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トラ&柳 異世界プチ召喚

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 六月下旬の土曜日。
 朝食を食べ、柳と顕さんの家に行った。
 柳の運転だ。

 「もうちょっと車間距離を開けろ」
 「はい!」
 「おい! 今信号赤だっただろう!」
 「すいません!」

 「歩行者だ、止まってやれ」
 「はい」
 「ウインカーをちゃんと出せ!」
 「ごめんさない!」

 まだ運転に慣れてない。
 というか、よく今まで事故を起こさなかったものだと思った。

 「私、運がいいので!」

 頭をポカリと殴った。

 「お前! 人間は轢いても助けてやるけど、ネコ轢いたら家を追い出すからな!」
 「エェー!」
 「分かったか!」
 「はい! でも、人間はアレですけど、ネコは轢いても石神さんには分からないのでは?」
 「ロボが分かる」
 「え!」
 「双子も分かる」
 「コワイですね!」
 「うちはそういう家なんだよ、柳」
 「気を付けます!」

 どうだか知らんが、気を付けろ。





 顕さんの家に着いた。
 今日は俺が久しぶりに見るのと、柳からまた草むしりの相談を受けていた。
 去年は除草剤を使ったが、簡単な割に復活も早かった。
 雑草は根から取らなければダメだと分かった。

 顕さんの家なので、強力な薬剤は使いたくない。
 人間の手で毟るしかないだろう。
 広い庭なので、結構な作業になる。
 そろそろ暑くなってきた。

 外から見ていくと、確かに雑草が多くなっている。
 庭木の剪定も必要だと思った。
 俺が指示していなかったことを思い出した。

 「一度、便利屋を呼ぶか」
 「そうですか」
 「俺が柳に言って無かったせいだけど、庭木も剪定しなきゃな」
 「なるほど」
 「便利屋なら出来るし、ついでに草むしりのテクも教えてもらえよ」
 「分かりました!」
 「亜紀ちゃんと双子も連れてな。俺から言っておくよ」
 「私から話します」
 「そうか。じゃあ、頼むな」

 柳は自分の仕事として認識している。
 俺に命じられたからではないのだ。
 
 家の中に入った。
 ちゃんと掃除されている。

 「よくやってくれてるな!」
 「ありがとうございます!」

 コーヒーを飲もうと、居間の引き戸を開いた。





 その瞬間、俺と柳は森の中にいた。 




 「石神さん!」
 「落ち着け! イビルボアが来るぞ!」
 「なんですか!」

 俺は「ファイヤー」で丸焦げにした。
 この展開って、いるのだろうか。

 「石神さん!」
 「異世界だ。大丈夫だ。俺には経験がある」
 「なんですか!」

 「羽虫!」

 目の前が光った。

 「なんですか、これ!」

 柳がパニクっている。
 
 「おい、また呼んだのか」
 「うーん、ちょっとばかり厄介な問題が」
 「今度はなんだ?」
 「世界樹がね、枯れそうなの」
 「あんだ、そりゃ?」

 羽虫はこの世界の魔素の源なのだと話した。
 エルフ族の森の奥にあるらしい。

 「枯れると不味いのか?」
 「だって、魔素の供給源だからね。枯れたら多分みんな死ぬ」
 「魔素って循環しないのか」
 「生命が吸って、消費するだけなの。君たちの概念では酸化するって感じ? それを回収して還元しているのが世界樹だと思えばいいよ」
 「超重要じゃん!」
 「そうだよ! だから呼んだの!」
 「俺たちに何とか出来んのかよ?」
 「分からない」
 「枯れた原因は?」
 「そっからお願いします!」
 「丸投げかよ!」
 「エヘヘヘ」

 羽虫に「ファイヤー」を撃ち込んだ。
 レジストしやがった。
 学習してやがる。

 「あのさ、今度はサービスするから!」
 「なんだよ?」
 「一つだけ、記憶をそれぞれ残してあげる」
 「ほんとか!」
 「異世界召喚そのものに関わるものはダメだけどね」
 「まあ、やってやろう」
 「お願い!」
 「それで、前回との時間はどうなんだ?」
 「ほぼ同じ。一ヶ月後って感じかな」
 「ここって、世界の危機が多いよなぁ」
 「アハハハハ!」


 羽虫が消えた。
 俺たちの遣り取りを黙って聞いていた柳に、俺は移動しながら説明した。

 「前に聖、その後で亜紀ちゃんと来たんだ」
 「そうなんですか!」

 ステータスを開かせ、柳の能力を見た。
 やはり一般の人間とは桁違いに高い。
 もちろん、聖や亜紀ちゃん、俺ほどではないが。

 歩きながら魔法の使い方を教えた。
 森の魔獣を難なく斃せる力はあったが、戦闘経験が無いため、危うい。
 なるべく柳に対応させながら移動した。

 



