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御堂家の癒し Ⅱ
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俺はシーシュポスだ。
知ってた。
シーシュポスは神々から罰として、山の頂上へ岩を押し上げることを命じられた。
しかし、一生懸命に岩を押し上げても、その岩はまた転げ落ちてしまう。
シーシュポスは永遠に岩を押し上げなければならない。
俺は子どもたちに朝食を食べさせた。
ついさっき、サービスエリアで満足するまで飯を食わせた。
しかし、今また子どもたちは御堂家で天ぷらを奪い合ってあさましい喰い方をしている。
俺の仕込みは全て無駄だったのだ。
「相変わらずいいね!」
正巳さんと菊子さんが喜んでいる。
御堂も澪さんも笑っている。
正利まで笑っている。
「てめぇ! 海老ばっか喰ってんじゃねぇ!」
「鬼娘! ホタテが喰えると思うなよ!」
「あたしはカニ一択!」
「僕の分もー!」
「私はマイタケでいいから」
もちろん皇紀も柳も心理戦であり、ちゃんと海老やホタテも喰っている。
みんな蕎麦もちゃんと啜っている。
「天ぷら蕎麦」になってる。
「もう、何も弁解しません。すみません」
「石神さんも、ちゃんと召し上がって下さい」
澪さんが言う。
子どもたちの他は、ちゃんと各自の皿に乗っている。
子どもたちには、山盛りの大皿がある。
まあ、猛獣ショーが見たいのだ。
ジェイたち幹部も一緒で、俺が見ると箸の使い方が上手くなった。
「ジェイ! すっかり和食に慣れたな」
「ああ! まったく毎日美味い飯で感激だぜ!」
御堂家のみなさんが笑った。
「お前ら、働きは悪いのによく喰うな」
「タイガー! それはねぇぜ!」
ジェイたちは、前回いい所を見せられなかった。
しかし、あの異常な戦場に全員が立っていた。
最後は地下防衛施設に入ったが、それは最後の最後でそこで御堂家の人間を守るためだ。
みんな食事を終え、子どもたちは片づけを手伝う。
午後は、子どもたちがジェイたちと訓練をする。
皇紀だけは防衛システムの点検だ。
敷地の一部が、訓練場になっていた。
俺は最初に全員の「花岡」の習得具合を確認した。
ジェイたち10人の幹部は、結構使える。
直接、斬に鍛えられたためだ。
他の90人もそこそこだ。
「槍雷」程度までは撃てるようになっていた。
俺は亜紀ちゃんたちに動きを指導するように言った。
全員が細かく調整された。
次に、戦闘訓練をする。
俺が状況を設定し、ジェイたちに対応させる。
「ジェヴォーダン三体が接近。距離10キロ。1分後に会敵。防衛システムは全て破壊された。お前たちは「カサンドラ」を持ち出せなかった。50人で当たれ」
ジェイが中心となり、作戦が瞬時に立てられる。
亜紀ちゃんと双子がジェヴォーダンとなり、ジェイたちに向かった。
三人の同時攻撃だ。
「アルファチーム10人は前方で壁! 100メートル先の地面を破壊しろ!」
「幹部三人、空中から「ブリューナク」! 牽制しろ! 出来れば当てろ!」
「ブラボーチームとチャーリーチームは側面に周れ! 但し100メートル以内だ!」
「デルタチームは俺と特攻! 残りは幹部と一緒に遊撃!」
アルファチームが地面を爆破させ、亜紀ちゃんたちは一瞬止まる。
ジェヴォーダンの動き方だ。
その瞬間を狙い、ブラボーとチャーリーチームが左右から「槍雷」を浴びせ、幹部が三人跳躍し、上空から「ブリューナク」を放つ。
俺は逐次状況を判断し、撃破の判断を下す。
5分ほどの戦闘で、俺はジェイたちがジェヴォーダンを撃破したと認めた。
その後も幾つか俺がジェイたちに状況を告げ、対応させた。
防衛システムの効果やデュール・ゲリエを使わせたり、「カサンドラ」も使用させた。
様々な状況で、ジェイたちはジェヴォーダンと「業」の強化兵士の大隊規模まで対応出来ることが分かった。
夕方まで訓練し、ジェイたちを通常の警備に戻らせた。
亜紀ちゃんたちはシャワーを浴び、夕飯の手伝いに行った。
俺はロボと、オロチの見舞いに行った。
澪さんから卵をもらった。
「オロチー」
「にゃー」
俺たちを見て、オロチがゆっくりと尾を揺らした。
俺は卵を割ってやり、オロチとニジンスキーたちに食べさせる。
