上 下
1,056 / 2,806

早乙女家、吉報です!

しおりを挟む
 3月最後の水曜日。
 早乙女から連絡が来た。

 「ちょっと石神に報告したいことがあるんだ」
 「なんだよ?」
 「あのな、それは直接会って伝えたいんだ」

 重要な情報か。

 「分かった。いつでもいいぞ」
 「良かった。それじゃ今度の土曜日にお邪魔していいか?」
 「うちでか?」
 「うん。雪野さんも一緒に行くから」
 「ん?」
 「二人でお前に報告したい」
 「?」

 情報ではないらしい。

 「分かった。じゃあまた泊って行けよ」
 「いいのか!」
 「もちろんだ。3時頃に来てくれ」
 「ありがとう!」
 「ああ、鳩サブレーだぞ」
 「お前、こないだは」
 「いいから!」
 「分かった」

 二人で報告か。
 まあ、何となく分かった。
 別に俺なんかにいちいち言わなくてもいいのだが。




 土曜日。
 俺が門まで迎えに出た。
 おしゃぶりを咥えている。
 早乙女と雪野さんが驚いていた。

 玄関でロボが出迎える。
 ヒラヒラのベビーキャップを被っている。
 リヴィングへ上げる。
 全員おしゃぶりを咥えている。

 「「……」」

 早乙女たちが黙り込んだ。

 「おお、そう言えば何か報告があるらしいな?」
 
 俺がテーブルへ座らせ、亜紀ちゃんがニコニコして紅茶を出した。

 「なんの報告なんだ?」
 「それだ」
 「え?」
 「子どもが出来たんだ」
 「そうなのか!」

 「「「「「えぇー」」」」」

 「お前ら! 分かって言ってるだろう!」

 「「「「「「ワハハハハハハハ!」」」」」」」

 みんなで「おめでとう」と言った。

 「いつ生まれるんだ?」
 「ああ、10月の下旬の予定だ」
 「そうか! じゃあ今は無理しないでな」
 「ありがとう」
 
 早乙女は赤くなって礼を言った。

 「そうかぁー! じゃあ……」

 俺は計算した。

 「ん?」
 「石神、どうした?」

 「おい、じゃあ仕込んだのは」
 「おい!」

 雪野さんも赤くなっている。

 「お前、もしかして……」
 「なんだ!」

 「うちで仕込んだのかぁ!」
 「「「「「!」」」」」
 「にゃ!」

 去年の暮れに、早乙女たちをうちに泊めた。

 「あ、ああ、そういう話か。そうだ。丁度雪野さんが、その、あれで」
 「排卵日か」
 「それ」

 早乙女がさほど隠そうともせずに言った。
 こいつには何か嬉しいことなのかもしれない。

 「お前、よりにもよって俺の家でヤッタのか!」
 「不味かったか?」
 「そんなわけあるかぁ! よし! じゃあ、あの部屋は早乙女夫妻の妊娠の間ということで永久保存するからな!」
 「やめてくれぇ!」
 「今後もどんどん使ってくれな!」
 「おい、石神!」

 みんなで笑った。
 雪野さんも笑った。



 
 早乙女が虎屋の羊羹をくれた。

 「鳩サブレーだって言っただろう」
 「お前! それで前回散々文句を言っただろう!」
 
 雪野さんが大笑いした。

 「折角新しい文句を考えてたのに」
 「石神、なぁ」

 「おい、ところで俺が前に言ったことを覚えてるか?」
 「何のことだ?」
 「結婚式の時に言っただろう!」
 「え?」

 「「次は出産祝いだ」っておっしゃってたわ」
 「おい!」

 雪野さんが覚えており、早乙女が焦った。
 俺は大笑いした。

 「まあ、覚悟しておけ」
 「やめてくれ! 石神!」

 「そうだ雪野さん、何か食べたいものはありますか?」
 「まだ悪阻はありませんから。普通に食べれますよ」
 「そうですか。亜紀ちゃん!」
 「はい!」

 頂いた羊羹を切っていた亜紀ちゃんが返事した。

 「今日の夕飯はメザシはやめだ!」
 「はーい!」
 「雪野さんのために、もうちょっと栄養のあるものにするぞ」
 「分かりましたー!」

 雪野さんが笑った。

 俺は栞に無事子どもが生まれたことを話した。
 二人とも喜んで聞いてくれた。

 「まあ、ちょっと場所は言えないんだが、そのうちに会わせるよ」
 「楽しみにしてる」
 「俺も時々しか会いに行けないんだけどな。まあ栞も子どもも元気だから安心だ」
 「そうか」

