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武神ピーポン(予告編)

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 「皇紀くん、大丈夫ですかね」
 
 雪野さんが心配して言った。

 「平気ですよ! うちにはチンコが腫れたくらいで寝込むヤワはいません」
 「ウフフフフ」

 亜紀ちゃんが俺に断って、士王の写真を持って来た。
 早乙女たちが喜んで見る。

 「なんでタカさんはあんまり人に見せないんですか?」
 「だってよ、カワイ過ぎるだろう?」
 「まあ、それは」
 「これから子どもが生まれる早乙女たちが可哀そうじゃないか」
 「はい?」
 「どうしたって、士王よりは可愛くない。自分の子どもを見て、そう思いたくないだろう」

 雪野さんが笑った。

 「それに、俺が自分の子どもの写真を見せまくったら、親バカだと思われるだろう」
 「いえ、それはもう十分に」

 みんなが笑った。

 「まあ、冗談だけど、やっぱり自分の子どもはカワイイよ。こいつらがうちに来てくれてから、やっとそういうことが分かった」
 「タカさん……」

 「柳なんかも可愛かったけどな。それも御堂の子だからだ。俺の大事な人間だったからな」
 「はい」
 「今じゃ夜這いまでかける人間になっちまったからな」
 「石神さん! もう勘弁してください!」




 早乙女が俺のギターを聴きたがった。
 亜紀ちゃんが地下から持って来る。

 俺はトム・ウェイツの『fumblin' with the blues』を歌った。

 ♪ Friday left me fumblin' with the blues And it's hard to win when you always lose ♪

 拍手された。

 「また知らない歌を!」

 亜紀ちゃんが言う。

 「お前らって何にも知らないんだよな」
 「だって!」
 「俺から与えられるものばっかでよ。皇紀なんかも俺のDVDばっかじゃない」
 「あぁー! 早乙女さん、この人逮捕して下さい!」
 「なんだ!」
 「この人、AVに出演なんてしてたんですよ!」
 「違法じゃねぇ!」
 「ギルティー!」
 
 掴み合うのを柳に止められた。
 雪野さんが大笑いしていた。
 
 「「ペロペロしてあげるね」とか言ってるんですよ!」
 「柳、ペロペロしてやるぞ」

 柳が真っ赤になった。
 亜紀ちゃんに頭をはたかれた。

 「石神、子どもにそういうのを見せるのはあまり……」
 「見せてねぇ! まあ、お前には見せたかったかもだけどな」
 「私が壊しましたからね!」

 まあ、興味があるなら一枚やろう。
 夫婦生活の参考にして欲しい。

 「でも、今の曲、素敵でしたよね!」
 
 柳が話題を変えるために言った。

 「そうだろう。俺の大好きな曲だからな。トム・ウェイツというのは、何と言うか「悪の魅力」があるんだよ。お上品さを否定して、下流の悲しみを謳い上げたものが多いんだ」
 「そうなんですか」
 「でもな、その中での生き方は高貴よ。ダメな人間のままでどこまでも行こうというな」
 「石神さんは上流ですけどね」
 「柳! バナナジュース飲む?」
 「はい、いただきます!」

 俺はジューサーで作って柳と雪野さんに渡す。
 柳がスマホでトム・ウェイツの画像を検索していた。

 「あ! 渋いですね!」
 「そうだろう。もう、音楽が死ぬほど好きで、ロマンティストだっていうのが分かる顔だよな」
 「へぇー!」

 俺は地下からCDを持って来て、リヴィングのステレオで流した。
 しゃがれた独特の歌声が響く。

 「いいー!」
 
 亜紀ちゃんが興奮する。
 ロボが踊りたがったが、今一つ何かを掴み損ねていた。
 そのうち諦めて「あーん」をしそうになったので、慌てて止めた。
 
 「石神の家はいつ来ても楽しいな」
 「何言ってる。お前なんか、雪野さんの顔を見れば幸せなんだろうよ」
 「それはそうだが」
 「まあ、そのうちにここと近くなるんだ。いつでも来いよ」
 
 早乙女達を説得し、この家の近くに今新居を建てている。
 もちろん、防衛システム付きだ。

 「ああ、その話なんだが、やっぱり必要なのか?」
 「当然だ。お前は「対妖魔部隊」の指揮官になる。そっちの方だけでもヤバイだろうよ」
 「そうか」
 「雪野さんと子どもたちを守るためだ。納得しろ」
 「分かった。悪かった、何度もお前に」
 「いいって」

 早乙女が雪野さんと微笑み合った。

 「タカさん」
 「なんだ?」
 「早乙女さんのお宅ってどの辺に?」

 俺は区画の場所を教えた。

 「ああ、あそこですか。結構広いですよね?」
 「そうだな」
 「おい、どれくらいあるんだ?」
 「まあ、ちょっと個人宅には広いけどな。でも防衛システムを組み込むとどうしてもな」
 「そうか。あまり派手にはしないでくれな」
 「もちろんだ」

 俺たちはそろそろ解散しようと言った。
 俺は気になって皇紀の部屋をノックした。

 「ちょ、ちょっと待って下さい!」
 「いや、ならいいんだ」
 「はい?」

 ちゃんとやってるらしいからいい。
 落ち込んではいない。

 俺はロボとぐっすり寝た。




 三か月後。
 早乙女の新居が完成した。
 早乙女と雪野さんを案内した。

 「おい、石神!」
 「おう」
 「なんだ、これは!」

 二人が驚いている。

 「お宅は何階建てですか、って聞かれてさ。「8階建てですよ」って答えるとカッコイイよな!」
 「おい、お前!」
 「地下は2階な」
 「なんだと!」

 二人が呆然としていた。

 「ところでさ」
 「あんだよ」
 「まあ、でかい建物はまだ分かるよ」
 「うん」
 「隣にいる、あのでかいロボットはなんだ!」
 
 家屋の脇に、全長8メートルの人型ロボットがいる。
 全身が黒い金属で覆われ、数々の凶悪な武装がある。
 顔も髑髏で、額からでかい角が生えている。

 「防衛システムの一つな。俺と蓮花は「武神ピーポン」と名付けた」
 「ぶしん……」
 「大丈夫だよ。普段はただの置物に見えるから」
 「……」

 雪野さんが卒倒しそうになったので、俺は案内を途中でやめた。

 
 
 

 
 また今度、ちゃんと説明しよう。
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