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ざまぁサイダー

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 「ねえ、六花! 斎田くんってカッコイイよね!」
 「そうですか?」
 「カッコイイよ! 感激するとすぐに泣いちゃうし」
 「はぁ」
 「ちょっとタカトラに似てる!」
 「はぅ!」

 最高に美しく、ちょっとオツムの軽い響子大好き女が乗せられた。
 
 昨年の日本シリーズで日本一を逃したチームの投手の一人が斎田だった。
 斎田のピッチングが今一つで、チームは決勝戦で負けた。
 それ以前から精彩を欠いていたのだが、斎田の絶大な人気とマスコミからの圧力に負け、選抜に入れた。
 途中までは何とか抑えていたが、決定的な場面で大量点を奪われた。
 満塁での特大ホームラン。
 その後も単独アーチで一挙に6失点。
 流石に投手を変えたが、チームはついに逆転出来なかった。

 斎田はその後、マスコミの餌食になり、チームへの残留こそ決まったが、二軍落ちとなった。

 高校野球では華のあるピッチャーで、勝利すると大好きなサイダーをがぶ飲みする。
 そして泣く。
 「サイダー泣き」とマスコミが煽り、「サイダー王子」と呼ばれ始めて一躍有名人に。
 今のチームがドラフトで契約し、すぐに一軍のピッチャーとしてマウンドに立った。
 最初はそこそこのピッチングをしていたが、若いピッチャーにありがちの少ないテクニックを対策され、やがて抑えられないボンクラに堕ちた。
 しかしその容姿とまだやっていた「サイダー泣き」で人気は衰えず、ついに昨年ボロを出したということだ。
 それにも関わらず、まだファンはいる。
 
 ここにも二人。

 


 1月中旬のある日。
 響子の部屋へ行くと、何か違う。
 響子も六花もいつも通りなのだが、俺は違和感を覚えていた。
 分かった。

 「響子、ベッド脇のこの壁は、俺のポスターじゃなかったか?」
 「うん」
 「何で斎田投手に替わった?」
 「うん、大好きだから」
 「!」

 響子と一緒に六花もニコニコ笑って斎田を見ていた。

 「そ、そうなんだ」

 俺も口をひく付かせながら何とか笑った。

 「あ! タカトラ、もしかしてジェラシー?」
 「ば、バカを言うな。どうして俺がこんな落ち目の若造に」

 響子が俺を睨んでいた。
 六花も一緒になって俺を睨む。

 「あ、いや、悪かった。そうだ、ちょっとジェラシーで悪口を言ってしまった。すまん!」

 二人がニコニコする。

 「大丈夫だよ! 私はタカトラが一番だから!」

 二番はこいつか。

 「俺はNTR属性もあるから平気だぞ」
 「NTR?」

 六花が説明しそうなので頭を引っぱたいた。

 「六花をいじめちゃダメ!」
 「はい、すみません」

 それから、響子の部屋へ行くと斎田の話を度々聞かされた。

 「去年の最後の試合は惜しかったよね!」
 「そうなんですか」
 「うん! ちょっと運が悪くてホームラン打たれちゃったんだ」
 「可哀そうですね」

 六花は別に斎田をそれほど思っていない。
 カワイイ響子が夢中なので一緒に楽しんでいるだけだ。

 「ねぇ、タカトラ」
 「なんだ?」
 「斎田くんに会いたいね!」
 「そうなのか?」
 「うん!」

 それからしょっちゅう響子が俺にそう言った。
 俺ならば何とかしてくれると信じている。
 俺がいつまでも実現しないので、段々口調がきつくなる。

 「もう! いつ斎田くんはここに来るんだろうね!」
 「タカトラは私のことを愛してるんだから、きっとだよね!」
 「もう私は実家へ帰らせていただきます」

 無理だって。
 俺も仕方なく動き出した。

 双子に斎田のチームのオーナー会社の株を買い占めさせる。
 20%を超えた辺りで経営陣と会い、俺の希望を述べた。

 「うちの入院患者に、斎田くんを会わせてやりたいんだ」

 直球で頼んだ。
 経営陣は驚いていたが、すぐに条件を呑んだ。
 
 



