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一江のホスト通い Ⅱ

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 徐々に客が入って来た。
 多くは中年以上、年配の女性も多い。
 同伴で入って来た客は常連で金払いがいい上客だ。
 俺はテーブルへ行き、オーナーだと挨拶していった。

 「いつも『トパーズ・ダンディ』をご利用頂きまして、ありがとうございます」
 「あら、イケメンなオーナーさんなのね」
 「ありがとうございます。お嬢様もお美しい。原石のルースで申し訳ないのですが、いつもいらっしゃって頂いているお礼です」

 俺はポケットから出した一粒を渡す。

 「これは?」
 「レッドダイヤモンドです」
 「え!」
 「先日、庭を掘ったら出て来まして。アハハハハハ!」
 
 捨てたいほどある。

 俺は隣に座り、一緒に飲みながら会話をする。
 美しさを褒め、服の趣味を褒め、気分を良くさせたところで仕事や様々な悩みのアドバイスをする。
 さり気なく身体に触れ、女性にも俺を触らせる。

 俺の虜になって行く。

 見せかけの美しいペットではない。
 本当に力のある男を味わわせる。

 陥落していった。




 俺はリンを俺が特に目を掛けている人間と紹介し、セリスの同伴した女の席に座らせた。
 セリスを連れて奥へ行った。
 やはり痩せた男で化粧をしている。
 俺にはどこがいいのかよく分からん。
 柿崎も付いて来る。

 「お前、一江陽子を知っているな?」
 「は、はい!」
 「俺の身内なんだ」
 「はい! 先ほど支配人から伺いました! 申し訳ありません!」
 「いいよ。お前は女たちから金を搾り上げるのが仕事だ。お前はよくやっている」
 「は、はい!」

 セリスは俺が咎めないようなのを見て安心していた。

 「でもな、一江に関してはここまでだ」
 「はい! もちろんです!」
 「今日で最後だ。優しくしてやってくれよ」
 「分かりました!」

 俺はまたテーブルを回り、客たちにダイヤモンドを渡し、愛想よくしていった。
 そのうちにあちこちのテーブルで呼ばれ、また盛り上げていく。
 何人もの客が勝手に俺のためにシャンパンタワーを注文していった。
 俺はそれを聞くと、愛想よく席に行き、抱き締めてキスをした。
 柿崎がシャンパンが足りなくなりそうだと、慌てて注文した。

 そして一江がやって来た。




 セリスが今日はオーナーが来ていると言った。
 
 「今日はいつもより盛り上がってるのね」
 「そうなんだ。オーナーが大人気でね。陽子にも紹介するよ」
 「うん。でも私はセリスがいればいいから」
 「ありがとう。陽子は優しいね」

 俺は背後から近づいた。

 「でもね、陽子。どうか今日で最後にして欲しい」
 「え?」
 「陽子にはここには来ないで欲しいんだ」
 「どうして!」

 一江が叫んだ。
 泣きそうだ。

 「オーナーが出禁にするって言ってんだよ!」

 俺が後ろから声を掛けた。

 「!」
 「よう! オーナーの石神です」
 「部長!」
 「お前、出禁な」
 「な、な、なんでここにぃ!」
 

 「てめぇが来るからだろうがぁ!」


 俺が怒鳴るとみんなが見た。
 俺は笑って手を振った。

 「お前なぁ。幾ら何でもバカ過ぎだろう」
 「な、なんで……」
 「大森が心配して俺に相談したんだよ! お前、親友をあんなに傷つけやがって」
 「大森……」

 「そうだよ! 何やってんだてめぇは」
 「す、すいません」
 「おう、まだ謝れる理性は残ってたか」
 「あの、私……」

 「いいよ。楽しかったんだろ? お前、男から優しくされたことねぇしな」
 「上司は酷い人ですし」

 俺は一江の頭をはたいた。

 「でもな、ここまでにしろ。男遊びはいいよ。でも親友が心を痛めるようなことはやめてやれ」
 「はい……」
 「今日はセリスがずっと傍にいてくれるってよ」
 「え、でも」
 「特別だ。オーナー命令だからな」
 「ありがとうございます」
 「一緒に帰ってもいいんだぞ?」
 「いえ! それは!」
 「なんだよ。そうなりたかったんじゃねぇのか」
 「それは……」

