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南原陽子

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 ロックハート家から日本に戻り、今は日曜日の夜だ。
 9日間休暇を取っているので、来週いっぱいが休みだった。
 正月はスケジュールを入れ過ぎたと反省し、今は何も予定を組んでいない。
 ロックハート家だけを予定していた。

 柳は実家へ帰した。
 響子と六花も病院へ送っている。
 出前で寿司を取り、今は夜の11時だ。

 亜紀ちゃんと風呂に入った。

 「タカさん。明日からどうします?」
 「そうだよなぁ」
 「ちょっと予定を外し過ぎましたかね?」
 「そんなこと言うなよ。遊び過ぎは良くないぜ」
 「そうですけどねー」

 亜紀ちゃんはまた「ぐるぐる横回転」をしている。
 どういう修練か、もうほとんど波すら立たない。
 突起物が少ないせいだろうと、俺は分析していた。
 そう口にすると、亜紀ちゃんが立ち上がってこちらを向いた。
 
 「フン!」

 気合を込めると、ちょっと胸が膨らんだ。
 理屈は分からん。

 「Bカップになります」
 「すごいね」

 俺は拍手をした。

 「タカさん、キャンプとか!」
 「そうだなー」
 「御堂さんち!」
 「行きたいなー」
 「蓮花さんの研究所!」
 「あっちもそろそろなー」
 「あ! 「紅六花ビル」!」
 「会いたいなー」

 亜紀ちゃんが湯船に入った。

 「ノリ、悪いですね」

 ちょっと不満そうだ。

 「六花さんは?」
 「あいつは明日から出勤で、木曜からまた休暇だな」
 「響子ちゃんがいますもんね」
 「そうだ」

 亜紀ちゃんが考えている。
 実を言えば、俺にはやることが結構ある。
 今回のニューヨーク行きも、元々は俺がアメリカで会わなければならない人間たちと会うための目的だった。
 ついでに子どもたちを連れて行った。
 もちろん、響子を両親に会わせてやりたい気持ちもあった。
 それと、そろそろ子どもたちにアラスカを見せてやるつもりだったことだ。
 栞や士王にも会いたかっただろう。

 俺も聖やジャンニーニとゆっくり飲めて良かった。

 これからも、アメリカとの関係を詰めて行かなければならないし、国内でも警察や自衛隊との交渉もある。
 国内で「ヘッジホッグ」を作ることは出来ないが、それなりの拠点は必要だ。
 この家の周辺と、御堂の家の周辺、そして大阪にも拠点を築く予定をしている。
 六花の故郷も規模は小さいが拠点を築く。
 位置的には北海道や東北、中部地方、そして九州にも必要だろう。
 そしてゆくゆくはヨーロッパや中央アジアなどにも。
 ロシアが「業」の拠点となる可能性が高い。
 だからそれに対応する地域にも「ヘッジホッグ」のような拠点を作りたい。
 考えるべきことは無数にある。

 最も切実なのは人材だ。
 ジェシカが来てくれるのは有難いが、まだまだ足りない。
 アメリカで三つの研究機関と渡りを付けたので、皇紀と蓮花の負担は軽減してくだろう。
 しかし俺にも参謀と事務担当の人間が必要だ。
 一江にどちらかを担ってもらうこちになるだろう。
 
 亜紀ちゃんと風呂を出た。
 今後の予定は明日話そうと言った。




 翌朝。
 世間では暦通りでも、火曜日までは休みだった。
 朝食を食べ終えると、左門から電話が来た。

 「トラ兄さん! 予定通りに戻ったんだね?」
 「ああ。留守中変わりはないか?」
 「うん! それでね、姉さんが来たがってるんだよ」
 「そうか! 俺も会いたいな」
 「急なんだけど、今晩は空いてる?」
 「おい、本当に急だな。ああ、大丈夫だぞ。飛行機で来るのか」
 「そう。トラ兄さんの都合が悪ければ改めるつもりだったけど」
 「それなら呼んでくれよ。ああ、良ければうちに泊ってもらってもいいし」
 「ほんとに! じゃあ、そう伝えるよ!」
 「旦那さんも一緒か?」
 「いや、姐さんだけ。子どもも置いて来るってさ」
 「そうか、分かった。楽しみにしてると伝えてくれ」

 俺は電話を切った。
 
 「亜紀ちゃん!」
 「はーい!」

 洗い物をしながら亜紀ちゃんが返事する。

 「陽子さんが来るってよ」
 「え!」
 「今晩には着くだろう」
 「分かりましたー!」

 亜紀ちゃんが洗濯や掃除を始めた子どもたちに知らせに行った。
 全員が一度リヴィングに集まった。

 「急なんだけどな。今晩来てうちに泊まっていただくから、そのつもりでな」
 「「「「はい!」」」」

 「タカさん、夕飯はメザシですか?」
 「ばかやろう! カニ鍋にしろ!」
 「はーい!」
 
 俺はその他のメニューを決めて伝えた。
 これから子どもたちが手分けしてデパートにカニを買い漁りに行く。
 忙しくなった。

 「伊勢海老も買い占めろ!」
 「「「「はい!」」」」
 「ステーキは喰い飽きたよな!」
 「「「「いいえ!」」」」

 まあ、喰えばいい。
 鷹を呼ぼうかと思ったが、あいつも疲れているだろうと思いやめた。
 




 5時頃。
 左門とリーが陽子さんを連れて来た。
 
 「トラちゃん!」
 「陽子さん! ようこそ、遠い所を!」
 「会いたかったよー!」
 「俺もですよ! さあ、入って下さい!」

 陽子さんは周囲を見ている。

 「あのさ、前よりもこの家って大きくなった?」
 「アハハハハ! まあ、中で説明しますよ」

 玄関を開けると、子どもたちとロボが歓迎した。
 皇紀が荷物を預かり、俺は陽子さんとエレベーターで2階に上がる。
 リヴィングで、子どもたちに自己紹介させる。
 陽子さんは笑顔で名前を憶えて行った。

 「そして、ロボです。カワイイでしょ?」
 「うん! ロボちゃん、宜しくね!」
 
 ロボが「あーん」をしそうになったのでやめろと言った。
 俺は陽子さんと左門たちにソファに座ってもらい、亜紀ちゃんがコーヒーを持って来た。
 
 「もうすぐ夕飯なのでお茶請けはなしで、すみません」
 「本当に四人も子どもを引き取ったのね」
 「はい。後で分かりますが、随分と賑やかになりましたよ」
 「そう。でもトラちゃんが元気そうで良かった」
 「それはもう。それだけが取り柄ですからね」
 
 陽子さんが笑う。

 「左門がトラちゃんと一緒に仕事をするんだって聞いて。私も会いたくなって来ちゃった」
 「いつでも陽子さんは大歓迎ですよ!」
 「あら、そう?」
 「はい!」

 俺の本心だ。
 まあ、陽子さんを知って陽子さんに会いたくない人間などいないだろうが。

 「あ、お夕飯の前に、仏壇に線香をあげてもいいかな?」
 「ありがとうございます」

 こういう人だった。
 仏間に案内する前に、階段のプリズムを見てもらった。
 丁度いい時間だった。
 綺麗だと喜んでくれた。

 仏間で線香を焚く。

 「奈津江さん、お久しぶりです。やっとあなたとも会えた。トラちゃんの傍にいて見守ってあげてね」

 陽子さんはそう言って手を合わせ、経をあげてくれた。
 左門とリーも後ろで手を合わせる。

 俺は三人をリヴィングへ連れ、テーブルに着いてもらった。




 陽子さんは子どもたちの食事に、大笑いしてくれた。
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