上 下
1,063 / 2,840

オオサカ・オイシーズ

しおりを挟む
 ロボの新技騒動の翌週の週末。
 俺は六花と一緒に長距離ツーリングに出掛けた。
 風花のいる大阪だ。
 朝8時に待ち合わせた。

 六花はいつものようにマンションの前で待っていた。

 「おはようございます!」
 「ああ、おはよう。今日もお前は綺麗だなぁ!」
 「ウフフフ」

 俺たちは軽くキスをして、ルートを確認した。
 
 「昼頃には着く予定だからな。向こうで美味いものを喰おう」
 「はい!」
 「静岡の鰻は帰りにな!」
 「はいはい!」

 六花も大好きだ。
 今回は三人前を食べると言っている。
 
 バイクなので、荷物は無い。
 着替えなどは、事前に宅急便で風花のマンションに送っている。
 今晩は風花のマンションに泊めてもらう予定だった。
 東名高速を御殿場ジャンクションで新東名に乗り換える。
 最初のサービスエリアでコーヒーと軽食を摂った。

 「新東名が長いからな。途中で疲れたら言ってくれ」
 「はい!」

 六花はニコニコしてパンケーキとアメリカンドッグにかぶりついた。
 俺が途中でソフトクリームを買って来ると、さらにニコニコした。

 「お昼は精のつくものを食べましょうね!」

 俺は笑って分かったと言った。

 六花のNinjaは乾さんのところでパーツを変え、更に早くなった。
 俺のスーパー・レッジェーラはそれほど換装の余地は無かった。
 乾さんが特別に俺用に調整してくれ、操縦性は高まったが。

 



 大阪の梅田には昼前に着いた。
 俺たちはやはり速い。
 風花にマンションの鍵を預かっているので、勝手に入らせてもらう。
 俺たちに用意された寝室の荷物を開き、シャワーを浴びてから着替えた。
 俺に迫って来る六花に、「食事が先だ」と諭す。

 ちょっとむくれていたが、焼肉を食べ始めるとニコニコした。

 「大阪って何でも美味しいよなぁ!」
 「大阪、美味しいです!」

 二人で店の在庫のシャトーブリアンを喰い尽くした。
 それでも100万もいかないのだから、石神家の異常を思い知る。

 「あー、なんかちょっと食べすぎましたかね」
 「運動が必要かぁー」

 暇なので暴れたいという遣り取りだ。
 俺たちはゲーセンを探した。
 店に入る。
 みんな楽しく真剣に遊んでいる。

 「ハルオやオオノがいそうだな。邪魔しないでおこう」
 「?」

 思いついて神に電話した。

 「おい、大阪のゲーセンでヤバイとこ教えろ」
 「はい?」
 「別にゲーセンでなくてもいい。暴れたいバカが多い場所を教えろ」
 「なんなんですか?」
 「てめぇの組にカチコまれたくなきゃ、すぐに教えろ!」
 「は、はい!」

 神はあるビルの場所を口にした。

 「絶怒(ゼッド)って愚連隊の連中のアジトでしてね。ヤクザを怖がらねぇ奴らですよ」
 「あのよ」
 「はい」
 「どこだよ?」
 「え、だから今住所を!」
 「大阪は疎いんだよ! てめぇ、案内しろ!」
 「はい!」

 俺は焼き肉屋の前に戻って神を待った。
 ベンツに乗って5分で来た。

 「遅ぇ!」
 「すみません!」

 ベンツの後部シートに乗り、案内させた。
 神が六花の美しさに驚いている。
 助手席から何度も振り返った。
 俺は助手席の背を蹴った。

 「てめぇの汚ぇ目で見るんじゃねぇ!」
 「すみません!」

 六花は俺に腕を絡め、俺の匂いをかぎながらニコニコしている。

 「ところで六花、最近梅田精肉店の売上がちょっと落ちたってなぁ」
 「ああ、聞きました」
 「おかしいよなぁ。俺はあそこを目一杯使えって命じているんだけどなぁ」
 「おかしいですよね?」

 「ヒィッ!」

 神がすぐに仕切り直すと言った。
 車は10分もかからずに到着した。
 8階建てのビルだ。

 「ここです。今日は土曜ですから、100人くらいはいるかと」
 「ケツモチは?」
 「いません。とにかく暴れたいって連中で、喧嘩をふっかけてはぶちのめすって」
 「女攫ったりとかは?」
 「さあ。あんましやらないんじゃないかと」
 「そうか」

 俺と六花は中へ入った。

 「六花、多少の骨折はいいけど、治る範囲でな」
 「分かりましたー!」
 
 俺たちはゆっくりぶちのめしていった。
 喧嘩屋を気取っていることはあり、そこそこやる。
 もちろん、俺たちの相手ではないが。
 2階に上がった所で、騒ぎを聞きつけて上から降りて来るようになった。
 40人ほど潰したところで、誰も向かって来なくなった。
 上の人間らしい奴らが降りて来た。

 「お前らなんだ!」
 「オオサカ・オイシーズだ」
 「なんだと?」
 「食後の運動にな」
 「てめぇ!」

 ボクシングをやっているらしい動きだった。
 左のジャブに右手を合わせ、拳を潰した。
 右ストレートを三発胸に打ち、アバラを折った。
 続いて190センチくらいのでかい奴が来た。
 ローキックで大腿骨をへし折り、顎を平手で打って意識を奪った。
 次々と来るが、誰も俺と六花には向かわなかった。
 上の連中が全部沈んだ。

 俺は全員に動けない奴らを外に出させた。
 俺と六花が上から全部見て回った。
 金を溜め込んだり、ヤバイ薬やヤリ部屋のようなものは無かった。

 ぞろぞろと男たちが出て来るので、神が驚いていた。
 俺がビルを「虚震花」で破壊した。
 全員が呆然と見ていた。

 「おし! 行こうか!」
 
 神に言い、俺たちは梅田精肉店へ向かった。

 「石神さん、今のって」
 
 神が聞く。

 「あんだよ?」
 「あの、今のって」
 「だからなんだぁ!」
 「あの、何か意味はあるんですか?」
 「あるわけねぇだろう」
 
 「……」

 六花はニコニコして俺の胸の匂いをかいでいた。

 梅田精肉店の近くで降ろしてもらった。

 「おい、山王会全体に号令かけろよな」
 「はい?」
 「梅田精肉店を使えってだよ!」
 「はい!」

 俺は神にレッドダイヤモンドの欠片を手間賃として渡した。
 最近はいつもポケットに幾つか忍ばせている。
 飴ちゃんの感覚だ。




 


 俺と六花がビルに近づくと、売店の女性が気付いてくれた。
 手を振って来るので、俺たちも手を振って頭を下げた。

 すぐに外へ出て来て、俺たちを社長室へ案内してくれる。
 本当にいい会社だ。

 社長室で、塩野社長が笑顔で出迎えてくれた。 
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。  彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。  そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!  彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。  離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。  香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...