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ガンバレ! 麗星ちゃん!

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 少し遡り、早乙女と雪野さんを送って行った木曜日。
 俺はその足でそのまま羽田空港へ向かい、麗星を迎えに行った。

 「石神さーん!」

 麗星は嬉しそうに笑いながら俺に手を振って来た。
 仕方が無いので、俺も小さく手を振る。

 ニコニコして傍に駆け寄り、俺に抱き着く。
 俺も毎回遠い所をすぐに駆けつけてくれる麗星を邪険には出来ない。
 軽く抱き寄せた。
 唇を奪われた。
 濃厚な、舌をこねくり回すようなキスをされた。

 「ちょっと!」

 俺が引き離すと、麗星は口の周りを舌で舐め上げた。

 「やっとお会い出来ました」
 「ご苦労様です」

 俺はトランクを持ち、麗星と並んで歩いた。
 麗星は薄紫の地に青い菖蒲を描いた着物を着ていた。
 麗星ほどになると、旅行で着物を着るくらいはどうということもない。
 洋装で来ることもあるが、恐らくは普段着ないものを着たいということなのだろう。
 基本的に、屋敷では着物だ。

 「詳しい話は家に着いてからで。その前に食事は如何ですか?」
 「ステーキ!」

 手を挙げて叫んだ。
 俺は笑って伝えた。
 
 「寿司屋を予約しているんですが、もしステーキが宜しければそちらへ」
 
 麗星は少し考えていた。

 「ザギンですか?」
 「そうです」
 「ザギンでシースー!」
 「分かりました」

 俺は笑ってハマーを出した。
 一旦病院へ停める。
 そこからタクシーで行くのが一番いい。
 銀座で俺の改造ハマーを停める場所はほとんどない。

 行きつけの店に入った。

 「お好きなものをどうぞ」

 カウンターで麗星がニコニコしている。

 「大トロを10貫とウニを6貫、イクラを……」

 俺はマグロの赤身とヒラメ、アワビ、それにお任せで握ってもらった。
 麗星はどんどん食べるが、やはり所作が美しい。
 まあ、食べる量は凄いが。

 酒を勧めたが、これから真剣な話をするということで断られた。

 50貫も食べて、最後に椀物を味わってから店を出た。
 俺はミキモトに連れて行った。

 「車を取って来ますから、ここでお好きな物を選んでいて下さい。プレゼントしますよ」
 「本当でございますか!」
 「もちろんです。麗星さんには、いつもいろいろ頂いてばかりですから」
 「では、見させていただきますね!」
 「ご遠慮なく、気に入ったものを選んで下さい」

 俺はタクシーに乗って病院へ行き、ハマーで戻った。
 30分も掛からない。

 ミキモトの前で、麗星が待っていた。

 「どんなものにしました?」
 「いえ、特に気に入るものがなくて」
 「そんな、じゃあ一緒に選びましょうか?」
 
 麗星がニッコリと笑った。

 「今度また。今日はお宅へ参りましょう」
 「そうですか」

 何か選んでくれるかと思っていたが。

 



 車内で、麗星は大人しかった。

 「東京はやはり違いますね」
 「麗星さんのお宅のような、物静かな雰囲気はありませんね」
 「いいえ。東京は活気に溢れています。わたくしのような女には眩しいくらい」
 「麗星さんが歩けば、みんな見惚れて行きますよ」
 「そうでしょうか」

 幽かに微笑んで、俺を見た。

 「わたくしは、石神様に見ていただければ、それで」
 「俺もいつも見惚れていますよ」

 麗星が嬉しそうに笑った。
 本当に美しい女だった。




 家に着くと、子どもたちは夕飯を終えていた。
 子どもたちに挨拶させ、麗星を地下へ案内する。
 俺は皇紀に言って、蓮花の研究所から送られた資料を印刷して来いと命じた。
 その間に、麗星に事の詳細と早乙女が持って来た資料を見せる。

 「間違いなく、人間をあやかしと融合させるためのものですね」
 「そうですか」
 
 蓮花の研究所で撮影された化け物化した写真を見た。

 「ダイダイダラボッチャンですね」
 「はい?」
 「低級なあやかしです」
 「適当に言ってません?」

 麗星が俺を見た。

 「何を仰いますか」
 「もう一度名前を」
 「……」

 「麗星さん?」
 「何度もこの名前を呼ぶのは危険です」
 「そうなんですか」
 「はい」

 低級だと言っていたが。

 「では、どのようなあやかしなのでしょうか」
 「女性の股間を舐めるのが大好きです」
 「え?」
 「ああ!」
 「どうしました!」
 「油断しました! 写真から精神攻撃を仕掛けられました!」
 「大丈夫ですか?」
 「いいえ! 石神様!」
 「はい」

 「わたくしの股間をペロペロして下さい!」
 「なんですって?」
 「そうすれば逃げていきます」
 「誰が」
 「名前は言えません!」
 「ダイダラドンボッチ?」
 「それです」

 「タヌ吉!」
 「はい、主様」
 「麗星さんが攻撃されたそうだ。「地獄道」で何とかしてくれ」

 「石神様!」
 「はい」
 「なんとかわたくしが祓いました!」
 「そうですか」
 「ペロペロは無用です」
 「良かったですね」
 「はい!」

 疲れた。

 「そう言えば、シャワーも浴びていませんでした」
 「ああ、先に風呂に入りますか?」
 「石神様は、匂いがきついのもお好きですか?」
 「はい?」
 「いいえ。そうですね。一度、お風呂を頂いても宜しいですか?」
 「もちろん」

 麗星を風呂に案内し、俺もその後で入った。
 何かおかしい。
 俺の勘がそう訴えていた。
 殺意は無いので、よくは分からない。

 気にせずに風呂に浸かった。
 その瞬間、身体が動かなくなった。

 浴室のドアが開く。
 麗星が入って来た。
 もちろん裸だ。

 「フフフ、石神様。これでやっと」

 声も出ない。
 麗星は近付いて来て、俺の股間を持ち上げる。

 「いつ見てもご立派な! 今わたくしのウルテクで!」

 俺の身体を軽々と抱えた。
 俺は洗い場に横たえられた。
 麗星の手と口でそそり立って行く。

 「さあ、石神様! いよいよ頂きますね!」

 俺は体内の気を丹田に集中した。
 呼吸は出来る。

 瞬間に身体が動き、麗星を跳ね飛ばした。
 浴室のドアを開けた。

 「ロボー!」

 ロボが走って来た。

 「麗星さんを眠らせてくれ」
 「にゃ!」

 ズボッ。

 「ニャホフー!」

 麗星はぐったりとなった。

 「まったく、こいつは何しに来たんだか」





 後日、来栖嵐山の神通力で身体の自由を奪われた。
 早乙女は何も出来なかったが、俺は自由に話せたし、実は身体も動いた。
 それは、麗星の金縛りの経験から会得したものだった。

 本当に不思議に思うが、麗星がやるすべては、俺の危機を救ってくれる。

 俺も、あの美しく明るく楽しい女を心の底から愛しているのだが。
 でも、まだその愛を伝えられずにいる。

 俺が悪いのだろうか……。
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