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魁! 野球拳

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 陽子さんが帰った翌日の水曜日の午後。
 柳も実家から戻って来た。

 「御堂家のみなさんは変わりないか?」
 「はい! おじいちゃんが、みんなに来て欲しいって言ってました」
 「そうか。夏には行くからな」
 「お願いします!」

 みんなでお茶にする。

 「おい、柳。御堂のことを三時間くらい話せ」
 「無理ですよ!」

 つまらん奴だ。

 「なんだよ。ちょっと背が伸びたとかねぇのか」
 「伸びませんから!」
 「髭を生やしてないか?」
 「全然!」
 「妹が出来た!」
 「できません!」

 「じゃあ、俺のことで何を話したのか言え」
 「え、別に何も。私が元気そうで良かったとしか」
 「俺の話題が出なかったのか!」
 「はい」
 
 大変なことになった。

 「柳、そこは御堂家じゃねぇ。「迷い家」っていうのがあってだな。お前はそこに迷い込んだんだ」
 「ちゃんとうちでしたよ!」

 「みんな構えろ! 油断するな! こいつはもう柳じゃねぇかもしれねぇ!」
 「やめてください! なんでお父さんが石神さんの話をしないとこんなに!」
 
 柳がテーブルを軽く叩き、ケーキのフォークが指に当たって跳ねた。
 ネコ用ジャーキーを噛んでいたロボの頭に当たる。

 「フッシャァー!」

 ロボが怒り、「三分身地獄スクリュー・キック」を柳に見舞った。
 三体に分かれたロボの足が柳の顔面に突き刺さる。
 柳が吹っ飛ぶ。

 「ああ、本物の柳だ!」
 「なんでぇー!」

 子どもたちが笑った。
 ロボがトコトコと俺の所へ来て、頭を見せる。
 ちょっとついたケーキを拭ってやった。




 早乙女たちが遊びに来た。
 早乙女は今日から今週一杯休みらしい。
 雪野さんは先月会社を辞めている。

 「ああ、ケーキを買って来たんだが、もう食べていたか」
 「いいよ。どうせ子どもたちは幾らでも喰うんだからな」
 
 雪野さんが笑って俺に手渡してくれた。
 夕飯を食べて行けと言うと、早乙女が遠慮した。

 「ちょっと顔を出しただけだから」
 「何言ってんだよ。俺がお前らを帰すわけねぇだろう」
 
 早乙女が嬉しそうに笑って、じゃあご馳走になると言った。
 俺は早乙女たちとソファに移動し、ニューヨーク、アラスカでのことを話した。
 
 「そのうちにアラスカに二人とも誘うけどな。完成はしていないが、もうどんな攻撃も防げるだろう」
 
 俺はヘッジホッグの写真を見せた。

 「凄いな。どういうものかはまったく想像も出来ないが」
 「一つ一つが強力な攻撃兵器だ。レールガンやレーザーもあるが、もっととんでもないものもある」
 
 夕暮れに逆光で撮ったものだ。
 だからヘッジホッグの無数の砲塔は黒いシルエットになっている。

 「でも、恐ろしいけど綺麗だな」
 「この写真はどなたが?」
 「ああ、俺ですよ」
 「石神さんは何をやっても上手いですよね」
 「おい、早乙女! 今日はステーキを喰わせてやる!」
 「お前の家はいつもそうだろう!」
 「アハハハハ!」




 夕飯はステーキだったが、早乙女夫妻のために俺がリゾットを作った。
 野菜やハムを同じ大きさのキューブに切り揃え、火の通りが均等になるように、順番に分けて入れた。
 二人が感動してくれる。
 子どもたちも食べたがったが、生憎面倒なので量がない。
 二口ずつ分けてやった。

