上 下
1,080 / 2,840

アラスカ・パッション Ⅱ

しおりを挟む
 麗星とハンヴィーに乗り、基地の外へ出た。
 麗星に説明しながら周辺を回る。

 「東京23区くらいの広さがあります」
 「凄いですね」
 
 事前に、麗星には蓮花研究所が「業」に襲われた時の映像を見せている。
 それを踏まえて防衛出来るものが欲しい。

 「今は研究所と同じく、タヌ吉が「地獄道」を展開しています。害意のある者が呑み込まれるようになっていますが」
 「そうですか。それは強力なものですね」
 「道間家ではまた違ったものですよね?」
 「はい。害意を察知することに関して、幾重にも展開しております。その上で攻撃を担うものが見合った戦力で向かいます」
 
 その点では、ここと基本的な構造は変わらない。
 むしろ、タヌ吉の「地獄道」が桁違いの分、この基地の方が硬い。

 「また、敵を迷わせる、意識を乱すという方法もございます」
 「道間家が認識されないということですね?」
 「さようでございます。近づくことを避ける方法です」
 「それはどのような?」
 
 麗星は幾つかの結界の張り方を教えてくれた。
 基本的には魔法陣なり媒体などを地中に埋めたりして行なう。

 麗星は様々な霊的防衛について話してくれた。

 「ここは広大な土地です。ですから、産土の神の協力を得た方が宜しいかと」
 「なるほど。土地の神様ですか」

 麗星は呼び掛けてみると言った。
 俺たちは車を停め、地面に降りた。




 麗星は懐から紙を取り出し、ペンで何かを描いた。
 それを地面に置き、何かを唱え始めた。
 俺はしばらく待つ。

 「ダメです。わたくしが日本の者だからでしょうが、何も応えてくれませんでした」
 「そうですか」

 俺は「おーい!」と叫んだ。

 「ちょっと力を貸してくれー! 土地の神様ぁー!」

 麗星は無邪気に言う俺を見て微笑んだ。
 麗星に気にするなということで俺もやったつもりだった。




 麗星が真剣な顔になる。




 「石神様! 来ました!」
 「はい?」

 麗星が空を指差す。
 点だったものが急速に拡大し、巨大な鷲のようなものが目の前に降り立った。
 羽は極彩色だ。

 「あ、あちらにも!」
 
 右前方に数百メートルの蛇のようなものが現われる。
 その胴体には、四本の人間の腕のようなものがあった。
 まあ、巨大な腕だが。
 それがドスンドスンと地響きを立ててこちらに向かって来た。

 麗星は失神しそうだ。

 「麗星さん!」
 「ぷぷぷぷぷ」
 
 なんかダメそうだった。
 麗星は目を見開いて、表情がコワイ。

 「あの、この土地の神でしょうか?」

 《我は「空の王」より命じられて参りました》
 《我は「地の王」の命により》

 テレパシーだった。

 「ああ、そうなんだ。ほら、あの新しく建てた基地さ。あれを守って欲しいんだけど」
 
 《相分かり申しました》
 《委細承知》

 「じゃあ、そういうことで宜しく! ああ、名前はそっちがワキンで、お前はミミクンな!」

 俺が手を振ると、二つの妖魔は去った。

 「良かったですね!」
 「ぷぷぷぷぷ」

 ちょっとめんどくさそうだったので、俺は麗星を抱きかかえ、基地内に戻った。




 商業エリアに行き、月岡に教わったレストランに入る。
 俺の顔を知っているようで、大歓迎された。
 テーブルについて炭酸水を飲むと、麗星は少し落ち着きを取り戻した。

 「大丈夫ですか?」
 「は、はい。でも、あんなに巨大なあやかしは……」
 「そうですか」
 「何故石神様はあのようなことが?」
 「さあ。旅の恥は掻き捨て、みたいな?」
 「なんですの?」
 「さあ」

 俺にも分からん。
 俺は月岡お勧めの、「アラスカ・ランチA定食」を二つ頼んだ。

 でかい鮭のバター焼きが出て来た。

 「……」

 麗星は喜んでいた。
 
 「まあ、石神様! こんなに大きな鮭が!」
 「お好きですか」
 「ええ。美味しそうでございます」
 「それは良かった」
 
 俺も仕方なく食べた。
 まあ、美味かったが。

 ゆっくりと食事をし、店を出た。
 
 「あの石神様!」
 「はい」
 「お支払いがまだ!」
 「ああ、ここは全部無料なんですよ」
 「なんですって!」
 「いるのは今は従業員というか、基地内で働いてくれてる人間たちですからね。福利厚生じゃないんですが、食事は好きな物を好きなだけ食べれるようにと」

 麗星が固まっている。

 「それでは、他にもステーキとか?」
 「ああ、ありますよ。さっきのは、うちの月岡が美味いので食べておけと言っていたんで」
 「そうですか」

 麗星は下を向いてブツブツと何か言っていた。
 ステーキが良かったとか聞こえる。
 まあ、俺も断然そうだったのだが。






 麗星に基地内を案内し、要所要所でどのような結界がいいのかと話し合った。
 霊的エネルギーの滞りやすい場所も教えてくれ、改善方法を聞いた。

 ヘッジホッグに戻ったのはもう5時近かった。
 一日中麗星は付き合ってくれた。
 所定の場所にハンヴィーを停め、エレベーターに乗った。

 「一日引っ張り回してしまいましたね」
 「いいえ。楽しゅうございました」
 「そう言ってもらえると。ちゃんと報酬はお支払いしますからね」

 麗星が目を輝かせて俺を見詰めた。

 「報酬は是非、ここに」

 自分の股間を指差した。

 「困りますよ」
 「「花岡」は石神様の血で歴代最高峰の人間が。道間家も石神様の血によって、歴代最高の人間が」
 「五平所さんとかに頼んで下さい」
 「あれはもう前立腺が」
 「ああ」

 切実なことを聞いてしまった。

 「まあ、いつか、そういう時には」
 「はい!」

 麗星が嬉しそうに笑った。
 まあ、いい女なのだが。
 俺も嫌いなわけじゃない。
 そんな日が来るかもしれない。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。  彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。  そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!  彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。  離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。  香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...