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オオサカ・オイシーズ Ⅱ

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 「塩野社長!」
 「石神さん! 六花さんも!」

 ソファに案内され、お茶を頂いた。

 「また今回もぎょうさんお土産頂いてしもうて」
 「いいえ。バイクで来たので先に送らせていただいて。味気ない渡し方で申し訳ない」
 
 俺は昼に紹介してもらった焼き肉屋が美味かったという話をした。

 「あんまり美味いんで、お店のシャトーブリアン全部食べてしまいました」
 「ワハハハハハハ!」
 「精がつきました」

 六花の頭をはたく。

 「それにしても、今回の映像!」
 「ああ」

 花見でアメリカ大使夫妻が肉が美味いと言っている映像を入れていた。
 もちろん許可済みだ。
 ちゃんと梅田精肉店の包装を解くところから撮っている。
 カメラが花見風景でパーンし、大使夫妻、アビゲイル、響子、そして六花の食事風景が出ている。
 六花の美しさは最高だ。
 もちろん子どもたちのいつもの肉争いも。

 「米国大使夫妻が褒めてくれはって! あれ、本当に宣伝で使ってもええんですか?」
 「はい。許可は頂いていますから、是非」

 店には俺たち家族のポスターがあちこちに貼ってある。
 前回俺と皇紀で来た時に渡したDVDのパッケージに使ったものだ。
 亜紀ちゃんが回し蹴りを、肉を掴んだ皇紀の顔面にぶち込んでいる。
 皇紀の顔面が歪み、半分白目を剥いている。
 俺たちがその後ろで笑顔で鍋をつついている。
 ロボが空中に浮かんだ肉を両手で掴もうとしている。

 《戦いたくなるほど、美味しいお肉!》

 大評判だそうだ。
 あのカットを撮るために、20回ほど皇紀が蹴られた。

 楽しく話していると、風花が来た。

 「石神さん! お姉ちゃん!」

 風花はまた綺麗になった。
 化粧もさまになって来ている。

 「おう! 元気そうだな」
 「風花、久しぶり」

 俺たちは三人で梅田精肉店を出た。
 思わぬ人物が待っていた。
 直心組の稲葉セツだ。
 着物を着ており、俺に深々と頭を下げた。

 「大阪にいらっしゃるのを知らず、失礼いたしました」
 「いいよ。別にお前らに用があったわけじゃない」
 「それに、私らが至らないことでご不快を」
 「あ?」
 「山王組にも報告いたしました。すぐに改善させていただきます」
 
 梅田精肉店の売上の件だ。

 「アハハハハ! あれは冗談だよ。梅田精肉店は順調だ」
 「まあ!」
 「でもヒマだったら頼むよ。あそこには世話になってるんだ」
 「かしこまりました」

 「あの、石神さん。こちらの方は?」
 「ああ、神戸山王会直心組の組長さんだ」
 「エェー!」

 風花が驚く。

 「セツ、こいつが前に話した梅田精肉店で働いている俺の身内だ。アシュケナージ風花。宜しくな」
 「はい、アシュケナージ風花様、稲葉セツと申します。お見知りおきを」
 「は、はい、宜しくお願いします」

 稲葉セツは微笑んで風花を見ていた。

 「この方も素敵なお嬢さんですね。そちらが一色六花様ですね」
 「よろしくお願いします」

 「セツ、これから食事に行くんだ。お前も一緒にどうだ?」
 「はい、ご相伴させていただきます」

 稲葉セツは車の男に話し、一人でついてきた。
 風花は緊張していた。

 「石神さん、あの定食屋でいいんですか?」
 「ああ、構わないよ。あそこは美味いからなぁ!」
 「でも、稲葉さんのお口には合わないんじゃ」
 「大丈夫だよ。俺の出すものを不味いって言う奴じゃない」
 「そんな!」

 俺は笑って定食屋に入った。

 「石神くん!」
 
 杉本が来る。

 「おう、また来たよ。今回は風花の姉で俺の恋人の六花、それとさっきそこで会った直心会の組長の稲葉セツだ」
 「エェー!」
 「こないだ京都でご馳走になってな。今日は俺がご馳走するんで連れて来た」
 
 「稲葉セツと申します」

 セツが丁寧に挨拶するので、杉本も驚く。
 杉本がテーブルに案内し、俺は次々と注文した。
 唐揚げ、レバニラ、サバみそ、赤魚の焼き物と煮付け、カニ玉、そして剣菱の冷酒を俺と六花、セツに。
 ご飯は別に丼でもらい、小皿で全員が好きなように取る。

