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青森の一夜

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 俺は市内の寿司屋で昼食を食べ、十和田湖へ行ってみた。
 火山口に出来たカルデラ湖とされている。
 湖の周囲に自動車道が巡り、俺は適当な所で車を停めて、湖に向かった。
 
 どこで十河さんとご両親が襲われたのかは分からない。
 俺は途中で見つけた観音像に手を合わせて帰った。




 木村の家に戻ったのは3時くらいだった。
 用事は済んだので、今日このまま帰ろうと思ったが、木村に泊って行って欲しいと懇願された。

 「久しぶりに会えたんだからな。ゆっくり話がしたいよ」
 「それもそうだな」

 俺も木村と話したかった。
 俺は用意された部屋に入り、少し休ませてもらった。
 6時過ぎに、輝美さんが夕食を呼びに来た。

 夕食は、また新鮮な魚介類と、十和田湖のヒメマスがあった。

 「木村のお陰で、全部上手く行ったよ」
 「そうか、良かったな」
 「ああ、本当にありがとう」

 俺は食事をしている木村の子どもたちを見た。
 笑って話しながら食べている。

 「おい、どうした?」
 「俺が山中の4人の子どもを引き取っただろ?」
 「ああ、そうだったな! 驚いたぞ」
 「すっかり馴染んでくれたんだけどなぁ。食事が大騒ぎなんだ」
 「そうか。元気でいいじゃないか」

 俺が肉の奪い合いで殴る蹴るなのだと言うと、笑われた。

 「そりゃ、石神の子どもになったということじゃないか」
 「俺は他人の食事を奪ったことはねぇ!」

 みんなに笑われた。
 木村は俺が大学で喧嘩三昧で、飲みに行くと酒を飲みに来たのか喧嘩をしに来たのか分からなかったと言った。

 「おい! そんなこはねぇだろう!」
 「何を言ってる。お前、よく絡まれてすぐに喧嘩だったじゃないか」
 「やめてくれよー」
 「新宿でさ。ヤクザの女がお前に一目惚れしちゃって」
 「あー、あったな」
 「俺たちも知らないから一緒に飲んでたけどさ。後から組員が押しかけて来て」
 「そうだったなー」
 「お前が全部ぶちのめしたよな!」
 「そうだけどさー」

 みんなが笑っている。

 「お前、強かったよな!」
 「そんなことはないよ」

 俺も話した。

 「木村は昔から優しい奴だったよな」
 「なんだよ?」
 「ほら、輝美さんが風邪ひいたって時にさ。「テルちゃんが熱だしちゃったんだよー」って、泣きべそかいてたよな!」
 「お前! 子どもの前で何を言う!」
 「俺と御堂で解熱剤持って行ったら、すぐに良くなってな。そうしたらお前が風邪でぶっ倒れた」
 
 みんなが大笑いした。
 
 「石神、やめてくれ」
 「こいつ、自分が高熱を出してるって気付いてなかったんですよ。輝美さんの心配だけで。輝美さん、こいつは昔から輝美さんにぞっこんだったんですよ」
 「はい」

 俺は木村のご両親に酌をしに行った。

 「木村には、今回本当に世話になりました」
 「いや、いいんだ。石神さんのお役に立てたのなら」
 「帰ったら、改めてお礼を」
 「必要無いよ、本当に。倅は数年前に石神さんの活躍を知って、そりゃ興奮してた」
 「俺の活躍?」
 「ほら。外国人の少女のオペをしたでしょう」
 「ああ!」

 響子のことだ。

 「ニュースで知ってね。自分の友達なんだってみんなに自慢してた。学生時代から、他人とは違う特別な人間なんだって」
 「そんな!」
 「それから仕事に一層身を入れるようになってね。石神さんのお陰だ」
 「全然、俺なんて。木村は学生時代から、決めたことは絶対に貫くって奴でしたからね。今でもそうなんでしょう」
 
 



 食事の後、俺は木村に誘われて外に飲みに行った。
 木村の家の近くに、スナックがある。
 小学生からの同級生が経営しているのだと言った。

 「いらっしゃーい! あら、今日は随分と素敵な方と一緒ね!」
 「大学の同級生の石神だ。どうだ、いい男だろう!」
 「ほんとに!」

 俺は幼馴染のスナック経営者を「美也」と紹介された。
 カウンターのスツールに座る。

 「木村のセフレでーす!」
 「おい!」

 きつい冗談に俺も笑顔を浮かべるしかなかった。
 身長は160センチほどで、綺麗な顔立ちだった。
 少しきつめだが、笑うと優しさが滲んでくる。
 長い黒髪が美しかった。

 「俺のオアシスなんだ。家じゃ口に出来ない愚痴も、ここなら大丈夫だからな」
 「そうか」
 「この店は木村が出してくれたの」
 「そうなんだ」
 「だから、身体で払ってるわけ」
 「アハハハハ」

 木村も苦笑いしていた。

 「俺が必要だったからさ。美也には世話になってるんだ」
 
 木村のボトルで飲んだ。
 残りが少なかったため、すぐに空いてしまった。

 「美也、この店で一番いい酒はなんだっけ?」
 「えー! あんまりいいのは。オールドパーかなぁ」
 「じゃあ、それを」
 「いいの!」

 俺は棚にヘネシーのいい物が置いてあるのを見た。
 美也が気を遣ったのだろう。

 「じゃんじゃん飲もうね!」
 「俺たちで飲むんだよ!」
 「いいじゃない! 私も滅多に飲めないんだから」

 木村は笑って美也に水割りを作った。

 「こいつ、学生時代に女にモテモテだったんだよ」
 「へー! 良く分かる!」
 「いつも石神の後ろを女たちが行列作ってな。学食なんか大変だったよなぁ」
 「昔のことだし、それほどでもなかったよ」
 「嘘つけ! ファンクラブなんかもあったじゃないか」
 「あれは一時的なものだよ」
 
 美也が笑った。

 「あれ、独身なの?」
 
 俺の指を見たらしい。
 
 「そうだよ。でも子どもが4人いる」
 「え?」

 木村が俺が山中の子どもたちを引き取った話をした。

 「あ! あと一人と5匹!」
 「?」

 俺は栞との子どもの話をした。

 「あの花岡さんかよ!」
 「そうだ」
 「お前ぇー! 羨ましいな!」
 「何言ってやがる」
 「結婚は?」
 「今のところ予定はない。栞は特殊な家柄だからな」

 俺は格式のある拳法の家系なのだと説明した。
 
 「えーと、5匹って?」
 「そっちは、冗談だから!」

 言っても信じないだろう。
 俺たちが学生時代の話をしていると、木村の奥さんの輝美さんが来た。

 「テルミン! いらっしゃーい!」

 美也が笑顔で迎え、木村の隣のスツールを勧めた。
 木村が何を飲むかと聞いていた。
 仲のいい夫婦だ。
 輝美さんは冷酒をもらった。
 酒が強いようだ。

 「美也、石神はさ。俺たちの恩人なんだ」
 「そうなの!」
 「よせよ」

 俺は木村を止めた。
 しかし、木村は最初からその話をしたかったようだ。
 だからきっと輝美さんも来たのだろう。




 「美也が大学の門で俺を待っていたんだ」

 木村が話し出した。 
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