べている。
 良く見ると、ウインナーがみんなに付いていた。
 俺には、後から鮎の塩焼きが出て来た。
 俺の好物ばかりを揃えてくれていた。

 ロボは大きなニジマスの焼き物をもらっていた。
 うちでいろいろ持って来たが、御堂家で用意してくれたらしい。




 朝食後、子どもたちは家の掃除をさせてもらい、俺は皇紀と防衛システムの見回りをした。

 「昨日、一通り見て回りましたが異常はありません」
 「そうか」

 日向は流石に日差しが強い。

 「でも、またこないだのような化け物が来たら厳しいですね」
 「そうだな。麗星さんも、あそこまでの敵は想定していなかったしな」
 「また御呼びしますか?」
 「いや、道間家では無理だろう。あれは桁が違ったからな」
 「はい」

 水晶の騎士と弓使いは、恐らく対オロチのカードだったのだろう。
 真正面からぶつかれば分からないが、戦略を持って攻めて来た。
 オロチは「御堂家を守る」という絶対の役目がある。
 今後もそこを狙われると危うい。

 「クロピョンの警戒レベルを上げている。だけど、そのうちに別な妖魔を配置したいと思っている」
 「そうですか」
 「ここはいずれ大きな都市になって行く。だから都市防衛が任せるくらいの奴をな」
 「はい」

 俺は歩きながら、皇紀といろいろな話をした。

 「お前も来年は高校生だな」
 「はい!」
 「どこの高校へ行くんだ?」
 「お姉ちゃんと同じで。あそこはいい高校のようですからね」
 「そうか。まあ、鬼はいなくなるしな」
 「アハハハハハ!」

 「高校に合格したら、ちゃんとプレゼントをやるからな」
 「いいですよ! タカさんにはいつもいろいろ良くしてもらってるんですから」
 「まあ、そう言うな。親父の役目だ」
 「はい」

 驚くものをやるつもりだ。

 一通り見て回り、俺たちは東屋で一休みした。
 日陰になると、本当に涼しい。
 皇紀が水筒からミントティを注いだ。
 二人でゆっくりと飲む。

 「ここはいい場所ですよね」
 「ああ。でもな、悪いけど景観の一部は変えさせてもらう」
 「はい。「御堂帝国」ですからね」
 「そうだ。ヘッジホッグも建設するしな」
 「仕方ありませんね」
 「まあな。なるべくとは思っているけどな」

 二人で周囲を見回した。
 今の景色を記憶に留めたかった。

 「三島由紀夫がな、『暁の寺』の中で書いているんだ」
 「なんですか?」
 「「すべての芸術は夕焼けです」というな。俺はあの言葉に衝撃を受けた」
 「はい」
 「人間が正しさで一生懸命に築くのが「昼」だ。しかし、夕焼けは突然にその一切合切をあの色彩でぶち壊してしまう」
 「ああ」
 「全てを破壊し、その美を拡げてただ「終わり」を告げる」
 「……」

 「人間の営みが徒事であったことを思い知らせる。それが「芸術」なのだと」
 「凄いですね」

 「その前の巻の『奔馬』では、人生を一遍の詩にしようとする青年が描かれる」
 「だから、あの壮絶な最期なんですよね」
 「そうだ。もしかしたら「業」のやろうとしていることは、それなのかもしれない」
 「人類が一遍の詩になるってことですか」
 「終わればな。三島は夜は「死と無機的な存在」と言っている。そこに至ればそうなるわけだ」
 「はい」
 「俺たちは、夕焼けとして、立ちはだかる。何をぶち壊そうと、夜の世界にはさせない」
 「はい!」

 「まあ、夜を潜り抜けての朝焼けかもしれんがな」
 「そうですね」

 皇紀も大きくなった。
 身長172センチで、姉よりも低い。
 多分、妹たちに追い越される。
 喰えてないせいではないだろうが。
 山中の血だろう。
 姉や妹たちに思い切り大きくなってもらい、自分は一歩退く。
 そう言う優しさがある。

 「お前、もっと飯を喰え」
 「え、あれ以上にですか!」
 「まあ、そういえばそうだな」
 「アハハハハ!」

 正利が庭で素振りをしていたので、俺たちは声を掛けた。
 また竹刀で一緒に打ち合う。
   
 「石神さんは、また強くなりましたよね!」
 
 正利が息を荒くして言った。

 「うちの先祖はみんな剣の使い手だったからな」
 「そういう問題ですか」
 「御堂家も武家だったが、「文」の方で傑出していたからな」
 「はい、よく御存知で」
 
 正利が嬉しそうに笑った。

 「うちはなんだったんでしょうかねぇ」

 皇紀が言う。

 「ああ、呉服屋」
 「え! タカさん、知ってるんですか!」
 「まあな。だから、お前に戦う才能が無いのはしょうがねぇ」
 「でもお姉ちゃんたちは」
 「奥さんの方の血筋だろうなぁ。俺もそこまでは知らんが」
 「へぇー!」

 今度調べてみるか。




 三人で縁側で休んでいると、柳が呼びに来た。

 「そろそろお昼ですよー!」
 「おう!」

 三人で歩きながら、今日の昼は何かと話していた。
 御堂家の食事は毎回美味い。
 三人で、ほうとう鍋か、蕎麦かそうめんだろうと思っていた。

 


 本格イタリアンだった。

 「石神さん! たまにはこういうのもいいだろうと思ってね!」
 
 正巳さんが嬉しそうに言う。

 「驚きました」
 「甲府でね、美味い店があると聞いて、今日は取り寄せてみたんだ」
 「お気遣いいただきまして」
 「いや、これから東京にも進出するんだ。いろいろ東京の食事にも慣れておかないとな」
 「流石ですね!」

 俺も滅多にピザなど食べないのだが。 
 子どもたちは大量のピザに喜び、またはしゃぎながら奪い合って食べた。
 正巳さんもピザを3切れ召し上がり、他の料理も喜んで食べた。
 菊子さんは、あまり口に合わないようだったが、マルゲリータを美味しいと言って2切れ食べた。

 ロボは澪さんにマグロの柵を切ってもらい、唸りながら食べていた。
 食べ終えると澪さんの傍に行き、ニャーニャーと鳴いた。
 礼を言っているのだろう。
 澪さんが大好きだ。




 澪さんが嬉しそうに笑い、ロボの頭を撫でていた。
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