上 下
1,153 / 2,806

亜紀ちゃんとドライブ Ⅲ

しおりを挟む
 午後5時になっていた。
 城ケ崎は近いが、問題はハラペコ大将だ。

 「柳たちは電話しとけばいいけど、俺たちは何を喰おうか」
 「前に来た時にはサンドイッチでしたね」
 「そうだったな。紅茶とな」

 「なら、ハンバーガーでどうです?」
 「ああ、そうするか」

 亜紀ちゃんがスマホで探す。
 
 「あ、ここにしましょう」
 
 俺に、綺麗な洋館のような店の写真を見せた。

 「シュークリームみたいなバンズですよ」
 「じゃあ、小さいのかな」
 「そうかもですね」

 亜紀ちゃんが電話した。
 ハンバーガーの種類を聞いている。
 復唱して俺にも聞かせる。

 「じゃあ、俺は甘辛ホタテと……」

 亜紀ちゃんが自分の分と合わせて注文した。

 「全部を20個ずつで、甘辛ホタテとスモークサーモンとカレーチキンは40個ずつ」
 「……」

 「え? 本当ですよ! 絶対に買いに行きますから!」

 なんか怒って電話を切った。
 全部で240個だ。
 
 20分後に店に行くと、半分くらいしか用意出来て無かった。
 材料の関係で、全部は出来ないと言われた。

 15分待ってくれと言われ、俺たちはサービスでバニラアイスのサンドを貰った。
 15分後にまだ出来ないので、亜紀ちゃんがキレそうになった。

 「ハッシュドビーフを二つくれ。それとアイスティー」

 亜紀ちゃんが多少収まった。
 ガツガツと食べた。
 まだ鬼顔だったので、俺の分もやった。

 「悪いんだけどさ。水差しに氷を入れて、アイスコーヒーを目一杯入れてくれ。水差しごと買うから。ああ、グラスも二つ」
 「いえ、それはちょっと」

 亜紀ちゃんがまた鬼顔を見せる。
 店員が黙って頷いた。

 結局30分後に店を出た。
 亜紀ちゃんはニコニコだ。

 「早く行きましょう!」
 「おう」

 俺はぶっ飛ばした。






 車を停め、前に来たベンチに亜紀ちゃんと座る。
 前は真冬だったが、今日は真夏だ。
 だが、陽が翳り海風が吹いて、ベンチは涼しかった。
 亜紀ちゃんはハンバーガーを取り出してテーブルに並べた。
 その時、強い風が吹いてハンバーガーを飛ばした。

 亜紀ちゃんが瞬間に動き、5つのハンバーガーを全部掴んだ。

 「危なかったですね!」
 「おう」

 袋から取り出しながら食べようと言った。
 俺が水差しからアイスコーヒーを注ぐ。

 夕暮れて行く海が綺麗だった。


 「懐かしいですね」
 「そうだな」

 二人でハンバーガーを食べながら海を見詰めた。

 「甘辛ホタテ、美味しいです!」
 「そうだな!」
 「流石タカさんの見立てですね!」
 「凄いな!」

 亜紀ちゃんはガンガン食べて行く。
 俺は5つも食べると、満足した。
 ニコニコしながら食べている亜紀ちゃんの頭を撫でる。
 亜紀ちゃんが嬉しそうに笑った。

 「毎日ここに来ましょうか」
 「ばか」

 散歩に来た人たちは、暗くなるといなくなった。
 俺と亜紀ちゃんだけが残った。
 
 亜紀ちゃんが全てのハンバーガーを喰い尽くした。

 「満足か?」
 「はい!」

 亜紀ちゃんが俺の肩に頭を寄せた。

 


 「なあ、亜紀ちゃん」
 「はい」
 「俺の今朝の夢な」
 「はい」
 「嫌な予感がするんだ」
 「え?」

 亜紀ちゃんが頭を離して俺を見た。

 「俺があんなに脅えるのは、何かを感じているからなんだ」
 「じゃあ、私たちが!」
 「いや、そうではないと思う」

 亜紀ちゃんが俺の手を掴んだ。

 「じゃあ、誰が?」
 「分からない。でも俺たちの大事な人間だと思う」
 「そんな……」

 「亜紀ちゃんたちであった可能性もある。でも、俺が全員に話したから、もうそうではない」
 「どういうことです?」
 「運命は巡る。必ずな。でも最初の予定とは限らない。しかし、必ず巡る」
 「それじゃ」
 「喪えば、俺が死にたくなるような人間ということだ」
 「!」