 「響子ちゃん、初めまして」
 「斎田くんだぁー!」

 響子が六花と抱き合って喜んだ。
 斎田は六花に椅子を勧められ、響子と話した。
 本人は子どもの響子よりも六花を気にしていたが、上から厳命されていたようで、響子の相手をした。
 響子は興奮し、斎田に色々質問し、最後はサインをもらい、一緒に写真を撮った。

 「今年は活躍できるといいね!」
 「うん、響子ちゃんに約束するよ」
 「ほんとに!」
 「絶対だ。見ててね。ピッチャーとしても活躍するし、今年はバッターでも頑張ろうかな」
 「やったぁー!」
 「じゃあ約束」

 こいつ、指切りまでしやがった。
 響子の身体に触れやがった。
 六花とも指切りをしやがった。
 嬉しそうにニヤニヤしやがった。

 帰る斎田と一緒に廊下を歩いた。

 「おい、キャンプはいつからよ?」
 「はい? ああ、2月の下旬ですかね」
 「じゃあ、それまで特訓な」
 「え?」
 「上には話を通すから」
 「は?」

 「ザ・オトメンズ」の地獄キャンプに連行した。



 1月下旬の土曜日。
 俺たちはいつもの丹沢のベースキャンプにいた。
 俺、ロボ、亜紀ちゃん、皇紀、双子、柳の他、縛られた斎田が転がっている。
 逃げようとしたので、攫って来た。

 「お前ら! もう二度と野球などさせないと俺は思っていたぁ!」
 「「「「「はい!」」」」」

 「しかし! 折角最高級の道具を買った! 斎田のためにそれを使うぞ!」
 「「「「「はい!」」」」」

 俺たちは「花岡」の一部を伝授し、斎田を特訓した。
 バッティングの練習で、斎田にマッハ10の球を亜紀ちゃんが投げた。
 斎田のユニフォームが千切れ飛び、本人も吹っ飛んだ。
 面倒なので、裸のままやらせる。

 「今度はマッハ2まで落とすからな。スローボールにも目を慣らせろ!」
 「は、はい!」

 サイダー泣きはとっくに終わっている。
 双子の蹴り指導がそうさせた。
 斎田の尻は赤く腫れあがっている。
 気絶するとロボがブスっとやって覚醒させる。

 夕方まで繰り返した。
 夕飯にイノシシを喰わせ、斎田は気絶した。
 
 少し寝かせ、ロボに起こさせた。
 今度はピッチングの練習をさせる。

 「地球の自転を意識しろ! このヘンタイ野郎!」
 「は、はい!」

 チンコが丸出しの斎田が叫んだ。

 「分裂魔球は最低でも10の分身を作れ!」
 「はい!」
 「カーブでバッターの腹を裂くくらいできねぇのか!」
 「すいません!」
 「何でボールが燃えてねぇんだぁ!」
 「申し訳ありません!」

 一晩中やった。
 俺はロボと小屋で寝た。
 スヤスヤ。





 チームのキャンプまで、亜紀ちゃんたちが平日に斎田を拉致し、あと3回ほどやった。





 俺はまた経営陣に乗り込み、斎田を一軍に復帰させ、開幕投手にさせた。
 斎田は時速500キロの豪速球を投げ、3つに分裂する魔球と炎を発する魔球などで相手バッターを完封した。
 そして毎打席で特大アーチを場外へ打ちはなった。

 その晩のニュース、翌朝のスポーツ誌は斎田の奇跡を報道し、その後も斎田の大活躍を報じ続けた。
 しかし、「サイダー泣き」はもう見せず、「ギャハハハハハ!」という下品な笑いが一部ファンから不評だった。

 そして夏頃に大リーグからの誘いが囁かれる頃、斎田は女性スキャンダルで大変なバッシングを受けた。
 ファンの女性に無理矢理関係を迫ったことが報道された。
 そこから高校時代からの同様の女好きが暴露され、被害者の女性が集団で訴え始めた。
 斎田は球団を追われたばかりか、犯罪者として逮捕された。
 斎田は自滅した。





 「おい、ポスターを戻したのかよ」
 「うん! やっぱり私はタカトラだけ!」
 「そうかそうか」

 俺は笑顔で響子の頭を撫でた。
 六花もニコニコして俺を見ていた。
 
 斎田、ざまぁ。
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