富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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デスクの中

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 「ロボ! タカさんはいないよー!」

 ロボが家中を探し回っていた。
 ジェシカを連れて出た日の夜のことだった。
 食事を終え、風呂から亜紀が上がると、ロボが忙しなく動いていた。

 「ニャオーン」
 「だからね、今日は一緒に寝ようか?」

 亜紀がロボに声を掛ける。
 ロボが亜紀をじっと見つめる。

 「ほら。私の部屋に行こ?」

 亜紀に声を掛けられ、ロボが一緒に三階に上がる。
 亜紀が自分の部屋のドアを開けた。

 「ロボ、いらっしゃい」

 ロボは向かいの石神の部屋のドアの前にいた。

 「タカさん、出掛けちゃったのよ。明後日には戻るからね」

 ロボが尻尾を振って返事をする。
 振り向かない。

 「しょーがないなー」

 亜紀は石神の部屋のドアを開けた。
 すぐにロボは部屋に入る。
 部屋は暗い。

 「ほらね、いないでしょ?」
 「ニャオーン」

 哀しそうに鳴いた。
 そして部屋中を探した。
 亜紀はそれを黙って見ていた。

 亜紀は石神のベッドに上がった。
 横になると、ロボも上がって来た。

 「私もタカさんがいないと寂しーなー」

 ロボの頭を撫でる。
 
 「早く帰って来ないかなー、ね?」

 ロボは撫でられて目を閉じ、喉をゴロゴロと鳴らした。

 「タカさん、最近特にお出掛けが多いよねー」

 


 「あれ、亜紀ちゃん?」

 石神の部屋のドアが開いていたので、柳が入って来た。

 「柳さん」
 「どうしたの?」
 「うん、ロボがね、タカさんがいなくて寂しがって探し回ってたの」
 「そうなんだ」
 「一緒に寝ようって誘ったんだけど、やっぱりタカさんの部屋に入りたがって」
 「いつもそうだよね」

 柳も石神のベッドに横になった。
 二人でロボを撫でてやる。

 「ルーとハーは?」
 「まだ食べてる。体力をつけとかなきゃって」

 双子は石神の愛銃ブリガディアを壊したことで、石神の帰りを恐れていた。

 「皇紀は部屋に?」
 「うーん、あんま考えたくないかな」
 「アハハハハハ!」

 チンコいじりだと決めつけていた。
 その通りだったが。

 「私たちも、一緒に行きたかったですね」
 「そうだけどね。でも今回はジェシカさんが中心だったから」
 「はぁー」

 ロボが撫でられ飽きて、柳にネコキックをする。

 「でも、タカさんがいないと、ロボが本当に寂しそうで」
 「石神さんにベッタリだもんね」
 「ロボがちょっと羨ましいですよね」
 「アハハハハ!」

 柳がロボのお腹を指でツンツンする。
 ロボが喜んでますますネコキックを浴びせた。
 亜紀も反対からロボの背を突っつく。
 ロボが振り返って亜紀にもネコキックをする。

 「今日はこのままここで寝ちゃいましょうか!」
 「えぇ。でも不味くない?」
 「大丈夫ですよ! ロボが寂しがってたからって言えば、タカさんは許してくれます!」
 「なるほど!」

 二人はロボとじゃれてしばらく遊んだ。
 やがて、ロボも大人しくなっていった。

 「じゃあ、そろそろ寝ましょうか」
 「柳さん。ちょっとご相談が」
 「何?」
 「今はタカさんがいないじゃないですか」
 「うん」
 「ちょっと探検しません?」
 「え?」
 「ほら、ルーとハーが散々部屋を荒らしたじゃないですか」
 「そうだけど」
 「だから、私たちが多少物色したって、大丈夫ですから」
 「亜紀ちゃん、ワルだね!」

 二人はベッドを降り、ドアに鍵を閉めてから電灯を点けた。

 「普段、デスクは鍵が掛かってます」
 「そうなんだ」
 「でも、ルーとハーが鍵を開けてます」
 「チャンスだね!」
 「はい!」

 二人で引出しを開けた。

 「書類だね」
 「ああ、アメリカとの密約なんかですよ」
 「そうだね」
 
 幾つかの書類を眺め、確かめた。
 別な引出しを開ける。

 「ここは手紙ですね」
 「いろんな人から。ああ、南さんとか、これはチャップさんだ。聖さん、字が汚いなー」
 「知らない人のも多いね」
 「柳さん、順番を崩さないようにしましょう」
 「石神さん、結構神経質だもんね」

