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石神家「子ども裁判」

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 俺がイリスに乗って家に帰ると、子どもたちが全員起きて待っていた。
 もう午前1時を回っている。

 「まだ起きてたのかよ」
 「当たり前ですよ!」

 亜紀ちゃんが半泣きで叫ぶ。

 「だって! またわけの分からないのに乗っていきなり出掛けちゃうんですから!」
 「ああ、悪かったな」

 何が悪いのか。

 「大丈夫なんですか?」
 「もちろんだ。ちょっと散歩して少し話をしたっていうか」
 「やっちゃったんですか!」
 「バカヤロー!」

 亜紀ちゃんが俺の胸倉を掴んでくる。

 「お前、俺のことを何だと思ってる!」
 「淫獣!」
 
 頭をひっぱたいた。

 「あのなぁ。俺だって節度は知ってるんだ。誰彼構わずやってねぇ!」
 
 子どもたちがそれもそうだとか、信頼できないとか話している。

 「あのなぁ。相手は馬だぞ?」
 「でも変身しそうじゃないですか」
 「え?」
 「タマもタヌ吉も綺麗な女性になりますよね?」
 「そうだけどよ」
 「ルミ子も女になるんじゃないですか?」
 「ああ、それだけど、「イリス」って名前に変えたからな」
 「どーして!」
 「綺麗だったからな」

 「アァー! やっぱり!」
 「うるせぇ!」

 俺は酒の用意をしろと言った。
 明日も休みだから、夜更かししてもいい。
 全員で素早く用意する。

 「皇紀、お前は寝てもいいんだぞ?」
 「いや、なんとなく今寝ると怒られそうで」
 「まーなー」

 ワイルドターキーがドンと置かれ、次々につまみが出て来る。
 亜紀ちゃんが俺のグラスにドボドボと注ぐ。

 「それでは、第一回「石神家子ども裁判」を開廷します」

 子どもたちが拍手をする。

 「さあ!」

 俺はマグノリアの群生地でのことを話した。
 別に隠すようなこともねぇ。

 「じゃあ、あのペガサスはタカさんに惚れちゃったと!」
 「まあ、そういうことらしいな」
 「ガァァァァァァーーーー!」

 亜紀ちゃんが怒りの「ぐるぐる横回転」をする。
 柳も付き合った。

 「なんなんだよ!」
 「なんでこう、次々と女が増えるんですか!」
 「あれはペガサスだ!」
 「せめて人間の範疇に収めてください!」
 「俺のせいじゃねぇ!」

 ロボが「あーん」をする。
 こいつもなんか訴えてんのか。

 「ルーとハーだってスズメを可愛がってただろう!」
 「でもやってません!」
 「俺だってそうだぁ!」
 
 「ニジンスキーたちは?」

 柳が言う。
 こいつはまためんどくせぇことを。

 「あれは不可抗力だ! それに証拠はねぇ!」
 「あー! 開き直ったぁー!」

 亜紀ちゃんの頭を引っぱたいた。

 「あのなぁ。イリスだって仲間になったんだ。それであいつも相当な迷いの上で俺にぶつかってきた。俺も真直ぐに応えなきゃだろう」
 「そんなこと言ったら、タカさんは女に埋もれちゃいますよ!」
 
 ハーが肉布団だとか言って、ルーと笑っていた。
 亜紀ちゃんが二人を睨んで黙る。

 「ちょっと告白を聞いただけじゃねぇか!」
 「それでまたカッコイイこと言ったりしたんでしょう!」
 「そんなことはねぇ」
 「じゃあ、なんて応えたんですか!」
 「ええと、お前の愛を貫けとか」
 
 「ガァァァァァァーーーー!」

 ウゼぇ。

 「お前は綺麗だとか言ったりして」
 「いい雰囲気の歌とか」
 「タカさん、よくやるよねぇ」

 柳と双子が言う。

 「あー! タカさん、なんで目を逸らしてるんですかぁ!」
 「え?」
 「やったなぁー!」
 「お、覚えてねぇ!」

 「この女たらしー!」

 掴みかかる亜紀ちゃんを他の子どもたちが押さえた。
 ロボが爪を出したのでそれはやめろと言った。

 「とにかく! 俺が誰と何をしようがお前らにとやかく言われる筋合いはねぇ!」
 「また開き直ったぁ!」
 「ほら、人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるとか言うじゃん」
 「こいつぅ、上手いこと言ったと思うなぁ!」
 「てめぇ! 親に向かってなんだぁ!」

