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御堂家 防衛戦 Ⅴ

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 「早乙女さん、結構多いですよ」
 「そうか。どのくらいだ?」
 「そうですね。100体近く」
 「そんなにか!」

 早乙女は磯良を連れて江東区の埋め立て地帯の高層マンションにいた。
 マンション全体を占拠しているとのことだった。
 警官隊がマンションの周囲を取り囲んでいる。
 磯良はフード付きのパーカーを着、顔には大型のマスクを着けている。
 
 「じゃあ、ここは他の人間に任せようか」
 「大丈夫ですよ。数が多いんで多少時間は掛かりますが」
 「そうか! でも、100体もいると、君の能力はもつのか?」
 「まあ、思うだけですからね。幾らでも」
 「!」

 警官隊から離れて会話していた。
 早乙女は磯良を連れ、マンションの中に入った。

 「索敵はどうするんだ?」
 「気配で分かりますよ」
 「凄いんだね」
 「そうでなければ、不意打ちでやられますからね。一応、無敵の武術だと言われています」
 「そうか」

 磯良はエレベーターは不味いと言った。

 「ワイヤーを切られるとアウトですからね。僕の力は物を支えることは出来ませんから」
 「なるほど」

 二人は階段を使って上がって行った。

 「来ますよ」

 2階でドアが開き、何かが飛び出して来た。
 蜘蛛のような外見をしている。

 一瞬で両断された。

 数階を同じ要領で怪物を屠って行く。

 5階で同じように怪物が飛び出して来る。

 「ああ、一匹ずつなら、全然問題ありませんね。一遍に来られると危ないですが」
 「そうか」

 磯良はしばらく怪物を見ていた。
 
 階段が騒がしくなった。
 磯良は怪物を両断し、廊下の端へ早乙女を連れて移動した。

 「どうしたんだ?」
 「いえ、ちょっと面倒になったので」
 「え?」

 階段から大量の蜘蛛の怪物が雪崩れ出て来た。
 こちらへ向かってくるモノを、次々と磯良が切り裂いていく。
 たちまち、廊下が死骸で埋まって行った。
 磯良は黙って立っている。
 酢酸のような刺激臭が漂ってきた。
 怪物の体液のようだった。

 「これはちょっと辛いな」
 
 磯良が言い、エレベーターに向かった。

 「おい、これは危険なんじゃ!」
 「仕方ないですよ。もう階段は埋まっちゃいましたから」
 「え?」

 エレベーターで10階まで移動した。
 磯良は階段に行き、また怪物を切り裂いて行った。
 10階ずつ、同じことを繰り返した。

 「屋上に大きなのがいますね」
 「そ、そうか」

 屋上へ続く扉は施錠されていた。
 磯良はドアノブごと扉を切り裂いた。
 先に踏み出そうとする早乙女を、磯良が止めた。

 「罠を張ってますって」

 磯良に言われ、早乙女は屋上の床を見た。
 良く見ると、透明な粘液が伸びている。

 磯良は壁を切り倒した。
 その上に乗って、屋上を見た。

 体長10メートルを超える巨大な蜘蛛がいた。

 「!」

 早乙女が驚愕している間に、巨大な蜘蛛が両断された。

 「これで終わりですね」
 「え?」

 マンションに入ってから40分が経過していた。

 「じゃあ、次の現場へ」
 「あ、ああ」

 超常現象的な事態に磯良は一切驚かず、淡々と敵を倒した。
 
 (この子は一体……)

 早乙女は磯良と一緒にエレベーターで降りながら、怪物以上に恐ろしい少年を見た。
 
 (一体これまで、どんな生き方を)

 早乙女が磯良の肩を抱き寄せた。

 「疲れていないか?」
 「大丈夫ですよ?」

 少年の肩は細かった。
 女性のような綺麗な顔立ちで、その細い肩で、異形の怪物と戦う磯良。
 早乙女は何か悲しいことだと思っていた。

 「もしもの時は、必ず俺が助けるから」
 「はい?」

 磯良が早乙女を見た。
 大きな手で肩を掴まれ、少し動揺していた。

 「必ずだ!」
 「分かりました、お願いします」

 磯良は薄く笑って早乙女を見た。
 早乙女は目に涙を湛えていた。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「ジェイ! レーダーに「感」だ! いよいよだぞ!」
 「おう!」