 重ねた順番をそのままにして戻した。
 
 「奈津江さんのは金庫かなー」
 「超重要物件だもんね」
 「ウフフフフ」
 「見てみたいけどね」
 
 また別の引出しを開けた。

 「ここはまた、思い出の品ですかねー」

 貝殻やビー玉、本や雑誌、ペーパーナイフや何かの部品等々。
 雑多なものが仕舞ってあった。

 反対側も開けて行く。
 様々な書類があり、また物品があった。

 「石神さんって、本当に思い出の品が多いんだね」
 「そーですねー」
 
 幾つかは石神から聞いた話の中のものだろうことは分かった。
 でも、大半は二人にも想像も出来ない。

 「これ、何の動物の牙だろう?」
 「さー」
 「この潰れた鉛って、銃弾じゃない?」
 「そうですね!」
 
 二人で興奮して来た。
 次々と物品を見ては、楽しく話し合った。

 「柳さん! これ!」
 「あぁ!」

 色紙だった。

 《大好きなトラちゃんへ》

 夜也とサインがあり、女性器の拓が押されていた。

 「これはあのAVの!」
 「燃やしましょう!」
 「不味いって!」

 裏側に電話番号があった。

 「殺しに行きますから」
 「やめてって!」

 柳が必死に亜紀を止めた。
 気を他に向けるために、柳が別な引出しを開けた。

 「亜紀ちゃん、これ貯金通帳じゃない?」
 「そうですね」

 何気なく手に取った。
 「石神亜紀」と名前が見えた。

 「え、私の?」

 他の通帳も見てみる。
 皇紀、ルー、ハー、そして柳の分もあった。

 「私のも?」

 中を開くと、入金の記録がある。

 「これって、私たちを引き取った月からだ!」
 
 初回は一億ずつ。
 それに、毎月決まった日に、50万ずつが入金されている。
 恐らく賞与があった月は、500万円ずつ。
 柳の分は、柳が石神家に入ってからで、やはり初回は一億円。
 その後は、亜紀たちと同じ金額が入金されていた。

 「タカさん……」

 二人で泣いた。

 「石神さん、ルーちゃんとハーちゃんのお陰で、凄いお金持ちになってるんだよね?」
 「はい。でも、ちゃんとこうやって、ずっと私たちのために貯金をしてくれてたんだー!」
 
 亜紀が叫ぶので、柳が抱き締めて落ち着かせた。

 「石神さんって」
 「うん! 優しすぎる人!」
 「そうだね」
 「柳さーん! 私、タカさんにとんでもないことをー!」
 「私も一緒だから! ね、二人で謝ろう!」
 「はい!」

 ロボがトコトコと二人の傍に来た。
 しゃがんで泣いている二人の膝に前足を置き、二人の涙を舐めた。

 「「ロボー!」」

 
 

 通帳の下に、ノートがあった。
 石神が調べたらしい、結婚資金の資料や自分の資産の分配の計算など。
 その他、山中家の永代供養の毎年の維持費や13回忌までの費用。
 毎月の食費の計算は、途中で終わっていた。
 亜紀に任せたためだ。
 
 クリスマスや誕生日会をやった時のプレゼントの種類や金額。
 宇留間事件の後のパーティ費用。
 亜紀や皇紀の制服の費用や学費。
 柳のための買い物の記録や費用。
 
 子どもたちのために使った記録の全てがあった。
 備忘録のようなメモだが、石神が大事な思い出として記録しているようだった。
 そのノートを見て、また二人で泣いた。

 《亜紀ちゃんが一段と綺麗になった。今度、エルメスでフルオーダーでもさせてみよう》
 《皇紀の髪が少し癖っ毛なのに気付いた。いいブラシを探す》
 《ルーとハーに似合うジーンズを探そう。あいつらはまだ持って無い》
 《柳に一通りの服を買ってやりたい。御堂が遠慮するだろうから、どうやって手配するか》

 そういう備忘録も多い。
 このノートは子どもたち専用のものらしかった。
 他の女性の記述は見当たらない。
 石神の、自分の子どもたちへの愛情が詰まったノートだった。
 きっと、いつも子どもたちのことを考えては、記録しているだろうことが伺えた。






 《タカさん貯金 及び備忘録》

 亜紀の部屋のデスクに、それが置かれた。
 石神高虎名義の貯金通帳と、ノート。
 
 まだ始まったばかりだが、愛に溢れたものになりそうだった。
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