 掴み合いを子どもたちに止められた。
 
 「イリスとは何もする気はねぇ!」
 「オチンチンの神様に誓えますか!」
 「もちろんだ!」

 そんなのはいねぇ。

 「もう! でも本当に心配したんですからね」

 ようやく落ち着いて来た。
 まあ、その通りなのだろう。

 「今度お前らも話してみろよ。悪い奴じゃない。俺に惚れているかどうかは別な話だ。あいつは俺のために戦いたいと言っていた」
 「そうなんですか」
 「戦う力はそれほどらしいのにな。それでもだ」
 「分かりました」

 しかし、どうして俺がこいつらに責められなきゃならんのか。






 「タカさん」
 
 皇紀が言った。

 「なんだ?」
 「あの、今の所で一度戦力を確認してはどうでしょうか?」
 「ああ?」
 「クロピョンの力は物凄そうですし、タヌ吉の「地獄道」も相当です。ロボの「バーン」も凄いですし、多分タマの攻撃力も。それで今度は百万モメンですよね? 「王」には眷属もいるということですし」
 「ああ、そうだなぁ」
 「僕らも全部は分かってませんよね? でも今後の戦いで、どういう戦力なのか知っておく必要があるんじゃないでしょうか」
 「もちろんだ」

 俺は蓮花研究所の襲撃の話をした。

 「「業」は、恐らくこちらが対抗手段が無いと考えて、あやかしの力を振るって来た。どんな戦力を持っていようと、自分が簡単に勝てると信じてのことだ。栞と士王を攫えると思っていた」

 全員が真剣に聞いている。

 「しかし、俺たちには対抗手段があった。それを知って撤退したわけだ」
 「「地獄道」を最初に使わなかったのは、「業」の能力を測るためだったんですね!」

 亜紀ちゃんが言う。

 「結果的にはそういうことだ。実際を言えば、俺に制御出来てないということだけどな。それにこれまでの戦闘でも、クロピョンの力を使えば瞬時に終わっていただろう。でも、そうなれば「業」も対抗手段を考えて来る。まあ、あればの話だけどな」
 「言い切れないと?」
 「そうだ。「業」の中にいる妖魔も相当なものだ。しかも膨大な数の妖魔を吸収しているらしい。どれほどの戦闘力か計り知れない。多分、クロピョンや百万モメンに匹敵するようなものはいないだろうが、その数がどう戦闘に影響するのかは予測できない」

 「タカさんが、妖魔の解析が必要だというのは」
 「そうだ。俺たちが妖魔の力を「使う」技術が必要なんだ。あれらの戦いは人間には理解できないことが多い。俺たちの概念で戦うのかどうかすら怪しい」
 「でもカルマンベールとかは殺せましたよ?」
 「あれは概念が重なったからに過ぎない。後から来たウンコ野郎は、多分戦いにならなかった可能性が高い」
 「どういうことですか?」

 「俺は咄嗟に「震花」を撃った。でもまるで通じなかった」
 「「「「「!」」」」」

 「だから総動員したんだよ。グズグズしては不味いと判断したからだ」
 「危なかったんですか!」
 「もしかしたらな。概念の問題は甘く見るな。俺たちは想像もつかない方法で殺されるかもしれない」

 全員が黙り込んだ。
 双子と柳には少し話していたが。

 「それでも俺たちはやるしかねぇ。「業」の方が今はこの技術に関しては上だ。何しろ妖魔と合体してるんだからな。でも俺たちに途方もない力があることを思い知った。だからまたあいつも準備をするだろう」
 「こっちも今のうちに、なんですね」
 「そういうことだ。ルー、ハー、柳! お前らの役割だ。しっかりやれ」
 「「「はい!」」」

 三人が叫んだ。

 「早乙女から貴重な資料を貰った。異能を持つ人間たちだ。早乙女がそっちを探っていく。仲間になれば有用かもしれん」




 俺は解散を宣言した。
 俺たちが暗闇の中に入ろうと、それでも進まなければならない。
 俺たちには守るべきものが、確かにある。
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