俺はオロチに話し掛け、親父のことをいつの間にか話していた。
「参ったよ。まさか全部俺のためだったとはなぁ」
「散々、俺のせいで貧乏暮らしをさせて苦労させて心配させてなぁ」
「最後は俺のために命を捨てたんだぜ。まったく、そんなことされたら、俺はどうすりゃいいんだってなぁ」
「墓も建ててやれねぇ。本当に何にも出来ないんだぜ?」
「親父がさ、たまーに家で何か作ってくれたんだ。お袋が寝込んだ時とかな。料理人だったけど、腕のいい人だったらしいよ」
「俺がはっきり覚えてるのがさ、プリンなんだよ。あれは絶品だったなぁ。今でも俺は越えられねぇ」
オロチは胡坐をかいた俺の足の上に頭を乗せて聞いていた。
ロボが端で顎を乗せており、時々オロチの顔を舐める。
「あ、お前、プリン食べるか? 卵だから大丈夫だろう! 後で作ってやるな! ニジンスキーたちもな!」
オロチが舌を出し入れした。
「よし! じゃあ後で持ってきてやるからな!」
俺はロボを連れて家に入った。
ロボを俺の部屋に入れてから、厨房へ行った。
「タカさん!」
子どもたちが笑顔で俺を見る。
「おう、ちょっとプリンを作るからな!」
子どもたちが喜んだ。
「オロチたちに喰わせてやるんだ」
俺は澪さんに材料をもらい、作り始めた。
澪さんが興味深そうに見ているので、一緒に作った。
「この濾す過程が一番重要なんです。ちゃんとやると、滑らかなプリンになるんですよ」
「なるほど!」
「御堂家の卵で作ったら、絶対美味しいものになりますよ」
「本当ですか!」
作り終えて、冷蔵庫に仕舞わせてもらった。
悪いが、ジェイたちの分はねぇ。
まあ、プリンなんて顔でもないしな。
夕飯は当然、バーベキューだった。
「また正巳さんが焼くんですか?」
「はい! もう楽しみにしてて。そのお陰で一段と元気になりました」
「そうですか」
まあ、子どもたちのあさましい食事が誰かの役に立つとは思ってもみなかった。
まったく、人間というものは深い。
悪が善を生み、その逆もある。
崇高な善が、誰かを苦しめることもあるのだ。
悪に苦しみ、善に苦しむのが人間の人生だ。
子どもたちが食材を運び始めた。
みんな笑顔で運んでいた。
知ってた。
シーシュポスは神々から罰として、山の頂上へ岩を押し上げることを命じられた。
しかし、一生懸命に岩を押し上げても、その岩はまた転げ落ちてしまう。
シーシュポスは永遠に岩を押し上げなければならない。
俺は子どもたちに朝食を食べさせた。
ついさっき、サービスエリアで満足するまで飯を食わせた。
しかし、今また子どもたちは御堂家で天ぷらを奪い合ってあさましい喰い方をしている。
俺の仕込みは全て無駄だったのだ。
「相変わらずいいね!」
正巳さんと菊子さんが喜んでいる。
御堂も澪さんも笑っている。
正利まで笑っている。
「てめぇ! 海老ばっか喰ってんじゃねぇ!」
「鬼娘! ホタテが喰えると思うなよ!」
「あたしはカニ一択!」
「僕の分もー!」
「私はマイタケでいいから」
もちろん皇紀も柳も心理戦であり、ちゃんと海老やホタテも喰っている。
みんな蕎麦もちゃんと啜っている。
「天ぷら蕎麦」になってる。
「もう、何も弁解しません。すみません」
「石神さんも、ちゃんと召し上がって下さい」
澪さんが言う。
子どもたちの他は、ちゃんと各自の皿に乗っている。
子どもたちには、山盛りの大皿がある。
まあ、猛獣ショーが見たいのだ。
ジェイたち幹部も一緒で、俺が見ると箸の使い方が上手くなった。
「ジェイ! すっかり和食に慣れたな」
「ああ! まったく毎日美味い飯で感激だぜ!」
御堂家のみなさんが笑った。
「お前ら、働きは悪いのによく喰うな」
「タイガー! それはねぇぜ!」
ジェイたちは、前回いい所を見せられなかった。
しかし、あの異常な戦場に全員が立っていた。
最後は地下防衛施設に入ったが、それは最後の最後でそこで御堂家の人間を守るためだ。
みんな食事を終え、子どもたちは片づけを手伝う。
午後は、子どもたちがジェイたちと訓練をする。
皇紀だけは防衛システムの点検だ。
敷地の一部が、訓練場になっていた。
俺は最初に全員の「花岡」の習得具合を確認した。
ジェイたち10人の幹部は、結構使える。
直接、斬に鍛えられたためだ。
