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アラスカ・パッション Ⅱ
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麗星とハンヴィーに乗り、基地の外へ出た。
麗星に説明しながら周辺を回る。
「東京23区くらいの広さがあります」
「凄いですね」
事前に、麗星には蓮花研究所が「業」に襲われた時の映像を見せている。
それを踏まえて防衛出来るものが欲しい。
「今は研究所と同じく、タヌ吉が「地獄道」を展開しています。害意のある者が呑み込まれるようになっていますが」
「そうですか。それは強力なものですね」
「道間家ではまた違ったものですよね?」
「はい。害意を察知することに関して、幾重にも展開しております。その上で攻撃を担うものが見合った戦力で向かいます」
その点では、ここと基本的な構造は変わらない。
むしろ、タヌ吉の「地獄道」が桁違いの分、この基地の方が硬い。
「また、敵を迷わせる、意識を乱すという方法もございます」
「道間家が認識されないということですね?」
「さようでございます。近づくことを避ける方法です」
「それはどのような?」
麗星は幾つかの結界の張り方を教えてくれた。
基本的には魔法陣なり媒体などを地中に埋めたりして行なう。
麗星は様々な霊的防衛について話してくれた。
「ここは広大な土地です。ですから、産土の神の協力を得た方が宜しいかと」
「なるほど。土地の神様ですか」
麗星は呼び掛けてみると言った。
俺たちは車を停め、地面に降りた。
麗星は懐から紙を取り出し、ペンで何かを描いた。
それを地面に置き、何かを唱え始めた。
俺はしばらく待つ。
「ダメです。わたくしが日本の者だからでしょうが、何も応えてくれませんでした」
「そうですか」
俺は「おーい!」と叫んだ。
「ちょっと力を貸してくれー! 土地の神様ぁー!」
麗星は無邪気に言う俺を見て微笑んだ。
麗星に気にするなということで俺もやったつもりだった。
麗星が真剣な顔になる。
「石神様! 来ました!」
「はい?」
麗星が空を指差す。
点だったものが急速に拡大し、巨大な鷲のようなものが目の前に降り立った。
羽は極彩色だ。
「あ、あちらにも!」
右前方に数百メートルの蛇のようなものが現われる。
その胴体には、四本の人間の腕のようなものがあった。
まあ、巨大な腕だが。
それがドスンドスンと地響きを立ててこちらに向かって来た。
麗星は失神しそうだ。
「麗星さん!」
「ぷぷぷぷぷ」
なんかダメそうだった。
麗星は目を見開いて、表情がコワイ。
「あの、この土地の神でしょうか?」
《我は「空の王」より命じられて参りました》
《我は「地の王」の命により》
テレパシーだった。
「ああ、そうなんだ。ほら、あの新しく建てた基地さ。あれを守って欲しいんだけど」
《相分かり申しました》
《委細承知》
「じゃあ、そういうことで宜しく! ああ、名前はそっちがワキンで、お前はミミクンな!」
俺が手を振ると、二つの妖魔は去った。
「良かったですね!」
「ぷぷぷぷぷ」
ちょっとめんどくさそうだったので、俺は麗星を抱きかかえ、基地内に戻った。
商業エリアに行き、月岡に教わったレストランに入る。
俺の顔を知っているようで、大歓迎された。
テーブルについて炭酸水を飲むと、麗星は少し落ち着きを取り戻した。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。でも、あんなに巨大なあやかしは……」
「そうですか」
「何故石神様はあのようなことが?」
「さあ。旅の恥は掻き捨て、みたいな?」
「なんですの?」
「さあ」
俺にも分からん。
俺は月岡お勧めの、「アラスカ・ランチA定食」を二つ頼んだ。
でかい鮭のバター焼きが出て来た。
「……」
麗星は喜んでいた。
「まあ、石神様! こんなに大きな鮭が!」
「お好きですか」
「ええ。美味しそうでございます」
「それは良かった」
俺も仕方なく食べた。
まあ、美味かったが。
ゆっくりと食事をし、店を出た。
「あの石神様!」
「はい」
「お支払いがまだ!」
「ああ、ここは全部無料なんですよ」
「なんですって!」
「いるのは今は従業員というか、基地内で働いてくれてる人間たちですからね。福利厚生じゃないんですが、食事は好きな物を好きなだけ食べれるようにと」
麗星が固まっている。
「それでは、他にもステーキとか?」
「ああ、ありますよ。さっきのは、うちの月岡が美味いので食べておけと言っていたんで」
「そうですか」
麗星は下を向いてブツブツと何か言っていた。
ステーキが良かったとか聞こえる。
まあ、俺も断然そうだったのだが。
麗星に基地内を案内し、要所要所でどのような結界がいいのかと話し合った。
霊的エネルギーの滞りやすい場所も教えてくれ、改善方法を聞いた。
ヘッジホッグに戻ったのはもう5時近かった。
一日中麗星は付き合ってくれた。
所定の場所にハンヴィーを停め、エレベーターに乗った。
「一日引っ張り回してしまいましたね」
「いいえ。楽しゅうございました」
「そう言ってもらえると。ちゃんと報酬はお支払いしますからね」
麗星が目を輝かせて俺を見詰めた。
「報酬は是非、ここに」
自分の股間を指差した。
「困りますよ」
「「花岡」は石神様の血で歴代最高峰の人間が。道間家も石神様の血によって、歴代最高の人間が」
「五平所さんとかに頼んで下さい」
「あれはもう前立腺が」
「ああ」
切実なことを聞いてしまった。
「まあ、いつか、そういう時には」
「はい!」
麗星が嬉しそうに笑った。
