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双子の修学旅行

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 5月最後の土曜日の夜。
 俺は亜紀ちゃん、柳とのんびり酒を飲んでいた。
 先週行った青森の話などをしていた。

 「早乙女の方でも、ようやくセクションの立ち上げが正式に認められ、外部の人間を取り込むことが出来るようになったんだ」
 「じゃあ、ついに警察も超常現象の敵を認めたってことですね」
 「そうだ。俺たちが提示した資料もそうだけど、決定的だったのは「デミウルゴス」だな」
 「渋谷で大騒ぎでしたもんね」
 「ああ、警察官に犠牲が何人も出たからな」

 俺と亜紀ちゃんが話し、柳は黙って聞いていた。

 「警察という組織は、身内に何かあると本気で動き出すんだ」
 「そうなんですか」
 「警察官は拳銃を所持しているけど、昔は絶対に使えなかったんだよ」
 「どういうことです?」
 「まあ、戦後の武器に対する激しい拒絶反応のせいでな。市民に向けて撃ってはいけなかった。本当に厳しい規定があったんだよ」
 「へぇー、はふはふ」
 
 亜紀ちゃんは熱い唐揚げを口に入れた。

 「大阪だったと思うけど、刃物を持った犯人の前に一人の警察官が立った。何人かが刺され、倒れている。その警察官は拳銃を抜いた。でも規定で発砲出来ないんだ。抜いた所で警告、その次に空へ向かって威嚇射撃。それでもまだ撃てない。犯人の足元へまた威嚇射撃。そこまでやって、ようやく犯人の足を狙える」
 「そんなんじゃ、逃げちゃうじゃないですか」
 「その警察官は何か所も刺されて死んだ」
 「「!」」

 亜紀ちゃんと一緒に柳も驚いている。

 「瀕死になっても尚、犯人を捕まえようとした。そして死んだ。それから警察内部で猛然と銃の規定の見直しの声が上がった。今でも厳しいけど、やっと凶悪犯を撃てるようにはなったんだよ」
 「じゃあ、渋谷の「デミウルゴス」の件が」
 「そうだ。対抗手段の必要性を警察自身が身をもって知った。拳銃の無効が証明されたからな」

 「十河さんたちは、警察官になるんですか?」

 柳が聞いて来た。

 「今のところはまだ、市民の協力者という形だ。法改正が必要だからな。そうすれば、決まった身分になる。まあ、それでも早乙女のやることは変わらないけどな。もう自分のチームを率いて動き出すだろうよ」
 「今も「太陽界」の信者を中心に、「デミウルゴス」の被害がありますもんね」

 散発的だが、全国で「デミウルゴス」による怪物化事件が起きていた。
 俺たちは秘密裏に現場へ行き、怪物を狩っている。
 もちろん、その後は警察へ任せる。

 「そうだ。今は俺たちが狩っているが、そのうちに早乙女のチームで対応できるようになるだろう」
 「今も全部早乙女さんの成績になってますもんね」
 「そうだ。渋谷の事件を俺と早乙女で解決したからな。機密扱いだが、俺たちが動けるようになった。早乙女の警察での立場も高く評価されているだろうよ」
 「タカさん、嬉しそうですね」

 亜紀ちゃんが言った。

 双子が来た。

 「タカさん、忘れちゃってた」

 ルーが封筒を俺に渡す。

 「なんだ?」
 「修学旅行のお知らせ」
 「ああ、そんなこと言ってたな。日光に一泊だっけ?」
 「それがね、変更になったの」
 「そうなのか」

 俺は封筒から印刷された紙を出した。
 亜紀ちゃんと柳も俺の背中に回って覗き込む。

 「「「ワイハー!」」」

 双子がニコニコしている。

 「なんでハワイなんだよ!」
 「二泊ですよ!」
 「いーなー」

 「旅行の積み立ては、毎月1000円だっただろう!」
 「うん」
 「ハワイなんて行けるわけねぇ! お前らがやったんだな!」
 「そうだよ」

 悪びれてねぇ。

 「どういうことか説明しろ」
 「うん。旅行会社にお金を渡してね。学校への請求はほんの一部にして。先生たちもすぐに説得して」
 「おい」
 「「……」」

 まあ、別に構わない。
 俺にちゃんと話してくれるなら、あとは好きにやればいい。

 「でも、ハワイなんて興味あったのかよ」
 「うーん。それほどだけどさ」
 「観光旅行なんて、今のうちかなって」
 「!」

 こいつらは、時代の流れを読んでいる。
 「デミウルゴス」の件は、「業」との戦争が現実に始まりつつあるという証だ。

 「そうか、じゃあ楽しんで来い!」
 「「うん!」」

 俺は双子の頭を撫でてやった。
 随分と大きくなったもんだ。
 もう170センチ近い。
 中学に入ったら、亜紀ちゃんを抜くかもしれない。
 双子は俺たちのつまみを口に頬張りながら部屋へ戻った。
 亜紀ちゃんが怒っていた。

 俺は通知の2枚目の、行程表を見た。

 「あんだ、こりゃ」

 また亜紀ちゃんと柳が覗き込む。

 宿泊:ザ・リッツカールトン・レジデンス ワイキキビーチ(一部スイート・ルーム使用)
 ワイキキビーチ(石神瑠璃・玻璃さんによるサーフボード・ショーあり)
 KCCマーケット・ツアー 
 カネオヘ・サンドバー・ツアー
 フラダンス・ショー(ルアウ)
 アラモアナ・ショッピングセンター・ツアー
 ワイオル・オーシャンビュー・ラウンジ食べ放題ツアー
 カポレイ・ゴルフ(先生方と希望者)
 GSツアー(希望者のみ)

 「最高級ホテルですよね?」
 「スイート・ルームって、確実にルーちゃんとハーちゃんですよね」
 「あの子たち、サーフィンなんて出来ましたっけ?」
 「ほら、スケボーの時のだろうよ」
 「あ、ああー!」

 「なんか、どういう大騒ぎをするのか、目に浮かぶようだよな」
 「ほんとに」
 「観光がほとんどありませんよね?」
 「あいつらが興味ねぇんだろうよ」
 「下手に行って、歴史遺産とか壊してもアレですしね」
 「ダイヤモンドヘッド消失とかなぁ」
 「先生方も買収されてますね」
 「抜かりねぇよなぁ」
 「最後の「GSツアー」って、なんでしょうね?」

 「ガン・シューティングだろうよ」
 「「エェッー!」」

 皇紀が飲み物を取りに来た。

 「おい! お前は修学旅行っていつだ?」
 「はい、中学は特に無いようです」

 「前に事件があったらしいんですよ」
 
 亜紀ちゃんが説明した。

 「お前! 何やったんだ!」
 「私じゃないですよー!」

 ならいい。
 亜紀ちゃんカワイイのに、とか亜紀ちゃんが言っているので頭を引っぱたいた。

 「双子はハワイらしいぞ?」
 「はい、聞いてます」
 「俺たちはさっきだぞ!」
 「そうだったんですか! でも、なんか楽しそうに計画練ってましたよ?」
 「まったく」

 まあ、楽しんで来てくれればいい。






 六月の第二週の水曜日。
 ルーとハーは元気に出掛けて行った。
 俺の買ってやったグローブトロッターのでかいケースを抱えて。

 俺たちは、ほんのちょっぴり寂しくなった。
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