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ペガサスの朝
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4月下旬の金曜日の朝。
「タカさん!」
ルーが慌てながら俺を起こしに来た。
「なんだ! 敵襲か!」
「違います!」
まあ、敵が襲って来て俺が察知できないはずもない。
だがルーの慌てぶりは尋常ではなかった。
「庭に!」
「なんだよ、またロボがヘンなの捕まえたのか」
「違うよー!」
ルーが俺を持ち上げて庭に運んだ。
ウッドデッキから出て庭を指差す。
「あんだ、あれ?」
羽の生えた真っ白い馬がいた。
「ロボは?」
「リヴィングでご飯!」
「馬肉?」
「違うよー!」
ルーの様子がヘンなので、みんなが探しに来た。
「「「「あにアレ?」」」」
「ニャ?」
ロボが時々ヘンなものを捕まえて来るが、うちの庭にはこういう連中がよく来るのだろうか。
「ペガサスかよ」
俺が呟くと、近づいて来た。
一応手を振った。
「おーす!」
「「「「「タカさん!」」」」」
ペガサスが俺の前に来て、膝を折り頭を下げた。
《我らが王よ》
「「「「「テレパシー!」」」」」
「なんだ、喋れるのか」
《王に一目お会いし、挨拶をと》
「王って、どういうことだ?」
《地の王を統べ、このたび天の王が従う王の中の王》
「なんだよ、そりゃ」
《真の『神獣と霊獣の王』よ》
「そうかよ。それで挨拶に来たってことか?」
《そうだ。そして我と共に天の王に相まみえて欲しい》
「天の王に?」
《我と共に》
「いいけど。亜紀ちゃん!」
「はい!」
「「虎王」を持って来てくれ!」
「はい!」
《王よ、無理だ》
「なんだ?」
《『霊獣の王』となったからには、もう「虎王」は王以外には持てない》
「へぇ」
俺は家に入り、自分の部屋へ行った。
「おもーい!」
亜紀ちゃんが「虎王」を持とうとして持ち上げられないでいる。
「亜紀ちゃん」
「は、はい!」
「絶対に持って来い」
「はい!」
俺はウッドデッキに戻った。
10分後、亜紀ちゃんが「虎王」を必死に持って来た。
「クッソォーーーー!」
俺の前まで来て、倒れた。
「た、た、タカさん……」
「ご苦労」
《王よ……》
「下の者に無理だと言われて引っ込むのなら、王なんて冗談じゃねぇ。うちの家族を舐めるなよ」
ペガサスが笑った。
テレパシーで笑うとどういうことになるのか分かった。
全身が揺さぶられる感覚だった。
《人の身でよくぞ。久方ぶりに楽しかった》
「人間も大したものだろ?」
《そうだな。我らや王にとっては卑小な存在だが》
「俺も人間だぁ!」
《王が?》
またペガサスが笑った。
「笑うな! 俺はちゃんとお袋の腹から生まれて来たんだ!」
《それは些細なことだ、王よ》
「大事なことだぁー!」
《まあ、そういうことにしておこう》
「てめぇ」
《では、我の背に乗ってくれ、王よ》
「お前、王って呼ぶ割にタメ口だな」
《些細なことだ、王よ》
「これも大事だぁ!」
子どもたちが観ている。
「あ!」
《どうした、王よ?》
「俺、パジャマじゃん!」
俺の大好きなニャンコ柄だ。
《気になるのか?》
「当たり前だぁ! ちょっと待ってろ!」
俺は10分で支度をした。
《もう良いか、王よ》
「よし、行け!」
子どもたちが心配そうに見ていた。
ペガサスはどこまでも上がって行った。
そのうちに星が見えて来た。
その向こうに、半透明に光る長大な帯のようなものが見えて来た。
《あれが空の王だ》
成層圏を越えたはずだが、不思議と息苦しさが無い。
きっとペガサスが何かやっているのだろう。
俺は人間だ。
「あんなに遠くにいるのかよ。大気圏越えてるぞ?」
地表や星の見え方から、成層圏を越え、カーマンラインも越えているはずだ。
《空の王が大地に近づけば多大な影響がある。だから普段はああやって高い場所にいるのだ》
「へぇー」
俺は三角関数で計算しようとした。
対比物が無いので概算もいいところだが、見えている帯状のものは、恐らく数千キロの長さだろう。
幅だけでも数百キロはある。
帯状のものから「波動」が来た。
