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御堂家の癒し Ⅲ

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 正巳さんは最高の機嫌でテーブルに戻って来た。
 自分で焼いたものを両手に持って来ている。

 「いやぁ! 楽しかったよ、石神さん」
 「前よりも焼き方が上手くなりましたね」
 「そうかね!」

 子どもたちはまだ喰い荒らしている。
 ロボが柳にまとわりつき、自分の分を焼けと言っている。
 
 「ロボは、柳を特別に思ってるんですよ」
 「そうかね!」
 
 まあ、下僕としてだろうが。
 でも、不思議な友情もある。

 「柳が悲しんでいると、真っ先に慰めに行くのがロボなんです」
 「そうかぁー!」

 正巳さんが目を細めて柳とロボを見ている。
 柳がロボに焼いた肉をやった。
 焼き加減が不満だったか、ロボに「大回転三点ネコパンチ」を喰らっていた。

 「……」




 「ところでですね!」

 俺は話題を変えた。

 「衆院選の準備はどうですか?」
 「ああ。先日自由党(保守党)の幹事長が来てね。私と正嗣とのことを確約して行ったよ」
 「そうですか」
 「組閣に関しては幾つか希望があるようだが、概ね石神さんの言う通りに出来そうだ」
 「これから、大々的な御堂キャンペーンを張ります」
 「石神、頼むからあんまり大袈裟なものは」

 御堂が泣きそうな顔で言った。
 こいつが動揺するのは滅多に無い。

 「大丈夫だよ。現時点で20万以上の票田があるけど、最終的には数千万になる。内閣の支持率は90%以上にするからな!」
 「おい、本当に」
 「明日はジャングル・マスターが来る。まあ、任せておけよ」
 「石神、頼むからな」

 アラスカ「虎の穴」基地の中核メンバーの一人が「ジャングル・マスター」だ。
 情報操作の専門家で、大スターの売り込みや政府の仕事で様々な世論操作をした実績がある。
 元々はロックハート家の紹介だったが、俺は直接会って、その実力をすぐに感じた。
 そして俺との不思議な縁もあったりする。
 物凄い人間の好き嫌いがあるが、幸い俺のことは気に入ってくれた。
 仕事の選り好みも激しい。
 アラスカの基地の建設、レイの死を発端とする俺たちの大暴れも、「ジャングル・マスター」によって全て解決した。
 今回の日本での仕事も、乗り気で来てくれる。

 「偏屈な奴ですが、仕事は真面目です」
 「偏屈というのは?」
 「好き嫌いがはっきりしているんだ。嫌われたら終わりだな」
 「おい、大丈夫なのか?」
 「ああ。お前ならばな。嘘や誤魔化しを極端に嫌う。だから、あいつには正直に付き合えばいいよ」
 「そうか。まあ不安だが、お前がそう言うのなら」
 「正巳さんもそのままで。何も取り繕う必要はありませんから。まあ、あいつには全部分かりますしね」
 「分かった。心がけよう」

 御堂家の人間は旧家の人間だ。
 覚悟すれば、何でも出来る。

 「俺たちを取り巻く状況は全部分かっているからな。任せておけばいいよ」
 「うん、分かった」

 御堂は不安そうだったが、それでも微笑んだ。
 自分に自信など抱いている男ではない。
 しかし、それでも俺のため、家族のため、日本のために何でもやる男だ。

 



 子どもたちがそろそろ喰い終わり、こっちに来た。
 これからテーブルでゆっくりと喰おうと思っている。

 「亜紀ちゃん、一杯食べたか?」
 「はい! 持って来たお肉は全部片づけますからね!」

 ニコニコして言う。
 御堂が笑った。

 「残しておけ! オロチも今は自分で餌を獲れないんだからな」
 「ああ!」
 「お前らは喰いに関しては自分のことばっかになるからなぁ。もっと感謝しろ!」
 「はーい! 皆さん、いつもありがとうございます!」

 澪さんが笑って「もっと食べて下さい」と言う。

 「ダメですよ、澪さん。こいつらは御堂家の空気を吸わせてもらうとこから感謝しないと」

 御堂家の皆さんが大笑いする。
 子どもたちも笑う。

 澪さんが中に入る。
 何か作るのだろうと思い、俺も後から手伝いに行った。

 「石神さん。ゆっくり食べていて下さい」
 「いや、そう言えば俺も空気に感謝してませんでしたから」

 澪さんが笑う。

 「いただいたスイカを切ろうと思って」
 「手伝いますよ!」

 俺は澪さんに座っててもらい、長い柳葉包丁を借りた。
 3玉のスイカを二つに割り、中をくり抜いて行く。
 俺の手際を、澪さんが興味深そうに見ていた。
 俺は一口大の賽の目にスイカをカットし、氷と共に切ったスイカの皮に入れて行く。

