富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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間の悪い奴

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 風呂を上がり、亜紀ちゃんと酒を飲んだ。
 流石に今日は酒が飲みたかった。
 柳は明日、顕さんの家に行くので早く寝た。
 
 「お疲れ様でした」
 「ああ」

 ワイルドターキーをロックで飲む。
 つまみは頂き物のチョリソーとチーズのみだ。
 作る元気がねぇ。

 俺はあらためて、空の王の話をした。

 「ペガサスもぶっ飛んだけどよ。まあ、なんとか見知ってるみたいな奴だろ?」
 「なるほど」
 「乗るまでは良かったんだよ」
 「はい」
 「でもな。成層圏を抜けてもっと上空に上がって」
 「はいはい」
 「お前、数千キロの親分に会ってみろよ!」
 「アハハハハハ!」

 亜紀ちゃんが大笑いした。

 「体育館裏に呼び出されたら、2メートルの黒人が待ってたって怖ぇだろ? それが数千キロだぞ」
 「すごいですよね!」
 「普通なら「すいませんでしたー」ってなるよなぁ」
 「アハハハハハ!」
 
 チョリソーを二人でつまむ。
 激辛だった。
 慌てて酒で流し込む。

 「なんとか「舎弟にしてやるー」って言ったけどな」
 「アハハハハハ!」
 「いきなりだったからなぁ」
 「そうですよね」

 亜紀ちゃんにチョリソーをやると言うと怒った。
 二人でチーズをつまんだ。

 「間が悪いなんてもんじゃねぇ。起き抜けにルーに担がれていきなりの御対面だったしな」
 「ニャンコ柄のパジャマでしたもんね」
 「そうだ。途中で気付いたから良かったけど、あのままパジャマで数千キロと対峙したらヤバかったよな。「お前ふざけんなぁー」ってなぁ」
 「威厳も何もないですよね」
 「ああ、財布忘れてたしな。カツアゲされたら困ったよなぁ」
 「アハハハハハ!」

 亜紀ちゃんにチョリソーをつまんで無理矢理喰わせた。
 怒りの「ぐるぐる横回転」をした。

 「ああ、そういえば、全然違う話なんだけどな。高校の頃に間の悪い奴がいてよ」
 「聞かせて下さい!」

 俺は笑って話し出した。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 保奈美を慕っているレディースの後輩がいた。
 茜という名前だった。
 背が小さくて、150センチも無かった。
 中型免許が取れず、ずっと保奈美から譲ってもらったモンキーに乗っていた。
 集会ではいつも必死に走る。
 でも気のいい奴で、みんなから可愛がられていた。
 レディースのヘッドだった保奈美に惚れ込んでいて、いつもくっついていた。
 保奈美も茜を可愛がり、よく勉強を教えてやったりもしていた。

 ある日、俺は保奈美の家に泊っていた。
 両親が出掛けて、翌日の午後まで帰らない。
 保奈美が俺を誘ってくれた。
 早目に食事を一緒に作り、一緒に風呂に入った。
 午後7時頃だったか。
 俺たちは最初の行為を始めようとしていた。

 「保奈美さーん!」
 
 玄関で茜が呼んでいた。
 保奈美がガウンだけ羽織って出て行った。

 「今日も勉強を教わりに来ましたー!」
 「てめぇ! 今日は来るなって言っただろう!」
 「は!」

 俺は笑って中へ入れてやれよと言った。
 保奈美は仏頂面で茜を入れた。

 「あ、トラさん!」
 「よう!」
 「トラ! 服を着て」
 「あ、ああ」
 
 流石に茜もどういう状況なのか分かった。
 必死に謝って来る。

 「いいよ。おい、腹減ってんじゃないか?」
 「いいえ!」
 「遠慮すんなよ。まあ、他人の家だけどな!」

 保奈美が笑って何か作ってやると言った。
 やはり優しい女なのだ。

 俺が余った飯でチャーハンを作った。
 卵とハムをちょっととネギ。
 保奈美がスープを作ってやる。
 茜は嬉しそうに食べた。

 「お前、成績が上がったんだってな」
 「はい! 保奈美さんのお陰です!」
 「あたしじゃないよ。トラから教わった方法だ」
 「はい! トラさん、ありがとうございます!」
 
