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完成! 「オロチ・ストライク」

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 早乙女たちがうちに泊った後の水曜日。
 柳が帰って来た。
 双子がオロチの傷を癒した後も、御堂家の人間がずっとオロチの世話をしていた。
 食事を与え、時々身体を拭いてやる。
 まだ軒下に潜れないので、日よけを張り、水を撒いたりした。
 柳が一生懸命にやっていたが、他の人間でも出来るようになり、うちに帰って来た。

 「オロチはどうだ?」
 「まだ弱ってます。でも、段々回復して来たようで良かったです」
 「そうか」

 柳の表情は暗かった。
 俺は肩を抱き、良くやったと言った。



 俺が風呂から上がり、部屋にロボといると、柳が来た。
 もう寝るだけなので、お互いに寝間着だ。

 「どうした?」

 柳がドアの所で立っている。

 「いいから入れよ」

 黙ってドアを閉め、入って来た。
 思いつめた顔をしていた。

 「石神さん。お願いがあるんです!」
 「おう」

 その、真直ぐに俺の瞳を見る顔で分かった。

 「もう、我慢出来ません!」
 「柳……」
 「私は、もう……」

 「ああ、分かっている。俺もお前のことが好きだ。大学を卒業してからと思っていたんだがな」
 「そんなに待てません!」
 「分かった」

 俺も覚悟を決めた。
 御堂には、以前に許可ももらっている。
 今晩、柳を……。
 俺は柳を抱き締めた。

 「石神さん……」

 俺は抱き締めた手を緩め、柳の寝間着の上のボタンを外した。
 同時に、俺は自分の寝間着の下を下げる。

 「あの」
 「ああ」
 「何で脱がすんです?」
 「え?」

 違った。

 「今日はちょっと暑いからな」
 「はい?」
 「まあ、座れよ」

 俺はソファに柳を座らせた。
 柳は俺を見ながら、寝間着のボタンを掛けた。
 俺は臨戦態勢だったので、ロボを呼んで足の上に寝かせて隠した。
 ロボが、ちょっと寝にくいという顔で俺を見た。

 「それで、何を我慢出来ないんだ?」
 「石神さん! 私、オロチを守れるようになりたいんです!」
 「ああ、お前はそう言うと思ってたよ」
 「はい!」

 思って無かった。

 「でもな、「花岡」が万能じゃないのは分かっているよな?」
 「はい」
 「低級の妖魔ならば撃破出来るが、オロチが苦戦するような相手は、まず無理だ」
 「分かってます」
 「まあ、オロチも真正面から戦えば勝てたんだろうけどな」
 「え?」

 恐らく、双子も誰も気付いていない。

 「あの弓使いの攻撃は、お前たちを狙ったんだよ。防衛施設の中にいるお前たちをな」
 「え!」
 「だからオロチが全部自分で受けたんだ」
 「なんで!」
 「多分、防衛施設の中は大丈夫だっただろう。いろいろと仕込んでいるからなぁ。でも、オロチにはそれは分からない。地面の下にいることは分かってもな。だから防がなければならないと思った」
 「オロチー!」

 柳が泣き叫んだ。

 「それに、水晶の奴もいた。二体で攻められたら、とも思ったんだろうよ。俺が向かっているのは感じただろうから、それまでは何としてもとな」
 「そんなぁー!」
 
 柳の頭に手を置いた。

 「柳、泣いてる場合じゃねぇ。お前は決意したんだろう!」
 「は、はい」
 「だったら、何としてもやれ! 妖魔をぶっ飛ばす技を作れ!」
 「はい!」
 「クロピョンに頼んでやる。あの触手をぶっ千切るような技が出来れば、大抵の妖魔に有効だ。今回のような高位の妖魔にもな」
 「はい! 私、必ず!」
 「おう!」