他の90人もそこそこだ。
「槍雷」程度までは撃てるようになっていた。
俺は亜紀ちゃんたちに動きを指導するように言った。
全員が細かく調整された。
次に、戦闘訓練をする。
俺が状況を設定し、ジェイたちに対応させる。
「ジェヴォーダン三体が接近。距離10キロ。1分後に会敵。防衛システムは全て破壊された。お前たちは「カサンドラ」を持ち出せなかった。50人で当たれ」
ジェイが中心となり、作戦が瞬時に立てられる。
亜紀ちゃんと双子がジェヴォーダンとなり、ジェイたちに向かった。
三人の同時攻撃だ。
「アルファチーム10人は前方で壁! 100メートル先の地面を破壊しろ!」
「幹部三人、空中から「ブリューナク」! 牽制しろ! 出来れば当てろ!」
「ブラボーチームとチャーリーチームは側面に周れ! 但し100メートル以内だ!」
「デルタチームは俺と特攻! 残りは幹部と一緒に遊撃!」
アルファチームが地面を爆破させ、亜紀ちゃんたちは一瞬止まる。
ジェヴォーダンの動き方だ。
その瞬間を狙い、ブラボーとチャーリーチームが左右から「槍雷」を浴びせ、幹部が三人跳躍し、上空から「ブリューナク」を放つ。
俺は逐次状況を判断し、撃破の判断を下す。
5分ほどの戦闘で、俺はジェイたちがジェヴォーダンを撃破したと認めた。
その後も幾つか俺がジェイたちに状況を告げ、対応させた。
防衛システムの効果やデュール・ゲリエを使わせたり、「カサンドラ」も使用させた。
様々な状況で、ジェイたちはジェヴォーダンと「業」の強化兵士の大隊規模まで対応出来ることが分かった。
夕方まで訓練し、ジェイたちを通常の警備に戻らせた。
亜紀ちゃんたちはシャワーを浴び、夕飯の手伝いに行った。
俺はロボと、オロチの見舞いに行った。
澪さんから卵をもらった。
「オロチー」
「にゃー」
俺たちを見て、オロチがゆっくりと尾を揺らした。
俺は卵を割ってやり、オロチとニジンスキーたちに食べさせる。
俺はオロチに話し掛け、親父のことをいつの間にか話していた。
「参ったよ。まさか全部俺のためだったとはなぁ」
「散々、俺のせいで貧乏暮らしをさせて苦労させて心配させてなぁ」
「最後は俺のために命を捨てたんだぜ。まったく、そんなことされたら、俺はどうすりゃいいんだってなぁ」
「墓も建ててやれねぇ。本当に何にも出来ないんだぜ?」
「親父がさ、たまーに家で何か作ってくれたんだ。お袋が寝込んだ時とかな。料理人だったけど、腕のいい人だったらしいよ」
「俺がはっきり覚えてるのがさ、プリンなんだよ。あれは絶品だったなぁ。今でも俺は越えられねぇ」
オロチは胡坐をかいた俺の足の上に頭を乗せて聞いていた。
ロボが端で顎を乗せており、時々オロチの顔を舐める。
「あ、お前、プリン食べるか? 卵だから大丈夫だろう! 後で作ってやるな! ニジンスキーたちもな!」
オロチが舌を出し入れした。
「よし! じゃあ後で持ってきてやるからな!」
俺はロボを連れて家に入った。
ロボを俺の部屋に入れてから、厨房へ行った。
「タカさん!」
子どもたちが笑顔で俺を見る。
「おう、ちょっとプリンを作るからな!」
子どもたちが喜んだ。
「オロチたちに喰わせてやるんだ」
俺は澪さんに材料をもらい、作り始めた。
澪さんが興味深そうに見ているので、一緒に作った。
「この濾す過程が一番重要なんです。ちゃんとやると、滑らかなプリンになるんですよ」
「なるほど!」
「御堂家の卵で作ったら、絶対美味しいものになりますよ」
「本当ですか!」
作り終えて、冷蔵庫に仕舞わせてもらった。
悪いが、ジェイたちの分はねぇ。
まあ、プリンなんて顔でもないしな。
夕飯は当然、バーベキューだった。
「また正巳さんが焼くんですか?」
「はい! もう楽しみにしてて。そのお陰で一段と元気になりました」
「そうですか」
まあ、子どもたちのあさましい食事が誰かの役に立つとは思ってもみなかった。
まったく、人間というものは深い。
悪が善を生み、その逆もある。
崇高な善が、誰かを苦しめることもあるのだ。
悪に苦しみ、善に苦しむのが人間の人生だ。
子どもたちが食材を運び始めた。
みんな笑顔で運んでいた。
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