 茜が食べ終わり、保奈美と一緒に少し勉強を見てやった。
 俺たちが高二、茜が高一だった。
 茜は嬉しそうに帰って行った。




 それからも、俺が屋上でパンツを脱いで保奈美がしゃがんだ瞬間に茜が来たり、林の中に入ろうとするのを見つけて声を掛けて来た。

 「てめぇ! いい加減にしろ!」
 「すいません! またお二人の邪魔を!」
 「言わなくていい!」

 「自分がここで見張ってます!」
 「バカヤロー! どっかへ行け!」

 保奈美も俺の前だから怒っているが、本当は自分に無邪気にまとわりつく茜が可愛くてしょうがないのが分かっていた。
 でも、悪気は無いのだが、本当に何度もそういうことがあった。


 「鬼愚奈巣」の情報収集で保奈美が捕まった。
 俺が危うい所で取り返した。
 保奈美は顔を酷く腫らせていた。

 保奈美をレディースの仲間の家に送った後、刑事の佐野さんから連絡があった。

 「お前んとこの、茜って小娘な。うちで預かってんだ」
 「なんで?」
 
 俺は保奈美に連絡し、慌てて警察署へ行った。

 「こいつがさ、現場検証してたら突っ込んで来たんだよ」
 「はい」
 「保奈美を返せってな」
 「全然分かりませんが?」
 
 佐野さんが説明してくれた。
 
 店の人間が警察に連絡し、俺が潰した「鬼愚奈巣」の連中を救急車に乗せながら、事情聴取をしていたらしい。
 まあ、族同士の抗争だから、警察も本腰を入れていない。
 人が死んだりすれば別だが、犯人を捜すつもりもなかった。
 そういう時代だった。
 喧嘩したい連中は好きにやればいい。

 その時、茜が突入し、周囲の人間に殴りかかったようだ。
 保奈美を取り返すために、半狂乱だったらしい。

 「どんなバカなんだ、あのチビは」
 「まー、俺もよく分からないんですが。でも、保奈美を神様みたいに慕ってる奴でして」
 「そうだろうな」

 本来は保護者がガラ受けに来るものだが、俺の顔に免じて釈放してくれるようだった。

 「バカはバカがちゃんと押さえとけ」
 「御迷惑をお掛けしました!」

 その時、入り口からでかい声が聞こえた。
 階段を駆け上がって来る。

 「あかねー!」

 バカがまた来た。
 木刀なんか持ってやがった。

 「あ、これから剣道の試合なんで!」
 「おい、トラ!」
 「今度佐野さんも見に来て下さいね!」
 「待て! あいつは保奈美か!」

 俺は茜を担いで、保奈美ももう片方の腕で抱き上げ、ダッシュで階段を駆け下りて逃げた。




 俺と保奈美は卒業前に「ルート20」を抜けた。
 最後の大パレードを終え、正式に離れた。
 茜が大泣きし、どうしようも無くなった。
 保奈美も困り果てた。

 「おい、三人でどっかへ行こうか」
 
 俺がそう言った。

 「え、でも、自分はモンキーなんで、お二人のマシンとは走れません」
 「ばか、お前に合わせてやるよ。当たり前だろう」
 「トラさん!」
 「お前は保奈美の大事な妹分なんだ。幾らだって並走してやるよ」

 茜も保奈美も大泣きした。

 三人で伊豆半島までツーリングをした。
 茜のモンキーではきつかっただろうが、ずっと楽しそうに笑って走っていた。
 井上さんが話を聞いて、金をくれた。
 ありがたく頂き、三人で伊豆のペンションに泊った。
 三人で食事を作り、テラスで一緒に食べた。
 星が綺麗だった。
 いろんな話をした。
 茜がずっと楽しそうに笑っていた。


 三人で寝た。
 シングルベッドをくっつけた。

 「自分は別な部屋で寝ますから!」
 「「バカ!」」

 俺と保奈美で茜を挟んで寝た。
 茜は寝付くまで泣いていた。
 保奈美がずっと茜の頭を撫でていた。

 翌朝、ベッドの隙間に茜の身体が落ちていて、首だけ出して眠っていたので笑った。
 朝食を作って食べ、三人で帰った。

 「トラさん、保奈美さん! ありがとうございました!」
 「いいよ。またどこかへ行こうや」
 「うん、そうしよう!」

 茜が嬉しそうに笑った。

 「自分、ちゃんと中免取ります!」
 「おう!」
 「ガンバレ!」





 その後、茜が大型免許を取ったと再会した井上さんから聞いた。
 四輪だ。

 ダンプカーの運転をして、全国の現場を回っているらしい。
 荷台にでかい筆文字を入れているのだと。

 《保奈美 命》

 まったく、どうしようもなく、とんでもなくカワイイ奴だ。 
 いつか、どこかの道で会いたい。
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