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実は一杯一杯でした

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 「大分運転も慣れて来たな」

 病院まで柳が迎えに来てくれた。

 「ええ。最初は怖かったですけどね」
 「事故も起こしてないよな?」
 「はい。安全運転です」
 「まあ、起こしても平気だけどな」
 「アハハハハハ!」

 車は四谷見附の交差点に入った。

 「柳、このまま直進してくれ」
 「はい?」
 「俺が指示する。防衛省の前を左折だ」
 「は、はい!」

 直進し、少し先の信号を左折させる。
 細い二車線道路を降ると、防衛省の前に出る。

 「ここが左門の職場だ」
 「ああ!」

 左折し、曙橋で右折する。
 抜け弁天から職安通りに入った。

 「あとは道なりだ。青梅街道にぶつかる」
 「へぇー!」
 「少し遠回りだけどな。新宿の駅前も歌舞伎町も通らない道だ」
 「なるほど!」

 北新宿の少し毛色の変わった街を抜ける。

 「あの、石神さん」
 「あんだ?」
 「今朝は大丈夫だったんですか?」
 「なにが?」

 「だって! いきなりペガサスに乗ってっちゃったじゃないですかぁー!」
 「アハハハハハ!」

 柳はそれをずっと聞きたかったようだ。
 それはそうだろう。

 「大丈夫だよ。後で全員に話すけど、「空の王」っていうのが仲間になったからな」
 「なんです、それ?」
 「俺に分かるわけねぇだろう!」
 「もう!」

 柳はずっと前を見ている。
 まだ横を向く余裕は無い。

 「石神さん、でも全然動揺してないですよね」
 「そうでもないよ」
 「そうですか?」
 「この俺が財布を忘れて出たんだからな。流石に動揺してたんだよ」
 「ああ!」

 「一江はケチだから千円しか貸してくれねぇし」
 「そうなんですか?」
 「ペガサス出勤だって言ったらな」
 「それは、ちゃんと話さないと!」
 「アハハハハハ!」

 まあ、俺はちゃんと話したんだが。

 青梅街道にぶつかる手前に、ちょっとした公園がある。
 俺は柳にそこで停めさせた。

 「ちょっと寄って行こう」
 「はい」

 イルミネーションがあり、雰囲気がいい。
 夜なので、誰もいない。

 「いい場所ですね」
 「そうだろ?」

 柳に自販機で飲み物を買って来させた。

 「まあ、お前だから話すけど、結構今朝は焦ってたんだよ」
 「そうなんですか?」
 「そりゃなぁ。前もってロボがヘンなのを捕まえてなきゃ、流石にもっと動揺しただろう。それだって、ペガサスってなぁ」
 「そうですよね」

 「だけど、俺がビビったら終わりだ。前にも言ったが、ああいう連中には毅然とした態度で対峙しなければいかん」
 「はい」
 「あいつは最初から仲間になるつもりだったから良かったけどな。でも、あいつらは人間とは違う。俺たちの思考形式ではないんだ」
 「はぁ、よく分かりませんが」
 
 柳は戸惑っている。

 「御堂家にはオロチがいる。ずっと以前から、お前の家の守り神だと言われている」
 「はい」
 「でも、それってどういうものなんだ? 敵の攻撃から守ってくれるのか。家を繁栄させてくれるのか。それとも別なやり方なのか」
 「言われてみればそうですね」

 「俺が敵から守ってくれと頼んだ。だからフランス外人部隊や蓮華の攻撃から守ってくれた。でも、俺はオロチはそういう繋がりでは無かったんじゃないかと思うぞ」
 「はい、分かりませんが」

 「結局分からないんだよ。攻撃を防いではくれたけど、それはたまたま俺たちの概念とオロチの概念が擦り寄っただけだ」
 「はい」
 「クロピョンになると、俺もどう運用していいのか分からん。余りにも存在のレベルが違うからな」
 「でも、石神さんは何度か使っていますよね」
 「具体的なことだけだ。これを喰えとか、はたき落とせとかな。しかし、例えば「蓮花の研究所を守れ」とは命じられない。どういうやり方をするのか分からんからな」
 「なるほど」
 「何もかも出入りする連中を呑み込むのかもしれん。この世界から切り離してしまうかもしれん」
 
 柳は考えていた。
 俺の言わんとすることが分かって来たようだ。

 「今はあの研究所はタヌ吉さんが守ってますよね」
 「ああ。タヌ吉は人間の概念がある程度分かっているからな。害悪を持って入ってこようとする人間だけを対象に出来る。でも、今回も「業」に対して即座の攻撃は無かった。ああいうものが、人間との「概念の違い」というものなんだ」
 「分かりました」
 「俺はな。今後この問題を解決しなければならんと考えている。人間の概念に沿って戦い守る、というな」
 「そうですね」
 「道間家の協力が必要だし、うちのルーとハーの能力も必要になるだろう」
 「はい」

 「柳、お前の力もな」
 「え!」

 柳が驚いている。

 「なんで私が?」
 「俺の勘だよ。今はな。でも柳、お前にはあやかしとの縁があると俺は考えている。オロチのこともそうだがな」
 「エェー!」
 「お前、なんでいつもロボの蹴りを自分ばかり喰らってると思うんだ?」
 「あ! それは不思議でした!」
 「毎回理屈はあるけどな。でも、それはやっぱり縁なんだよ」
 「そうなんですか」
 「別にロボも、お前のことが嫌いなわけじゃない。そうだろ?」
 「そう言われれば。ちゃんとじゃれてきますし、結構一緒に遊んだりも」
 「まあ、そのうちにはっきりするだろう。今は別に何もしなくてもいいよ」
 「はぁ」

 俺たちは帰った。





 家に帰り、全員を集めた。
 今朝のことを一通り話す。

 「空の王というものが仲間になった。見た限りでは、数千キロメートルの存在だ。まあ、とんでもないな」

 全員が黙って聞いている。

 「空の王が「百万モメン」、ペガサスは「ルミ子」だ。宜しくな」
 「「「「「……」」」」」

 子どもたちは何か言いたげだったが無視した。

 





 俺も一杯一杯だったんだよー!
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