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ジェシカの来日

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 六月最後の木曜日。
 ジェシカ・ローゼンハイムが日本へ来た。
 午後4時ごろに俺の病院へ顔を出した。

 「石神さん!」
 「おお! よく来たな、ジェシカ!」

 俺は部屋で出迎えた。
 部下たちには、ジェシカが来ることは伝えている。
 みんな若い美人で驚いている。

 「こいつらは覚える必要ねぇから、気にするな」
 「部長!」

 「ああ、この特徴的な顔面と向かいのでかいのは一江と大森だ。この二人は多少気にしてくれ」
 「なんですか!」

 ジェシカが笑っている。
 荷物は先に蓮花の研究所と俺の家に着いているので、今日はシャネルのマドモアゼル一つ提げているだけだ。
 ベージュのパンツスーツにシャネルのスカーフを巻いている。

 「じゃあ、響子の部屋に行こうか」
 「はい!」
 
 俺たちが響子の部屋へ向かうと、廊下で響子と六花がセグウェイで遊んでいた。

 「ジェシー!」
 「キョウコ!」

 響子がジェシカを抱き締めた。
 ニューヨークで既に仲良くなっていたようだ。
 六花とも挨拶する。
 響子がジェシカを中へ入れた。

 「何か飲む?」
 「はい」
 「紅茶でいい?」
 「ありがとうございます」

 六花が用意する。

 「ジェシカ、俺はあと1時間くらいで上がるけど、先に家に行ってるか?
 「いいえ、宜しければ待ってます」
 「そうか。じゃあ一緒に帰るか」
 「はい!」

 俺は響子にジェシカを預け、仕事に戻った。





 今日は改造コルベットで来ていた。
 ジェシカを駐車場に連れて行く。

 「じゃあ、座れよ」
 「……」

 「なんだ! その微妙な顔は!」
 「石神さん、これって」
 「おう! カッチョイイだろ?」
 「いえ」
 「あんだと!」

 俺は笑ってジェシカを助手席に座らせた。
 暖気してスーパーチャージャーを回してやる。

 「この車はな。前にレイが俺に車を選んでくれって言うんで用意したんだ」
 「え!」
 「あいつとの思い出の車なんだよ」
 「それは知りませんでした! すみません!」
 「いいよ。レイも泣いて嫌がって、ついに乗らなかったしな」
 「はい?」

 俺は大笑いして車を発進させた。
 レイを騙して大使館ナンバーを手に入れたと話すと、ジェシカが大笑いした。

 「そう言えば、石神さんは悪知恵のスゴイ人だと聞きました」
 「アハハハハハ!」

 俺はキャンプでレイたちがカップルに悪さをしたんで、幽霊屋敷で泣かせた話をした。
 
 「しばらくショックで食欲なかったもんなー」
 「悪い人ですね」
 「ジェシカも行ってみるか?」
 「結構です」
 「楽しいのに」
 「アハハハハハ!」

 15分ほどで家に着く。
 俺がガレージに車を入れている間を待たせていると、子どもたちが出て来た。

 「「「「「ジェシカさん、いらっしゃい!」」」」」
 「お久しぶりです。お世話になります」
 
 リヴィングに上がって、みんなで食事にする。
 今日はすき焼きだ。
 まあ、鍋は分けている。

 「じゃあ、今日から来週の金曜までジェシカはここにいるからな! 仲良くしてくれ!」
 「「「「「はい!」」」」」
 「にゃ!」

 「いただきます!」
 「「「「「いただきます!」」」」」
 「にゃん!」

 初手からカポエラを亜紀ちゃんが使い、荒れ模様だった。
 避け損ねた柳がぶっ飛ぶ。
 
 「石神さん!」
 「だいじょーぶ」

 俺はゆっくりと肉を入れ、煮える間にすき焼きの食べ方を説明した。
 その間にも子どもたちは死肉を争って食べている。
 柳ももちろん無事だ。

 「あれって」
 「まあ、食事中も訓練みたいな?」
 「そうなんですか!」
 「アハハハハ!」

 すぐに慣れるだろう。

 「今日は俺と一緒だけど、明日からはジェシカもあっちだからな」
 「死んじゃいますよ!」

 双子が亜紀ちゃんに左右からハイキックを浴びせた。
 亜紀ちゃんは余裕で笑いながら両手で受ける。
 柳がいいタイミングで前蹴りを腹に撃ち込むが、それも笑いながら真正面から受けた。
 鋼鉄の腹筋がダメージを通さない。
 物凄い音がした。

