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早乙女家、吉報です! Ⅱ

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 夕飯は欧風料理にした。

 水菜と桜エビのゼリー。
 マッシュルームとホタテのアヒージョ。
 鰆とアサリのアクアパッツァ。
 舞茸とジャガイモとチーズのガーリック風味オーブン焼き。
 ヒメダイのムニエル。
 ショートパスタのペペロンチーノ。
 ロブスターのテルミドール。
 チーズケーキ(自家製)。

 「いつも美味いな、石神の家は」
 「そうか。良かったよ」

 早乙女たちが喜んでくれた。
 子どもたちも夢中で食べている。
 それぞれの皿に入っているので、戦争は無い。
 まあ、あってもおかしくはないのだが、こいつらは独自の約束事でもあるかのようだ。
 ちなみに、子どもたちは三倍量だ。
 ロボはロブスターとホタテの焼いた物を唸りながら食べている。

 「亜紀ちゃん、今晩の予定だったメザシはどうしようか」
 「明日の晩にしましょう」
 「よし! いつも通りだな」
 「味噌汁に具を入れてもいいですか?」
 「贅沢じゃないか?」
 「たまにはお願いします」
 「分かったよ」

 雪野さんが笑った。
 早乙女は驚いていたが、雪野さんから「冗談ですからね」と言われ、「良かった」と言って笑った。
 俺たちは大笑いした。

 



 食後に一休みし、みんなで「ジェンガ」をやる。
 ロボが順番の人間を攻撃していく。

 「おい、なんだこいつ!」

 早乙女が引き抜こうとすると、手をペシペシと叩く。
 雪野さんの番では「ニャー」と鳴く。
 応援しているらしい。
 他の子どもたちは早乙女と同じだが、柳だけは違う。

 「ちょ、ちょ、ちょっとー!」

 一旦離れてから、4回捻り地獄キックを顔面に喰らわす。
 
 「なんで私だけちがうのー!」

 柳に跳び蹴りを見舞うのはロボの趣味だ。
 もちろん、俺には何もしない。

 「タカさん、いつもずるいですよ!」
 「ニャハハハハ!」

 当然、柳が負けた。



 
 風呂に入り、俺たちは幻想空間へ移動した。
 早乙女と雪野さんが驚く。

 「ここは、別荘のあの空間なんだな」
 「そうだ。ここもいいだろう?」
 「石神さん、本当に素敵です」
 「ありがとう。まあ、座って下さい」

 俺と早乙女、亜紀ちゃんはワイルドターキーを。
 他の人間はホットミルクセーキを飲む。

 「そう言えば早乙女には話してなかったが、もうすぐ俺の弟が近くに住むんだ」
 「なに!」
 「石神さん、ご兄弟がいたんですか!」
 「ああ、いや。またこの説明は面倒だな」

 俺はお袋の再婚相手の姉と弟だと話した。
 
 「だから血の繋がりは無いんだがな。お袋が死んだ今でも仲良くしてもらってるんだ」
 「そうだったのか」

 「弟の南原左門は自衛隊の幹部だ。いずれ相当な出世をしただろうけど、これからは俺も援助する」
 「そうか。じゃあ自衛隊方面も石神に協力するようになるんだな」
 「警察関係はお前に任せるけどな。自衛隊は戦闘力よりも俺たちが暴れることの援助というかな」
 「なるほど」
 「さっきも話したが、早乙女には実際に戦闘に携わるチームを頼む」
 「分かった」

 早乙女が俺を真直ぐに見詰めた。

 「お前はどうも、あやかし関連に縁があるようだからな」
 「どういうことだ?」

 「綺羅々のこともそうだし、麗星との縁もあるしな」
 「麗星さんはお前に紹介しただけだろう」
 「いや、他にもいろいろとな」
 「?」
 「まあ、分からないでもいいよ。でも麗星もお前のことを本当に頼りにしているし気に入っている」
 「そうなのか?」

 まあ、タカりやすいとも言えるが。

 「石神さん、そう言えば主人から不思議な話を聞きました」

 雪野さんが言った。

 「どんな話です?」
 「主人が前に住んでいたマンションでのことなんですが」
 「ああ」
 「主人にとても親切にして下さった方がいたようで」
 「へー。早乙女なんかに」
 
 雪野さんが笑った。

 「いや、あれは何か思い違いをしてたんだよ」
 「でも、そうは思えませんでしたけど」
 「弱ったな」

 雪野さんが話し出した。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 早乙女のマンションの同じフロア。
 早乙女が自分の部屋へ行こうとすると、他の住人が揉めていた。

 「ババァ! さっさと金を返せ!」
 「ふざけんな! こんなとこまで押しかけやがって!」

 金銭トラブルのようだった。
 警察は民事には介入しない。
 だが気になって立ち止まって見ていた。

 マンションの住人の年配の女性。
 顔は知っている。
 挨拶をしてもいつも無視されるが。
 背が高く、180センチに届きそうな大柄な女性だった。
 年齢は70代か。
 白髪の長髪にソバージュをかけていた。

 吉原龍子という名だったと記憶している。
 早乙女は職業柄、周囲の人間を記憶していた。

 吉原龍子は3人の男性に囲まれていた。
 スーツを着ているが、カタギではないと早乙女は見た。

 「いい加減な出まかせで金だけふんだくりやがって! 何の効果もねぇじゃねぇか!」
 「命が助かっただろう!」
 「危ないっていうのはお前が言ってただけだろう!」
 「それを信じたのがあいつじゃないか」
 「ふざけんな! いいから金を返せ!」

 男の一人が吉原龍子を突き飛ばした。
 これで早乙女も介入できる。

 「おい、やめろ。暴力はよせ」
 「なんだ、てめぇ」
 「警察だ。現行犯逮捕でいいのか?」

 早乙女はバッヂを見せた。
 男たちは黙って帰った。

 「大丈夫ですか?」

 吉原龍子が早乙女をじっと見ていた。

 「ああ、あんた。なるほどね」
 「え?」

 「ありがとうよ。今度礼をしに行く」
 「いえ、いいですよ。困っていたようなんで口を挟んだだけなので」
 「いや、あんたには助けられた」
 「はぁ」

 その晩、吉原龍子は肉じゃがを鍋に入れて持って来た。
 何度も断ったが、絶対に退かず、早乙女は仕方なく鍋を受け取った。

 「鍋はうちのドアの前に置いといてくれればいいよ」
 「いえ、すいません。ご馳走になります」





 肉じゃがは早乙女の好物だった。
 そして、死んだ姉が作ってくれた味に似ていた。

 それから、吉原龍子は時々何かを作って来るようになった。
 早乙女も家に上げるようになり、一緒に食べて話をするようになった。
 吉原龍子は酒が好きで、早乙女も一緒に飲む。
 不思議な関係が始まった。
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