 亜紀ちゃんの俺の手を握る力が強くなった。

 「俺が最も結婚したいと思っている人間」
 「響子ちゃん!」
 「違う」
 「え! じゃあ誰ですか!」
 
 「御堂だ」
 「はい?」
 「冗談だ」

 亜紀ちゃんが手を放し、俺の肩をポコポコした。

 「タカさん! 私一生懸命に考えてたのに!」
 「いや、ちょっと真剣な雰囲気って苦手でよ。子どもの頃からな」
 「ばかー!」

 俺は笑って真面目な話だと言った。

 「御堂はな、両性具有なんだ」
 「え!」

 「冗談だ」

 亜紀ちゃんがまたポコポコする。

 「タカさん!」
 「待てって! 本当にちょっと今は真剣な雰囲気が嫌なんだ! お前たちが死んじゃったんだからな!」
 「もう!」

 俺は今度こそ真面目な話だと言った。

 「亜紀ちゃんたちは、狙おうったってもう難しいよ。だから、戦闘力が無く、しかも俺に多大なショックを与える人間が狙われる」
 「だから御堂さんですか!」
 「ああ。蓮花もそうだけど、あそこは防備が硬い。それは「業」も知っている。だからな」
 「でも、御堂さんの家も防衛システムがありますよ?」
 「そうだ。しかし、一度あそこは狙われて、戦力を測られている。多分、次の攻撃は行けると考えている」
 「そんな!」

 亜紀ちゃんが驚いている。

 「もちろん、前回も全てを見せたわけではない。それに、切り札もある」
 「オロチですか?」
 「それもあるが、また別なものだ」
 「それって!」
 「ここでは口に出来ない。でも、もしもの場合には必ずな」
 「分かりました」

 俺は亜紀ちゃんを抱き寄せた。

 「他の子どもたちには言うな。特に柳にはな」
 「はい!」
 
 亜紀ちゃんがまた、俺の肩に頭を預けた。

 「恐らく、今度はジェヴォーダンが来る」
 「え!」
 「俺たちもまだ知らない、陸戦タイプだ。タマがシベリアで観たらしい」
 「そうなんですか」

 「そう遠くない日だ」
 「来月は御堂さんの家にも行きますよね」
 「ああ、その時は来ないだろう。俺たちがいない時を狙って襲撃されるはずだ」
 「私たちの誰か、行きますか?」
 「いや、それでは俺たちが気付いたことが相手に分かる」
 「でも、危険では」
 「大丈夫だ。俺は絶対に御堂を守る」
 
 亜紀ちゃんが俺に抱き着いた。

 「タカさんがそう言うなら大丈夫ですね」
 「そうだ。何しろあの御堂だからな。俺は絶対にヘマをしない」
 「はい!」

 亜紀ちゃんが俺に唇を重ねて来た。
 俺も応えてやる。

 「タカさん、何があっても私が傍にいますから」
 「ああ、知ってるよ」
 「皇紀もルーもハーも」
 「ああ」
 「大丈夫です」
 「そうだな」

 俺からキスをした。

 「何かあれば、俺たちはすぐに「飛んで」行ける」
 「はい」
 「御堂たちを守るぞ」
 「はい!」

 


 子どもたちが狙われたらと思うと、俺はまた胸が苦しくなった。
 俺があんな夢を見たのは、戦場の勘で俺が何かを捉えたからだ。
 子どもたちが死ぬということは、ジェヴォーダンだけではない、特別な奴が来ることを示している。
 しかし、その運命は避けられた。
 御堂に向かったのが感じられる。
 俺が御堂に話せば、また別な所へ運命が巡る。
 俺は自分が翻弄されて来た「運命」というものをよく知っている。
 
 (御堂の家ならば……)

 危険な戦いになるのは分かっていたが、俺はそれを引き受けた。

 (御堂、済まない。でも、必ず守るからな)

 俺は誓った。

 帰りの車の中で、亜紀ちゃんは眠った。
 今日は一日、俺を元気づけるために気を張っていたのだろう。
 静かに寝息をたてている、美しい娘を見た。

 「ずっと俺の傍にいろよな」

 小さく呟くと、亜紀ちゃんが笑った。
 いい夢を見ているらしい。

 「亜紀ちゃん、カワイーぞー」

 俺が呟くと、寝ながら笑った。

 「エヘヘヘヘ」

 


 俺も笑った。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...