 「なんか、食事の雰囲気じゃないような」
 「レイはすぐに慣れたぞ?」
 「そうなんですか!」
 「タフな女だったからなぁ。最初から大笑いしてた」
 「頑張ります!」

 ジェシカは俺が器に入れてやった肉を貪るように食べた。

 「あ! 美味しいですね!」
 「そうだろう? ご飯と一緒に食べるとまた美味いんだ」
 「はい!」

 ジェシカは食事を楽しみ出した。
 こいつもタフな女だった。

 「明日から、皇紀とルー、ハーにいろいろ教わってくれ」
 「はい!」
 「まあ、最初は数学の特訓だろうけどな」
 「はい。トポロジーと線形、非線形はアメリカで大分やって来ました」
 「そうか。量子力学は?」
 「そちらも。ルーさんとハーさんからいろいろ本も紹介してもらいましたし」
 「流石だな。じゃあ、皇紀システムも結構分かるかもな」
 「そうだといいんですが」

 20キロあった子どもたちの肉が終わり、漸く一段落した。
 亜紀ちゃんが雑炊を作り出す。

 「へぇー! こういう段階があるんですね!」
 「「鍋」料理のな。シメと言うんだけど、残った食材で雑炊にしたり、ウドンというヌードルを入れることもある。うちは大体雑炊だけどな」
 「なるほど」

 ジェシカはよそられた雑炊を食べ、美味しいと言った。
 亜紀ちゃんはニコニコしていた。

 「一番争いが激しいのがこの「すき焼き」鍋なんだよ。まあ、最初に通過しとけば、うちの食事にも慣れるだろうと思ってな」
 「ありがとうございます?」
 「なんだよ!」
 「あの、最初はゆっくり食べたかったと」
 「まあ、蓮花の研究所ではそうなるよ」
 「アハハハハ!」

 俺はジェシカに風呂を勧めた。
 双子に一緒に入るように言った。

 「ニューヨークで、静江様から「風呂」に慣れておくように言われました」
 「そうか」
 
 「今日は何を流す?」
 「石動コレクション!」

 ハーの頭を引っぱたいた。
 俺は東京の夜景の映像に、デヴァカントの音楽を流した。
 湯船に浸かる時に、双子は照明を落としたようだ。
 三人で魅入ったと言っていた。

 「石神さん! 素晴らしいです!」
 「それは良かった。俺も入るからゆっくりしててくれ。ジェシカは酒はどうだ?」
 「大好きです!」
 「レイと同じか」

 亜紀ちゃんと柳がつまみを用意した。

 豆腐。
 さつま揚げ。
 枝豆。
 ソーセージ各種。
 チーズ各種。
 鮎の塩焼き。
 それに俺が許可を出して、キャビアを3缶開けた。

 ジェシカはウォッカが飲みたいと言った。
 みんな風呂から上がり、「幻想空間」に移動した。

 ジェシカが感動した。

 「石神さん、これって……」

 双子が早く座れと言い、俺の隣にジェシカが座った。

 「俺たちは「幻想空間」と呼んでいるんだ。まあ、ちょっと恥ずかしいけどな」

 みんなが笑った。

 「元々は、俺が学生時代に付き合っていた女と、そのお兄さんとで空想の家を話しててな。将来こんな家に住みたいって話をしていた中で出たアイデアなんだ」
 「そうなんですか」
 「この家には作れなかったんで、別荘で実現した。子どもたちもみんな気に入ってくれてな。なんだか知らないが、アビゲイルが勝手に俺の敷地を増やしやがって! それでここにも実現した」
 「アハハハハ!」

 ジェシカが笑った。

 「でも、本当に素敵ですよ! 静江さんたちも知ってるんですか?」
 「いや、前にうちに来てくれた時にはまだな。いつか来てもらいたいな」
 「そうですよね!」

 「ジェシカさん。ここではタカさんが素敵なお話をすることになってるんですよ?」

 亜紀ちゃんが言った。

 「だから、そんな決まりはねぇ!」
 「ダメですよ! みんな期待してるんですから!」

 俺は笑った。

 「しょうがねぇ。じゃあ、ジェシカの真っ青な綺麗な瞳にちなんで、青い宝石の話でもするか」
 「「「「「わーい!」」」」」
 「わーい!」
 「にゃー!」





 俺は語り出した。
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