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幸せなディディ

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 皇紀と資源調達について話し合った日の午後。
 俺はハーレーに乗って、響子と一緒に乾さんの店に遊びに行った。

 「トラ! よく来たな!」
 「石神様、お待ちしておりました」

 乾さんとディディが迎えてくれる。

 「六花だぁ!」

 響子がディディを見て喜んだ。

 「タカトラ! なんでぇ!」
 「蓮花が、世界で一番美しい女の顔にしたんだと」
 「そうなんだぁ!」

 「響子様。はじめまして」
 「うん、ディディだよね!」
 「はい。宜しくお願い致します」

 ディディが用意したというプリンを頂く。
 三人で紅茶を飲みながら、その美味さに驚いた。

 「タカトラ! 美味しいよ!」
 「そうだよなぁ。ディディ、素晴らしいな」
 「ありがとうございます」

 乾さんもニコニコしていた。

 「バイクの調子はどうだ?」
 「快調ですよ。響子もほどんど負担がないようで。俺も操縦していて楽しいです」
 「ああいうバイクもいいだろ?」
 「はい。でも乾さんは今もドカティですよね?」
 「まあな。俺もお前と同じで「走り」を感じたい人間だからなぁ」
 「なるほど」

 ディディが響子に「カップソーサー」はどうかと聞いていた。
 ニコリと笑って、倉庫からでかいカップを装着してきた。
 響子を抱えてカップに入れ、自分の周りをグルグル回転させる。
 響子が喜んだ。

 「よく子どもが来るとやってやるんだよ。大人気でな。あれに乗りたくて学校帰りに寄る奴もいる」
 「ディディは人気者ですね」
 「そうだな。俺たちじゃ、ああはいかない」
 「蓮花に頼んで乾さん用のも作りますか?」
 「やめてくれ。本気で」

 俺は笑った。

 「なあ、トラ。ちょっと頼みがあるんだが」
 「なんですか?」
 「ディディのことなんだがな。あいつ、夜も休まないんだ」
 「それはロボットですからね。人間と違って眠る必要が無い」
 「それはそうなんだけどな。どうも俺が気になってしまって。本当に夜は休まないでいいのか?」
 「はい。メンテナンスを定期的にしてますから。ああ! こないだ蓮花が乾さんに感動したって!」
 「なんだ?」

 乾さんが驚く。

 「乾さん、ディディを送る時に毛布を敷いてやったでしょ?」
 「ああ、そうだったな」
 「あれに蓮花がえらく感動して。自分はまだまだ愛情が足りないって」
 「どういうことだ?」
 「ロボットだから必要無いというのはそうなんですよ。でも乾さんはディディを思いやって床が硬くて辛いんじゃないかって」
 「まあ、そうだけど」
 「だから蓮花は帰りにでかいソファに座らせて来たでしょ?」
 「ああ、驚いたよ」

 乾さんは当たり前のことだと思っている。

 「乾さん、ディディはロボットですが、そうじゃないんですね」
 「え?」
 「人間とは思ってないでしょうが、大事な相棒だと思っている」
 「それはそうだよ」

 「夜や休みの日にはのんびりしてもらいたいと」
 「まあ、そうだな。必要ないことなのかもしれないけどな」
 
 俺は自然に顔が綻んだ。

 「乾さんは相変わらず優しいですねぇ」
 「何言ってやがる」
 
 ディディが響子をカップから降ろした。
 響子は楽しかったと礼を言っていた。
 ディディを呼んだ。

 「ディディ、お前は乾さんに尽くすのが楽しいんだよな?」
 「はい。私はそのために生まれ、そのためにここに来ました」
 「そうか。でもな、乾さんはお前が働き通しで心配なんだそうだ」

 ディディは目を丸くした。

 「それは気付かずに、申し訳ございません。でも、どうか私にそのような御気遣いは無用にお願いします。私はいつまでも乾様のために働きたいだけなのです。休養は必要ございません」
 「そうなんだけどな。でも、乾さんは大事なお前が休まないと気になってしまうんだよ。お前だって乾さんが倒れるまで働いたら辛いだろう?」
 「もちろんです。乾様の健康管理も私の仕事ですから」
 
 まあ、その通りなのだが。

 「いいかディディ。人間は眠ることで脳内の情報を整理している。お前の高性能のAIも、同じようなことが出来ると思うぞ」
 「それは「デフォルト・システム」のことですね?」
 「そうだ。とにかく、しばらく夜は休んで見ろよ」
 「はい、かしこまりました、石神様」
 「乾さんと一緒に風呂に入って、一緒に寝ろ」
 「はい、そのようにいたします」

 「おい、トラ!」
 「いいじゃないですか。そうすれば、ちゃんとディディだって休みますよ」
 「そんなことは出来ん!」
 「まあまあ」

 ディディは自分のメンテナンスと清潔を保つために、毎日シャワーを浴びる。
 入浴も出来る。

 俺は響子を連れて帰った。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 
 「それでは乾様、お背中を御流しします」
 「いや、ディディ! それはちょっと!」
 「さあ、ご遠慮なさらずに。私に洗わせて下さい」
 「弱ったな」

 仕事が終わり、ディディの作った夕飯を食べると、ディディが風呂に誘って来た。
 今まではそんなことは無かった。

 「ディディ、なんだ、その、やっぱりちょっと恥ずかしいよ」
 「何をおっしゃいますか」

 ディディが優しく微笑んでいた。

 「これまで気付かずにいましたが、流石は石神様です。私に新しいご奉仕を下さいました」
 「いや、お前なぁ」
 「乾様のためにやれることは何でもさせて下さい」
 「困ったな」

 ディディは少し強い力で乾の手を引いた。
 仕方なく、乾も浴室へ向かった。
 脱衣所には、すでに乾の下着と寝間着が揃っていた。
 ディディのものもあった。
 乾はそれを見て、緊張した。

 ディディに服を脱がされ、乾も諦めた。
 先に浴室へ入る。
 ディディが入って来た。
 眩しいほどに美しいディディを見た。

 「ディディ!」
 「あ、乾様」

 



 翌朝。
 蓮花から連絡があった。

 「石神様。ついにディディが全て受け入れて頂きました」
 「そうか。随分かかったなぁ」
 「はい。やはり乾様がお優しい方でしたので」
 「我慢してたってか」
 「そうですね。でもそれは、最初からディディを「女性」として見て下さったということかと」
 「まったくだな。まあ、バイクもそうだけど、人間だけじゃないんだ、あの人は。本当に機械でも深い愛情を持っている人だ」
 「はい」

 「俺が勝手に預けていたRZな、今でも走れるんだよ。もちろん車検を通してないから公道は無理だけどな。でも乾さんが本当に大事にメンテしてくれてて。一部の部品なんか、削り出しで作ってくれてた。エンジンもちょくちょくかけて、オイルも交換してくれてな」
 「素晴らしい方ですね」
 「そうだろ? だからディディなんかも、すぐに大事にしてくれると分かっていた」
 「はい」
 「お前のやり過ぎ機能があったけどな」
 「ウフフフフ」

 蓮花は嬉しそうに笑っていた。

 「これで、ディディも本当に幸せに過ごせそうです」
 「そうだな。お前も親として嬉しいだろう」
 「はい、その通りでございます」

 「そのうち、諸見にもなんか送ってやるかな」
 「まあ、楽しそうですね」
 「あいつも人間の女には縁が無さそうだしなぁ」
 「オホホホホ」





 俺は諸見の笑顔を思い出していた。
 滅多に笑わない奴だが、あいつの笑顔は最高にいい。
 あいつを笑顔にさせる。
 それは本当に楽しいことだ。
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