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夕飯の買い物

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 「「アドヴェロス」かー!」

 早乙女がご機嫌だった。

 「良かったですね」
 「うん。やっぱり石神に相談して良かったよ!」
 
 なんなんだ、この夫婦は。
 子どもたちも、ニコニコして見ている。

 「石神、どうしてお前は咄嗟にこんな発想が出るんだ?」
 「あ? いや別に」
 
 なんか、恥ずかしい。

 「いや、スゴイよ! 俺なんか、とてもじゃないが」
 「「ザ・オトメン・ポエム」もなかなかいいじゃないか」
 「ああ、あれもいいけどな!」
 「……」

 なんなんだ、こいつは。

 「実はな。俺も自分でいろいろ考えていたんだ」
 「へー」
 「「ハマショー隊」とかな」

 双子がコーヒーを吹いた。
 亜紀ちゃんが引っぱたき、布巾を渡した。

 「「石神ガーディアンズ」なんて、今でもいいんじゃないかと思うんだけど」

 亜紀ちゃんが無意識に早乙女の頭を引っぱたき、慌てて雪野さんに謝った。
 雪野さんは大笑いしていた。

 「良かったよ、「アドヴェロス」になって」
 「そうだな! なんかカッコイイよな!」
 「ありがとう」

 危なかったぜー。




 

 お茶の後、双子はちょっと寝ると言って部屋へ行った。
 御堂の家で、オロチの治療で結構力を使ったのだろう。
 明るくしてはいるが、疲労が溜まっているのは分かった。
 皇紀も研究がある。
 
 亜紀ちゃんが買い物に出ると言った。

 「お刺身がそろそろなんで。他にも買い足しておこうかと」
 「じゃあ、車を出そうか?」
 「え! ええ、でも」
 
 早乙女達がいる。
 残しておいても問題ないが。

 「おい、一緒に行くか? ああ、ここでのんびりしててくれてもいいんだけど」
 「いや、一緒に行くよ」
 「そうか。ああ、何か食べたいものはあるか?」
 「石神の家の食事ならなんでもいいよ」

 すっかり餌付けされている。

 「今日は海鮮丼の予定なんだけど、雪野さんは大丈夫ですか?」
 「はい! 楽しみです!」
 「まあ、正確には「石神家海鮮丼」ですけど」

 雪野さんが声を出して笑った。

 「じゃあ、好きな食材を二人で選んでくれ」

 ロボが俺を見ている。
 残されるのを悟った。

 「おい、ロボも行くか?」
 「にゃ!」

 「おい、早乙女」
 「なんだ?」
 「財布は置いてけ」
 「え?」
 「そうじゃなきゃ連れて行かん」

 雪野さんが笑い、そうしましょうと言った。





 ハマーで伊勢丹に向かった。
 亜紀ちゃんが助手席に座り、後ろのシートに早乙女夫妻とロボが座った。
 ロボは雪野さんが大好きだ。
 雪野さんの足に顔を乗せて寛いでいる。
 10分程で着いた。
 連絡してあるので、VIP用の駐車スペースに入れる。
 ハマーが余裕で停められる。

 ロボの首に札を吊るした。

 《ぬいぐるみ》

 雪野さんが大笑いした。
 早乙女も笑っていた。

 亜紀ちゃんとカートを引き、一台にロボを乗せる。
 早乙女も一つカートを引いた。

 生鮮食品のコーナーに行き、亜紀ちゃんがどんどん食材を入れて行く。
 頼んでおいたものも多い。
 ほとんどの店員が顔見知りなので、挨拶されていく。

 「カワイイぬいぐるみですね!」
 「アハハハハハ!」

 ロボが手を挙げるので、やめろと言った。
 雪野さんに、食べたいものをどんどん入れるように言った。
 早乙女と相談しながら、一緒に買い物を楽しんでいた。

 「タカさん、毛ガニがありますよ!」
 「ああ、毛ガニは一年中食べられるからな。今の時期だと、花咲ガニか」
 「さすが、魚屋のバイト!」
 「ワハハハハハ!」

 早乙女達が知らないので、亜紀ちゃんがカートを引きながら俺の学生時代のバイトを説明した。

 「じゃあ、折角だから毛ガニと花咲ガニを買ってくか」
 「はい!」

 野菜も買い足し、レジに向かった。
 俺のカートにはロボとジャガイモが入っている。

 レジの手前で、早乙女のカートと入れ替えた。

 「おい、石神」
 「ばかやろう」

 俺は笑って亜紀ちゃんのレジと一緒にカートを通した。
 後ろで早乙女がカードを手にしていた。

 「ロボは売り物じゃないからな!」
 「にゃ!」

 早乙女達が苦笑いして、ジャガイモをカードで決済した。

 「まったく、油断がならねぇ」
 「少しはうちにも払わせてくれよ」
 「ジャガイモくらいはな」

 亜紀ちゃんが笑った。 
 生意気に、俺を出し抜こうとしやがった。

 「雪野さん、お腹が目立って来ましたね」
 「そうなんです。もう、着る物とかも大変なんですよ」
 「ほー」
 「ほー」
 「!」

 俺と亜紀ちゃんがニヤリと笑い、早乙女が気付いた。

 「いや、石神、お前!」

 俺は買い物は預かってくれと店員に頼み、亜紀ちゃんと一緒に雪野さんの手を引いて上階へ連れて行った。
 途中で雪野さんも気付く。

 「石神さん! 困りますって!」
 「警察官の妻が誘導尋問に引っ掛かるなんて」
 「まだまだ自覚が甘いですね!」

 亜紀ちゃんと一緒に笑いながらマタニティの売り場へ行き、大量に買った。
 雪野さんが笑い出し、早乙女もそのうちに笑った。

 「そう言えば、子どもの服なんて用意してます?」
 「はい! もう沢山で困ってます!」

 みんなで笑った。




 食料品と服とで相当な量になった。
 改造ハマーで良かった。
 ロボは大好きな雪野さんと一緒で、大満足だった。

 陰惨な事件はあったが、俺たちはもう日常の中だ。
 俺たちは戦い、笑う。
 磯良にも、笑っていて欲しい。
 
 早乙女に、そうしてもらいたい。
 まあ、こいつなら、きっとそうしてくれるだろう。

 俺は、そう思っている。
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