 「お洒落ですね!」

 澪さんが喜んだ。
 全部は入らないので、大きなガラスのボールを借りて残りを同じように入れる。

 「もっと小さく切って、シャンパングラスなどに入れるとまたいいんですよ」
 「なるほど!」

 俺は御堂家のみなさんのために、それを作った。

 「わぁ! 本当に綺麗ですね!」
 「他のフルーツでもいいですし、色の付いたリキュールに浸しても綺麗なんです」
 「石神さんは何でも知ってるんですね!」
 「高校の頃のバイトなんかでね。それに俺の親父は料理人でしたから」
 「そうですか」

 俺はニコリと笑って、澪さんと一緒に運んだ。
 澪さんにはシャンパングラスを持ってもらう。
 途中で子どもたちを呼んで、残りを運ばせた。

 正巳さんたちが驚く。

 「これはいいね!」
 「澪さんのアイデアなんですよ」
 「石神さん!」
 「あ、黙っててって言ってましたね」
 
 御堂が笑った。
 澪さんも何も言わなかった。
 



 子どもたちが後片付けを始め、大人たちで酒を飲んだ。
 正巳さんが、御堂から健康管理のために酒量を制限される。

 「まあ、仕方ないか。まだまだやることがあるからな」
 「すいませんね。でも、絶対に楽しんでもらいますからね」
 「そうか。それは楽しみだな」

 正巳さんには御堂のサポートを主に頼むことになる。
 これから海千山千の政治家たちを相手にしなければならない。
 政治の世界を知っている正巳さんは、絶対に必要だ。

 俺は片づけをしている亜紀ちゃんに、ノートパソコンを持って来るように言った。

 「後で来ますからね!」

 みんなが笑った。
 俺は説明しながらネットのお気に入り登録を開いた。

 「俺の恋人だった奈津江の家を、柳に管理してもらってるんです」
 「ああ、前にも聞いたな」

 正巳さんが楽しそうに見ている。

 《『リューのお掃除日記』》

 みんなが驚く。
 俺は幾つかの動画を見せた。

 柳が掃除のやり方を説明しながら実践していく。
 庭の草むしりなどは顔を隠してやっているが、逆に家の中の掃除では鏡やガラスに映っていることも多い。

 「ネットでも大評判ですよ。主に主婦や女性たちからですが、柳が綺麗なんで男性ファンもついて」

 俺は膨大なコメント欄を説明しながら見せた。
 みんな爆笑した。

 「僕も初めて観たよ」
 「柳のプライベートみたいなものだからな。問題も無いし話さなかった」
 「知りたかったなぁ」
 「まあ、こうやって見せるのが一番面白いだろう」

 亜紀ちゃんと柳が片づけを終えてグラスを持って来た。

 「何を見てたんですか?」

 亜紀ちゃんと柳が覗き込む。

 「アァーーーーー!!!」

 柳が絶叫した。

 「なんでこれをぉーーー!」
 「いや、前から知ってるし」
 「何で教えてくれなかったんですかー!」
 「お前が楽しそうだからな。邪魔しちゃ悪いと思って」

 一江に検索してもらったが、問題の無いものは黙っていた。
 他の子どもたちも知らない。
 亜紀ちゃんも初めて知った。

 「じゃ、じゃあ何で今ここで!」
 「面白いから」
 「石神さん!」

 柳がガタガタと震え、みんなは大笑いしていた。
 柳は俺を睨んでいる。

 「ところで柳、鏡とかに自分が映ってるのは分かってるのか?」
 「え?」
 
 俺が幾つか個所を示した。
 
 「アァーーーーー!!!」
 「なんだ、やっぱり気付いてなかったのか」
 「知りませんでした! 結婚して欲しいとかコメントがあるんで、おかしいなとは思ってましたが」
 「お前は綺麗だからなぁ」
 「にゃー」
 「石神さん!」

 ロボが柳の足を叩き、俺の隣に座れと言っていた。
 柳が据わると、ロボは俺と柳の腿の上に横になって、気持ちよさそうにした。
 俺は柳のここが綺麗だと、動画を示す。
 柳が「そうですかー?」と嬉しそうに笑った。
 





 相変わらずのチョロさだった。
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