 「マイトレーヤ様!」

 物見台にいた見張りが俺を見つけた。
 すぐに門が開かれる。

 「また呼ばれたんだ。ああ、こいつは柳。俺の恋人だ」
 「ほんとですかぁー!」

 柳が喜んだ。
 俺たちは、亜紀ちゃんと住んだ家に入った。
 エルフたちが次々と食料や飲み物を持って来てくれる。

 「今回はそんなに長居するつもりはないんだ」
 「そんな、父上!」

 「なに?」
 「柳、気にするな! ここでは親しい目上のことをそう呼ぶんだ!」
 「そうなんですか」

 長老がやって来た。
 俺は世界樹のことを話した。

 「なんと! それは大変なことでございます!」
 「そうだよな。案内を頼めるか?」
 「分かりました。すぐに!」

 俺は準備が整う間、「大和煮」と遊んだ。
 俺が戻ったのをすぐに察知して来た。

 「カワイイですね!」
 「うちによく来る「ヤマト」に似てるだろ?」
 「ほんとですね!」
 
 柳にもすぐに慣れて甘えた。
 カワイイ。

 準備が出来たと呼ばれた。

 「父上! 私たちがご案内します!」
 
 三人のエルフの若い男が言った。
 
 「あー、俺って結構尊敬されちゃってるからさー」
 「凄いですね!」

 柳はチョロイ。
 亜紀ちゃんは大変だった。





 俺と亜紀ちゃんが「シエル」と名付けた飛行機械に乗って、すぐに世界樹の下に着いた。

 「おい」
 「なんでしょうか、父上!」
 「これなのか?」
 「そうです!」

 高さ2メートルほどの松のような樹だった。
 太さは30センチ程か。

 「世界樹って、雲の上まで伸びてんじゃねぇのかよ!」
 「いえ、このサイズですけど」
 「これで世界中の魔素を賄うのか!」
 「そうらしいですね」

 「……」

 ならしょうがねぇ。
 見ると、所々葉が茶色くなっている。

 「枝を払ってねぇから、陽の当たりが悪いんだろうよ」
 「え!」
 「ほら、ここの枯れた部分って、上の葉が日光を遮ってんだろ?」
 「言われてみれば!」
 
 エルフたちは、すぐに剪定の達人を呼んで来ると言った。
 すぐに連れて来た。
 年を経たエルフに見えた。

 「息子よ!」
 「おい!」

 俺の大好きなナスターシャ・キンスキー似のエルフの父親らしい。
 柳が俺を見ている。

 「あのさ、俺みたいなカッチョイイ人族の男を「息子」って呼ぶんだよ、ここでは!」
 「……」

 やってられねぇ。
 すぐに剪定させた。
 柳も手伝う。

 俺はヒマなので、その辺の魔獣を狩った。

 剪定の達人親父は腐葉土を探すように俺の子どもたちに言い、時々様子を見に来ると言ってくれた。
 俺たちは、エルフの里に戻り、「大和煮」と少し遊んでから帰ることにした。

 「まあ、また来るよ、多分」
 「ちちうえー!」

 大勢の若いエルフたちが別れを惜しんでくれた。
 どいつが俺の娘なのか、覚えようとしたが、多くて分からなかった。
 今度来た時には注意せねば。

 


 森に出て羽虫を呼んだ。

 「おい、これでもういいだろう!」
 「あんがとー」
 「じゃあ、すぐに戻せ!」
 「うん! でもその前に約束の記憶ね!」

 羽虫は翅から鱗粉のようなものを俺たちの頭に振りかけた。

 「あんたには超強力な魔法陣をあげるね」
 「ほんとか!」
 「出力が入力の百倍になるんだから!」
 「すっげぇな!」

 「オッパイの小さいお姉さんには」
 「余計なお世話ですよ!」
 「剪定のスキルを上げるね」
 「ほんとですか!」

 「じゃあ、帰すね! いつもありがとう!」
 「おう! もう呼ぶなよ!」
 「アハハハハハ!」








 柳がもう一度庭を見たいと言った。
 二人で外に出た。
 柳が剪定鋏を手にしていた。
 いきなり、枝を刈り始める。

 「おい、大丈夫かよ?」
 「ええ、何となく出来る気がして」

 見ていると、ちゃんと刈り込んでいる。

 「へぇー! 意外な才能だな!」
 「エヘヘヘヘ」

 俺も何か出来るような気がした。
 目の前に魔法陣を描いた。

 「あれ、これって」




 ルーとハーが開発したものだった。

 「なんだ、知ってるじゃん」

 何かモヤモヤとした。  
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