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今年の花見

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 4月最初の土曜日。
 今年も花見をした。
 レイが楽しそうだったからだ。
 響子、アメリカ大使館大使夫妻とアビゲイル、院長夫妻、六花、鷹、一江と大森、早乙女夫妻、千両と桜や東雲たち、左門と恋人のリー、そして柳とうちの子どもたち。

 鷹と一江、大森は前日から泊まり込んで料理の準備をしている。
 一応去年と同じバーベキューをするが、やはり他のちゃんとしたものも出したい。

 午後の三時から開催した。

 子どもたちがテーブルの配膳をし、各テーブルを回りながら会話を盛り立てて行く。
 俺も同じようにするが、主に左門たちの紹介だった。
 恋人同士であることは、特段隠さない。
 恋は自由なものだ。

 大使夫妻とアビゲイルが稲荷寿司を気に入ったようだった。
 それと新ショウガの漬物。
 俺はルーに言って残っている稲荷寿司を集めさせ、折り詰めにし、ハーに家から新ショウガの漬物の袋を一つ持って来させた。

 「稲荷寿司は後でも召し上がれます。漬物は、ここへ連絡すればいつでも」

 お二人は大変喜んでくれた。
 今回は一時間程で帰られた。
 六花がホッとしていた。

 院長夫妻は左門が俺の弟だと言うと驚いていた。
 事情を説明し、納得された。

 「これからは近所に住むことになりましたので」
 「そうなのか。それにしても驚いたな」
 
 左門とその恋人早瀬力也「リー」は人当たりが良く、誰とでも仲良くなった。
 特に早乙女たちとはウマが合ったようで、一緒のテーブルで話している。
 六花と響子もそこに加わって楽しそうだった。

 料理も落ち着いて来て、子どもたちが自分で好きなようにバーベキューを始める。
 俺は千両たちの所へ行った。

 「石神さん、今年もお呼びいただきまして」

 桜がそう言った。

 「まあ、恒例にするつもりも無かったんだがな。今年は出来るだけ去年と同じようにしたかったんだ」
 「はい」
 「千両、遠い所をわざわざ悪かったな」
 「とんでもありません。それに先日は不甲斐ない働きを」
 「気にするな! よくやってくれたよ。お前たちがいなければ危なかった」
 「はい」

 千両は斬と蓮花研究所を守ってくれた。
 俺は男たちのシートに座った。
 桜がコップに酒を注いで渡してくれる。

 「そう言えば、お前の名前って桜だったよな?」
 「何をいまさら!」
 「千両、なんでこいつが「桜」なんだ?」
 「はい、散る者であるようにと」
 「ほう」
 「こんなに見事に咲かなくてもいんですが。散っていく花弁の一枚でもあれば。そういう思いで付けました」
 
 「だそうだ」
 「聴いてますよ!」

 みんなで笑った。

 諸見の隣に座った。

 「諸見、お前に貰ったスケッチブックな。レイの部屋のデスクに置いてあるぞ」
 「そうですか。もったいないことで」
 「双子がな、随分と褒めていて、是非額装しようって言ったんだ」
 「いいえ! そんな!」
 「だけどな。他に俺たちや家のスケッチがあるじゃないか。だからそういうのと一緒がいいだろうって俺が言った。額装はしなかった。それでいいかな?」
 「石神さん!」

 諸見が泣いた。

 「それでよ、レイに前にやったオオルリのぬいぐるみがあるんだ。それもデスクにあるんだけどな。それが時々スケッチブックにうつぶせになってる。まるで抱き締めているようにな。何故か時々倒れてるんだよ」
 「!」

 俺は諸見の肩を叩いた。

 「ありがとうな。素晴らしい物を貰ったよ」
 「いいえ、そんな。自分なんて」

 泣いている諸見を、千両たちが微笑みながら見ていた。

 「東雲ぇ!」
 「はい!」

 「諸見に美味い肉でも持って来てやってくれ!」
 「へ! あそこからですか?」

 バーベキュー台は修羅の争いが展開されている。

 「早く行け!」
 「は、はい!」
 「桜も行け!」
 「はい!」

 東雲と桜が吹っ飛ばされた。
 皇紀が一皿持って来てくれた。




 俺は早乙女達のテーブルへ行った。

 「おい、そういえば『サーモン係長』って大評判らしいじゃねぇか」

 前に早乙女が売れっ子漫画家・猪鹿コウモリにアイデアを渡したものだ。

 「うん。今度印税が入るらしいよ」
 「へー」
 「猪鹿さんが、半々でって言っててな。困るんで、もっと少なくしてもらう予定だ」
 「公務員の副業とかって大丈夫か?」
 「ああ、執筆活動などは基本的に大丈夫なんだ。それに俺の場合、昔のアイデアを渡しただけだしな」
 「なるほど」
 「でも、結構な額が入るようで困ってるんだよ」
 