 写真が見たいと言うので、アルバムを見せてやった。
 早乙女と雪野さんがニコニコしながら見てくれた。
 子どもたちも集まって来る。

 「私たちもまだ見てないんです。早く見たいなー」
 
 亜紀ちゃんが言った。

 「もう少ししたらな」
 「石神さんに似てますね」
 「そうかな。自分ではよく分からないな」
 「またまたー! そう思ってるくせに」

 亜紀ちゃんがからかう。
 俺も笑った。

 「まあ、女ばっかりの家族に待望の男児だしな。俺も嬉しいよ」
 
 皇紀も喜んでいる。
 楽しく話し、子どもたちは夕飯の準備を始めた。
 俺は早乙女たちを地下へ誘った。





 「先日、蓮花の研究所が襲われたんだ」
 「え!」

 「栞がそこにいると、「業」が考えたんだな」
 「え! 違うのか!」
 「まあな」

 「そんな、最も安全な場所だと思っていたよ」
 「そうだな」
 
 俺も以前はそう考えていた。
 みんなそうだ。
 もちろん、「業」もそう考えた。
 蓮花研究所の防備は硬い。
 しかし、結果を見れば、危うかった。
 今回「業」が退いたのは栞がいないことが分かったからだ。
 そうでなければ、あいつは戦い続け、もしかすると「地獄道」も千両の「虎王」も突破したかもしれない。
 俺は後から聞いた「業」の能力に驚いていた。

 「お前たちにも場所は言えない。それは分かってくれ」
 「もちろんだ。第一蓮花さんの研究所にいるとも最初から聞いていない。勝手にそう思っていただけだ」

 俺は「業」自ら乗り込んで来たことと、それを仕留め切れなかったことを話した。
 そして「業」の能力のことを。

 「早乙女、お前は綺羅々との戦闘で、妖魔の存在を見たな」
 「ああ」
 「「業」は強大な妖魔を取り込み、恐ろしい力を発揮していた。つまり、俺たちはそれに対抗しなければならない」
 「分かっている」

 俺は二人を見た。

 「俺は早乙女に、その専門チームを編成してもらいたい」

 「「!」」

 「警察の中で、それを認めさせる困難は分かる。しかしお前は実際に戦闘をし、その恐ろしさは分かっている。だからお前に」
 「石神、分かった。俺に任せてくれ」

 早乙女が笑顔でそう言った。

 「ああ、やっと石神に頼ってもらえた」
 「良かったですね」
 「うん。雪野さんには苦労を掛けるかもしれない」
 「平気ですよ。私もそのためにあなたと結婚したのですから」

 早乙女夫妻が微笑み合った。

 「警察内での組織は難しいだろう。超法規的に外部から取り込むしかないと考えている」
 「そうだな。道間家の力を借りることになるだろう」
 「それだけではない。早乙女、この問題は固定するな」
 「ああ、分かった」

 俺はこの話題を終え、楽しい話に切り替えた。

 「まあ、またこの問題は話し合おう。ところでな」
 「なんだ?」
 「家主として確認したい」
 「どうした?」

 「お前ら、どういう体位で受精した?」





 早乙女が本気で怒った。
 雪野さんは大笑いした。
 俺が栞とどういう体位でか話すと言ったが、早乙女は聞きたくないと言った。

 後日早乙女を酔わせ、風呂でもやったとゲロした。
 どうりで風呂上がりにニコニコしていたはずだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...