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レイラ Ⅳ

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 双子は次々と俺を導いていく。

 「あんなに真っ黒いのはすぐに分かるよ」
 「タカさん、あっち!」

 双子を頼った俺だったが、レイラがそんなに「黒」になっていたと知り、堪らなかった。
 俺たちは町の外れの高級マンションに到着した。
 マンション近くの駐車場にハマーを入れる。

 「最上階だね」
 
 24時間守衛が籠もっている。
 俺たちは飛んで屋上に降りた。
 部屋を特定した。

 「お前たちはここにいてくれ」
 「「はい!」」

 俺はベランダに降りた。
 カーテンが開いていた。
 ベッドで寝ているレイラを見つけた。
 俺はサッシを蹴とばし、強引に部屋へ侵入した。

 「石神さん!」

 レイラが叫んだ。

 「お前、こんな所で何をしている」
 「ここは私の家です」

 レイラがベッドから立ち上がって言った。
 以前よりも相当痩せている。
 パジャマを着ているが、ぶかぶかだ。
 顔は肉が落ち、美しかった容貌は見る影もない。

 「お前にそんな金はねぇ。どうした」
 「……」
 「奪ったか」
 「……」

 「もう復讐じゃねぇな。無関係な人間を殺したか」
 「そうですよ」

 レイラがニヤリと笑った。

 「私は強くなりました。もう誰にも負けない。警察だって私を捕まえられない。私は何でも好きなように出来るんです」
 「バカが」
 「石神さんのお陰ですよね? あの時私に石神さんの血が入って、こんな素晴らしい身体に!」
 「バカヤロウ!」

 「石神さんがお金持ちなのも分かりましたよ。何だって出来ますもんね! こんな力があれば、幾らでもお金でも何でも」

 そう言ってレイラはベッドに座った。
 息が荒い。

 「私ね、あの四人に連れられて、散々レイプされたんですよ」
 「お前……」
 「10人以上にマワされて。痛いなんてもんじゃなかった。お尻にまで突っ込まれて。その後も何度も連れて行かれて」
 「やめろ」
 「親にも話せなかった。誰も助けてくれなかった。石神さん、分かります?」
 「分からねぇよ」
 
 「そうですよね」

 レイラはうつむいて泣いた。

 「分かるわけないですよ。何度も死のうと思った」
 「……」

 レイラが俺を見た。
 痩せこけた顔で、目だけを光らせて俺を見詰めた。

 「でも、石神さんが助けてくれたんです! 命じゃない! 私自身を!」

 レイラが手を拡げた。

 「ほら! 今はこんなに贅沢に生きてます! 何でも手に入る。宝石だってお金だって! 石神さんが助けてくれたからですよ!」
 
 涙を流しながら、レイラは笑っていた。

 「あー! こんな日が来るなんて! あいつらを思い切り殺してやりました! 一人ずつ、泣いて脅えて! 四人には自分のクソを塗りたくってやったぁ! アハハハハハハ!」

 レイラは狂ったように笑った。

 「私をレイプした連中は、内臓を見せつけてやって、死ぬまで嬲ってやった! 何時間もいじめながら殺した!」
 「お前は、お前に手出ししなかった人間も殺しただろう」
 「そうですよ? でも、そいつらだって私を助けてくれなかったんですから。いいじゃないですか」
 「何を言ってやがる!」

 レイラはまた笑った。
 その後で、唐突に黙り込んだ。
 もう精神状態は普通じゃなかった。

 「でもね、石神さん。私もダメになっちゃった」
 「レイラ……」

 「もうダメ。段々体中が痛くなっちゃって。苦しくって。丁度ね、ヤクザの所にヘロインがあったんです。それを使ったら痛みが消えて。でもそれももう限界。一杯注射しても効かなくなって来ちゃった」
 「そうだろうな」

 「だから石神さんも、本当には私を助けてはくれなかったんだなって」
 「レイラ……」

 「あの時の綺麗な人が石神さんの恋人なんでしょ?」
 「だから襲ったのか」
 「うん。石神さんも苦しめばいいんだ」
 「そうだな」
 「でも、それもダメだった。まさかあの人もあの技が使えるなんて。流石だね」
 「そうだな」