 早乙女が言った。

 「いいじゃねぇか。金なんか幾らあっても」
 「お前はそうだけどな。俺などはごく普通の人間だから」
 「俺だってそうだぁー!」

 みんなが笑う。
 創作ノートは全部渡し、今もアイデアを時々送っているらしい。

 「雪野さんもアイデアを出してくれているしな。それにサーモン料理をよく調べてくれて」
 「なるほど!」

 響子が知らなかったので、六花がスマホで見せてやった。
 左門たちも検索する。
 大爆笑した。

 「そう言えば、石神にもアイデアをもらったよな」
 「ああ、恋人のサメ子か」
 「そうだ! あのキャラも人気らしいぞ」
 「どうでもいいよ」

 サーモン係長の他はみんな人間なので、恋人はサメにした。
 浮気を疑われ、毎回酷い喰われ方をしている。

 「最近は「サメ子系女子」っていうものまであるらしいぞ?」
 「へぇー」
 
 まあ、人気らしい。
 早乙女は貯金もちゃんとあったが、俺たちのご祝儀箱(10億円)や、先日も近所の拝み屋から十数億円をもらったり、俺が預かった遺産の怪しげなものの予定引き取り額数百億円(まだ話していない)で、もう大富豪だ。
 それに、「出産祝い」が待っている。

 「左門、またキャンプに行こうな! 今度は力也も一緒にな」
 「うん! 楽しみだよ」
 「ああ、リー、こないだ左門を連れてったんだけどよ。こいつレンジャーの経験があるってウサギの罠とか子どもたちに教えてくれたのな」
 「そうなんですか!」
 「やめてよ、トラ兄さん!」

 「そうしたらよ。直後にうちの子どもらがイノシシを狩って来て左門に喰わせた」
 「アハハハハハハ!」

 「リー、トラ兄さんのとこは異常なんだよ」
 「「僕が教えてあげるよ」ってなぁ! 大笑いだったぜ」
 「もう!」
 「アハハハハハハ!」

 早乙女もキャンプに行きたいと言った。

 「まあ、雪野さんはなぁ」
 「私はまたいつかでいいですよ。あなた、行ってらっしゃいよ」

 俺はマリーンのジェイたちのキャンプの話をし、みんなが大爆笑した。
 まあ、雪野さんのことは少し考えよう。




 院長たちのテーブルへ行った。
 双子もいる。
 亜紀ちゃんは千両たちの所へ行き、皇紀と柳は早乙女達の所へ行った。

 「院長、静子さん、お疲れじゃないですか?」
 「いや、楽しいよ。こういう花見はいいなぁ」
 「そうですね。賑やかで」

 俺はお二人のために、家に入ってジャスミンティーを淹れて来た。
 双子も欲しがるので注いでやる。

 「石神」
 「はい」
 「お前はいつも俺たちに楽しい思い出をくれるなぁ」
 「もう死ぬんですか?」
 「お前ぇ!」

 静子さんが笑った。

 「棺にはバナナをたくさん入れますね」
 「やめろぉ!」

 一房でいいと言い、みんなが爆笑した。

 「鷹にはアフロのウィッグな」
 「やめてください!」

 「タカさんのは大変だよね」
 「いっぱいあり過ぎだよね」

 双子が言った。

 「俺はお前らのパンツでいいよ」
 「えぇー!」
 「皇紀のは足元にしてくれな」
 「「アハハハハハ!」
 「ルーとハーのは顔の両側にな」
 「亜紀ちゃんは?」
 「オチンチンだ」
 「「ギャハハハハハ!」」

 「あいつ、俺のオチンチンが大好きだからなぁ」
 「石神、やめろ」

 院長が真っ赤な顔をして言った。

 「静子さんが先だったら、この人入れときますね」
 「お願いね」

 みんなで笑った。




 夜になり、千両たち以外はみんな帰った。
 子どもたちが他を片付けた。
 一つだけテーブルが残っている。
 レイの写真と、その前にウォッカのボトルとグラス。
 そして今回出した様々な料理。
 誰が置いたか、幾つか他の酒のグラスもあった。

 俺はレイに話し掛けて一緒にウォッカを飲んだ。
 楽しい話をした。
 スズメのスーの話もした。




 亜紀ちゃんが来た。

 「そろそろこれも片付けますか」
 「そうだな」
 「レイも楽しんでくれましたかね」
 「きっとな」
 「そうですね」

 今年も楽しい花見だった。
 また来年もやろう。
 俺たちがいる限りは。
 
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