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目には目を!

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 1月中旬の土曜日の朝。
 朝食後に庭の掃除をしていたルーが叫んだ。

 「タカさーん! またですよー!」

 ルーが俺に見せて来る。
 前からも時々あったが、うちの庭にゴミを捨てて行く奴がいる。
 空き缶であったり、タバコの吸い殻、コンビニ弁当のガラ等々。
 去年の10月頃から酷いのが、犬のフンだ。
 薄いPP袋に入れたものが、庭に放り投げてある。
 同じ人間だろう。
 今年に入って特に酷い。

 「ちょっと多いよな」
 「わざとやってますよね?」
 「そんな感じだよなぁ」

 袋が時々破れて中身が出ていることもある。
 今日もそうだった。
 ルーはスコップの先でフンを取り、物置のゴミ箱に捨てた。

 「週に4日はやられてます」
 「そんなかよ」
 「酷いですよ!」

 庭の水道で手を洗って言った。

 「しょうがねぇ。皇紀に言って、監視カメラの映像を当たってくれ。面倒だが対処しなきゃな」
 「はい!」

 皇紀はすぐに取り掛かり、一人の年配の女性を特定した。
 うちの監視カメラの映像は高精度だ。
 はっきりと女性の顔や犬の姿が分かる。

 静止画をキャプチャーしたらしいが、分かりやすく整理されている。
 日付と時間が画面に記してある。
 ルーの言った通り、毎週4日か5日はやっている。
 要は、俺たちがいる土日を除いて毎日ということだ。

 皇紀は顔認証をして、次はドローンで追うと言っていた。
 犬がうちの前で出しているのは少ない。
 他で出したものをわざわざうちまで持って来て投げ込んでいる。
 悪質だ。



 翌週の火曜日。
 皇紀が俺にフン女の家が特定できたと言って来た。
 ドローンで女を付けて、あるマンションの部屋まで突き止めた。
 ベランダからの映像で、確かに女が部屋の中にいた。

 その夜に子どもたちを集めた。

 「以前からやられている犬のフンだけどな。皇紀が女の家まで特定した」

 俺が言うと、全員が怒り狂った。
 ルーとハーはすぐに乗り込もうと言った。

 「まあ、待て。まずは注意してからな。土曜日に俺が行く。話をしてみるよ」
 「タカさん! 私も一緒に行きますよ!」

 亜紀ちゃんが言う。
 他の子どもたちも柳も行くと言い出す。
 仕方なく、亜紀ちゃんだけを連れて行くことにした。
 皇紀には、今年に入ってからの画像を揃えておくように頼んだ。



 土曜日。
 朝食の後で俺と亜紀ちゃんは出掛けた。
 近所なので歩いていく。

 隣の町に住んでいる女だった。
 マンションの最上階に住んでいる。
 それほど豪華なマンションではない。
 オートロックも付いていなかった。

 チャイムを押すと、あの女が出て来た。
 中村光代。
 そう表札にはあった。
 一人暮らしらしい。
 見た感じは50代の後半だ。

 「何か?」
 「石神といいます。実は……」

 俺はうちの庭に犬のフンを投げるのをやめて欲しいと言った。

 「知りませんけど?」
 
 俺は数10枚の画像を女に提示した。
 女は青くなる。

 「これは完全に警察案件ですよ。うちで訴えれば刑事訴訟になる。それから民事訴訟でそれなりの賠償を請求できる」
 「そんな!」
 「あなたね、悪質過ぎですよ」

 女は泣き出した。

 「すみません! つい出来心で。主人と離婚して独り暮らしで精神的にちょっと。申し訳ありませんでした」
 「何言ってんの! あんた覚悟しなさいよね!」

 いきり立つ亜紀ちゃんを俺は抑えた。

 「まあ、今後二度とこのようなことは辞めて下さいね」
 「それはもちろん!」
 「今回は水に流しますが、今度やったらうちも黙ってませんから」
 「はい、それはもう!」

 「タカさん!」
 「まあ待て。この人も出来心だと言ってる。大事にしなくてもいいだろう」
 「でも!」
 「次は許さん。絶対にな」
 「もう!」

 俺は念書を入れろと言った。
 うちのポストに入れて置けばいいと。
 女は必ずそうすると言った。




 中村光代からの念書は届かなかった。
 一週間は何事も無かったが、2月の中旬あたりから、また犬のフンが投げ込まれるようになった。
 皇紀が画像を検索すると、顔を隠した女がやっている。
 犬は抱き上げ、バスタオルのようなもので包んでいるようだった。

 亜紀ちゃんが激怒した。
 他の子どもたちも絶対に許せないと言った。
 俺もそのつもりだった。

 「目には目を!」
 「「「「「ウンコにはウンコを!」」」」」

 「うちがウンコに関してはプロフェッショナルなことを教えてやるぞ!」
 「「「「「オォーーーーー!!!!!」」」」」

 俺は先だって、警察に被害届を出した。

 皇紀に、うちの排水管を改変するように命じた。
 道路の本管に流れる手前で汲み取り槽を作らせる。
 密閉に気を遣った。


 うちはウンコだけで毎日10キロ以上は出る。
 当番制にしようとしたが、怒りの亜紀ちゃんとウンコの達人ハーが燃えた。
 二人が中心になって、毎日ウンコを回収した。
 ガスマスクを装着し、専用の網やゴミハサミでウンコを拾って行く。

 「クサイよー!」
 「そうだよな」

 一週間で百数十キロのウンコがあつまった。
 ロボのも入れた。
 フタ付きのペール缶に10個ある。

 



 
 金曜日の深夜。
 子どもたちとペール缶を運んで飛んだ。
 もちろん変装している。
 ジャージを着て、顔を目出し帽で隠し、その上でガスマスクを装着した。
 
 ハーが女のマンションの玄関をツールで開けた。
 ペール缶を運び込む。
 「轟雷」を弱めに撃ち、電子機器を全て破壊した上で、タンクを居間に運んで、フタを取って中身をぶちまけた。

 急いで帰った。
 みんなでお風呂に入り、よく全身を洗った。






 後日、刑事らしき人間がうちに来た。

 「先日、マンションの部屋に汚物が撒かれる事件がありまして」
 「そうなんですか」
 「そこの住人が、お宅の仕業だと言ってましてね。それが先日こちらから被害届のあった方でして」
 「ああ!」

 任意同行を求められた。
 俺は断った。
 
 「うちは全然関係ありませんよ。必要ならちゃんと裁判所で逮捕状を取って来て下さい」
 「そうですよねぇ。ちょっと尋常じゃない量ですし」 
 「あの人、なんか汚物を集めてたみたいですよ。うちにも相当撒かれましたから」

 そういう写真を撮っている。
 庭に大量のウンコが投げ入れられたというものだ。
 もちろん、うちで作った。

 「じゃあ、やっぱり自分で集めてたのが漏れたんだ」
 「世の中にはヘンな人がいますね」
 「まったくだ。まあ、今後も調べて行きますが、何かあったらご協力ください」
 「分かりました」

 その後、警察がうちに来ることは無かった。
 伝手を辿って聞いたところでは、あの部屋は賃貸で、オーナーから女は訴えられ賠償を求められているらしい。
 裁判で係争中だが、俺が出した証拠が女が室内で汚物を集めていたとされていきそうだ。
 下の階の住人も、悪臭が天井からすると訴え始めたらしい。
 あれはスケルトンまで剥がしても、なかなか臭いは取れないだろう。
 


 
 ざまぁ。
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