 皇紀が開発した量子レーダーには、既に敵の兵装が解析されていた。

 《Mi-26 HaloE: No Arms》
 《Unknown: (Gévaudan)》

 輸送ヘリは30。
 20体のジェヴォーダンを吊っている。
 距離は250キロ。
 他の10機には、恐らく改造兵が乗せられていると思われた。
 数は500程度か。
 装甲車などは見当たらないので、歩兵なのだろう。

 「よし! デュール・ゲリエを展開しろ!」
 「はい!」
 「武装は殲滅モードのままだ。敵との距離20キロで開始だぁ!」
 「はい!」
 
 ジェイが指示を出して行く。

 「ジェイ! レールガンが起動する!」
 「まずは見物だな!」
 「ワハハハハ!」

 部下たちが笑っている。
 その時、庭のレールガンが発射された。
 
 「ジェヴォーダン一体が四散!」
 「やるなぁー!」

 「ヘイローが降下! 200キロ地点!」
 「もうビビったのか! じゃあいよいよだな!」
 
 その間に、レールガンはあと3体のジェヴォーダンを破壊していった。
 
 「うぉ!」

 ジェイが気配を感じて振り向いて驚いた。
 オロチが出ていた。

 「よう! お前もやるか!」

 気合を入れ、オロチに叫んだ。
 オロチは持ち上げた上体を左右に揺らした。

 「頼もしいぜ! じゃあ、宜しくな!」

 部下たちも驚いていたが、味方であることは分かっている。
 
 「ジェヴォーダン、急速接近! 距離50キロ!」
 「速ぇな!」
 
 オロチの口が開いた。
 激しい光が出て、横に拡がった。
 遠くで地面にぶつかったか、膨大な土煙が拡がった。

 「ジェヴォーダン、5体が消滅!」

 ジェイが口笛を吹いた。
 その時、聞いたことがない警報が鳴り響いた。

 「なんだ!」
 「分かりません! でも、コンソールには、我々に避難指示が!」
 「おし! 全員地下防衛施設へ退避!」

 ジェイは迷うことなく命じた。

 「なんだよ、まったく俺らの出番はねぇってか!」

 罵りながら、ジェイは部下が全員退避するのを確認した。
 入り口を厳重に施錠する。
 何重ものドアを全てそうした。

 「ジェイさん!」

 御堂が待っていた。

 「御堂さん、よく分からんが、あとは防衛システムとオロチに任せるしかないようだ」
 「そうですか」
 「俺たちもここに。すいませんね」
 「構いません。でも、その前に、ちゃんと着替えて下さいね」
 「え?」

 「僕は、その恰好は絶対ダメだって言いましたよね!」

 御堂が珍しく声を荒げて言った。

 「いや、俺らが最も熱くなる戦闘服なんですが」
 「辞めて下さい! 年頃の娘もいるんです!」
 「そうですか」

 ジェイと小隊長の10人は、仕方なくペニスケースを外した。

 「ここでいきなり! 何やってんですか!」
 「あ、すみません」

 様子を見に来た柳がジェイたちを見て爆笑した。

 「柳! 部屋に戻っていなさい!」
 「はーい!」

 ジェイたちは当てがわれた部屋へ案内され、下着とスウェットを渡された。

 「こんなんじゃなー」

 ジェイたちが笑った。
 御堂家の人間がいる、コントロール・ルームに移動する。

 オロチは今も熱線を吐いているようだった。
 しかし、突然細い光のようなものを無数に浴びた。
 オロチの身体から、血が吹き出る。

 「オロチぃ!」

 柳が叫んだ。
 オロチは尚も上体を起こしていたが、間もなく地響きを立てて倒れた。

 「イヤァーーーー!」

 柳が半狂乱になる。
 御堂がそれを抱き締めた。

 


 「石神!」

 御堂が叫んだ。
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