 レイラはベッドに横になり、苦しみ出した。

 「石神さん、私を殺しに来たんでしょ?」
 「そうだ」
 「じゃあやって。どうせ誰も私を助けてはくれないんだから」
 「そうだな」

 レイラは目を閉じた。
 俺はベッドの足元に座った。

 「お前、何で俺に復讐してくれって頼まなかったんだ」
 「え?」

 レイラが俺を見た。

 「俺には何人も恋人がいる。お前が襲ったのはその一人だ」
 「そうなんだ」

 「半年前に、その恋人の一人がアメリカの軍隊の陰謀で殺された」
 「そうなの」
 「だから俺はそいつらを皆殺しにした。数万人を殺し、西海岸を半壊させた」
 「え!」

 レイラが驚いていた。

 「お前もニュースで知っているだろう。テロリストにアメリカが襲われたって。それが俺だ」
 「うそ……」
 「お前が使うようになった技。俺はもっと大規模なものが使える。それこそ大陸を破壊するような技を持っている」
 「そんな……」

 「俺は俺が大事な人間のためなら何でもやる。なのにどうしてお前は俺を頼らなかったぁ!」

 レイラがまた泣いた。

 「お前をあの日見た時。両親が死んで、雨に濡れて血塗れて路上に倒れていたお前を見た時! 俺は必ずお前を助けたいと思った!」
 「石神さん……」

 「可哀そうにと思った! なんて運命だと思った! だからお前を助けたくて俺は自分の血をやり、その後も面倒をみようと思った! なのにお前は……」

 「もういいんですよ」

 「いいわけあるかぁ!」

 俺はレイラの胸倉を掴んだ。
 パジャマのボタンがはじけ、レイラの胸が露わになった。

 「こんなに痩せやがって」
 「石神さん……」
 「あんなに飯を喰わせたのに。お前はこんなに痩せてしまって」
 「……」

 「もういいんです。ありがとうございました。石神さんと出会えて良かった」
 「ばかやろう……」

 「私はバカだったな。ちゃんと生きれば良かった」
 「その通りだ」
 「でも我慢できなかったんですよ。何も出来なかった自分に。だから出来るようになっちゃって、夢中になって」
 「ばかやろう」
 「自分を助けてくれなかった人間たちまで憎くなっちゃった。バカですね」
 「そうだ」

 「石神さんの恋人を殺さなくて良かったな。綺麗な人ですよね」
 「そうだ。あんなに美しい女を他に知らない」
 「じゃあ、私なんか、最初から無理でしたね」
 
 レイラは笑い、また一層息を荒くしていった。

 「お前を最初に見た時」
 「はい」
 「アメリカで死んだ女にそっくりで驚いたんだ」
 「え?」

 「「レイ」という名前でな。名前まで同じでまた驚いた」
 「……」

 「お前を見ていると、レイを今度は助けられたような気分だったよ。本当は生活の面倒まで見る気は無かったんだけどな。自分で気持ちを止めることは出来なかった。お前に何でもしてやりたいと思った」

 「そうだったんですね」

 「レイラ。お前は綺麗だよ」

 「ありがとうございます」




 レイラは眠った。
 もう苦しんではいなかった。
 微笑んだまま、息を引き取った。

 俺はレイラを抱いて、屋上へ上がった。

 「タカさん、さっき魂が地面に吸い込まれて行ったよ」
 「そうか」
 
 「その人をどうするの?」
 「蓮花の研究所へ運ぶ」
 「調べなきゃだよね」
 「そうだ」

 ルーとハーが俺の両腕を掴んだ。

 「タカさん、また泣いてるのね」
 「そうだな」
 「タカさん、帰ろう」
 「そうだな」

 俺たちは地上に降り、ハマーにレイラを積んで毛布をかけた。




 俺はハンドルに突っ伏した。
 二人は何も言わずに、俺が発進するまで後のシートで黙ってくれていた。 
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