 翌日から、柳の特訓が始まった。
 俺はルーとハーにも手伝うように言った。
 あいつらならば、いろいろと感じながらアドバイスも出来るだろう。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「柳ちゃん。どんな技を考えてるの?」
 「うーん、まだ特には」
 「ダメだよ! まずはイメージなんだよ。妖魔をぶっ飛ばす技なんでしょ? それが拳で殴るのか、「螺旋花」みたいにぶち込むのか、「虚震花」みたいに撃ち込むのか。そういうイメージを最初に持たないと」
 「そうか。じゃあ、「虚震花」みたいにする!」
 「うん、それがいいと思うよ。やっぱり接近戦は危険だし、「虚震花」なら、これまでも効果があることも多かったしね」
 「「ブリューナク」が効いたことも多いよ?」

 「分かった。じゃあ、そっちの方向で頑張る!」
 「「うん!」」

 クロピョンの触手を呼ぶ。
 石神に言われているので、柳がやろうとしていることは分かっているはずだ。
 柳は、最初に「虚震花」を放った。
 
 「やっぱり全然効かないね」

 クロピョンの触手は微動だにしない。
 「ブリューナク」も同様だった。

 柳は新しい動きを模索した。




 「柳ちゃん! ずっとやってるじゃない。少し休憩しよ?」
 「うん、もうちょっと!」

 真夏の酷暑の中で、柳は庭で技を探り続けた。
 綺麗好きな柳が、汗まみれになっていた。

 

 「柳ちゃん! ずぶ濡れじゃない! 早く中に入って!」
 「もうちょっとで何かが掴めそうな気がするの!」

 ゲリラ豪雨の中で、柳は技を撃ち続けた。
 綺麗にウェーブのかかった柳の髪が、見るも無残なものになっていた。



 「柳ちゃん! しっかりして!」
 「もう! 幾ら何でもやり過ぎだよ!」

 庭で柳が倒れていた。
 慌てて双子に介抱された。


 
 「柳ちゃん! 雪の中で何やってるの!」
 「こんなに冷たくなって!」

 駆け寄って来た双子に、柳は微笑んでまだやると言った。
 肺炎を起こし掛けた。
 石神に殴られた。





 二年後。
 ついに柳は満足の行く技を作り出した。
 石神たちに、その技を披露した。

 「オロチ・ストライク!」

 「おい、技名を叫ぶのかよ」

 柳の右腕から三本の光が捩じれながら放たれた。
 クロピョンの触手にぶつかり、触手が四散した。
 クロピョンの触手がすぐにまた出て、「〇」の形を作った。

 「おお! すげぇな! やったな、柳!」

 柳が晴れやかな顔で笑い、石神に抱き締められた。
 他の子どもたちも、みんな柳を褒め称える。

 「石神さん! ついにやりました!」
 「おう! しっかり見たぞ! お前は最高だぁ!」
 「エヘヘヘヘ!」

 柳は涙を流しながら笑った。
 美しい笑顔だった。



 亜紀と双子が輪になって何か話していた。
 あそこはこうだとか、それとこうなっているとか言っている。

 ハーが右の拳から捩じれた光を撃った。

 「あ、できた」

 ルーもやった。

 「あー、こうだね!」

 亜紀がやった。
 物凄い太さで空中に放った。

 「やったー!」

 天才の双子と、超天才の亜紀だった。

 「……」

 「柳、大丈夫か?」
 「えーん! いしがみさーん!」
 「よしよし」

 石神が三人の頭を引っぱたいた。





 その一年後。
 柳は自分の必殺技「ドラゴン・ストライク」を編み出し、丹沢の訓練場で披露した。

 途轍もない威力のプラズマ粒子の技で、地上に放てば都市も消滅すると思われた。
 
 「凄いな、柳!」
 「エヘヘヘヘ!」

 嬉しそうだった。

 亜紀と双子が輪になって話し合っていた。

 柳は駆け込んだ。

 「絶対やめてぇー!」

 石神の宣言で、柳だけの技となった。

 「よしよし」
 「えーん」

 密かに「鬼ストライク」「ウサギ・ストライク」「ネコ・ストライク」が出来たが、それが使われることは無かった。
 みんな、それを遙かに超える大技を持っていたためだ。 
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