クロピョンと同じく、存在のレベルが違うので、人間の概念での交流が出来ない。
しかし、何を伝えようとしているのかが何となく分かった。
俺は人間だが。
「よし! お前も舎弟にしてやる! 命名! 「百万モメン」!」
恐ろしく巨大な波動が来た。
クロピョンの「笑い」と同じものだ。
《驚いた。空の王が笑っている》
ペガサスが言った。
「よし、戻れ」
ペガサスが地上に向かった。
病院の屋上で降りた。
「ああ、そうだ。お前の名前は「ルミ子」な!」
《分かった》
「天馬だからな!」
《?》
ペガサスは飛び立って行った。
「あ! 財布忘れた!」
慌てて支度したので、スマホも何も持っていないことに気付いた。
「一江、悪いんだけど100万貸して」
「え!」
「頼むよ」
「なんでそんな大金!」
「いや、財布忘れちゃってさ。昼も喰えねぇ」
「食堂で定食700円ですよ!」
「帰りのタクシー代もねぇんだ」
「電車で帰ればいいじゃないですか!」
「パスモもねぇ」
一江が呆れている。
「じゃあ、どうやって来たんですか?」
「実はな」
「はい」
「驚くなよ」
「おう」
「ペガサスに乗って来た」
一江に頭をはたかれた。
コワイ顔で鞄から千円札をデスクに叩きつけて自分の席に戻った。
その日は食堂で700円の「A定食」を食べた。
六花が付き合ってくれた。
ナースたちが寄って来て、楽しく話した。
遅くまでオペが入っていた。
いつもなら俺が弁当などを最後にいた連中と一緒に食べる。
しかし、300円しか持って無かった。
帰りの電車賃が必要だ。
一江がオペ室まで来た。
俺とオペ看たちを食堂へ連れて行く。
叙々苑の弁当があった。
「一江ぇー!」
「はいはい」
喰い終わる頃に、柳が迎えに来てくれた。
一江が連絡してくれたらしい。
「柳ぅー、一江ぇー!」
自分の部屋へ戻ると、六花から電話が来た。
「石神先生、今日はうちへ泊りませんか?」
「ああ!」
「柳、俺は六花のマンションに泊まるわ!」
一江と柳が俺の尻を蹴った。
「悪い、六花。みんなが親切にしてくれたんで、今日は帰るよ」
「そうですかー」
「すまんね。ありがとう」
「いいえ」
俺って、なんかスゴイ「王」らしいんだけど。
「タカさん!」
ルーが慌てながら俺を起こしに来た。
「なんだ! 敵襲か!」
「違います!」
まあ、敵が襲って来て俺が察知できないはずもない。
だがルーの慌てぶりは尋常ではなかった。
「庭に!」
「なんだよ、またロボがヘンなの捕まえたのか」
「違うよー!」
ルーが俺を持ち上げて庭に運んだ。
ウッドデッキから出て庭を指差す。
「あんだ、あれ?」
羽の生えた真っ白い馬がいた。
「ロボは?」
「リヴィングでご飯!」
「馬肉?」
「違うよー!」
ルーの様子がヘンなので、みんなが探しに来た。
「「「「あにアレ?」」」」
「ニャ?」
ロボが時々ヘンなものを捕まえて来るが、うちの庭にはこういう連中がよく来るのだろうか。
「ペガサスかよ」
俺が呟くと、近づいて来た。
一応手を振った。
「おーす!」
「「「「「タカさん!」」」」」
ペガサスが俺の前に来て、膝を折り頭を下げた。
《我らが王よ》
「「「「「テレパシー!」」」」」
「なんだ、喋れるのか」
《王に一目お会いし、挨拶をと》
「王って、どういうことだ?」
《地の王を統べ、このたび天の王が従う王の中の王》
「なんだよ、そりゃ」
《真の『神獣と霊獣の王』よ》
「そうかよ。それで挨拶に来たってことか?」
《そうだ。そして我と共に天の王に相まみえて欲しい》
「天の王に?」
《我と共に》
「いいけど。亜紀ちゃん!」
「はい!」
「「虎王」を持って来てくれ!」
「はい!」
《王よ、無理だ》
「なんだ?」
《『霊獣の王』となったからには、もう「虎王」は王以外には持てない》
「へぇ」
俺は家に入り、自分の部屋へ行った。
「おもーい!」
亜紀ちゃんが「虎王」を持とうとして持ち上げられないでいる。
「亜紀ちゃん」
「は、はい!」
「絶対に持って来い」
「はい!」
俺はウッドデッキに戻った。
10分後、亜紀ちゃんが「虎王」を必死に持って来た。
「クッソォーーーー!」
俺の前まで来て、倒れた。
「た、た、タカさん……」
「ご苦労」
《王よ……》