 「そう言えばよ、さっき神に案内してもらった愚連隊の連中な。なかなか良かったぞ」
 「オホホホホ!」

 セツが笑った。

 「あれだけやられておいて、誰も逃げ出さねぇ。それに得物も使わないしな。ほとんど素手のタイマンだし」
 「そうですか」
 
 風花が不思議そうな顔をしているので、六花が説明してやった。

 「エェー!」
 「ゼットンっていう人たちでしたよ」
 「絶怒だ!」
 「あ、知ってます! 喧嘩が強いんですよね!」
 「そうらしいな」
 「石神さん、あの人たちに絡まれたんですか?」
 「あ、ああ、そんな感じだったか」
 「違いますよ、風花。石神先生が食後の運動にっていきなり乗り込んだんです」
 「エェー!」
 「お前も喰い過ぎて運動したいって言っただろう!」
 「私はそんな。後ろで怯えていました」
 「嘘つけ! 俺の隣で嬉しそうにバキバキやってたろう!」

 セツが大笑いした。

 「石神様は本当に楽しい」
 「ヤクザも怖がらねぇ連中だったそうだな」
 「はい。でもそれほど揉め事は。手を出さなければ大人しいものでしたし」
 「あのビルはどうやって手に入れたんだ?」
 「喧嘩ですよ。地下闘技場で勝って手に入れたんです」
 「へー、そんなものがここにはあるのか」
 「はい。ご案内しましょうか?」
 「いや、いいよ。でもそうだったか。じゃあビルを潰したのは可愛そうだったな」
 「いいえ、負ければ仕方ありません」

 俺はセツに金を渡すからビルを建ててやってくれと頼んだ。
 セツは喜んで引き受けてくれた。

 セツも結構食べた。
 年齢から考えても多い量だった。
 1時間ほどで帰ると言った。

 「今日は本当に美味しいものをありがとうございました」
 「いや、またご馳走させてくれ」
 「いつでも御呼び下さい」

 金を置いて行こうとするので、俺が今日は奢りだと言った。
 まあ、先日の京都の料亭に比べれば遙かに安いが。
 しかし、セツはそんなことは気にしていない。
 俺が俺の大事な身内を紹介し、その人間が出入りする店に案内した。
 それがどういう意味かを分かっている。

 深々と頭を下げ、店主や杉本にも丁寧に礼を言って出て行った。





 「風花、さっきの愚連隊にな、「オオサカ・オイシーズ」だって名乗ったんだ」
 「アハハハハハハ!」
 「塩野社長に美味い焼肉の店を教わってな。そこで昼に六花と美味しい美味しいって言いながら食べたんだよ」
 「そうなんですか!」

 風花が喜んだ。
 塩野社長が褒められると嬉しいのだ。

 「それで思いついたんだけどな」
 「なんですか?」
 「梅田精肉店でさ、肉料理の料理教室をやったらどうかな?」
 「え?」
 「肉の調理法って単純なようで結構奥が深いだろ? それに普段は食べないような肉や部位もたくさんある。そういうのを一般の人に教えて行くんだよ」
 「なるほど!」
 「みんな喜ぶと思うよ。知らないことが一杯あるだろうしな」
 「凄いですね、石神さん!」

 風花が興奮している。
 六花は目を閉じて腕組みをして顔を縦に振っていた。

 「さっき、六花からな」
 「お姉ちゃんが!」
 「うん。テレパシーが来た」
 「アハハハハハハ!」

 六花もニッコリと笑っていた。

 「風花のアイデアってことで、塩野社長に話してみろよ」
 「え、だって石神さんのでしょ?」
 「いいから。元は六花のテレパシーだしな」
 「ダメですよ! ちゃんと石神さんのアイデアだって話させて下さい」
 「うーん、分かったよ」

 俺たちはゆっくりと食事をし、9時を過ぎると客もいなくなった。
 店主と杉本もテーブルに呼んで、みんなで飲んだ。

 「「オオサカ・オイシー!」」

 俺と六花で叫ぶと、みんなが笑った。

 



 風花のマンションに帰り、風呂を頂いた。
 六花が一緒に入りたがったが、そんなに広くないので一人で入った。

 三人でまた軽く飲みながら話した。

 「こないだロボがさ……」

 俺は「あーん」の話をし、風花を笑わせた。

 「お姉ちゃんにも見せたんですか?」
 「いや、こいつの場合、見せなくてもな」
 「ウフフフ」

 「風花、見てみるか?」
 「え、いいです!」

 六花と俺で笑った。





 その夜。
 六花がいつもより大きな声を挙げている。
 風花がドアを叩いた。

 「あ、あ、あの! もう少し小さな声でお願いします! 近所の人に、あの!」
 「大丈夫だ!」
 「はい?」
 「この部屋の周辺は全部「皇紀システム」が置いてあるから!」
 「エェー!」
 「だから文句は来ねぇ!」
 「聞いてませんよ!」
 「「アハハハハハハ!」」

 でも、もうちょっと声を抑えろと六花の尻を引っぱたいた。
 六花が喜ぶので、パンパンしてやった。
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