 早乙女たちが帰ろうとするので、当然止めて泊まらせた。

 「早乙女さーん! また野球やりましょうよ!」

 食後のコーヒーを飲みながら、亜紀ちゃんが言った。

 「いや、それは……」

 当然早乙女は困っている。
 前回、相手チームを殺し掛けたからだ。

 「じゃあ、野球拳でもやるか」

 俺がジョークのつもりで言った。

 「「「「「「?」」」」」」

 早乙女以外、誰も知らなかった。

 「お前ら! 知らないにも程があるぞ!」

 俺は自分のジョークが滑ったので怒った。
 しょうがないんで説明してやる。
 早乙女と二人で実演した。

 「二人でジャンケンをするんだ。負けた方が服を一枚脱ぐのな」

 ♪ やーきゅーうーすーるなら こういうぐあいにしやさんせ アウト! セーフ! よよいのよい! ♪

 「なるほど!」
 「面白いですね!」
 
 みんなすぐに理解した。
 俺も滑りを喰い止められて満足した。




 俺は蓮花と打ち合わせがあったので、早乙女や子どもたちに先に風呂に入るように言った。
 自室で電話で蓮花と話す。
 ジェシカ・ローゼンハイムのことを話す。
 蓮花は何度も俺に礼を言って来た。
 その後も左門と陽子さんの旦那さんのことを話し、幾つか電話をした。
 風呂に入り、上がるとリヴィングが騒がしい。

 「おい、何を……」

 ♪ やーきゅーうーすーるなら こういうぐあいにしやさんせ アウト! セーフ! よよいのよい! ♪

 「……」

 既に早乙女と皇紀がパンツ一枚になり、柳は上下の下着、双子が全裸だった。

 「お前ら!」
 「タカさんがきたー!」
 「裸の王様だぁー!」
 「ちげぇよ!」

 亜紀ちゃんが寄って来て、やってみたら楽しかったと言った。

 「おい、お客さんがいるだろう!」
 「いいじゃないですか、親友のご夫婦なんですから」

 それを聞いて早乙女が喜んだ。

 「ほら、石神もやろう!」
 「おい!」

 俺は無理矢理立たされ、亜紀ちゃんと勝負した。

 ♪ やーきゅーうーすーるなら ♪ 

 俺が勝ち、亜紀ちゃんが寝間着の上を脱いだ。

 「ちきしょー!」

 楽しかった。
 雪野さんまで参戦してきた。
 俺と勝負し、うちで貸した浴衣を脱いだ。
 上に何も着けていなかった。

 「ルー! 絆創膏!」
 「はい!」

 乳首に絆創膏を貼った。
 物凄くいやらしかった。

 俺たちが歌うと、ロボも踊り出した。
 こいつも楽しいらしい。
 既に全裸だが。

 ルーとハーが無敵の俺と勝負をしたがった。

 「お前らもう脱ぐもんないじゃん」

 墨でいたずら書きをすることにした。

 ♪ アウト! セーフ! よよいのよい! ♪

 二人とも負け、俺が胸まで伸びる陰毛を描いた。

 「「ギャハハハハハハ!」」

 双子以外の女性と早乙女はパンツまでとした。
 柳が絆創膏になり、垂れ下がったオッパイを描かれた。
 早乙女はパンツで、皇紀は全裸だ。

 俺と亜紀ちゃんの勝負になった。
 亜紀ちゃんは既にブラを残すのみ。
 俺は一枚も脱いでいない。

 ♪ アウト! セーフ! よよいのよい! ♪ 

 「なんだよー!」

 亜紀ちゃんが負けて悔しがった。

 「ルー! 絆創膏を貼ってやれ!」
 「はーい!」

 ルーが準備した。

 「あ」

 ハーが言った。
 なんだと、みんながハーを見る。
 ハーが指さしていた。
 皇紀のエレファントが鼻を伸ばしていた。

 「「「「「「「……」」」」」」」

 「さー! じゃあ今日はもう終わりだ! 亜紀ちゃん、酒の用意!」
 「は、はい!」
 「飲んで忘れようなー」

 「ごめんなさいー」

 皇紀が泣いた。
 しょうがねぇ、生理現象だ。
 双子に手を引かれて、三人は寝た。




 亜紀ちゃんがつまみに、ソーセージの先端に切れ目を入れた「オチンチン焼き」を作った。
 雪野さんが大笑いし、紅茶を吹き出した。
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