「下の者に無理だと言われて引っ込むのなら、王なんて冗談じゃねぇ。うちの家族を舐めるなよ」
ペガサスが笑った。
テレパシーで笑うとどういうことになるのか分かった。
全身が揺さぶられる感覚だった。
《人の身でよくぞ。久方ぶりに楽しかった》
「人間も大したものだろ?」
《そうだな。我らや王にとっては卑小な存在だが》
「俺も人間だぁ!」
《王が?》
またペガサスが笑った。
「笑うな! 俺はちゃんとお袋の腹から生まれて来たんだ!」
《それは些細なことだ、王よ》
「大事なことだぁー!」
《まあ、そういうことにしておこう》
「てめぇ」
《では、我の背に乗ってくれ、王よ》
「お前、王って呼ぶ割にタメ口だな」
《些細なことだ、王よ》
「これも大事だぁ!」
子どもたちが観ている。
「あ!」
《どうした、王よ?》
「俺、パジャマじゃん!」
俺の大好きなニャンコ柄だ。
《気になるのか?》
「当たり前だぁ! ちょっと待ってろ!」
俺は10分で支度をした。
《もう良いか、王よ》
「よし、行け!」
子どもたちが心配そうに見ていた。
ペガサスはどこまでも上がって行った。
そのうちに星が見えて来た。
その向こうに、半透明に光る長大な帯のようなものが見えて来た。
《あれが空の王だ》
成層圏を越えたはずだが、不思議と息苦しさが無い。
きっとペガサスが何かやっているのだろう。
俺は人間だ。
「あんなに遠くにいるのかよ。大気圏越えてるぞ?」
地表や星の見え方から、成層圏を越え、カーマンラインも越えているはずだ。
《空の王が大地に近づけば多大な影響がある。だから普段はああやって高い場所にいるのだ》
「へぇー」
俺は三角関数で計算しようとした。
対比物が無いので概算もいいところだが、見えている帯状のものは、恐らく数千キロの長さだろう。
幅だけでも数百キロはある。
帯状のものから「波動」が来た。
クロピョンと同じく、存在のレベルが違うので、人間の概念での交流が出来ない。
しかし、何を伝えようとしているのかが何となく分かった。
俺は人間だが。
「よし! お前も舎弟にしてやる! 命名! 「百万モメン」!」
恐ろしく巨大な波動が来た。
クロピョンの「笑い」と同じものだ。
《驚いた。空の王が笑っている》
ペガサスが言った。
「よし、戻れ」
ペガサスが地上に向かった。
病院の屋上で降りた。
「ああ、そうだ。お前の名前は「ルミ子」な!」
《分かった》
「天馬だからな!」
《?》
ペガサスは飛び立って行った。
「あ! 財布忘れた!」
慌てて支度したので、スマホも何も持っていないことに気付いた。
「一江、悪いんだけど100万貸して」
「え!」
「頼むよ」
「なんでそんな大金!」
「いや、財布忘れちゃってさ。昼も喰えねぇ」
「食堂で定食700円ですよ!」
「帰りのタクシー代もねぇんだ」
「電車で帰ればいいじゃないですか!」
「パスモもねぇ」
一江が呆れている。
「じゃあ、どうやって来たんですか?」
「実はな」
「はい」
「驚くなよ」
「おう」
「ペガサスに乗って来た」
一江に頭をはたかれた。
コワイ顔で鞄から千円札をデスクに叩きつけて自分の席に戻った。
その日は食堂で700円の「A定食」を食べた。
六花が付き合ってくれた。
ナースたちが寄って来て、楽しく話した。
遅くまでオペが入っていた。
いつもなら俺が弁当などを最後にいた連中と一緒に食べる。
しかし、300円しか持って無かった。
帰りの電車賃が必要だ。
一江がオペ室まで来た。
俺とオペ看たちを食堂へ連れて行く。
叙々苑の弁当があった。
「一江ぇー!」
「はいはい」
喰い終わる頃に、柳が迎えに来てくれた。
一江が連絡してくれたらしい。
「柳ぅー、一江ぇー!」
自分の部屋へ戻ると、六花から電話が来た。
「石神先生、今日はうちへ泊りませんか?」
「ああ!」
「柳、俺は六花のマンションに泊まるわ!」
一江と柳が俺の尻を蹴った。
「悪い、六花。みんなが親切にしてくれたんで、今日は帰るよ」
「そうですかー」
「すまんね。ありがとう」
「いいえ」
俺って、なんかスゴイ「王」らしいんだけど。
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