 一江が赤くなって俯く。

 「なあ、セリス?」
 「はい。今日は陽子と一緒にいたいです」
 「ほら!」
 「いえ、部長、それは……」
 「他の奴らには黙っておくからな!」

 「いえ! 一番知られたくない人がぁ!」
 「あ?」
 「部長が知ってるなんて耐えられません!」
 「そう?」
 「そうですよ! 一生言われるに決まってるじゃないですかぁ!」
 「アハハハハハハ!」

 俺は笑って、今日は楽しめと言った。

 柿崎にギターを持って来させた。
 用意させていたのだ。

 俺はステージに座ってギターを演奏した。
 エスタス・トーネを弾き、クイーンを歌い、盛り上げて行った。

 俺はリンを呼んだ。

 「これからここをオランダにするぞー!」

 俺は下を脱いで振り回した。

 「リン! チューリップを作れ!」
 「はい!」

 リンは笑顔で俺の風車の前でチューリップを咲かせた。
 柿崎に言われ、他のホストも花を作る。

 「これで! ここはもうオランダだぁー!」

 大爆笑になった。
 多くの客が近くで見ようと寄って来たので、また思い切り振り回してやった。




 俺がみんなにこれで帰ると言った。
 客たちが、是非また会いたいと言ってくる。
 この店を俺だと思ってくれと、訳の分からないことを言って誤魔化した。

 一江も一緒に出て来た。
 便利屋がアヴェンタドールで迎えに来たが、先に帰るように言った。
 出口まで見送りに来た全員がアヴェンタドールに驚いた。

 一江と高層ビル街へ向かって歩いた。
 俺も一江も黙って歩いた。
 野村ビルのボックスライトの庭で腰かけた。

 「今日は悪かったな」
 「いいえ、私こそ」
 「お前も知っての通り、俺は好き勝手なことをしている男だ。他人に私生活を説教出来るような人間じゃない」
 「はい」
 「いいえって言え!」

 一江が笑った。

 「でもな」
 「分かってます。私がバカだったんです」
 「それはな……」
 「大森が心配してるのに。あんないい奴を」
 「そうだな」
 「部長も」
 「そうかもな」
 「そうだって言え!」

 俺も笑った。

 「もちろんだ。まあ、お前の金だ。好きなように使えばいいんだけどな。でも、お前を心配する人間は止めるぞ?」
 「はい」
 「それでも止まらないのなら、それはお前の自由だ」
 「はい」
 
 一江が明るく笑っていた。

 「もう大丈夫か?」
 「はい、ご心配をお掛けしました」
 「いや、なんでもねぇ。ああ、腹が減ったな。そういえば何も喰ってねぇぞ!」
 「アハハハハ!」
 「「つばめグリル」に行くか! お前も付き合え!」
 「はい!」
 「ああ、大森も呼べよ。タクシーですぐに来いって」
 「分かりました!」

 一江が電話した。
 その後でゆっくりと二人で歩いた。
 店の前で大森の到着を二人で待った。
 一緒に入ろうと言った。

 「お前のバージンを俺がもらってやろうか?」
 「絶対に嫌です!」

 俺がジッパーを降ろしてちょっと触ってみろと言った。
 一江が真面目に嫌がった。

 「部長!」

 大森が来た。
 一江が大森に謝り、大森は大泣きした。
 一江も泣いた。
 二人の頭をはたいて、腹が減ったから早く泣き止めと言った。





 「一江」
 「はい」
 「40歳までバージンだと、「花岡」が使えるようになるんだぞ?」
 「別にいいです」

 三人で笑って食事をした。

 翌日、柿崎から最高の売上になったと報告の電話が来た。
 俺は大笑いした。
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