まあ、いい女なのだが。
俺も嫌いなわけじゃない。
そんな日が来るかもしれない。
麗星に説明しながら周辺を回る。
「東京23区くらいの広さがあります」
「凄いですね」
事前に、麗星には蓮花研究所が「業」に襲われた時の映像を見せている。
それを踏まえて防衛出来るものが欲しい。
「今は研究所と同じく、タヌ吉が「地獄道」を展開しています。害意のある者が呑み込まれるようになっていますが」
「そうですか。それは強力なものですね」
「道間家ではまた違ったものですよね?」
「はい。害意を察知することに関して、幾重にも展開しております。その上で攻撃を担うものが見合った戦力で向かいます」
その点では、ここと基本的な構造は変わらない。
むしろ、タヌ吉の「地獄道」が桁違いの分、この基地の方が硬い。
「また、敵を迷わせる、意識を乱すという方法もございます」
「道間家が認識されないということですね?」
「さようでございます。近づくことを避ける方法です」
「それはどのような?」
麗星は幾つかの結界の張り方を教えてくれた。
基本的には魔法陣なり媒体などを地中に埋めたりして行なう。
麗星は様々な霊的防衛について話してくれた。
「ここは広大な土地です。ですから、産土の神の協力を得た方が宜しいかと」
「なるほど。土地の神様ですか」
麗星は呼び掛けてみると言った。
俺たちは車を停め、地面に降りた。
麗星は懐から紙を取り出し、ペンで何かを描いた。
それを地面に置き、何かを唱え始めた。
俺はしばらく待つ。
「ダメです。わたくしが日本の者だからでしょうが、何も応えてくれませんでした」
「そうですか」
俺は「おーい!」と叫んだ。
「ちょっと力を貸してくれー! 土地の神様ぁー!」
麗星は無邪気に言う俺を見て微笑んだ。
麗星に気にするなということで俺もやったつもりだった。
麗星が真剣な顔になる。
「石神様! 来ました!」
「はい?」
麗星が空を指差す。
点だったものが急速に拡大し、巨大な鷲のようなものが目の前に降り立った。
羽は極彩色だ。
「あ、あちらにも!」
右前方に数百メートルの蛇のようなものが現われる。
その胴体には、四本の人間の腕のようなものがあった。
まあ、巨大な腕だが。
それがドスンドスンと地響きを立ててこちらに向かって来た。
麗星は失神しそうだ。
「麗星さん!」
「ぷぷぷぷぷ」
なんかダメそうだった。
麗星は目を見開いて、表情がコワイ。
「あの、この土地の神でしょうか?」
《我は「空の王」より命じられて参りました》
《我は「地の王」の命により》
テレパシーだった。
「ああ、そうなんだ。ほら、あの新しく建てた基地さ。あれを守って欲しいんだけど」
《相分かり申しました》
《委細承知》
「じゃあ、そういうことで宜しく! ああ、名前はそっちがワキンで、お前はミミクンな!」
俺が手を振ると、二つの妖魔は去った。
「良かったですね!」
「ぷぷぷぷぷ」
ちょっとめんどくさそうだったので、俺は麗星を抱きかかえ、基地内に戻った。
商業エリアに行き、月岡に教わったレストランに入る。
俺の顔を知っているようで、大歓迎された。
テーブルについて炭酸水を飲むと、麗星は少し落ち着きを取り戻した。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。でも、あんなに巨大なあやかしは……」
「そうですか」
「何故石神様はあのようなことが?」
「さあ。旅の恥は掻き捨て、みたいな?」
「なんですの?」
「さあ」
俺にも分からん。
俺は月岡お勧めの、「アラスカ・ランチA定食」を二つ頼んだ。
でかい鮭のバター焼きが出て来た。
「……」
麗星は喜んでいた。
「まあ、石神様! こんなに大きな鮭が!」
「お好きですか」
「ええ。美味しそうでございます」
「それは良かった」
俺も仕方なく食べた。
まあ、美味かったが。
ゆっくりと食事をし、店を出た。
「あの石神様!」
「はい」
「お支払いがまだ!」
「ああ、ここは全部無料なんですよ」
「なんですって!」
「いるのは今は従業員というか、基地内で働いてくれてる人間たちですからね。福利厚生じゃないんですが、食事は好きな物を好きなだけ食べれるようにと」
麗星が固まっている。
「それでは、他にもステーキとか?」
「ああ、ありますよ。さっきのは、うちの月岡が美味いので食べておけと言っていたんで」
「そうですか」
麗星は下を向いてブツブツと何か言っていた。
ステーキが良かったとか聞こえる。
まあ、俺も断然そうだったのだが。
麗星に基地内を案内し、要所要所でどのような結界がいいのかと話し合った。
霊的エネルギーの滞りやすい場所も教えてくれ、改善方法を聞いた。
ヘッジホッグに戻ったのはもう5時近かった。
一日中麗星は付き合ってくれた。
所定の場所にハンヴィーを停め、エレベーターに乗った。
「一日引っ張り回してしまいましたね」
「いいえ。楽しゅうございました」
「そう言ってもらえると。ちゃんと報酬はお支払いしますからね」
麗星が目を輝かせて俺を見詰めた。
「報酬は是非、ここに」
自分の股間を指差した。
「困りますよ」
「「花岡」は石神様の血で歴代最高峰の人間が。道間家も石神様の血によって、歴代最高の人間が」
「五平所さんとかに頼んで下さい」
「あれはもう前立腺が」
「ああ」
切実なことを聞いてしまった。
「まあ、いつか、そういう時には」
「はい!」
麗星が嬉しそうに笑った。
まあ、いい女なのだが。
俺も嫌いなわけじゃない。
そんな日が来るかもしれない。
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